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「誰がために鐘は鳴る~ソフトバンクのボーダフォン買収~」
法林岳之 法林岳之
1963年神奈川県出身。パソコンから携帯電話、PDAに至るまで、幅広い製品の試用レポートや解説記事を執筆。特に、通信関連を得意とする。「できるWindowsXP基本編完全版」「できるVAIO 基本編 2004年モデル対応」など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。「ケータイならオレに聞け!」(impress TV)も配信中。asahi.comでも連載執筆中


 3月17日、ソフトバンクが英ボーダフォンからボーダフォン日本法人を買収することが発表された。3月4日に両社から買収交渉をしていることが公式に発表され、わずか2週間ほどで最終的な合意に達した格好だ。ユーザーとしてはソフトバンクのボーダフォン買収によって、何が変わるのか、何が変わらないのかが非常に気になるところだ。今後の予想なども含め、ソフトバンクのボーダフォン買収について、考えてみよう。


日本最大級の企業買収

3月17日の会見。写真は左から、ボーダフォン日本法人の代表取締役社社長のビル・モロー氏、ソフトバンク代表取締役の孫正義氏、ヤフー代表取締役社長の井上雅博氏
 3月17日に発表されたソフトバンクによるボーダフォン日本法人買収。さまざまな紆余曲折があったが、日本のケータイ業界はここ1~2年、3社4ブランドによって構成されており、今秋に予定されている番号ポータービリティ、今冬以降の新規事業者の参入を控え、少し静かな状態が続いていた。そこに、ソフトバンクがボーダフォン日本法人の買収という形で割って入り、新たな競争時代の火ぶたを切ったことになる。

 買収内容については、買収発表の記者会見の記事でも触れられている通り、英ボーダフォンなどが持つ日本法人の株式の97.7%を取得するという形をとっている。手続きとしては、ソフトバンクが全額出資する新しい子会社を通じて買収することになるが、今回の買収にはヤフーも出資している。総額にして、約1兆7,500億円という買収額は、日本の通信業界、ひいては日本での企業買収としても最大級のものだ。

 記者会見でのコメントによれば、元々、ボーダフォンが3Gネットワークを他社に貸し出すMVNOの相手として、ソフトバンクが交渉していたが、買収した方が早いのではないかということになり、今年はじめから買収交渉を進めてきたのだという。

 ソフトバンクによる国内携帯電話事業者の買収の噂は、過去にも何度となく流れており、新聞などでも報じられてきた。KDDIと合併する前のツーカーグループ買収も報じられたことがあった。筆者もちょうど一年くらい前、ボーダフォンの日本法人買収の噂を耳にしたが、その当時、英ボーダフォンから約2兆円が提示され、買収を見合わせたという話だった(真偽のほどは定かではないが……)。

 ソフトバンクは今回の買収により、日本におけるボーダフォンの2G/3Gネットワーク、約1,500万人のユーザーを獲得することになるが、なぜ、約1兆7,500億円もの巨費を投じてまで、買収をしたかったのだろうか。


買収概要 資金調達方法

 まず、ひとつめは携帯電話事業としての立ち上がりの早さだ。ソフトバンクはすでに新規事業者として、1.7GHz帯の周波数割り当てが決まっており、2007年春にはサービスを開始する予定だ。しかし、新規に携帯電話事業を始めるには、基地局の設置やネットワークの構築、端末の調達、営業体制の整備など、さまざまな準備が必要なため、NTTドコモやKDDIなどの既存事業者と張り合うには、かなりの時間とコストが掛かる。特に、エリア整備については、2Gから3Gへ進化する際、PDC方式からW-CDMA方式へ移行したFOMAやVodafone 3Gが苦労したことを見てもわかるように、既存方式と同等のエリアをカバーできるのに時間が掛かる。その結果、ユーザーの不信を招き、信頼の回復にはさらなる時間が掛かってしまう。しかし、すでに事業体制の整っているボーダフォン日本法人であれば、こうしたリスクも最小限に抑えられると判断したわけだ。餅米を買って、餅を作るより、こねた餅を買った方が早く食べられるということだ。

 2つめのポイントは、行政に対する発言力の確保だ。すでに、総務大臣の私的諮問機関「通信・放送の在り方に関する懇談会」でも孫正義社長がコメントをしているが、ボーダフォン日本法人を傘下におさめることで、他の既存事業者とのイコールフッティングを求めてくる可能性が高い。新規事業者として割り当てられた1.7GHz帯についても既存事業者になったことで、周波数帯域を返上する代わりに、800MHz帯の割り当てを求めたり、他の周波数帯の優先的な割り当てを求めるかもしれない。周波数割り当てだけでなく、今後の携帯電話の規格標準化や行政上の取り決めにも既存事業者として、さまざまな注文を付けてくることも考えられる。

