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Linux Zaurus SL-A300ファーストインプレッション
山田道夫
1996年に開設したサイト「携帯電脳」を模様替えし、1999年1月スタートしたWeb&メールマガジン「MOBILE NEWS」編集長。モバイルノートPCからデジタルガジェットまで「小さくてデジタルなもの」にこだわった最新情報を提供している


 シャープより、Linux Zaurus「SL-A300」が8月8日に発売になった。Linux OSを搭載したことで注目を集めるSL-A300のファーストインプレッションをお送りしよう。なお、ここではLinux PDAということにはこだわらずに、純粋にPDAとしてどういった機能があるのか、速度や使い勝手はどうかといった点に限って紹介する。Unixユーザーから見たLinux PDAとしての機能や使い勝手については、また別に本誌でも紹介されることと思う。


外見・ハードウェア

Zaurus「SL-A300」。オープンプライスで、実売は5万円を切る程度。パソコンとの連係を前提とした、情報を持ち運ぶためのPDAをコンセプトとしたZaurusだ
 最初に持って感じたSL-A300の印象は小型・軽量であるということだ。白い液晶保護カバーが付属しており、人によって好みが分かれそうだが、なかなか清潔なイメージを与える。ちょっと見には、液晶カバーが付属していることもあって、ソニーのPalmデバイスであるクリエPEG-T650Cを連想させる。PEG-T650Cよりも小型軽量なので、なかなか使い勝手はよさそうだ。

 持った印象は非常に軽い。実際には重さがそれほど変わらないPEG-T650Cよりも軽く感じる。また、シャツの胸ポケットに入れっぱなしにして1日使ってみたが、気になる重さや大きさではなかった。液晶保護カバーは、棒状の部分に沿って引っ張ることで簡単に外すことができる。シャープやサードパーティから色の異なった替えカバーなども登場してくるかもしれない。


本体の左側面。ストラップ用の穴、IrDA、電源ボタンがある。 本体の右側面。なにもない。筐体の絞り込みがなかなか凝っていておもしろい

 筐体は硬度や強度が十分にありそうな化学樹脂かなにかのようだ。写真などでは金属製のようにも見えるが金属ボディではない。一見したところはスクエアな印象のボディだが、手に持ってみると微妙にカーブしており、手に持った時になじむように、また薄く感じるように配慮されているようだ。かなり作り込まれた筐体という印象を持った。

 左手で持った時に親指の当たる位置、筐体向かって左側面に電源ボタンがある。最初、電源ボタンを押した時は少し渋く感じて押しにくいと感じたが、特に押し間違えたり、電源が入らなかったり、一度で切ることができないといったことはない。今はすっかり慣れてしまっている。


外見はちょっと見にはPEG-T650C風だが、さらに小型軽量だ。写真は左からTreo 90、SL-A300、PEG-T600C、PEG-NR70V SL-A300とPEG-T600Cを比べてみた。見た目以上に実際に手に持つと軽く感じる

液晶カバーは簡単に取り外すことができる。白だが意外に落ち着いた色合いでなかなか清楚な感じがする
 液晶は、フロントライトが付属した3.5インチ反射型TFT液晶(65536色)だ。さすがにシャープ製のPDAだけあって非常に見やすい液晶だと思う。ほんの少しだけぼやけた感じ、やや寝ぼけた感じがするが、そこがまた筆者の好みだ。

 Palm OS搭載機のように、本体の下部に4個のボタンがある。ボタン形状は四角く、出荷時の設定では、それぞれ「Home」「Cancel」「OK」「Menu」が割り付けられているが、Cancelを除く3つのボタンはアプリケーション起動などに変更することもできる(「設定」→「キー設定」)。また、ボタンを押して電源が入るようにも設定できる。十字型のスクロールキー(セレクトキー)は、カーソルボタンのようにカーソルを移動させることができる。しかし、少しぐらぐらしているようで使い勝手はあまり良くないように感じる。斜め移動はできないようだ。


液晶はフロントライト付きの反射型TFT液晶でなかなか美しい。フロントライトは下から照らしているようだ 試しにフロントライトを切ってみた。暗いところでは無理だが、外だったら十分に視認できそうだ

スタイラスはPalmデバイスのようにひねって外すこともできる。ただし、リセットはスタイラスの先でそのまま可能だ。スタイラスは全体的に細くて軽い。もう少し重さがある方が使いやすいと思う
 CPUは、XScale PXA210の200MHzだ。メモリは64MB搭載されているが、ユーザーが利用可能なのは約23MBだけだ。SDカードスロットが1基搭載されているので、あまりメモリで困ることはないだろう。

