ケータイ Watch
最新ニュースIndex
【 2009/06/26 】
携帯フィルタリング利用率は小学生で57.7%、総務省調査
[17:53]
ドコモ、スマートフォン「T-01A」を28日より販売再開
[16:47]
ソフトバンク、コミュニティサービス「S!タウン」を9月末で終了
[15:51]
ソフトバンク、ブランドキャラクターにSMAP
[15:34]
カシオ、携帯での閲覧にも対応した画像変換ソフト
[14:56]
テレビ朝日、iモードで動画配信「テレ朝動画」を開始
[13:54]
ファーウェイ、東京に「LTEラボ」開設
[13:22]
SoftBank SELECTION、iPhone 3GS向けケース3種発売
[13:04]
「G9」の文字入力に不具合、ソフト更新開始
[11:14]
アドプラス、iPhone 3G向けコンバージョンレンズ
[10:41]

【WIP国際シンポジウム】
ドコモ夏野氏「テレビ付き携帯はダメだがテレビ電話は普及する」

 13日、「WIP国際シンポジウム~ユビキタス・ネットワーク社会で変わるライフスタイル~」が東京大学で開催された。午後に行なわれた「ユビキタス・ネットワーク社会で変わるライフスタイル」と題したパネルディスカッションには、NTTドコモ iモード事業本部 iモード企画部長の夏野剛氏が登場。他のパネリストとともに、インターネットの登場で生活がどのように変化したか、また今後どのような展開が予想されるかという点について議論を繰り広げた。


「Small Zoo」から「IT Safari」へと変化した携帯電話業界

夏野氏

NTTドコモ
夏野剛氏
 夏野氏は「このような学術系のシンポジウムに出るのは慣れていないんですが……」と語りながら「この5年で日本のインターネット環境は様変わりしており、未だに『日本はインターネットの後進国』と言っているマスコミ関係者やアナリストがいるが、もはや日本はパソコン・ケータイの両面で最先端」と切り出し、なぜ日本がそのような立場にいるのかという点について語った。

 同氏はまず、海外からの参加者が中心であることを意識してか、日本で携帯電話においてiモードの加入者数がサービス開始から約5年で4,000万人超、他社の同様のサービスも含めると7,000万を超えるユーザーが存在することを挙げた上で、「世界中でも似たような話はいろいろあり、欧州では全くはやらなかったのに、日本では成功した。これはドコモにとってもアメイジングなことだった。iモードのサービス開始前に当時のドコモの社長(立川敬二・現相談役)にiモードのコンセプトを説明したところ『誰がこんな小さい画面でネットなんて使うんだ』と言っていたが、今やその人は『オレは最初から絶対にiモードはヒットすると思っていた』と言ってる」とサービス開始当時のエピソードを披露した。

 同氏はiモードが成功した最大の要因は「ユーザー数とコンテンツのポジティブフィードバックが成り立ったこと」にあると分析する。その背景には「欧州は既存のインターネットの技術とは異なるWAPを持ち込んで失敗したが、我々はなるべくデファクトスタンダードとなっている技術を導することでコンテンツ開発に必要な作業を軽減した」ことや「コンテンツプロバイダが儲かる仕組みを作るためにマイクロペイメントのシステムを導入した」こと、「主にアダルト向けのジャンルなど、オフィシャルなコンテンツには向かないがコンテンツのバラエティを広げるのは絶対に必要なものを提供できるようにするため、ネットワークをオープン化した」こと、「普通の人にわかりやすいマーケティングをした」ことが要素として挙げられると語った。

 「今やコンテンツプロバイダーの要望を聞かないとハンドセットはデザインできない」と述べる夏野氏。同氏は「ノキアはそこで失敗したが、iモードはサービス開始当初からDRM(デジタル著作権管理)の仕組みをハンドセットに入れている」と語り、「この世界はドコモが大きくなりすぎたら失敗するエコシステムだ」とした。さらに、そのエコシステムを「昔の携帯電話は通信事業者と機器メーカー、そしてユーザーだけで成り立つ『Small Zoo』だったが、今やそれにコンテンツプロバイダーやソリューションベンダー、コンテンツホルダーなどを含めた巨大な『IT Safari』の世界になっている」と表現した。

 ただ、これだけiモードが普及している一方で、夏野氏個人の収入が増えているかというとそうでもないようで、同氏は「私はiモードで1兆円は稼いでいるはずだが、NTTグループの企業という性質のためか、私の給料はこの5年間全く変わっていない」と語り、会場の笑いを誘っていた。


ポジティブフィードバック IT Safari
 iモードにおけるポジティブフィードバックを模式化したした図  今の携帯電話の世界はこのような「IT Safari」

テレビ付き携帯はヒットしない

 この後、各々のプレゼンテーションを終えた学習院大学教授の遠藤薫氏、シンガポール・ナンヤン工科大学助教授のAlfred Choi氏、米UCLA・情報通信政策センター研究主幹のMichael Suman氏の3名に、司会として東京大学教授の橋元良明氏が加わり、質疑応答の時間に移った。

 会場から投げかけられた「インターネット上のコンテンツについて国ごとの傾向はないのか?」という質問に対し、夏野氏は、「国ごとの規制の関係で、例えば日本ではアダルト系のコンテンツが公式メニューには入っていないのに対し、ドイツではアダルト分野も公式メニューに入ったりという違いはあるが、国によってコンテンツそのものはローカルでもジャンルとして見た場合には差はない」と答えた。