 3つめは来たるべきFMCへの備えだ。今後、通信業界では移動体通信網と固定網、ブロードバンドインターネットを連動させるFMCがひとつのテーマになると言われているが、これをサービスとして実現するには、固定網のサービスやブロードバンドインターネットに加え、携帯電話をはじめとする移動体通信網のサービスが不可欠になる。現在、国内ではNTT東日本・西日本、NTTコミュニケーションズ、NTTドコモなどのNTTグループ、KDDIとauブランドのケータイを持つKDDIグループがFMCへの体制を整えつつある。NTTグループはNTTドコモとNTT東日本・西日本、NTTコミュニケーションズの折り合いが今ひとつ良くないため、事実上、FMCの実現にもっとも近い位置に居るのはKDDIグループだろうと言われている。ソフトバンクは米リップルウッドから買収した日本テレコム、ブロードバンドインターネットを提供するYahoo!BBを持っているが、携帯電話事業は来春以降に新規参入という状況でしかない。ひとつめのポイントでも触れたように、携帯電話事業については後発となるため、既存の携帯電話事業者に対抗するほどの力を発揮できるかどうかは未知数。しかし、ボーダフォン日本法人のネットワークがあれば、FMCも一段と実現しやすくなるわけだ。


800MHz帯の割当に関して総務省を相手取り訴訟を起こしたことも FMCに向けた各社の体制

資金はLBOによるノンリコースローンで調達されるが、ソフトバンクにはすでに約4,700億円の有利子負債を抱えている
 この他にもいくつかの理由が考えられるが、Yahoo!BB、日本テレコムに加え、ボーダフォンから携帯電話サービスを継承することで、ソフトバンクは日本の通信業界において、大きな存在になることは間違いない。しかし、その一方で、1兆7,500億円という巨費を投じた買収を不安視する声も多い。

 ソフトバンクはすでに約4,700億円の連結有利子負債があり、これに加えて、今回の買収によるリスクを抱えることになる。単位が大きい上、LBOを利用した買収のため、一般ユーザーには少し理解しにくいのだが、単位を落として、他の買い物に置き換えるならば、約4,700万円の借金を抱えている人が新たに約1億7,500万円の住宅を購入して、全額ローンを組んだようなイメージに近い(かなり極端な比喩だが……)。今回の買収はノンリコースローンで資金調達を行なうため、ソフトバンク自身の抱えるリスクは最小限に抑えられているが、それでも現在のボーダフォン日本法人の営業利益が継続、もしくは成長しなければ、ソフトバンクの描いたシナリオが大きく崩れてしまう可能性もある。

 また、ボーダフォン日本法人を売却することについて、英ボーダフォンはどう考えているのだろうか。まず、英ボーダフォンは当時のJ-フォンを買収したことで、日本流のケータイのビジネスモデルを手にすることができた。日本流のケータイのビジネスモデルとは、キャリアが端末をコンテンツやサービスにマッチングさせながら進化させ、キャリアモデルの端末として販売をする方法だ。海外のケータイ事情に詳しい人なら、ご存知の通り、海外、特にヨーロッパでは端末の販売とサービスが切り離されており、キャリアはキャリアとしてサービスを展開し、メーカーはメーカー独自のサービスを展開している。その結果、キャリアとメーカーが競いながら、ケータイ業界の覇権を争うような形になっている。英ボーダフォンはヨーロッパをはじめとする世界各国で、日本流のケータイビジネスモデルを継承したVodafone live!というサービスを提供し、一定の成功を収めている。端末についてもシャープをはじめとする日本メーカーの製品をキャリアブランドの端末として、世界中に供給する体制を整えることができた。

 つまり、英ボーダフォンとしては、日本法人及び日本市場から吸収すべきものはある程度、吸収できたわけで、あとはVodafone 3Gで本格的に成功を収めるかどうかがキーポイントになっていたわけだ。しかし、Vodafone 3Gはスタートダッシュにつまづいてしまった。周波数割り当てなどの面も含め、行政に対して、今ひとつ納得できない面などもあり、英ボーダフォンとしては今後の日本市場をどのように扱うのかを思案していたタイミングだったようだ。そこに出てきたのがソフトバンクによる日本法人買収の話で、金額的な折り合いがつけば、売却してしまおうと考えたのではないかと推測できる。