 ステレオヘッドフォン端子が付属しているが、筐体が小さいこともあってか直径2.5mmと少し特殊なピンサイズになっている。ただし、音楽プレーヤーなどのソフトウェアは付属していない。海外サイトで海外版のZaurus SL-5500用のMP3プレーヤーはあるようだ。

 また、筐体左側面、電源ボタンの上にIrDAタイプの赤外線端子も搭載している。

 スタイラス(タッチペン)は、上部がねじ回し式で取ることができ、Palmデバイスのようにリセットピンのようなものが内蔵されている。もっとも、リセットはリセットボタンをスタイラスの先でそのまま押せばいいだけだ。15秒以上押してしまうとハードウェアリセットとなってしまうので注意する必要がある。


別売のクレードルに載せてみた。USBケーブルで接続できるため、特にクレードルは必要としないが1ボタンで同期できるのは便利かもしれない
 I/Oポートは、別売のクレードルに直づけすることもできるが、付属の小さく黒いUSBアダプタを取り付けることで、ACアダプタとUSBケーブルを接続することができる。PCと同期するためには、付属しているものだけで可能だ。

 ただし、ACアダプタを利用するためだけにもUSBアダプタが必要なのは面倒だし、何度も外したり付けたりする部分なので、コネクタ部分の接触が心配になってくる。特にぶつけたり落とした時は破損してしまいそうだ。なお、ACアダプタは、従来機種と同様のもののようだ。


SD/MMCスロットを1基搭載している。裏面にはスピーカー、リセットボタン、CFカードコネクタなどがある。なお、この写真では故意に少しSDカードを引き出して撮っている SDカードを奥まできっちり挿入しても少し筐体からはみ出す。むき出しのスロットといい日本製とは思えないほど豪快なスロットまわりだ

CFカードアダプタを取り付けるスロットのカバーを外したところ。筆者ハンドはよくなくしてしまうので今少しの配慮が欲しかったところだ ACアダプタを使いたい場合も、USBアダプタを接続する必要がある

ソフトウェア・速度などのパフォーマンス

 今回試用した製品(店頭で普通に購入したもの)は従来のザウルスと違い、本体バッテリーはまったく空だったため、最初に充電する必要があった。充電してから起動すると、最初は数10秒待った後、初期設定画面になる。やや最初の起動は遅く感じる。


 アプリケーションソフトウェアは、「カレンダー」「アドレス帳」「ToDo」などもPIMとグラフィックソフト「イメージノート」、簡易テキストエディタ「メモ帳」、PCとの同期が可能な「メール」、「時計」「電卓」「世界時計」などのユーティリティがバンドルされている。非常にシンプルだといえる。

 「カレンダー」や「アドレス帳」などのPIMソフトウェアの機能は、Palm機やPocket PCに標準で付属しているソフトウェアと比べて遜色はない。ただし、アドレス帳では、画像データや写真などを取り込んで表示したりといった従来のザウルスで可能だった機能は持たない。そういった意味でも、従来のザウルス用のPIMソフトウェアとの関連性はほとんどない。従来のザウルスからは、データを「設定」→「データ移行」で移行可能なだけだ。筆者の好みでは、特にアドレス帳はなかなか使い勝手がよさそうだと思う。カレンダーは、もう少し機能が欲しいところだ。


ホーム画面のアプリケーションメニュー。タップするだけで起動する。アプリケーションをインストールするとここに追加されていく 「カレンダー」の日表示画面。複数予定の表示もできる。最大10件同じ時間帯に表示できるようだが、重なった時間があると他の時間帯も横幅が狭くなってしまう 週表示では残念ながら文字で予定はわからない。一度タップする必要がある

月表示でも予定を文字で見ることはできない。リンク(その日に作成したファイルなど)があることがわかる機能は少し便利 入力・編集画面。一般的なPIMといった雰囲気だ 各種の設定が可能。シンプルだがなかなかわかりやすく使い勝手はいい