 遠藤氏も「例えば『マトリックスオフ』などは、日本はもちろん、世界中で同時多発的に行なわれており、国による差はないと言える」と語り、基本的に差はないとの立場を取った。これに対し、Suman氏は「たしかにデータ上の類似点は世界中で見られるが、それを掘り下げて調査して行くと各国の文化的な違いによる差が出てくる」、Choi氏は「例えばシンガポールでは、教育目的のインターネットの利用が盛んなように、国によって違いはある」と語り、国ごとの差は存在するとして意見が分かれた。

 また、夏野氏はモバイルインターネットの未来像について、「最近は携帯電話もインターネットの一部として認められるようになり、現在パソコンと携帯電話のコンテンツは融合状態にある。しかし、この先はそれぞれの特性を生かした別の方向に行こうとしている」と語った。

 携帯電話のインターネット接続がパソコンベースのインターネットの普及を阻んでいるのではないか、という指摘については、「それは(Yahoo! BBを作った)孫さんのおかげで覆され、パソコンと携帯電話が互いに相手を食い合うということではないと証明された」(夏野氏)と語り、パソコンと携帯電話がインターネット上で共存することは可能との認識を示した。

 ただ、同氏は「とはいえ、ティーンエージャーに関しては携帯電話の親和性が高いのは事実」とも言う。その原因については「それはシアトルの某社が作っているOSが良くないことに尽きる」と語り、会場の笑いを誘った。


 質問は携帯電話のテレビ受信の話に移り、「どこでもテレビが見られるようになることがビジネスや教育の阻害要因になるのではないか」という質問が壇上に投げかけられた。

 Choi氏が「そもそもシンガポールでは、学校内への携帯電話の持ち込みを禁止するなどの厳しい規制が加えられているのでさほど問題にはならない」と答えたほか、遠藤氏が「私もボーダフォンのテレビ付き携帯電話を持っているが、実際には外ではまず見られない。技術的にこれらの問題が解消したとしても、今後(携帯向けテレビ放送に)課金が行なわれた場合、ユーザーが携帯電話でテレビを見るかというと疑問」と語った。

 同じ質問に対し、夏野氏は、「(地上アナログ放送から)地上デジタル放送に移行することで、受信環境は技術的には改善するかもしれないが、少なくとも日本では実質的に5つ(民放キー局5局)しか選択肢がなく、しかも今の時間だと(※このパネルディスカッションは昼過ぎから夕方にかけて行なわれた)どの局もドラマの再放送か奥様向け情報番組を流していて、コンテンツのオプションが少な過ぎる。この状態では、とてもテレビが見られる携帯がビッグヒットするとは思えない」と語り、テレビ付き携帯を学校に持ち込むなどの事態を心配する以前の問題として、今の状態ではテレビ付き携帯電話は普及しないので、そのような問題はそもそも起きない、との見解も披露した。


テレビ電話には自信アリ

 テレビ電話が今後普及するか、という質問には、夏野氏が「たしかに過去NTTはテレビ電話に関して失敗の歴史を続けてきたが、現在ドコモのFOMAユーザー450万人のうち、月1回以上テレビ電話を使うユーザー数はユニークユーザーベースでも18~19%いる」との数字を披露し、楽観的な見通しを示した。

 これに対し、Choi氏は「シンガポールでは、自分が今どこにいるかを知られたくないために、ボイスメッセージですら使いたくないというユーザーが多い。女性は自分の見た目を見て欲しくないときがあるし、それはどの国でも同じ」として悲観的な立場を取った。

 この点はSuman氏もChoi氏の意見を支持したが、夏野氏は「10年前に『電話がモバイルになるとしたら欲しいと思うか?』と質問したら『No』という人が多かったが、今のテレビ電話はまさに10年前の携帯電話と同じような状況ではないか」と語り、テレビ電話の普及に対する強気な姿勢を崩さなかった。

 そんな中、遠藤氏は「このあいだ某自治体でテレビ電話の実証実験を行ない、職員に自由にテレビ電話をかけさせるようにしたら、ほとんどその相手は仕事上の相手(言葉だけではなく表情などの変化を読むことが仕事上必要なため)か、家族(どんな顔をしていようが家族なら見られても問題がないため)のどちらかで、中間層がなかった」との結果を紹介した。

 BBSと社会との関わりという点については、夏野氏が「最近、私も『2ちゃんねる』で『夏野スレッド』なんてものを立てられ、完全な嘘をもっともらしく書いている愉快犯が数多く現われている。それをうちの奥さんが見てショックを受けたりするが、これは世の中を良くするのか悪くするのか」と他のパネリストに意見を求めたところ、遠藤氏は「私は『2ちゃんねる』の敵でも味方でもないが、あれはある種の社会の縮図であり、もしそれがなかったとしても別のところでアンチ夏野グループができるだけ」として、問題が起きた場所がたまたま『2ちゃんねる』だっただけではないかという見解を示した。

 最後にテレビと比べた場合のインターネットが社会に与えた影響について橋元氏が意見を求めると、夏野氏は「情報をCloseにしていることでPrivilege(特権)を持っていた人が仕事をしにくくなり、情報をどう知恵で還元していくかで競争していくステージになった」と積極的に評価、遠藤氏もそれに同意した。

 一方、Suman氏は「ポテンシャルは非常に大きいと思うが、もう少し時間が経たないと評価はできない」とコメントを避けたほか、Choi氏は「非常に便利な存在である一方でわずらわしいところもある」として一概に良いとはいえないとの姿勢を示していた。



URL
  WIP国際シンポジウム
  http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/gnrl_info/news/list04/12.htm


(松林庵洋風)
2004/07/14 20:44

ケータイ Watchホームページ

ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
Copyright (c) 2004 Impress Corporation  All rights reserved.