買収合意による影響

2005年4月の社長就任会見時、モロー氏と代表執行役会長の津田氏が握手。しかし、新体制では津田氏は退任することになった
 では、ソフトバンクがボーダフォン日本法人を買収することによって、何か影響はないのだろうか。

 まず、今回の買収はソフトバンクと英ボーダフォンの間で交渉が進められたため、実際に現場で活動している日本法人のスタッフも今ひとつ状況を把握しかねているようだ。関係者からは「今後、どうなるのかを聞かれるが、逆に我々が聞きたいくらい」、メーカーやコンテンツプロバイダなどの関係企業からも「打ち合わせは進めているが、今後、どうなるかはわからない」といった声が聞こえてくる。つまり、英ボーダフォンとソフトバンクの間で話が進められたため、現時点では日本法人側の意向があまりくまれていないのかもしれない。

 この部分だけをクローズアップすれば、ユーザーとしては不安を感じるかもしれないが、ボーダフォン日本法人の現在に至る経緯を振り返れば、あながちそうでもないという見方もできる。

 ボーダフォン日本法人は元々、日本テレコムによって設立されたデジタルホングループから生まれたものだ。関東・東海・関西以外のエリアについては、当時、日産の傘下で携帯電話事業を行なっていたツーカーグループと共同出資で設立されたデジタルツーカーグループが担当していたが、デジタルツーカーグループ6社の株式が日本テレコムに売却され、1999年11月以降、日本テレコムグループ傘下のJ-フォングループとして、全国統一のサービスを展開している。

 しかし、2001年2月に英ボーダフォンが日本テレコムグループの筆頭株主になり、同年5月に英BTからも日本テレコムグループの株式を取得し、英ボーダフォンとの提携を急速に深め始めた。企業としての姿勢やサービス内容などに、少しずつ変化が見られるようになってきたのは、ちょうどこの頃だ。たとえば、2002年にJ-フォンからボーダフォンへのブランド名変更、2003年7月には「J-スカイ」サービスを「ボーダフォンライブ!」に変更するとともに、ユーザーが利用するメールアドレスのドメイン名変更を強行。さらに、ブランド変更を機に開始した「ボーダフォン ハッピータイム」をわずか半年後に終了。2004年冬にはグローバル仕様のVodafone 3G端末を投入したが、販売が奮わず、一時的に純減を記録。昨年後半あたりから日本市場を意識した端末に方針変更している。

 これらの動きは一端でしかないが、近年のボーダフォンを見ていると、英法人の意向に振り回されてきた印象が残る。英法人の考え方がいい方向に作用すればいいのだが、メールアドレスのドメイン名変更など、ユーザーにとって、マイナスの方向に働いてしまったことも何度となくあり、違和感を覚えていたユーザーも少なくないはずだ。


Yahoo! BBの顧客情報流出事件(2004年)で謝罪する孫氏
 しかし、ソフトバンクという日本の企業が買収することにより、こうしたユーザーの違和感も軽減されることが期待される。Yahoo!BBのサービス展開では強引な販売方法や個人情報の流出など、いろいろと物議を醸したソフトバンクだが、やはり、日本のブロードバンド普及に貢献した功績は大きく、ユーザーのニーズを着実にくみ取ってきた企業だ。通信事業に対する姿勢も最近の記者会見などを見ていると、現実的な発言が増えてきており、多少は安心して、見ていられるようになってきたという指摘もある。グローバルなサービス展開や端末、考え方のすべてが悪いわけではないが、少なくとも日本の市場とユーザーを理解しているソフトバンクがコントロールする方がユーザーも安心して付き合えるのではないだろうか。

 また、ボーダフォン日本法人では何か物事を決めるとき、英法人の意向を確認したり、グローバル仕様に合わせるか否かを議論するなど、意思決定に時間が掛かっていたという。しかし、ソフトバンクはYahoo!BBのサービス展開などを見てもわかるように、意思決定が迅速で、それに向かって、一丸となって動くイメージが強い。つまり、ソフトバンクが買収することによって、今後はサービス展開などもスピーディになるのではないかと予想できる。


ソフトバンクの買収で何が変わるのか

2001年12月には、J-フォンとボーダフォンのロゴを冠したダブルネームのロゴが発表された

買収のメリット
 では、ボーダフォン日本法人がソフトバンクに買収されることで、具体的にどのように変わってくるのだろうか。今のところ、記者会見で触れられたことしか明らかになっていないため、まったくの推測でしかないが、気になるポイントを挙げてみよう。

