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Act.16「美しき“モバイルビジネス”?」
[2007/03/27]


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Act.11 「今そこにある『おサイフケータイ』」(前編)
法林岳之 法林岳之
1963年神奈川県出身。パソコンから携帯電話、PDAに至るまで、幅広い製品の試用レポートや解説記事を執筆。特に、通信関連を得意とする。「できるWindowsXP基本編完全版」「できるVAIO 基本編 2004年モデル対応」など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。「ケータイならオレに聞け!」(impress TV)も配信中。


「おサイフケータイ」始まる!

 今年6月、NTTドコモはFeliCa内蔵ケータイによるサービス「iモード FeliCa」を開始した。「おサイフケータイ」というキャッチコピーとともに、テレビCMなども放送が開始されている。今後、他の携帯電話事業者も同様のサービスに追随すると見られており、新しいケータイのサービスとして注目を集めている。今回はiモード FeliCaにスポットを当てながら、その実用性や利便性を考えてみよう。


お財布を飲み込む携帯電話

 離れたところに居る人と会話をするために生まれてきた携帯電話。しかし、この十数年、もしかするとわずか数年の間で、ケータイはさまざまなものを飲み込んできた。iモードの登場により、メールやインターネットが利用されるようになり、カメラ付きケータイでデジタルカメラの機能も取り込みつつある。最近ではポータブル音楽プレーヤーやムービープレーヤーの機能が搭載されたり、EZナビウォークのように、歩行中のナビゲーション機能も実現されている。細かいところではケータイが普及したことで、腕時計をする人が減った、PDAの市場が縮小した、手帳が使われなくなったといった声も耳にする。

 そして、いよいよケータイは「お財布」の機能を飲み込もうとしている。今年6月、NTTドコモが発表した『iモード FeliCa』のことだ。7月からは対応端末の販売も開始され、対応サービスも順次、提供され始めている。iモード FeliCaは非接触型ICカードを搭載した端末だが、非接触型ICカードそのものはビットワレットが提供する電子マネーの「Edy」、JR東日本の「Suica」、JR西日本の「ICOCA」などで広く利用されており、これらのサービスをケータイに取り込むことにより、ケータイをお財布として使えるようにしようという考えだ。当初は対応サービスが限られているが、NTTドコモではiモード FeliCaに「おサイフケータイ」というニックネームを与え、積極的にプロモーションを展開している。

 また、iモード FeliCaと同様の非接触型ICカードを利用したサービスは、auやボーダフォンも計画しており、近い将来、非接触型ICカードはケータイの標準機能になると言われている。つまり、ケータイ業界としてはコンテンツサービスに続く、新しいビジネスとして期待されているわけだ。


iモード FeliCaのしくみ

ドコモでは、iモードとFeliCaの融合がさまざまなメリットをもたらすとアピール
 iモード FeliCaを語る前に、もう一度、非接触型ICカードやFeliCaに関する基礎をおさらいしてみよう。

 非接触型ICカードはその名前からもわかるように、ICカードの一種だ。クレジットカードなどにも使われているICカードは、カードに接点を持ち、読み取り装置と接点を接触させることで、情報をやり取りしている。これに対し、非接触型ICカードは至近距離で微弱な電波を利用し、ワイヤレス通信で情報をやり取りしており、読み取り装置に近づけるだけでだけでデータを送受信することが可能だ。そのため、非接触型ICカードは接触型に比べ、耐久性に優れ、高速な読み取りが可能といった特長を持つ。

 非接触型ICカードにはいろいろな種類があるが、iモード FeliCaはその名の通り、ソニーが開発した「FeliCa」という規格を採用している。非接触型ICカードにはISOの国際標準規格「ISO 14443」があり、すでに「Type A」と「Type B」という規格が標準化されている。FeliCaも「Type C」として策定中となっており、近く国際標準規格の仲間入りをする予定だ。

 また、FeliCaはEdyやSuicaで採用されているほか、企業の社員証や入退室管理カードなど、すでに数千万枚が実際に利用されている。海外では本誌でもレポートしたことがあるように、香港で「オクトパスカード」というプリペイドカードに採用されており、「MTR」と呼ばれる地下鉄の運賃やコンビニエンスストアでの支払いに利用されている。

