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Act.16「美しき“モバイルビジネス”?」
[2007/03/27]


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Act.4「sigmarionIIは永遠に」
法林岳之 法林岳之
1963年神奈川県出身。パソコンから携帯電話、メール端末、PDAまで、幅広い製品の試用レポートや解説記事を執筆。特に、通信関連を得意とする。「できるWindows XP基本編」「できるADSL フレッツ・ADSL対応」「できるZaurus」「できるVAIO Windows XP版」など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。iモード用EZweb用J-スカイ用、H"LINK用(//www.hourin.com/H/index.txt)を提供。「ケータイならオレに聞け!」(impress TV)も配信中。


人気ハンドヘルドPCの後継モデル

 昨年、NTTドコモから発売された「シグマリオン」は、ゼロハリバートンをモチーフにしたデザインが支持され、Handheld PCとしては異例の大ヒット作となった。今年8月、その後継モデルとなる「シグマリオンII」が発売されたが、予想外の仕様を採用したことにより、話題となっている。すでに、一部のメディアで報じられている「特定製品を使えないようにするプロテクト」が施されているのだ。今回はシグマリオンIIのプロテクトにスポットを当てながら、モバイル機器のビジネスについて考えてみよう。


携帯電話のビジネスモデル

シグマリオンII

 従来モデルのコンセプトを継承しながら、さらに完成度を高めたシグマリオンII。しかし、そこには今までにない仕様が含まれていた
 シグマリオンIIの話を始める前に、予備知識として、携帯電話のビジネスモデルについて少し触れておこう。

 本誌の価格調査などを見てもわかるように、携帯電話はちょっと変わった販売スタイルが採用されている。通常、製品を販売するとき、メーカーは製品の開発や製造、販売、アフターケアなどに関わるコストを積み上げ、これに小売店の利益を加えることで、標準小売り価格を設定している。製品のジャンルによって異なるが、仮に部品の原価が1万円のものであっても実際に店頭で売られるときは、5万円といった価格が設定されることもある。製造業に勤めている人なら、誰でもわかることだ。

 しかし、国内で販売されている携帯電話の多くは、こうしたコストの加算によって販売価格が決まっているわけではない。たとえば、端末が1万円で販売されていても実際の端末コストはそれ以上であることが一般的であり、多くの場合はコスト割れの価格で販売されている。なぜ、このような形で販売されているかというと、顧客がその端末を購入することにより、携帯電話事業者には基本料金や通話料(通信料)という形の収入が得られるため、携帯電話事業者はそれを見越して、販売店に対して販売奨励金(インセンティブ)と呼ばれる補助金のようなものを支払っているからだ(実際には途中に代理店などが入るが)。いわゆる「0円端末」はこうした販売奨励金が積み重なった結果、生まれてきたものだ。

 携帯電話の販売店に対するインセンティブは新規契約、機種変更、サービス対応など、さまざまな業務に対して発生し、その金額も業務内容によって異なる。もちろん、携帯電話業界に限らず、他の業界でもインセンティブが支払われることは多々あるが、通話料という継続的な収入がある上、端末そのものがパソコンのように高価ではないため、極端に安い価格設定で販売されるケースも少なくない。販売のしくみが今回の主題ではないので、これ以上の解説はしないが、インプレスから発売されている「図解 知らなきゃ損する携帯電話・PHSのしくみ」で詳しく解説されているので、興味のある人はぜひご覧いただきたい。

 このことからもわかるように、現在の国内の携帯電話ビジネスは、契約者が支払う基本料金と通信料によって成り立っている。たとえ、どんなに端末が何十万台も売れたとしても契約者が通話(通信)をしなければ、携帯電話のビジネスモデルは成立しない。もちろん、その逆も真なりというわけだ。


シグマリオンIIで用いられた試み

 さて、話をシグマリオンIIに戻そう。シグマリオンIIは冒頭でも触れたように、ゼロハリバートンのデザインをモチーフにした初代シグマリオンの後継モデルだ。今回のモデルではCPUの高速化など、さまざまな改良が施され、非常に魅力的な商品に仕上げられている。詳しい製品レビューについては、すでに広野忠敏氏が「おとなのおもちゃ」で紹介しているので、そちらを参考にしていただきたい。

