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WILLCOM D4が狙うモバイルユーザーの新エリア
法林岳之 法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows Vista」「できるポケット LISMOですぐに音楽が楽しめる本」(インプレスジャパン)、「お父さんのための携帯電話ABC」(NHK出版)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。「ケータイならオレに聞け!」(impress TV)も配信中。asahi.comでも連載執筆中


 4月14日、ウィルコムはかねてから噂されていた新しい端末「WILLCOM D4」を発表した。音声端末、データ通信アダプタ、スマートフォンに続く、第4のデバイスという意味が込められたネーミングを持つ新しいジャンルのモバイル端末だ。今までのケータイともスマートフォンとも違う世界を目指したWILLCOM D4の可能性について、考えてみよう。


新しいジャンルに挑むモバイル端末「WILLCOM D4」

発表会で展示された「WILLCOM D4」
 現在、我々にとって、もっとも身近なデジタルデバイスと言えば、やはり、ケータイをおいて、他にない。しかし、昔からケータイが身近なデジタルデバイスだったわけではない。ケータイにさまざまな機能が搭載され、いろいろな用途に活用できるように進化してきたことで、現在のようなポジションを得ている。

 一方、インターネットをはじめ、ビジネスに欠かすことができないPC。その昔はオフィスなどで決まった処理を行なう機器だったが、持ち運びができるようになり、高い処理能力を持つプロセッサ、豊富な用途に活用できるOSやアプリケーションなどが登場したことにより、PCは文字通り「パーソナル」な持ち物になった。小型軽量や薄型化が進んだことにより、「モバイルコンピューティング」という言葉も生まれた。今や街中のカフェなどでノートPCを拡げる光景もまったく違和感がなくなっている。

 この2つのジャンルをつなぐ商品として、ここ数年、注目を集めてきたのがスマートフォンだ。国内では2005年にウィルコムが発売した「W-ZERO3」によって、市場が切り開かれたが、約2年半の間に、ウィルコムからは後継のW-ZERO3シリーズ2機種、ソフトバンクのXシリーズ、HTC社製Windows Mobile端末などが登場し、100万台規模のマーケットに成長しつつある。スマートフォンは、あらかじめ決められた機能とアプリケーションを利用するケータイと違い、電話やモバイル端末としての基本的な機能を持ちながら、ユーザーが自由にアプリケーションを追加することにより、自分に合った環境を構築できるというメリットを持つ。なかでもWindows Mobile端末はパソコンとの連携に優れており、オフィス文書の閲覧・編集やプレゼンテーションといったビジネス用途にも広く活用することができる。


女性用のバッグに入れ小型・軽量をアピール
 今回、ウィルコムが発表した「WILLCOM D4」は、従来のいずれの商品ジャンルにも属さない新しい製品だ。商品の詳しい情報については、すでに発表会の速報記事が掲載されているため、そちらを参照いただきたいが、CPUにインテル製「Atom」を搭載し、OSに「Windows Vista SP1」を採用するなど、基本的なアーキテクチャは既存のモバイルノートPCを踏襲している。しかし、重量は500gを切る程度に抑えられており、サイズ的には最近、増えつつある他のUMPCと同等か、その中でもコンパクトな部類に入るサイズにまとめられている。実際に手に持ったサイズ感としては、初代W-ZERO3や旧タイプのPSPよりもひと回り大きい程度だが、横幅が長く、ディスプレイサイズも5インチと大きいため、全体的に大きく見える。ちなみに、厚さは初代W-ZERO3と同じだ。発表会では500mlのペットボトル飲料よりも少し軽く、女性用のバッグに入れて持ち歩くことができるサイズということが強調されていた。


CPUのAtomとチップセット

Atomがサポートする省電力技術(インテルの発表会での資料)

大容量バッテリーと背面カバー。装着すれば一回り厚くなる
 CPUとして採用された「Atom」は、モバイルインターネット端末や組み込みシステムなどをターゲットに新たに開発されたもので、今後、WILLCOM D4以外にもいくつかのメーカーから製品が登場する見込みだ。Atomそのものについては僚誌PC Watchの後藤弘茂氏のコラムで詳しく解説されているので、そちらを参照していただきたいが、従来のモバイルノートPCに搭載されてきたものに比べ、格段の低消費電力を実現している。

