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「N904i」開発者インタビュー
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デザイン/大画面/HSDPAで“攻めのケータイ”を目指す
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N904i
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5月25日に発売される「N904i」は、3インチディスプレイを搭載し、HSDPA方式に対応するなど、NTTドコモの90Xiシリーズらしいハイスペックな端末だ。その一方で、デザイン面では、イタリアのプロダクトデザイナーであるステファノ・ジョバンノーニ氏が携わっており、より幅広い層に受け入れられるような外観に仕上げられている。
N904iの商品企画を担当した、NEC モバイルターミナル事業本部の田丸伸一氏に話を聞いた。
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NECの田丸氏
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――N904iの特徴、コンセプトをあらためて教えてください。
HSDPA方式に対応したことを活かす、という面で、3.0インチディスプレイと音楽再生機能を特徴としています。大画面を活かすアプリケーションとして、英ピクセルテクノロジーズ製のフルブラウザを搭載しています。また、音楽面の特徴として、ヤマハさんのサウンドチップを搭載し、高音質化などを図っています。
――開発時にどういった点が重要と見ていたのですか?
ユーザーさんからのニーズとリクエストを踏まえ、今後はスピードという観点が重要になると考えています。今回、N904iではHSDPA方式に対応し、高速通信が可能となっていますが、それだけではなく、過去の機種で“操作がもたつく”という評価を受けたこともありましたので、そういった面での改善も図っています。また、NTTドコモの携帯電話として、最新サービスに対してスピーディに対応するという面もあります。
そして、スタミナという点。つまりバッテリーですが、まだまだ改善の余地はあると考えていました。とは言え、携帯電話のトレンドとして、大画面化が進むなど、消費電力は増大しがちです。そんな中で、どこまで満足してもらえるか。連続待受時間というスペックでは表現できないところで、バッテリーが長持ちすると感じてもらえるよう心掛けました。
――店頭では高速通信の魅力は伝わりにくいのではないでしょうか?
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「N904iは攻めのケータイ」と語っていた田丸氏
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そうですね。ただ、過去の活動を通じて、口コミの威力や怖さは十分実感しているつもりです。これまでの調査では、実際にiモードなどで高速通信を体感すると、たとえば好感度が60から100にアップしたり、「この速さなら欲しい」という反応が多いですね。そういった点で、魅力が伝わることも期待しています。また、ゼンリンの地図・ナビアプリは、N903i版より進化したものとなっていますが、VGAサイズの地図データをダウンロードしますので、通信速度の高速さがよくわかると思います。
地下鉄をよく利用される方にもオススメしたいですね。地下鉄に乗っていると、駅間は通信できないため、駅に到着して急いで操作してメールをチェックしたり、ブラウジングしたりしますが、そういった時に高速通信のスピードが実感できると思います。
――バッテリーの持ちについては、どのような工夫を?
当社製のFOMA端末である、N703iμやN703iD、SIMPURE N1は、実はFOMA端末の中でも、かなり長い連続待受時間を達成しています。これらの機種を開発する上で培った資産は継承されており、多機能なN904iでも、どこで電流を抑えるか、といった点などで反映しています。また、キーのバックライトは高輝度白色LEDを採用しており、明るさを増しながら低消費電力化を実現しています。
――レスポンスの改善は、どう実現したのでしょう?
ソフトウェア面で工夫した結果です。たとえば、画面の表示内容が切り替わる時には、上から下に向けて順番に表示させるのではなく、人間の目には判別できない速度で順不同で描画し、体感的に早く見せるようにしています。またソースコードを最適化するといったことも行なっています。
■ ピクセルのブラウザを搭載
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ビューアタイプで本誌を見たところ
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独特の入力インターフェイスとなる「らくらく入力」
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――ピクセルのブラウザは、滑らかな拡大縮小など、これまでのACCESS製ブラウザとは異なる操作感になりそうですね。
N904iでは、これまでのNシリーズにも採用してきた、ACCESS製のフルブラウザをスタンダードタイプとして搭載していますが、さらにビューアタイプ(ピクセル製ブラウザの名称)を採用しました。大画面・高精細・ハイスピードを活かす機能として搭載しています。
ビューアタイプは、ニューロポインターを搭載するNEC端末だからこその機能を用意しています。1つは、拡大縮小や更新などのボタンを備えた“ツールバー”で、片手で直感的な操作が可能です。シームレスな拡大縮小は、ピクセルさんの技術の特徴ではありますが、ニューロポインターで操作するN904iでは、Webページ全体が表示された後、拡大したい部分にポインタを移動させて、クリックして拡大するという流れで利用できます。
――文字入力は、これまで見たことがないユーザーインターフェイスです。
ビューアタイプでの文字入力は「らくらく入力」と名付けました。画面上にQWERTY配列のソフトキーボードが表示されますが、フォーカスがあたっている、選択中のキーが中央にくるという形です。ニューロポインターではなく、方向決定キーで操作することとになります。予測変換のような“ヒストリー入力”という機能では、たとえば「h」と入れると、過去にアクセスしたWebサイトのURLが入力候補として表示されます。
――ピクセルのブラウザと、ACCESSのブラウザと2種類のソフトウェアが搭載されているわけですね。
ピクセルさんから提案があったとき、シームレスなズームが特徴ということでしたが、確かにそれは魅力の1つではあるものの、ACCESSさんのブラウザでサポートしているようなタブ表示などは、ピクセルさんの製品では対応していません。しかし、シームレスな拡大縮小は彼らだけの技術であり、ニューロポインターを搭載するのはNECだけです。この使い勝手は、NシリーズのFOMAだけで味わえるものということで搭載しました。
ACCESSさんのブラウザでは、iモードブラウザとの連携も可能ですし、タブ表示によるマルチウィンドウが評価されている面もあります。技術的には2つのエンジンが搭載されていることになりますが、今回はブックマークを共通化しています。パケ・ホーダイフルがスタートしたこともあり、(2つの異なるブラウザを実装するのは)現時点ではちょうど良いと感じています。
■ 音楽も魅力の1つ
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側面に向いたスピーカー
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――もう1つの特徴というヤマハ製サウンドチップですが、それによって何が変わったのでしょう?