 シグマリオンIIには他の機器と接続するために、いくつかのインターフェイスが備えられている。従来モデルから継承されたものとしては「携帯電話/PHSインターフェイス」「CF Type2準拠のカードスロット」「赤外線通信ポート」があり、そして今回のシグマリオンIIでは新たにFOMA端末と接続するための「FOMA接続インターフェイス」が備えられている。これらの内、CF Type2準拠のカードスロットはNTTドコモが販売する「P-in m@ster」や「P-in Comp@ct」を装着することにより、手軽にモバイル環境を実現することができるのだが、実はシグマリオンIIではライバル会社の特定製品を動作しないようにするプロテクトが施されているのだ。


FOMA端子 CFスロット
 シグマリオンIIで新たに装備されたFOMA端末を接続するための端子  問題のCF Type2準拠カードスロット。刻印もしっかり「CF SLOT」と表記されている

 ケータイ Watchをご覧になっている読者ならご存じのように、現在、国内で販売されているCF Type2準拠のデータ通信カード一体型PHSには、松下通信工業製、シャープ製、NECインフロンティア製、TDK製の4種類がある。他キャリア向けの同一製品や契約のバリエーションによる製品などがあるため、実質的には7種類のCF Type2準拠のデータ通信カード一体型PHSが存在するはずだ。これらの内、NECインフロンティアが開発し、DDIポケットとともに販売している「C@rdH"64petit CFE-01」がシグマリオンIIで動作しない設計になっているのだ(少なくとも現時点では)。


CFE-01を装着 認識せず
 C@rdH"64petit CFE-01を装着  モデムの項目には何も追加されない

P-in m@sterを装着

 シグマリオン2のCFカードスロットはP-in m@ster/P-in Comp@ctでの利用が前提?
 シグマリオンIIが採用しているWindows Powered Handheld PC 2000をはじめ、Windows CEの流れを汲むPDAやモバイル機器では、データ通信カード一体型PHSなどのモデムカードを利用する際、Windows 95/98/Me/2000のような設定ファイルを基本的に必要としない。つまり、本来ならば、CFカードスロット(もしくはPCカードスロット)に装着するだけで認識され、ごく普通に利用できるわけだ。しかし、シグマリオンIIにC@rdH"64petitを装着してもウンともスンとも言わない。NTTドコモが意図的に『プロテクト』を掛けているわけだ。

 なぜ、NTTドコモがこうしたプロテクトを掛けているかというと、それは前述の「携帯電話のビジネスモデル」が崩れてしまうためだ。下の比較表を見てもわかるように、シグマリオンIIは他のHandheld PCに比べ、約3万円以上安い価格で販売されている。発売から間もない時期であるにも関わらず、この値段が設定できるのはシグマリオンIIを購入したユーザーがNTTドコモの携帯電話やPHSを使うことにより、基本料金や通信料という収入が得られるため、NTTドコモはその収入を見越して、あらかじめ安い価格が設定しているわけだ。他のHandheld PCとの差額は、結果的に購入後にユーザーが支払う基本料金や通信料によって埋められることになる。

NTTドコモシグマリオンII4万4800円
日本HPJornada 7107万3800円
Jornada 7209万5800円
NECモバイルギアII MC/R4508万4800円
モバイルギアII MC/R5508万9800円
シャープTelios HC-AJ312万9800円
Telios HC-VJ2C13万8000円
日本ビクターInterLink MP-C3039万9800円
InterLink MP-C30412万9800円


 NTTドコモは以前からこうした手法でモバイル製品を販売している。たとえば、「ポケットボード」や「ポケットポストペット」といったメール端末がその例であり、なかには原価から想定できないような価格を設定した製品もあった。賛否両論があるかもしれないが、これもひとつのビジネススタイルであり、ユーザーとしては安価で製品を手に入れられるのだから、歓迎したいところだろう。また、これらのコストパフォーマンスの高い製品がモバイル市場の発展に寄与した部分は大きい。

 しかし、NTTドコモから見れば、せっかく企画した製品を他の事業者の端末で使われてしまうと、基本料金や通信料によるコスト回収ができなくなる。そこで、今回のシグマリオンIIではCF Type2という汎用的なインターフェイスに対して、特定の製品を利用できなくなるプロテクトを施したというわけだ。


初代シグマリオンの隠された騒動

 今回のシグマリオンIIでのプロテクトについて語る前に、過去の製品についても少し触れておこう。

 実は、初代シグマリオンが販売された当時、非常に魅力的な製品だったため、他社の携帯電話やPHSを所有するユーザーからも非常に高い注目を集めた。なかでもPHSで最大のシェアを持つDDIポケットのH"端末を所有するユーザーの注目度はたいへん高かったが、初代シグマリオンに装備されている携帯電話/PHSインターフェイスに接続できるケーブルは、NTTドコモの携帯電話及びPHS用に限られていたため、利用することができなかった。