 本体バッテリーでの連続動作時間が気になるところだが、発表会では「測定後にデータを公開するが、おそらく数時間程度」とコメントされたのみで、具体的な時間は明らかにされなかった。「数時間」という表現は随分と範囲が広いが、関係者のコメントなどから判断すると、おそらく実質的には2~3時間前後がひとつの目安になりそうだ。本体に標準で搭載される標準バッテリーパックの容量が960mAhと(PC用としては)あまり大きくないうえ、ストレージにHDDが採用されていることなどが関係しているようだ。ちなみに、オプション品として販売される大容量バッテリーパックは3倍の2,880mAhとなっているため、これを装着すれば、おそらく6時間以上連続動作が期待できそうだ。ケータイやスマートフォンを基準に考えると、実質2~3時間という連続動作時間(あくまでも筆者の推測)は短いが、多くのモバイルノートPCが3,000mAh程度の軽量バッテリーを搭載し、約4~6時間程度の連続動作を可能にしていることを考慮すれば、1,000mAh以下のバッテリーで2時間以上、動作させることができれば、かなり優秀と言えるかもしれない。

 ストレージについては、モバイルインターネット端末ということを考慮すれば、モバイルノートPCでも搭載が増えてきたSSD(Solid State Drive)の採用を期待したかったが、まだ容量単価が高いため、採用が見送られた。WILLCOM D4に搭載された40GBのHDDと同じ程度の容量のSSDを採用しようとすると、価格が跳ね上がり、通常のハイエンドのモバイルノートPCに匹敵する価格帯になってしまうそうだ。ただ、SSDに採用されるNAND型フラッシュメモリはコストダウンが進んでおり、将来的にコストが見合うようになれば、後継モデルや次期モデルに搭載する可能性は十分にあるとのことだ。

 OSとして、Windows Vistaが搭載されたことについては、「なぜ、Windows XPではないのか」といった声も聞かれたが、おそらく電源管理やスリープ時の動作を考慮した結果だろう。ただ、エディションが「Windows Vista Home Premium」である点は、やや疑問が残った。個人ユーザーが自宅やモバイル環境のみで利用するのであれば問題ないが、ビジネスユーザーがオフィスで利用することを考えれば、社内LANなどに接続できないことがあるからだ。Windows Vistaでは上位エディションにステップアップグレードできるが、ウィルコムとシャープが提供するWILLCOM D4向けのソフトウェアは、基本的にWindows Vista Home Premium専用で開発されるため、他のエディションでの動作は保証できないという。社内LANに接続することを検討しているユーザーは、システム管理者に問い合わせるか、他の選択を考えた方がいいかもしれない。


タッチパネル対応の5インチ液晶で、右脇にはタッチパッドを装備。フルキーボードを搭載する
 実際に操作した印象についても少し紹介しておこう。今回、発表会で用意されたデモ機はいずれも開発中のもので、アプリケーションによっては動作が不安定な面も見られた。ただ、パフォーマンスについては、通常のモバイルノートPCとほとんど変わらない印象だった。本体に搭載されているメモリが1GB固定、HDDが1.8インチのドライブと、それほどパフォーマンス重視のスペックではないが、それを感じさせないほど、快適な環境だった。

 キーボードについては、机の上に置いて、タイプすることもできるが、モバイル環境ではW-ZERO3のように、本体を左右から挟むように持ち、親指でタイプすることになる。WILLCOM D4はモバイルノートPCと比べて、格段にコンパクトであるものの、W-ZERO3よりはボディサイズがひと回り大きいため、このスタイルでタイプできるのは男性ユーザーに限られるかもしれない。筆者のような手の大きなユーザーが端末を挟んで持って、両手の親指がキーボード中央で届くくらいのサイズであるため、手の大きくないユーザーや女性ユーザーは、少し指を伸ばすようにして、使わなければならないかもしれない。

 ポインティングデバイスは付属のペン操作に加え、ディスプレイの右横に内蔵されたタッチパッドを利用する。今回試用したものは開発中だったため、タッチパッドのレスポンスが今ひとつだったが、操作性に慣れてしまえば、Webページのスクロールなどもある程度、ストレスなく、操作することができる。タッチパッドの反応になじめないと、内蔵されているペンを取り出して、操作をすることになるが、ペンによる操作はユーザーによって、好みが分かれるところだ。


WILLCOM D4は新しいモバイル市場を切り開けるか

W-ZERO3シリーズを世に出した4社が「WILLCOM D4」も手掛ける
 いくつか気になる点があるものの、全体的に見れば、WILLCOM D4はモバイル環境で利用する新しいジャンルの『PC』ということになりそうだ。