これまでもNEC製の携帯電話では、ヤマハさんのチップを搭載してきました。楽曲を提供してもらったり、チューニングもしてもらったりしました。ヤマハさんのチップセットは、他社あるいは他キャリアでも採用されていますが、携帯電話は形状や素材によって音質に影響がでますので、N904iでは筐体にあわせたチューニングが行なわれています。
楽曲再生時のエフェクトとして、9種類の効果をプリセットしています。たとえばコンサートホールのように聞こえるエフェクト、透き通った声をよりクリアに聞かせるために少しディレイさせるようなエフェクトなどです。類似の機能は他社でもサポートされていますが、N904iでは、新たに「ユーザー設定」という機能を取り入れています。これは、ユーザー自身の手で、音響効果を設定できるものです。音楽好きな方は、細かなこだわりを持っているでしょう。音楽をリスペクトしていきたい、という考えに基づき、搭載することになりました。
――ユーザーの好みの音質に変更できるということですね。
今後は、当社のiモードサイトなどで「こういう設定では……」という例を紹介する予定です。また、楽曲再生時にはサウンドチップが駆動し、メインCPUは利用しない形になりますので、再生時間の長時間化に繋がっています。
――音楽再生機能は、どの程度のニースがあるのでしょうか?
私自身は、音楽を特徴とするかどうか悩んだこともあります。これまでも音楽をアピールする携帯電話は存在しましたが、ニーズはあるものの、販売実績に結びつかないという印象がありました。そこで、数百人に対して聞き取り調査を行なったところ、携帯電話の音楽再生機能について、バッテリーの影響を心配する声もありましたが、それ以上に多かったのは「携帯電話の音質は、たかがしれている。iPodを持っているから、そちらで音楽を楽しむ」というものでした。音質がネックになっていたということで、ヤマハさんのサウンドチップを搭載し、改善を図ったことになります。
大学生などに話を聞くと、自宅での学習中に着うたフルをスピーカー再生で聞くという人もいました。コンポなどを持っていない人にとって、そういった使い方もあるようです。
――それほど着うたフルが人気なのですか。
着うたフルの利用実績を見ていると、お店にいかなくてもその場でダウンロードできる手軽さなどが受け入れられ、生活に根付いたかなと思っています。今後のステップとして、ビデオクリップの利用も進むと見ています。カラオケに行くと、最近ではアーティスト本人の映像が流れたりしますが、そこでは歌うことに加えて、振り付けを覚える人もいます。携帯電話でそういった使い方が出てくることもあるでしょう。大画面でハイスピードという点が活きてきますので、ビデオクリップは訴求していきたいところです。
今回、N904iの広告に人気アーティストのYUKIさんを起用しましたが、女性ユーザーから高く支持されている方ですし、独特の声質で、N904iの店頭展示でもプロモーションしていく考えです。
■ メールはVGA対応、キーアサインも変更
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一部のキーアサインは変更された
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――N903iでもVGAサイズのディスプレイでしたが、一部はQVGA表示するということになっていました。N904iではどうでしょうか?
操作のレスポンスが求められる、メニュー第2階層以下といったところは、QVGA表示としています。一方、メール表示はVGA表示になっています。新たなフォントも搭載しています。
メール関連ということで、文字入力のキーアサイン(各ボタンに割り当てる機能)を変更しました。たとえば逆トグル(変換時に、直前の候補に戻る機能)はこれまで側面のサイドキーでしたが、N904iでは発話キーに割り当てています。文字入力時に発話キーを長押しすると、UNDO(元に戻す)になります。また、濁点などは「*」キーに割り当てています。
――キーの割り当ての変更は、地味ですが大きな変化ですね。
やはり、今までのNシリーズユーザーに対してどうするのか、という点で議論を重ねました。しかし、気が付けばNECだけ独自路線を採り、ユーザーさんも離れていったという事実があります。どこかで判断しなければ、ということで、今回変更することにしました。
■ ジョバンノーニデザイン
――今回は、ジョバンノーニ氏が関わったとのことですが、その経緯は?