 そこで、シグマリオンと同じ開発元のNECが販売する「モバイルギアII」シリーズに目を付け、そのオプション品として販売されている「DDIポケット用PHS接続ケーブル」や「cdmaOne用携帯電話接続ケーブル」を利用することにより、シグマリオンを他社の端末で使えるようにしようとした動きがあった。

 もちろん、こうした利用方法は販売元であるNTTドコモのサポート範囲を超えており、ユーザー自身がリスクを負って行なうことになるので、ケータイ Watchでも特に記事としては取り上げていない。NTTドコモとしては初代シグマリオンでの騒動を鑑み、今回のシグマリオンIIではCF Type2スロットにCardH"64petitを装着しても認識しないようにするプロテクトを掛けたようだ。

 この件について、NTTドコモとDDIポケットに対し、先月末から正式コメントを求めていたが、ようやく両社のコメントが得ることができた。

 まず、DDIポケットはいち早く回答が得られたが、残念ながら「ノーコメント」としている。これはシグマリオンIIが他社の製品であるため、DDIポケットとしてはコメントのしようがないということだろう。

 これに対し、展示会などが続いたため、回答が遅れることになったNTTドコモは、次のように述べている。

 プロテクトをかけているのは事実。弊社が販売しているモバイル機器については、他社の製品については動作保証できない。シグマリオンIIでは、「Wake On Radio」のような独自に機能を追加していることもあり、他社製品を使用した場合、ユーザーが気付かないところで通信料が発生する可能性もある。結果として、ユーザーに迷惑をかけないように、今回は大事をとって、すでに発売されていたC@rdH"64petit CFE-01について、認識しないようにプロテクトをかけた。
 AirH" Card petitなどの新製品については、トラブルが発生するということが確認されれば、その時点で対応を検討したい。また、今後はシグマリオンIIを販売する際、他社製品の動作は保証されないということをちゃんと説明するようにしたい。


 非常に答えにくい質問であるにも関わらず、きちんと回答が出てきたことは評価できるが、その内容はあまり納得できるものとは言い難い。

 まず、他社製品の動作保証ができないことについてだが、これは納得できる言い分だ。現実的に考えて、ライバル会社の製品をサポートすることは企業の論理に反するもので、株主からも反対が予想される。ただ、CF Type2スロットにはデジタルカメラなどにも使われるコンパクトフラッシュメモリをはじめ、多くのCFスロット対応カードが装着できる。NTTドコモはこれらの製品を販売していないが、それらも動作保証外ということになるのだろうか。

 また、Wake On Radioに対する配慮だが、これも苦し紛れの回答という印象が残る。Wake On Radioはデータ通信カード一体型PHSを装着した状態で、電波状態が悪くてメールの送受信できなかったとき、電波状態が回復した場所に移動した段階でメールの自動送受信ができる機能だ。そもそも他社製品がサポート対象外なのであれば、他社製品をつないで誤動作をしてもそれはユーザー自身の責任であり、わざわざ出荷段階でプロテクトするような話ではない。仮に、誤動作の可能性があったとしてもサポート対象外のユーザーに対して配慮をする前に、カタログなどで「他社製品が動作しない」「誤動作する可能性がある」ということをきちんと表記すべきだ。最も根本的な対処を怠って、特定製品に対してプロテクトを掛けるのは本末転倒ではないだろうか。

 もし、Wake On Radioが原因で他社のデータ通信カード一体型PHSが誤動作するのであれば、コンパクトフラッシュメモリやモデムカード、ネットワークカード、GPSカード、無線LANカードなど、他のCFインターフェイス用カードが誤動作する可能性も否定できない。NTTドコモはこれらの製品も調査して、対処するつもりなのだろうか。通信料が発生するということであれば、ネットワークカードとダイヤルアップルータという環境もその対象になり得るが、ネットワークカードや無線LANカードはなぜ対処されないのだろうか。

 結局のところ、Wake On Radioのための対策というのは詭弁でしかなく、特定の他社製品を排除するため、自らのビジネスモデルを守るためにプロテクトを掛けたというのが真相だろう。


利用環境に対するプロテクト

 市販のアプリケーションソフトなどの違法コピーを防ぐためのプロテクトと違い、利用する環境によって動作しないようにするプロテクトは過去にも存在したことがある。特に、パソコンの世界でも何度となく、トライされてきたが、いずれもユーザーや業界の反発を買い、現在ではこうした環境的なプロテクトは行なわれなくなっている。