 まず、ブランド名についてだが、これは記者会見で孫社長が「今回の買収は、英ボーダフォンが日本から完全撤退するということではない」とコメントしたが、同時に「店舗の看板のかけかえや印刷物などがかなりの数になる。半年以上、場合によっては1年くらいかかるのではないか」とも話しており、ほぼ間違いなく、ブランド名は変更されると見ていいだろう。ただ、英ボーダフォンとの関係を重視するなら、過去に「J-PHONE」と「vodafone」のロゴが併記されたような扱いになることも考えられる。英ボーダフォンとしても今回の買収合意で日本市場との関わりやメーカーとの関係を断ってしまうのはマイナスであり、ソフトバンクとしてもボーダフォンの強みである国際ローミングなどのサービスを継続したいという思惑もありそうだ。

 ブランド名が変わることで、ユーザーとして心配なのがメールアドレスのドメイン名だ。J-フォンからボーダフォンに移行するときに強行され、一時的なボーダフォン離れの要因のひとつとなったが、今回はどうなるのだろうか。ユーザーとしては、「せっかく定着してきたのに……」「また変わるんだったら、もういいや」と考えるかもしれない。ただ、「vodafone」は英ボーダフォングループの商標であり、新会社がそのまま継承するには英法人からの許諾など、一定の手続きが必要になる。ソフトバンクとしてもサービスのブランドを変更したのであれば、そのブランドを活かしたドメイン名を使いたいところだ。たとえば、共同で出資しているYahoo!ブランドなどを使ったドメイン名なども十分に考えられる。これらのことを考えると、メールアドレスのドメイン名が変更される可能性は十分にあると見ていいだろう。

 ただ、メールアドレスのドメイン名変更がユーザーの不評を買うことは、ソフトバンクも重々承知しているはずで、もし、本当に変更するならば、何らかの対案を示す必要がある。メールサービスそのものの仕様にも関わることだが、たとえば、ウィルコムのメールサービスで行なわれているような「POP3/SMTPメール」の提供が考えられる。Yahoo!メールや同様のメールサービスを提供し、端末のPOP3/SMTP対応メールソフトで受信できるようにするわけだ。ただ、通常のPOP3/SMTPメールでは端末に直接、メールが届かないので(端末側から送受信を実行する必要がある)、メールが届いたことをSMSやMMSで端末に知らせるという仕様にすることも考えられる。


 インターメールサービスをもっと付加的な位置付けにして、SMSやMMSといった世界的に標準とされるサービスをメッセージサービスの中心に据える手も考えられる。ただ、その場合、他事業者のケータイとメールをやり取りできなくなるが、SMSそのものはNTTドコモのFOMAでも採用されているうえ、auでも表に見えないものの、ほぼ同じ仕組みを利用して、他のサービスを提供している。そこで、他事業者に対して、SMSやMMSのしくみをオープンな仕様として、開放(相互接続)を求めてくるわけだ。もちろん、これらは筆者の勝手な推測でしかないので、まったく的外れかもしれないが、ドメイン名を利用するインターネットメールは今までと少し違った位置付けになることも考えておいた方がいいだろう。

 また、コンテンツサービスについては、当然のことながら、今回の買収に共同で出資しているヤフーのコンテンツが活かされることになりそうだ。ヤフーはポータルサイトとして、圧倒的なページビューを獲得しており、そのコンテンツ内容も充実している。ニュースや天気予報などの情報サービスをはじめ、オークションやショッピング、ブログ、音楽配信など、注目度の高いコンテンツが揃っている。コンテンツポータビリティと位置付け、既存事業者の端末から利用できるコンテンツも拡充が進んでいる。サービス開始直後、これらのサービスがすべて利用できるわけではないだろうが、順次、新会社のサービスとして、提供されることが考えられる。ただ、ニュースなどのコンテンツは二次配信のものも含まれているうえ、すでにボーダフォンライブ!で同種のものが提供されているケースもあるため、配信元との調整が必要になりそうだ。


