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携帯向けマルチメディア放送の検討会、キャリア3社が意見陳述

 20日、総務省で「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」の第6回会合が開催された。今回は、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクモバイルの3社が、携帯向けマルチメディア放送を提供する側ではなく、携帯電話サービスを提供する事業者としての立場で意見を述べた。


通信が放送に期待する部分

 NTTドコモからは、執行役員でプロダクト&サービス本部 マルチメディアサービス部長の夏野 剛氏が出席し、事務局側が事前に用意した質問項目に答える形で説明が行なわれた。

 まず夏野氏は、NTTドコモが現状提供するマルチメディアコンテンツの配信サービスとしては、iモーションやMusic&Videoチャネル、iチャネルなどがある中で、ストリーミング型よりダウンロード型が比較的多いこと、放送のようなプッシュ型配信はiチャネルやエリアメールなど3種類しかないことを紹介。その一方で、コンテンツプロバイダが独自サービスを展開しており、専用アプリで動画をストリーミング配信していることにも触れ、「たとえばUSENさんのGyaOも携帯向けサービスを提供しているし、最近ネットで話題のサービスであるニコニコ動画も専用アプリでストリーミング配信している。サービスは多数存在しており、ドコモとして全てを把握しているわけではない」と述べた。

 ドコモの戦略としては、通信速度が向上する中、データ量が多いサービスに注力しており、パケット通信のトラフィック量を見ると、半数がダウンロード型の動画配信で占められているという。ストリーミング配信の場合は測定が難しいとのことで、正確な割合は明らかにされていないが、少なくとも動画配信がトラフィックの半数以上となっているという。

 ただし、パケット通信には限界があり、あまりに多くのユーザーからアクセスされると通信が滞って、場合によっては輻輳することもある。懇談会座長代理で法政大学経済学部教授の黒川 和美氏から3キャリアに対して地域限定サービスの可能性を問いかけられた場面で、夏野氏は「たとえば野球では、球場にいる人がワンセグを見ることが多い。また、コンサート会場ではステージが遠いため、モニターで見たいという要望もある。地域限定の動画配信は、ワンセグではできないため、ドコモに対して要望が寄せられる。通信の場合、たとえば東京ドーム周辺のインフラは普段の通話・通信量にあわせてあり、5万人訪れた状態で一斉に動画のストリーミングを視聴しようとしたら輻輳する」と説明。地域限定サービスの可能性はあるものの、通信では実現しづらい状況であり、一斉同報できるサービスを実現するには放送のような仕組みが期待できるとした。

 現在検討中の携帯向けマルチメディア放送への取り組みについては、収益モデルよりもプラットフォームとして整備されることで、キャリアや端末、サービスの価値が高まることに期待しているという。たとえば料金回収代行や決済などが想定されるとのことだが、「実際にはコンテンツの中身次第」として、それ以上踏み込んだ発言は控えた。


KDDIの考え

 KDDIからは、コンテンツ事業統轄本部 コンテンツ・メディア本部長の園田 愛一郎氏が説明を行なった。同氏は、「KDDIは、固定と携帯の融合に対して放送を加えたFMBCサービスの実現を目指している」と述べ、これまでFMラジオやワンセグ、デジタルラジオと取り組んできた実績を紹介。FMラジオでは放送中の楽曲の名称やアーティスト名がチェックでき、着うたの購入に繋がっていることや、最近ではデジタルラジオ機能の実験として、放送波でコンテンツを無料配信したことを紹介した。なお、子会社を設立して、国内導入を目指している「MediaFLO」については、「新たな可能性があると考え、現在KDDIデザイニングスタジオで実証実験を行なっている」と述べるに留まった。

 ユニークな事例としては、音楽番組がテレビで放映されると、携帯電話でのアーティスト検索が一挙に増えるという例が挙げられた。園田氏は「番組内で携帯での検索を呼びかけているわけではない。たとえば金曜夜の音楽番組放送時には、当社のサーバーがパンク状態となり、アーティスト検索の結果、着うたの購入に繋がっている。ユーザーの中では、既に放送と通信が融合している」と述べ、放送と通信の連携が進めば、さらに可能性が広がるとした。