 たとえば、NECがPC-9800シリーズというパソコンを販売していたとき、自社の外付けSCSIハードディスクしか接続できないようにしたことがあった。これは起動時に外付けSCSIハードディスクが返すSCSIベンダーIDに「NEC」の文字が含まれているかどうかをチェックするもので、周辺機器メーカーは「NECKER」といったSCSIベンダーIDを返すようにすることでプロテクトを回避していた。

 古くはエプソンがNECのPC-9800シリーズの互換機を販売していたとき、NEC製MS-DOSに起動するパソコンがNEC製であるかどうかをチェックするルーチンが組み込まれ、エプソン製互換機では動作しない(リセットをくり返す)という現象が起きたこともあった。このときはユーザーがパッチプログラム(プログラムの一部を書き換えるプログラム)を作成したり、エプソン自身が対策を講じたことにより、エプソンのPC-9800シリーズ互換機でもNEC製MS-DOSが動作するようになった。

 また、「周辺機器は純正品しかサポートしない」というメーカーの話も耳にしたことがある人も多いだろう。たとえば、A社のパソコンを購入したとき、同じA社が販売する純正の増設メモリしかサポートしないといった事例だ。しかし、これもユーザーの反発を買うとともに、周辺機器メーカーの努力やパソコンメーカーの方針変更によって様変わりし、現在では多くのパソコンメーカーが自社以外の周辺機器の動作確認情報をホームページなどに載せるようになっている。

 これらのことを見てもわかるように、こうした利用する環境に対するプロテクトは、パソコンの世界において、ユーザーからも業界からも忌み嫌われてきている。特に、ここ10年で国内のパソコン市場が飛躍的に成長したのはオープンアーキテクチャを採用するIBM PC/AT互換機での日本語表示が可能になったこと(いわゆるDOS/Vの登場)が大きく影響しており、逆にクローズドなアーキテクチャを採用していたパソコンは事実上、パーソナルユーザー向け製品の市場からは消滅している(もちろん、専用機などはたくさん存在するが)。

 今回のシグマリオンIIはPDAの範疇に属しており、パソコンの世界のケースがそのまま当てはめられないかもしれないが、両者は非常に密接な関係にあり、十分参考になるモデルケースだ。


シグマリオンIIの先に見えるもの

カタログ

 カタログには「コンパクトフラッシュカードスロット(Type2)×1」と表記されているのみ
 今回のシグマリオンIIに施されたプロテクトは一部のインターネット上の掲示板などでは話題になっているが、ここで今一度、シグマリオンIIに施されたプロテクトとその是非、影響について考えてみよう。

 まず、NTTドコモが基本料金や通信料で回収できることを当て込んで、端末やモバイル機器を安価に販売する方法についてだ。こうした販売方法に対し、異論を唱えるユーザーもいるだろうが、ひとつのビジネスモデルとして確立されている上、多くのユーザーが安価に端末やモバイル機器を入手できている現状を考慮すれば、認めざるを得ない。ただ、これは携帯電話やPHSのように、回線契約が付帯するものなら問題は少ないが、モバイル機器などについてはひとつ間違えると、NTTドコモブランド、もしくはNTTドコモの契約が付帯する製品以外がまったく売れなくなってしまうリスクがあり、市場の健全性が失われてしまう可能性もある。

 一方、利用環境に対するプロテクトはどうだろうか。前述のように、パソコンの世界では利用環境に対するプロテクトに対する反発は大きかった。携帯電話のビジネスモデルを持ち込むことで、モバイル機器を安価に販売することには反対しないが、ライバル会社の特定製品に対し、利用環境に対するプロテクトまで掛けて対抗するというのは、はたしていかがなものだろうか。少なくとも業界の盟主たるNTTドコモが執るべき手法ではないだろう。確かに、NTTドコモにしてみれば、ユーザーがDDIポケットのC@rdH"64petitを利用することで、他のWindows CEマシンとの差額の約2万円が埋めてもらえなくなる。だからと言って、こうした対策を講じるのはあまりにも大人げない話だ。