MNPがスタートし、他キャリアとの競争が激化していく中で、70Xiシリーズで展開していたデザイン分野での取り組みを90Xiシリーズでも取り入れたいという提案がドコモさんからありました。世の中には数多くのデザイナーがいる中で、アパレル関連のデザイナーであればユーザーさんにも馴染みがありますが、プロダクトデザイナーでピンと来る方は少ないでしょう。そんな中、ジョバンノーニ氏は、彼がデザインした「ALESSI(アレッシー)」というイタリアの生活グッズブランドが、日本でも支持されていました。そこで、ドコモさんが打診したところ、快諾してもらったということです。
ジョバンノーニ氏は、乗り気になってデザインに取り組んでくれましたが、当初は文化の違いを感じる場面もありました。たとえば、欧州でデザインケータイと言えば、機能的にはローエンドでも、端末サイズは薄くコンパクトなものが主流です。しかし、今回は904iですから、ジョバンノーニ氏は「なぜ私が担当するケータイはこんなに画面が大きいのだ。なぜこんなに筐体が大きいのだ」と困惑していましたね。やり取りを重ねていく中で、理解を得て、仕事を進めてきました。
――ヒンジ部が特に印象的な仕上がりです。
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特徴的なヒンジ
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ジョバンノーニ氏には、ドコモさんから「NECは折りたたみ型のスタンダードをつくった」と紹介されていたようで、“折りたたみの象徴はヒンジ”ということになりました。最近の携帯電話では、ヒンジ部をいかに隠すか、という点を追求してきた側面もありましたが、そこを敢えて出したデザインになりました。
また、同氏は、デザインする上で、「昨今の携帯電話の主流が金属調で、高級感はあるものの暖かみに欠ける」という点を気にしていました。そこで、暖かみある、シンプルなデザインという方針になったのです。オープンしたときの楽しみ、という面から、カラーリングはツートーンを採用しました。今回は、Day and Night、Orange Cut、Urban Blue、Pink Sodaと4種類ラインナップしていますが、候補色としては、ジョバンノーニ氏から、外側はカーキ色で内側は黄色というパターンなどを提案してもらったこともありました。今後の展開次第では、そういったカラーも発売に向けて検討したいですね。
さまざまな点で、ジョバンノーニ氏とデザインを詰めていき、最終的には1月末ごろに最終デザインが固まりました。
――発売の4カ月前ですか。通常と比べると、どうなんでしょう?
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SUSHIメニューもジョバンノーニ氏がデザイン
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ドコモさんの評価期間もありますので、通常は、9カ月前には形を決めて、色や素材を決めなければなりません。今回はギリギリまで、調整したことになります。その甲斐あって、外観だけではなく、コンテンツ面でもジョバンノーニ氏がデザインしたものを取り入れています。
たとえば、メニューアイコンの「SUSHI」ですね。同氏が来日した際には、築地で寿司の写真を撮影していったそうです。
――N900i以来、NEC製のFOMA端末は、アークラインやリンクフェースデザインなど1つの流れを追求してきました。N904iは、そういった流れからは完全に離れた印象です。
これまでの流れは、N903iで1つの完成形にたどり着いたと言えますが、現在の携帯電話は、メールやブラウジングなど、通話以外の用途でも使われます。「通話時に顔の輪郭にあうデザイン」という考え方から、離れて良いのではないかということですね。
これまで良いものと評価されたものは、それはそれでは良いと思います。しかし固執するのは問題です。今回、当社では「N904iでルネサンスする」ことを目指してきました。新しい物を産み出そうということです。キーアサインなど細かな点を含めて変更したのも、向かい風はあるでしょうが、NECが生まれ変わることをきちんとユーザーさんに伝えたかったのです。
――国内外のさまざまなデザインケータイを見れば、使い勝手よりも外観を重視したものがあります。
そういう意味では、N904iは、使い勝手を重視しています。やはり使いにくいと愛着が沸いてきませんよね。ぜひ長く使って欲しいですし、友人や知人に薦めたくなる端末にしたいと思っています。デザインは、購入動機のトップになるほど重要な要素ですが、それを押さえつつ、着実に使い勝手を向上させていきたいと考えていました。
得てして、企業はユーザーさんのニーズとリクエストを取り違えてしまうことがあります。ユーザーさんからのリクエストは、声が大きく、よく聞こえてきますが、それだけに応えても評価されるとは限りません。一方、ニーズははっきりと見えてきませんが、対応しなければしっぺ返しが必ず来ます。今後も着実にやっていきたいと思います。
商品企画担当として、N904iは、「NECにとって攻めのケータイ」であり、「いかに楽しんでもらうか」ということを考えながら開発してきました。コミュニケーションツールあることに加え、毎日の生活を豊かにするためのツールです。大画面で見て、ハイスピードやレスポンスの速さで感動していただきたいですし、ドコモさんと同じように「NECもそろそろいいですか」と薦めていきたいですね。
――ありがとうございました。
■ URL
製品情報(NEC)
http://www.n-keitai.com/n904i/
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(関口 聖)
2007/05/24 11:19
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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