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第260回:W-TCP とは
大和 哲 大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


携帯電話での通信に最適化したTCP

 「TCP」は、インターネット上で最もよく知られ、使われているデータ伝送のためのプロトコルです。信頼性のあるデータ転送プロトコルという特徴を持ち、メールやWebブラウジングなど、インターネット上の多くのアプリケーションがこのプロトコルを使用します。

 「W-TCP」は、Wireless Profiled TCPの略で、このTCPを無線通信に最適化したプロトコルです。インターネットに関する技術標準を定めている団体、IETFが発行する「RFC」という文書にもRFC 3481「TCP over 2.5G and 3G Wireless Networks」として登録されています。内容的には、その登録名の通り、PDC、W-CDMA、CDMA2000など2.5世代、第3世代の携帯電話に最適化したパケットデータ伝送手順ということになります。

 もともとは「携帯電話での通信に最適化し、従来のTCPに比較して1.5~2倍程度の性能を引き出すプロトコル」としてWAPフォーラムに提案され、WAP2.0の一部として2002年1月に公開されたプロトコルで、その後、2003年2月にはRFC3481としてIETFから公開されています。


エラーの際の再送信を無線に最適化

 W-TCPは、技術的にはTCPとの互換性を損なわないように工夫した最適化の方法を採っており、実際の通信で使われる際に、TCPからの対応が最小限で済むようになっています。

 TCPというプロトコルは、「信頼性のあるデータ転送」であるため、もし、誤ったデータが通信相手に受信された場合に、エラーの訂正や再送信を行なうことによって、常にデータが化けない通信を行ないます。しかし、このエラー訂正や再送信の方法が、もともと有線のネットワーク、つまり遅延の少ないある程度安定した環境で回線負荷、輻輳をさけるよう開発されたものであるため、無線通信のようにデータ伝送速度は上げることができても、遅延が起こりやすく、パケットロスも頻繁に起こる場合では、不都合な取り決めとなっている部分も少なくありません。具体的には、無線では有線と比較して、

・通信中のノイズなどでデータが化けたり消失が頻繁に起こる
・データの遅延が有線に比べて大きくなる可能性が高い
・利用可能な帯域や遅延が、めまぐるしく変わる

というような特徴があります。無線通信では、通信している最中にノイズの多い場所を通過したり、急に移動速度があがって頻繁にハンドオーバーが発生したりする、あるいはエレベーターやトンネルに入って電波が途切れやすくなるといったことで、通信速度や応答速度が急に変わることがあるわけです。


 そこで、TCPで使う予定になっていたものの、使われていなかったオプションを有効化したり、新たな拡張を行なうことで、TCPを携帯電話に最適化したのがW-TCPです。さまざまな拡張が行なわれていますが、特に以下のような変更、拡張がネットワーク性能の向上に影響します。

・ウィンドウスケーリング
 TCPでは、データ転送をする際において、データをやり取りしたことを確認する間、送信できるデータの大きさを“ウィンドウサイズ”と呼んでいます。W-TCPでは、このウィンドウサイズを64KB以上のサイズにすることが可能です。

・イニシャルウィンドウの増加
 TCP接続でデータを送る際に初期ウィンドウを4KBを超えない範囲で4つまで分割できるようになりました。データ送信時に、初回に送るデータを分割することで、「データ送信のコントロールをどれだけ敏感にするか」を設定できます。

・SACK対応
 SACKとは、Selective ACKnowledgmentsのことで、受け取ったパケットのうち、どこが受け取れなかったかを正確に伝えられる情報です。通常、TCPでは、一部のデータが受信できなかったとしても、TCPウィンドウとして送られたデータ全てを送り直す必要があったため、正しく受信できたデータまで再送信されることになり、時間のロスが大きくなっていました。SACKはこれを改善します。これは、RFC2018で規定されています。

・スプリットTCP アプローチ
 間に、中継役となるゲートウェイを介して、無線ネットワークと有線ネットワークを接続し、無線の問題でデータの消失があった場合、無線部分でだけデータの再送を行なうことで優先部分を含めてネットワーク全体や、サーバの負荷を軽減します。この仕様に関しては、RFC2757で標準化されています。

・TCPタイムスタンプオプション
 TCPでは、データが受け取れなかった場合などに再度データを送って欲しい旨、相手に伝えて再送信の手順に入ります。この「受け取れない」と判断するまでの時間の設定を行なうことができます。この機能はオプションなので、W-TCPを採用していても利用されるとは限りませんが、もし、これが利用されていた場合は、データ受信がうまくいかなかった場合のタイムロスを節約できることになります。


既に多くのキャリアで対応している

FOMA PC設定ソフトの画面。FOMAパケット通信のW-TCPに合わせて、Windowsの通信設定を最適化することが可能だ
 W-TCPは、WAP2.0で採用されているため、WAPを利用しているキャリアなどで利用されています。また、最近では、ウィルコムがインターネット接続サービスのPRINにおいて、W-TCPを採用し、データ通信の効率化を図ると発表しています。

 NTTドコモのFOMAでは、モバイル通信を利用するためのソフトウェアとして、「W-TCP設定ソフト」が提供されており、ここで「W-TCP」という用語を目にしたことのある方もいるかもしれません。このツールは、Windowsのレジストリ値を書き換えることで、パソコンのデータ通信をFOMAのW-TCPを使ったものに最適化し、実行通信速度を向上するためのソフトです。

 Windows系のOSでは、W-TCPにある「ウィンドウスケーリング」や「SACK」に対応したTCP用のライブラリをもともと使用しています。そこで、OSのシステムレジストリを書き換えて、これらのオプションをONにすることで通信をW-TCPに最適化し、FOMAを使った通信を高速化しているのです。



URL
  RFC3481(IETF、英文)
  http://www.ietf.org/rfc/rfc3481.txt?number=3481

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(大和 哲)
2006/02/01 12:02

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