 「W-ZERO3というスマートフォンを生み出したウィルコム、シャープ、マイクロソフトなのに、なぜ、PCなの?」という声も聞こえてきそうだが、ウィルコムによれば、W-ZERO3シリーズに対する反響を聞いている内、その内容が2つに分かれていたことを反映しているのだという。ひとつは「もっとケータイのように、コンパクトに……」、そしてもうひとつは「もっとパソコンのように、ハイパフォーマンス&ハイスペックに……」という声だ。前者の声はAdvanced W-ZERO3[es]へ活かされ、後者の声に対する答えが今回のWILLCOM D4ということになるわけだ。裏を返せば、今後、初代W-ZERO3のような端末はあまり期待できないが、Advanced W-ZERO3[es]の進化形のような端末は登場する可能性があるのかもしれない。

 その点を考えれば、インテルCentrino Atomプロセッサーテクノロジーというパワフルかつモバイルに適した強力なプラットフォームを採用したこと、Windows Vista SP1及びMicrosoft Office Personal 2007 with Office PowerPoint 2007を搭載したこと、View Style、Input Style、Desk Styleという3Wayスタイルで利用できるなど、スマートフォンをモバイルノートPCに昇華させたようにまとめられていることも理解できる。WILLCOM D4はW-ZERO3シリーズに不足を感じていたユーザー、今までモバイルノートPCを持ち歩くことを躊躇していたユーザーのニーズに応えてくれる製品と言えそうだ。


 ただ、その一方で、モバイル環境で利用するデジタルツールは、W-ZERO3が登場したとき以上に選択肢が拡がっているのも事実だ。冒頭でも触れたように、W-ZERO3シリーズが切り開いたスマートフォンの市場は、ソフトバンク、イー・モバイルからも製品が登場し、台湾のHTCからはSIMフリーのスマートフォンも販売されている。フルキーボードが欲しいと言うことであれば、ソフトバンクのシャープ製端末「インターネットマシン 922SH」のような選択肢もある。

 価格やサイズ的な違いはあるものの、モバイルノートPCも20万円強の価格帯に魅力的なモデルがラインアップされており、SSDやハイブリッドHDDといったストレージを搭載したモデルを選択することもできる。通信環境についてもFOMAハイスピードやCDMA 1X WINの通信モジュールを内蔵したモデルが登場しており、Wi-Fiなどと組み合わせることにより、快適に利用できる環境が整っている。

 また、ビジネスシーンでの利用ということであれば、通常のケータイも環境が整っている。オフィス文書を閲覧できるドキュメントビューアー、PC向けホームページを閲覧できるフルブラウザなどは高機能モデルを中心に標準的に搭載されている。メールについては、POP3/SMTP形式のメールを送受信するASPサービスがあり、最新のソフトバンク端末にはPCメールという機能も搭載されており、GmailなどのWebメールを活用することもできる。PCほどの応用性の高さはないが、誰にでもすぐに使える手軽さを兼ね備えている。

 以前にも紹介したことがあるが、その昔、NECが販売していたモバイルギアというWindows CE搭載マシンの取材で商品企画担当者にインタビューしたとき、「モバイルは場所、時間、使い方の違いなどがあるため、ユーザーのニーズの範囲が非常に広い。1つの商品だけで、それらをカバーすることは難しい」という話を聞いたことがある。いくつもの基地局を設置し、いくつものセルで利用可能エリアを拡げていくように、ユーザーのニーズに応えていくしかないわけだ。

 WILLCOM D4はモバイルノートPCとスマートフォンの両方のエリアに重なる製品であり、ケータイとも関わりのあるエリアに位置付けられるものだが、そのいずれに対しても「帯に短し、たすきに長し」と感じられるようなポジションのユーザーにとっては、魅力的な製品ということになる。自分がモバイル環境に何を求めているのか、どんなことに活用したいのかがハッキリしてきて、それがWILLCOM D4のカバーするエリアにハマるのであれば、購入を検討したいところだ。発売まではまだ時間的な猶予があるが、ウィルコム、シャープ、マイクロソフト、インテルの4社が示すWILLCOM D4が持つ可能性をじっくりと見ながら、自分のニーズとのマッチングを判断することをおすすめしたい。



URL
  製品情報(ウィルコム)
  http://www.willcom-inc.com/ja/lineup/ws/016sh/
  製品情報(シャープ)
  http://www.sharp.co.jp/d4/

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(法林岳之)
2008/04/18 11:18

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