 こうした特長を持つFeliCaカードをiモード端末に内蔵したのがiモード FeliCaの基本形だ。ただ、従来の非接触型ICカードと違い、iモード FeliCaはひとつのプラットフォームとして提供されており、端末上で動作するiアプリなどと組み合わせることにより、電子マネーだけでなく、入退室管理カードや会員証、チケット、施設のカギなど、複数の用途に活用できるようにしている。つまり、私たちが普段、利用しているさまざまなサービスが対応すれば、お財布の中にある会員証やカード、ポケットに入っているカギなどをひとつのケータイに統合することも可能になるわけだ。

 また、構造的には従来のFeliCaカードが電源を持たないパッシブ型であるのに対し、iモード FeliCaで採用されているモバイルFeliCaチップはセミアクティブ型になっており、端末から電源供給を受けて動作する。電源は端末の動作状態に関係なく、供給されるため、端末の電源が切れている状態やバッテリー残量が少なくなり、起動できない状態でも動作する。ただし、バッテリーが完全に放電してしまった状態(日時設定なども初期化されてしまった状態)では動作しない。


カードタイプのFeliCaの構造。基本的には携帯電話に搭載されるFeliCaも同じ仕組みだが、複数のアプリケーションが扱えるなど、異なる機能もある 主立った非接触IC技術の概要

iモード FeliCaは本当に安心できるのか?

iモード FeliCaに対応する4機種
 iモード FeliCaの発表会において、NTTドコモは「iモード登場のとき以来の革命」とアピールし、広告などもかなり大々的に展開している。読者のみなさんもテレビCMや広告を多数、ご覧になったことだろう。

 しかし、販売店などからは「iモード FeliCaの反応は今ひとつ」といった声が上がっている。その傾向は本誌に掲載されている「NTTドコモ端末売れ筋ランキング」でもうかがい知ることができる。こうした販売ランキングは実売価格に大きく影響されるため、格安の端末が上位にランクされることが多々あるが、通常、新端末は発売直後にベスト20以内にランクインすることが多い。にも関わらず、iモード FeliCa端末は数回、ランクインしたのみで、従来の新端末に比べると、かなり反応は鈍い。

 また、ユーザーからもiモード FeliCaのセキュリティを不安視する声が聞かれる。本誌の「ケータイお題部屋」で「iモード FeliCa、セキュリティの不安は?」(7月2日実施)という質問を掲載したところ、約7割の読者が「かなり不安」「ちょっと不安」と答えている。

 つまり、ケータイ業界として、非接触型ICカードのビジネスに対する期待は大きいが、その先駆けとしてサービスが開始されたiモード FeliCaは、なかなかユーザーの気持ちに響いていないというわけだ。なぜ、このようなことになってしまったのだろうか。iモード FeliCaの不安要素について、少し整理してみよう。


6月に催された「iモード FeliCa」発表会において、NTTドコモの夏野氏はFeliCaの運用実績などを挙げて「セキュリティの不安はない」とアピール
 まず、NTTドコモは記者発表の席において、「セキュリティに対する不安はないのか」「ユーザーにどうやってセキュリティを伝えていくのか」といった質問に対し、「FeliCaはすでに日本や香港で数千万枚の発行実績があり、セキュリティの不安はない」と答えている。確かに、FeliCaというICカードそのものは、クレジットカードで圧倒的な主流を占める磁気カードのように、偽造される心配もないため(少なくとも現時点では)、それほど大きな不安はないと見ていいだろう。

 ただ、それはFeliCaというICカードそのものの信頼性であって、それだけでiモード FeliCaというシステムが万全とは言えないはずだ。たとえば、iモード FeliCa端末とFeliCaカードでは基本的なサイズが異なるため、持ち歩き方や使われ方などが違ってくる。EdyやSuicaといったカード類は財布や定期入れに入れて、持ち歩くが、端末はポケットやカバンに持ち歩くのが一般的であり、破損や紛失のリスクも異なる。

 また、FeliCaカードは基本的に一枚のカードにひとつのサービスが提供されているのに対し(一部に例外はあるが)、iモード FeliCaは一台の端末でいくつものサービスを利用することが可能だ。そのため、iモード FeliCaで利用するサービスの種類が増えるに従って、ユーザーが負うリスクも増え、万が一、紛失したときや破損したときのダメージも大きくなってしまうわけだ。

 「おサイフケータイ」というフレーズに含まれる「おサイフ」という言葉から受けるプレッシャーを気にする声も多い。「おサイフケータイ」というフレーズを耳にして、ユーザーが「お財布の中身がすべてケータイに入る」と受け取ってしまうと、もし、落としたときに……と考えるのは、誰でも同じだ。お財布の中には現金、クレジットカード、銀行のキャッシュカード、さまざまな会員証カードなどが入っており、これらを丸ごと失う可能性があると考えてしまうからだ。