ソフトバンクモバイルは競争環境の実現を要望

 ソフトバンクモバイルからは、常務執行役員プロダクト・サービス開発本部長の吉田 雅信氏が出席した。同氏は、現状のコンテンツ配信では、データの肥大化やユーザー数の増加により、周波数不足あるいは設備投資への懸念があるとして「ブロードキャストの技術が必要不可欠と考えており、今後、MBMS(Multimedia Broadcast and Multimedia Service)の導入を予定しているが、大容量コンテンツの提供には向いていない。放送は大容量コンテンツの配信が実現できる」と述べ、他キャリアと同じ認識を示した。

 また技術方式など環境作りについては、「市場原理に基づいた環境の確立を求める。有害な番組を放送しないよう一定の規律は必要だが、第三者の参加を妨げる規制は必要ない。オープンな環境が必要」とした。また、サービスを成功に繋げるためには、VHF帯のハイバンドの割当も要望した。


技術方式は1種類? それとも複数?

 携帯向けマルチメディア放送を実現する技術は、複数存在するが、国内ではどうあるべきかという問いかけに対しては三者三様の回答となった。

 NTTドコモの夏野氏は、「技術はあくまでツール」としながらも、通信事業者としては基本的に1種類の方式のみの採用を要望した。もし複数方式となれば、事業者ごとに異なる端末を開発することになるほか、1端末で複数の方式をサポートすることはコスト面でも難しいと指摘。複数の放送方式を1つのチップでサポートする可能性を尋ねられた夏野氏は、どのようなサービスであれ、新規事業は、サービス開始直後の段階が勝負を決めると説明し、「サービスが無事立ち上がった後であれば、ワンチップのコストも低減できるだろうが、障壁は格段に高くなる」と述べた。

 KDDIの園田氏は技術的には、複数方式が採用された上で、サービス提供に最も適したものを選べる状態になることが重要とし、「サービスエリアは通信と同程度になることを期待している。端末開発期間などを踏まえると、サービス開始の2年前には事業者や技術方式など全てが決定していて欲しい」とした。

 また、ソフトバンクモバイルの吉田氏は「標準化が必須。限られた周波数を効率よく利用できる技術を望んでいる」と吉田氏は述べたが、具体的な方式については明言せず、「誰が標準と判断するのか、どういう方式にすべきか議論していきたい。今回はまず(議論するよう)提起したい」とした。

 ドコモは1種類の方式、その他2社は複数方式を求める形となったが、夏野氏は「シェア拡大を図る側にとって、他社と同じ方式では差別化できない。各社の状況も理解して欲しい」と構成員に語りかけていた。

 この点については、3キャリアの後にプレゼンテーションを行なった野村総合研究所(NRI)の北 俊一氏が「南米ではブラジルなどでISDB-T(ワンセグと同じ方式)が採用されているが、世界的にはDVB-Hが優勢となっており、つい『GSM(とPDCの)再現か』と思ってしまう」と述べていた。


ワンセグはあまり利用されていない

 既に国内の携帯電話では、ワンセグ機能が標準搭載と言える状況まで普及してきたが、夏野氏は「ワンセグ対応のほうがユーザーに受け入れてもらいやすいが、視聴頻度は期待したレベルよりも多くない、というのが現状。ただし、日本代表が出場するサッカーの試合など国民的なイベントではよく利用される。ないよりあったほうが良いだろうが、自宅のテレビのような視聴形態という感じではない」と、現状は満足いくものではないとの認識を示した。

 また、ワンセグのデータ放送に対しても、「データ放送からパケット通信に繋がる仕組みとなっているが、キャンペーンやプロモーションは別にして、日常的には(データ放送からのパケット通信は)ほとんど発生していない。都合が悪いので皆あまり言わないが……」と語っていた。

