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第81回:低温ポリシリコン液晶 とは
大和 哲 大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


TFTの「T」を多結晶に

低温ポリシリコン液晶を搭載した携帯電話(au端末「C5001T
」)のディスプレイ(サンプル)
 低温ポリシリコン液晶は、過去の連載「液晶ディスプレイとは(前・後編)」でとりあげたTFT液晶の一種です。液晶パネルは、液晶を電極と電極の間に挟み込んだもので、電極に電流を流すと液晶が動くため光が通らなくなり、黒く見えることを利用してパネル上に白や黒(カラー液晶ではこれにカラーフィルタをかぶせて赤・青・緑)の点を表現しています。これで画像をパネル上に表示させているわけです。

 しかし、単純に電極を液晶パネル上に配置しただけだと、鮮明な画像が出しづらく、指定した以外の部分でも像のゴーストが映ってしまうことがあるなどの問題が起きてしまいます。そこで、電極のひとつひとつに半導体で回路を作り、これらの問題を解決する「アクティブマトリクス方式」というタイプの液晶パネルが開発されました。このアクティブ画素に薄膜トランジスタ(Thin Film Transister)を利用したのが「TFT液晶」で、TFT液晶であれば単純マトリックス方式であるSTN液晶と比べ、画像が非常に美しく表示でき、またその描画応答速度も速くなるのです。

 さて、このTFT液晶のトランジスタを作るためには、シリコンと呼ばれる物質が使われます。シリコンはコンピュータに使われるLSIなどを作るためにも使われる物質ですが、シリコンそのものは光を通しません。液晶パネルは光を通すことで画像を表現するので、光を通すガラス板の面にシリコンを塗布し、これでトランジスタなどを作ります。

 通常TFT液晶パネルの場合、塗布されるシリコンはアモルファスと呼ばれる非結晶体になっていますが、非結晶ではなくポリシリコンと呼ばれる結晶体が使われているものが「ポリシリコン液晶」となります。ポリシリコンの「ポリ」は「多い」という意味の接頭語で、ポリシリコン液晶パネルでは、シリコンの単結晶ではなく多結晶シリコンが使われています。ポリシリコンのガラス基板上に、従来よりも低い温度で薄膜を形成したものが「低温ポリシリコン液晶」ということになります。


より鮮明で、動きの早い画像にも対応

 ポリシリコン液晶パネルが、アモルファスではないポリシリコンで薄膜を作られているということは、低温ポリシリコン液晶が従来のTFT液晶パネルと比べてより高い性能を実現する大きな鍵となっています。

 ポリシリコン液晶パネルは、従来のTFT液晶に比べ画像や動画をより鮮明に表示できるディスプレイです。トランジスタの原料は半導体であるシリコンですが、このシリコンが非結晶である「アモルファス」である場合には、結晶でない、つまりそれぞれ散乱した状態になっているため、電気を流したときに電子が移動しにくくなってしまう、ということになります。

 液晶パネルで画像や動画などをより美しく表示するには、画素中の液晶をすばやく大きく動かす必要がありますので、液晶をより刺激するために多くの電子を一度に送りこみたいのですが、電子が移動しにくいということは、液晶を動かすための刺激をより多く与えたいにもかかわらず、制約されることになります。しかしポリシリコン液晶では、単結晶ほどではないものの、結晶ですからアモルファスなシリコンでできた半導体よりはずっと抵抗が少なくなります。つまり、液晶を動かすために電子をより多く流すことができるのです。

 さらにポリシリコン液晶では、従来のものと比較してトランジスタ自体をより小さく作ることができるというメリットもあります。つまり、画像を表示させた時に、より明るく画像を表示させることができるのです。というのも、液晶パネルにとってトランジスタは光を遮る要因となってしまいますから、これが小さくできるならば、より光の通りやすい(明るい)精細な液晶パネルを作ることができるわけです。

 また、ポリシリコンTFTでは、トランジスタをより小さく作り込めますので、部品自体も小さくできます。これは、携帯電話などの組み込み用には有利だと言えるでしょう。例えば、画像をパネルで表示するために液晶を制御する「ドライバIC」などの回路をパネル上に組みこむ、あるいはメモリを組み込むなどといった工夫が実際に低温ポリシリコン液晶パネルで行われているものもあるようです。


ポリシリコン液晶は従来のTFT液晶よりも画像や動画を鮮明に表示できる。写真は実際に同液晶を搭載した携帯電話、au端末「C5001T」のディスプレイ画面で、左は動画再生画面、右は待受画像を表示させた画面

何が「低温」なのか?

 ところで、低温ポリシリコン液晶には「低温」という言葉が付けられています。この「低温」が意味するところは、「液晶パネルにシリコン膜を形成するのに必要な温度が、これまでよりも低い」ということで、つまりは製造方法の違いを示す言葉です。

 液晶パネルを作る際に必要なガラス基板に、シリコンを塗布する作業はかなりの高熱を必要とします。アモルファスのシリコンを使った通常のTFT液晶パネルでは、ほぼ500度を越える温度で行なわれるのが普通ですが、これがポリシリコン液晶の場合だと、さらに高温の1000度程度でないとかつてはシリコン膜が作れませんでした。しかし、ここまでの高熱だとシリコンだけでなくガラスにも影響を与えてしまい、あまりの高温にガラス基盤が溶けてしまいます。

 そこで、このプロセスを工夫することにより、比較的低温でシリコンの塗布作業を行なっているのが、携帯電話のパネルなどにも使われている「低温ポリシリコン液晶」なのです。

 具体的には、シリコンの塗布に炉などを使うのではなく、シリコン膜を形成する際にエキシマレーザーを使うなどといった方法がとられます。これで材料を瞬時に融解、結晶化させる(瞬間的に溶融・結晶化が起こるため、基板の温度上昇を低くできる)などの工夫により、できるだけ低い温度で薄膜が形成できるようになっているのです。

 各メーカーの発表資料などによると、現在では摂氏600度以下や450度以下というような比較的低い温度でシリコン膜を形成する技術が開発されているようです。このような技術によって、ポリシリコン液晶は高温にも耐える高価な石英ガラスなどを使わずに作れるようになり、携帯電話などのデバイスでも使われるようになったのです。


動画対応のハイエンド携帯などで使われ始める低温ポリシリコン液晶

 低温ポリシリコン液晶を利用した液晶パネルは、反応速度が速く画像も鮮明なので、動画対応の比較的高機能な携帯電話から利用され始めています。例えばgpsOneやMPEG-4による動画再生(ezmovie)に対応した東芝製のau端末「C5001T」などで利用されています。「C5001T」は4096色表示で、1秒15フレームの動画再生が可能です。

 この他にも、auの「C415T」(東芝製)やNTTドコモの「F503iS」(富士通製)、動画対応の次世代携帯電話などで利用されています。携帯電話以外では、一部のノートパソコンやPDA、デジタルカメラの液晶パネルなどにも採用されているようです。


低温ポリシリコン液晶を搭載した携帯電話。左から、auの「C5001T」、「C415T」(いずれも東芝製)、NTTドコモの「F503iS」(富士通製)

第19回:液晶ディスプレイとは(前編)
第20回:液晶ディスプレイとは(後編)


(大和 哲)
2002/02/19 12:50

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