 しかし、実際にはiモード FeliCaにサービスとして提供され、利用登録をしたサービスのみにリスクを負うわけで、サービスとして登録しなければ、何もリスクを負うことはない。金銭のやり取りを伴うリスクを回避したいのであれば、会員証サービスなどのみを利用すれば、済むことだ。

 こうした判断はユーザーが実生活において、クレジットカードやキャッシュカードなどをどのように扱っているのかによって左右される。クレジットカードひとつを取っても積極的に活用する人もいれば、まったく使わない人もいる。こうしたサービスに対しては人それぞれにニーズやスタンスがあり、それに従って、おサイフケータイとの付き合い方を判断すれば、いいわけだ。


怖くて買えない?

 仮に、こうしたiモード FeliCaの特長を理解できたとしてもいざショップに出向いてみると、思わぬプレッシャーを感じさせられることがある。それは一部の販売店で行なわれている覚書きのようなものだ。以下にその内容を要約してみた。


・保証期間内の故障や不具合発生による交換でもFeliCaに含まれるデータはコピーできない。同様に、内容も保障できない。
・破損や水濡れ、電源が入らない、画面が表示されないなどの故障が起きたときもFeliCaに含まれるデータは保障できない。
・iモード FeliCa端末同士の機種変更でもFeliCaに含まれるデータはコピーできない。
・紛失時にiモード FeliCaのサービスを停止させることはできない。


 この内容からもわかるように、いかなるトラブルが起きたとしてもiモード FeliCaに含まれる情報は、NTTドコモとして、一切保障しないということだ。もう少しわかりやすく書けば、NTTドコモはiモード FeliCaというプラットフォームと対応端末を提供しているだけで、そこでやり取りされる情報についてはいっさいタッチしないと受け取ることができる。

 しかし、ユーザーの視点から見た場合、電話帳データやメールなどであれば、ユーザーがメモリダイヤル編集ソフトなどでバックアップすることができるが、iモード FeliCaにはこうした自衛手段がなく、ユーザーはトラブルのリスクを抱えて、サービスを利用しなければならないわけだ。「おサイフケータイって便利そう」とばかりにショップに出かけて、この文書を見せられたら、読者のみなさんはどう思うだろうか。少なくとも筆者の友人や知人は「ちょっと怖くて使えない」という声が圧倒的だ。


Edyレスキューサービスを理解しよう

電子マネーの「Edy」は、携帯電話が故障した際などに返金できるサービス「Edyレスキューサービス」を用意している
 ただ、これらはあくまでも端末とプラットフォームを提供するNTTドコモとしての姿勢であり、iモード FeliCaのプラットフォームを利用し、実際にサービスを提供している企業は独自にバックアップ方法を提供している。

 たとえば、電子マネーの「Edy」で提供されている「Edyレスキューサービス」もそのひとつだ。このサービスはEdyにサービス登録をしておくと、故障や破損、水濡れなどが確認されたときに、EdyにチャージされたEdy残高を返還するというものだ。ビットワレットではiモード FeliCaのサービス開始にあたり、このEdyレスキューサービスのキャンペーンを実施しており、事前登録なしに無償で破損時のEdy残高を返還できるようにしている(サービス登録は必要)。キャンペーン終了後も事前に登録(105円が必要)しておけば、同様のサービスが受けられる。ただし、返還の申請時にはEdy番号や最後の入金日、最後の利用日などの情報が必要になるため、これらの情報はどこかに書き留めておくか、レシートなどを保存しておいた方がより確実だろう。

 しかし、Edyのように、こうしたトラブル対応を明確にしているサービスプロバイダは、あまり多くない。iモード FeliCaのサービスそのものがまだ開始されたばかりなので、対応が明確にされていないのはしかたがないのかもしれないが、各サービスプロバイダのホームページやパンフレットには、こうした情報がほとんど記載されていない。こうした状態も「iモード FeliCaは不安だ」という声が増えていることに関係しているのではないだろうか。

 前編ではiモード FeliCaの概要と反響、リスクなどについて、説明をしてみた。後編では端末に関する情報や実際のサービスの利用法なども含め、iモード FeliCaの実用性や利便性について考えてみよう。



URL
  NTTドコモ
  http://www.nttdocomo.co.jp/

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(法林岳之)
2004/09/06 15:48

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