発表会ではボーダフォンの端末調達力も買収のメリットとしていた
 端末についてはどうだろうか。実は、ソフトバンク傘下になることで、もっとも大きく変わる部分ではないかと言われているのが端末だ。国内のケータイは海外のものと違い、サービスとの関連性が非常に強く、端末とサービスが相互に作用しながら、進化してきた経緯がある。こうした日本流のケータイのビジネスモデルでは、高度なサービスが利用できる高機能端末を安価に購入できるというメリットがあるが、その半面、基本料金や通話料が割高という印象が少なからずあった。ただ、9,000万を超える契約者数が存在するところまで成長した現在、高度なサービスと高機能な端末だけでなく、ユーザーが好みに応じて、カスタマイズできるオープン仕様の端末を求める声も増えつつある。もしかすると、ソフトバンクはこのオープン仕様の端末、具体的には現在のボーダフォンのノキア製端末「702NK II」やNTTドコモのモトローラ製端末「FOMA M1000」のようなイメージの端末をラインアップしてくるかもしれない。こうしたオープン仕様の端末を提供することで、端末の開発コストを下げ、サービスについてはヤフーを中心としたWebベースのものを中心に展開すれば、現在の他事業者とはひと味違ったサービスを提供でき、一定のユーザーの支持を確保できるのではないだろうか。ただ、この点についても現状のボーダフォン端末で提供されているものを継承しなければ、現在のユーザーが離れてしまう可能性もあるため、あまり極端な方向転換はできないという見方もできる。

 ラインアップを供給するメーカー構成も少し変化が出てくるかもしれない。現在、ボーダフォンにはシャープ、NEC、東芝、ノキア、サムスンなどが端末を供給しているが、なかには英ボーダフォングループとの関わりが深いメーカーもあり、ソフトバンク傘下になることで、離れていくメーカー、あるいは新たに参入してくるメーカーが出てきそうだ。最終的には、ソフトバンクがどのようなサービスを提供するか、どんな仕様の端末を求めるのかにもよるが、メーカー構成は大きく変わることになりそうだ。


 最後に、料金についてだが、これはあまり過度な期待は持たない方がいいだろう。一部に、「Yahoo!BBを成功させたソフトバンクだから、今回の買収でケータイの料金が劇的に安くなる」といった報道も見られるが、ADSLや光ファイバによるインターネット接続と違い、ケータイは通話と通信によって、成立している。たとえば、無線通信の部分については、W-CDMAやCDMA2000 1xなど、ベースとなる技術は限られており、周波数の利用効率から算出される通信コストはそれほど大きく変わらないと言われている。通話についても相手先のあることなので、固定電話サービスの事業者を含む他事業者との交渉によって、料金が決まるものだ。つまり、特定の企業の傘下に入っただけで、いきなりケータイの料金が安くなるというものでもないわけだ。

 ただ、基本料金をはじめとするケータイの料金は、端末の開発費、サービスや設備の費用、営業費用など、さまざまなコストによって、成立している。これらの内、端末の開発コストや営業費用などを削減することで、全体の料金が安くすることは十分に考えられるだろう。ただし、料金を安くすれば、利益が目減りしてしまうこともあるため、結果的に今回の買収に掛かった借金を返す期間が長くなってしまう可能性もある。

 ソフトバンクならではのアグレッシブな料金設定としては、Yahoo!BBで提供されているBBフォンとの安価な通話サービスの提供も考えられるだろうし、技術面でもモバイルWiMAXなどの新しい技術によるサービスを積極的に展開し、通信コストの低廉化を図ることもあり得るだろう。


難しい舵取を迫られるソフトバンク

 ソフトバンクによるボーダフォン日本法人の買収は、まだ英法人との合意が発表されたばかりだが、今後の日本のケータイ業界、ひいては通信業界全体に大きな影響を与えることになりそうだ。

 しかし、ここまで解説してきたように、買収が実現したからと言って、すぐに大きな成果が得られるというものでもない。ソフトバンクの孫社長は、今年2月に行なわれた2005年第3四半期の決算説明会において、「携帯事業は10年、20年かけて着実に積み上げる」という趣旨の発言をしている。現時点で、ボーダフォン日本法人は約1,500万超のユーザーを抱えており、これらのユーザーが離れないようにしながら、新しいサービスを展開し、他の事業者と張り合っていかなければならない。特に、ブランドの変更やメールアドレスのドメイン名の扱い、端末メーカーの構成などは、サービスに対する反響に直結する問題であるため、ソフトバンクとしては非常に難しい舵取を迫られることになる。

 ソフトバンクによる買収で、業界が活性化することは、非常に喜ばしいことだが、ユーザーが不利益を被らないような形で、魅力的なサービスが展開されることを期待したい。同時に、我々ユーザーも目先の情報に振り回されず、正しい情報をしっかりと見極めながら、今後の動向を見守っていく必要がありそうだ。



URL
  ソフトバンク
  http://www.softbank.co.jp/
  ボーダフォン
  http://www.vodafone.jp/

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(法林岳之)
2006/04/07 16:39

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