 KDDIの園田氏は、「ワンセグについては、踏み込んだビジネスモデルはできていない。ただ、ユーザーからの期待度は高く、当社だけで対応機種は600万台。その結果、デバイスの低価格化をもたらし、ワンセグ対応のUSB型チューナーなどが登場した」と述べ、携帯のワンセグ対応に功績があるとした。また、ソフトバンクモバイルの吉田氏は、「ワンセグ搭載は、購入時の大きなポイント。そのため、当社ではミドルクラスや普及クラスの機種でもワンセグを搭載する」とした。


誰が何をやるのか

 構成員で、東京理科大学大学院教授の生越 由美氏から「今は視野にあるビジネスの説明しかできないだろう。携帯向けマルチメディア放送で新たなビジネスモデルに取り組むために、現状では新モデルをどの程度想定できているか」と尋ねられると、夏野氏は「今想定できているのは10%以下。マルチチャンネル放送は国内では成功例がない。特にテレビの制作現場では、据え置き型テレビの大画面化に伴い、大画面を意識した制作が主流で、その映像をワンセグで見るのは結構大変、という話がある」と回答。

 たとえば2.5GHz帯の免許割当では、既存の3Gキャリアの資本は1/3以下に、といった方針が定められたが、携帯向けマルチメディア放送では携帯キャリアが放送サービスを手掛けるのか、あるいは既存放送局が行なうのか、はたまた新規事業者を募るのか決定していない。このため、夏野氏は「我々が主体になるのかどうか。放送にどれだけ近いか距離感が決まらないとどこまでやることになるのか、判断材料として大きい部分だ」と、キャリアとしての心情を吐露した。

 北氏も「国策として、国際競争力を向上させるということになるのだろうが、誰の競争力を上げるのか。誰が事業主体なのか。目的をきちんと掲げなければいけないし、その目的が揺らいでは意味がない。携帯向けマルチメディア放送によって恩恵を受けるであろう人がリスクを取って、イニシアティブも取るべき。時間が許す限り試行錯誤を重ねるべきだ」と主張した。

 北氏の説明は、懇親会の根本的な目的を改めて確認した格好となったが、この点に関連し、最後にプレゼンテーションを行なった日本総合研究所(日本総研)の倉沢 鉄也氏は「日本の人口は減少する傾向で、ユーザーが視聴に使える時間は限られている。新モデルがいったいどうなるのか、という問いに対しては『ユーザーが決めるもの』としか言えない。麻雀における“ドラ”は、そのままで役にならないが、上がったときに点数を増してくれる。携帯向けマルチメディア放送はドラになるのか、リーチになるのか。そもそも2011年に(アナログ放送が終了せず)電波の引っ越しがなくなるかもしれない。電波の有効利用に反するかもしれないが、焦らずに待とう」と述べ、技術方式などのルール作りを性急に進めず、余裕を持った枠組みにするよう提言した。

 このほか総務省からは、実際に携帯向けマルチメディア放送で利用できる帯域の想定値が示された。利用できる周波数幅は、VHF帯のローバンドで18MHz幅、ハイバンドで14.5MHz幅となっており、全国放送か県域放送かどうか、あるいは参入事業者数という条件に当てはめた場合の1社あたりの周波数幅が示された。単一周波数でカバーできれば、利用できる帯域幅は単純に割り算で計算することになり、2事業者に割り当てる場合は、ローバンドで1社9MHz幅、ハイバンドで7.25MHz幅となる。これが複数の周波数でカバーする形になったり、県域放送になったりすれば、干渉を避けるという観点から、1社あたりの割当幅は小さくなる見込みだ。

 次回会合の開催日は後日あらためて発表されるが、これまでヒアリングしてきた内容を踏まえて、各論の検討に入る予定だ。



URL
  携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会 開催概要
  http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/mobile_media/

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(関口 聖)
2007/12/20 19:36

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