 PIMソフトウェアではその日に関連して作成したファイルなどをリンク機能と称して見ることができる。これは使い方にもよるが便利に感じる人もいるだろう。

 ただし、Palmデバイスや、Pocket PCではさまざまな置き換えソフトウェアがフリーウェア・シェアウェアで揃っているが、SL-A300では、わずかに海外で出始めたところでまだまだ少ない。Pocket PCのPIMソフトウェアのように他の項目にリンクしたり、他のファイルにリンクしたりといったソフトウェアの登場を待ちたいところだ。また、これは嗜好の部分でもあるが、画面をタップしてもデータの修正や新規入力が可能でない点は不満だ。画面の右上右から4番目の端の折れた書類のアイコンをタップするか、メニューの「データ」より、「新規作成」を選ぶ必要がある。なにもない場所をタップしたら、新規作成になる方が筆者の好みだ。編集は、該当する項目をタップした後、右上の「鉛筆」のアイコンをタップすればいい。少し切替に時間がかかって編集画面になる。また、タップし続けていれば編集か削除を選ぶことができるわけなので、どうせだったら空の行をタップし続ければ新規作成になる方が便利だと思う。


ホームメニューにファイルビューがあるのはなかなかおもしろい試みだ。画像などはサムネイルで表示される。他にリスト表示もある(データの大きさなどはわからない) アドレス帳はシンプルだがなかなか使い勝手は良さそうだ。基本的な機能は全部入っている。顔写真などの画像データなどへリンクできたらもっと便利かもしれないが スケジュール画面からリンクを見ている。今日作成したファイルが見えている。リンクする日付を変更することもできる

 起動はかなり時間がかかる場合がある。たとえば、付属しているWord互換のHancomWordを起動するだけで20秒から21秒程度かかってしまう。「カレンダー」は、ホームメニューでアイコンを2秒程度タップし続けることで表示される「プロパティ」で「アプリケーションを高速起動する」チェックボックスをチェックしてあれば1秒もかからずに起動が可能だが、外してしまうと14秒程度かかる。Xcel互換のHancomSheetとHancomWordでは、アプリケーションを高速起動するオプションはない。そのため、一度起動したら立ち上げっぱなしにしておく方がいいようだ。一般的なPIMは高速で利用可能だが、アプリケーションなどを追加した場合、結構起動に時間が取られてしまうかもしれない。ただし、SL-A300では、同時利用できるプログラムは6個という制約があるし、大きなプログラムの場合は、それ以下しか起動できない場合もある。

 PIMや内蔵ソフトウェアについては高速に起動可能な分だけ、よけいに他のアプリケーションが遅く感じられる場合がある。画面の切替も、Palmデバイスなどで高速なPIMブラウザに慣れているユーザーからするとややもったりと感じる場合もあると思う。おおむね高速なのだが、ソフトウェアによっては、待たされる場合もたまにあるようだ。

 プログラムのインストールと削除は、とりあえずさまざまな方法でSL-A300にソフトウェアをコピーした後、「設定」→「ソフトウェアの追加/削除」で行なう。簡単にインストールと削除が可能だ。

 標準で、ファイル管理のソフトウェアがホーム画面に付属しているのはなかなかおもしろい試みだと思う。すべてのファイルを表示したりすることはできないのかもしれないが、簡単にファイル管理画面に移動できるのでちょっとしたコピーや削除は簡単に行なえる。

 日本語の入力は、シャープお得意の「手書き」だけではなく「50音」「キーボード」「数字」「記号」「区点」などのキーボードによる入力も可能だ。手書きは、なかなかの認識精度だがやはり誤認識もある。文字枠をなくすることもできるが、やや誤認識が増えるようだ。また、3マスをそれぞれ「かな漢字」「アルファベット」「数字」の文字種優先モードもある。これは「0」(ゼロ)を入力しようとして「O」(オー)と認識され続けた人などにはいいかもしれない。

 ユーザー辞書登録機能はない。これは最初、縦型ザウルスMI-E1が登場した時もそうだったので、たぶん間に合わなかったのかもしれない。今後ソフトウェアで可能になるように期待したい。


ToDoもシンプルだが基本的な機能は押さえている。フリーウェアやシェアウェアが活躍する余地も十分残されている ザウルスショットでPCで表示したWebページを見ている。ちょっとした記録には便利だろう メモで日本語入力している。手書きはそれなりの認識率だが、高速な入力は難しい

同期やザウルスドライブ、ザウルスショットなど

 PCとの同期は、まず最初にUSBドライバをインストールする必要がある。ソフトウェアのインストールができる程度にPCに慣れている人だったらまったく苦労することなくインストールが可能だろう。ドライバーをインストールし、リスタートするとSL-A300は、PCの外部ドライブのような感じで認識できる。PCで「ザウルスドライブ」をタップすれば、SL-A300のメインメモリとSDカードなどの外部メモリが通常のフォルダ形式で確認できる。そのままコピーしたり、削除したり、テキストファイルやグラフィックであればそのまま起動し加工した上で保存・修正することもできる。また、ソフトウェアのインストールなどの場合も、PCでダウンロードしたりして便利に可能だ。

 OutlookとPalm DeskTopとのデータの同期が可能だ。まず、Intellisync for Zaurusの「環境設定」で、ToDoやアドレス帳、カレンダー、メールを同期するか、上書きするかなどを設定する。非常に残念なことにOutlookの「メモ」と同期することはできない。Windows CEのハンドヘルドPCでも同期できないが、あちらには海外に膨大なソフトウェアがあって、シェアウェアを利用すれば可能になっている。また、Pocket PCやPalmデバイスのほとんどでも付属するか別売のソフトウェアを購入すれば可能なのに、筆者のように数百件のデータを備忘録として利用しているユーザーには、後発のSL-A300が同期できないというのは非常に残念なことだ。

 SL-A300の一番の売りは、「ザウルスショット」かもしれない。PCの画面状でPrint Screenボタンを押せば、PCの画面をザウルスに転送し、SL-A300で見ることが可能になる。ただし、JPEGのグラフィックデータなので容量が100KB以上になってしまう点は残念なところだ。地図などの確認用には便利だろう。タスクバーのアイコンを右クリックすることで画面の一部を切り取ることやテキストファイルとしてSL-A300にコピーすることもできる。シンプルだが意外に使い勝手はいい。同様のソフトウェアはPalmデバイスなどでもすでに利用可能だが、非常にシンプルな使い勝手がいいと思う。


SDカードの取り外しは、画面下のSDカードのアイコンをタップして「SDカードの取り外し」を選択した後に行なう システム情報はなかなかカラフルだ。本体メモリとSDカードの状況、他のページでは使用メモリ、OSのバージョンなどがわかる ライト/省電力設定ではそれなりに細かな設定が可能だ。バックアップ/リストアなどのユーティリティもある

プログラムのインストールは、「ソフトウェアの追加/削除」から行う。非常に簡単に可能だ JeodeをインストールすればJavaアプリを利用することが可能になる。ホームの項目のタブが1個増える Excel互換のスプレッドシートHancomSheetなどが付属する。ちょっとした表やワープロが使えるのは便利

総合的な印象

 個人的にはシャープのオリジナルフォントの美しさ(PDAや携帯電話など狭い画面でいかに情報量が多く美しく見えるようにするかきちんと設計されているようだ)と、フォルダやアイコンのデザインの美しさにすっかりまいってしまった。そういったユーザーインターフェイスは緻密に設定されているようだ。

 ただし、残念な点もある。すべてのユーザーがそう思うかどうかはわからないが、筆者にとって特に残念な点が、Outlookのメモと同期の手段がないことだろう。また、単語登録できない点も残念な点だ。対応ソフトウェアの途上を待ちたいところだ。

 また、現行のバージョンでは、9月に発売予定のコミュニケーションアダプタを使ってCFカードタイプのPHSを使うしか通信手段がないようだ。赤外線アダプタを携帯電話に取り付けて通信しようと思ったのだが、通信設定自体を見つけることができなかった(これは筆者の誤解の可能性もある)。

 実際に使ってみるとLinuxを意識することはほとんどない。よくできたPDAに仕上がっていると思う。使ってみると意外に(といっては失礼かもしれなが)使い勝手がよく、ビジネス用途としてはなかなかおもしろい存在だと感じた。意外に気に入ったというのが本音だ。

 ただし、筆者は入力にはキーボード派なため、やがては登場するとシャープが予告しているキーボード付きのLinux Zaurusの登場を待ちわびている。シンプルなPIMブラウザで十分、PCとの連携がメインというユーザーにはなかなかいい選択だと思う。ザウルスの伝統はまったくといっていいくらいに感じない。PCとの親和性も非常に高く、まったく新たな挑戦が始まったところだと強く感じた。非常に魅力的な製品だと思う。

 なお、記者発表会や店頭に展示されている試作機よりも実機では高速な動作が可能なようだ。


・ 「SL-A300」ニュースリリース
  http://www.sharp.co.jp/corporate/news/020624.html
・ 「SL-A300」製品情報
  http://sl.ezaurus.com/index.html

シャープ、薄型・軽量でLinux採用のザウルス新機種「SL-A300」


(山田道夫)
2002/08/13 18:27

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