 従来のシグマリオンで執られた「他社向けの携帯電話・PHS接続ケーブルは販売しない」という方法はごく自然なものであり、多くの人を納得させることができる。しかし、汎用的なインターフェイスであるCF Type2スロットに対し、特定の端末をわざわざ動作しなくするというのはあまりにも露骨でいやらしい対策だ。たとえば、従来のシグマリオンのように、特別なプロテクトは施さないものの、NTTドコモとしては自社製品しかサポートしないという姿勢も取ることもできたはずだ。あるいは、「自社製品のユーザーがシグマリオンIIを購入したら、キャッシュバックなどの形で還元する」「自社のデータ通信カード一体型PHSとセットの場合のみ安価に販売する」といった方法も考えられるだろう。


RH2000Pは認識

 DDIポケットに対するプロテクトのはずなのに、TDK製「AirH" Card petit RH2000P」は問題なく認識される。ちなみに、「iTAX-GPSCF」は加賀電子製のGPSカード
 もし、今回のような形で利用環境に対するプロテクトを掛け続けるのであれば、シグマリオンIIに装備されているスロットを「CF Type2準拠」と明記せず、「P-in m@ster及びP-in Comp@ct専用スロット」と表記すべきだ。DDIポケットやNECインフロンティアの肩を持つつもりはまったくないが、汎用的な製品を装いながら、特定の製品を排除するというアーキテクチャは業界的にも認めにくい。

 また、このプロテクトがあまりにも稚拙な手段である証拠に、シグマリオンII発売以降に出荷されたTDK製「AirH" Card petit RH2000P」は正常に認識されており、問題なく動作している(もちろん、動作保証外だが)。もし、携帯電話のビジネスモデルを本格的に反映させるのであれば、すべての他社向けPHSを動作させなくするのだろうが、現時点ではそれができていない。ただ、これは現時点で出荷されたモデルの話であり、NTTドコモのコメントにもあるように、今後の追加生産で出荷されるシグマリオンIIでRH2000Pが動作する保証はまったくない。なぜなら、新たなプロテクトの対象にこれらの製品を加えてしまうかもしれないからだ。もしかしたら、NTTドコモは製品の販売を続ける限り、イタチゴッコをしながら、他社製品を排除していくのだろうか。


 さらに、個人的に奇妙に感じられたのがオプション品の対応OSだ。シグマリオンIIにオプションとして提供されている「USBポート用PC接続ケーブル」はWindows 98/98SE/Meにしか対応していない。Windows XPが間近に控えているこの時期にWindows 2000未対応というのはどうだろうか。くだらない小細工をしているヒマがあったら、きちんと必要なドライバを揃えろと言われてもしかたのない対応ぶりだ。

 いずれにせよ、今回のシグマリオンIIの利用環境に対するプロテクトは、オープンな環境によって成長してきたパソコンを中心とした市場に対し、インセンティブによって成立する携帯電話のビジネスモデルを持ち込んだ挑戦的な製品だ。「安ければいい」という発想も理解できないこともないが、今回のような利用環境に対するプロテクトが定着してしまうと、モバイルの市場が健全に育たなくなってしまう可能性がある。

 たとえば、これから発売される多くのPDAやパソコンに対し、携帯電話やPHS事業者、プロバイダなどのインセンティブが付帯し、それに伴うプロテクトによって、自由に製品を使えなくなってしまうことが考えられる。読者のみなさんは「P-in m@sterしか使えないザウルス」「So-netにしかつながらないVAIO」「Nシリーズしか接続できないPocket PC」というような製品ばかりになったとき、それでも使い続けるだろうか。もしかしたら、シグマリオンIIのプロテクトはそのきっかけになる製品かもしれないのだ。


どんな素晴らしい商品でも永遠に『買い』とは言えない!

 シグマリオンIIは初代シグマリオンで採用されたゼロハリバートンのデザインを継承し、ハードウェア的なスペック向上、ソフトウェアの改善など、さまざまな面で改良が施されている。商品そのものの魅力はさらに向上したと言えるだろう。現在、市場ではPocket PCやザウルス、Palm OS搭載機のような手のひらサイズのPDAが人気を集めているが、文字入力を頻繁に行なうユーザーにしてみれば、シグマリオンIIのスペックとパフォーマンスは非常に魅力的だ。

 しかし、CF Type2スロットに施された利用環境に対するプロテクトは、業界の盟主が執る手法として、とても認められるものではなく、商品の価値に著しく傷をつけている。すでに、NTTドコモのP-in m@sterやP-in Comp@ctを所有しているユーザーやNTTドコモのデータ通信カード一体型PHSの購入を前提にしたユーザーが購入したいのであれば、それは自由だが、筆者はシグマリオンIIのような利用環境に対するプロテクトが施された製品に対して、『買い』とは言うつもりはない。これを認めてしまうと、その先にはユーザーにとって不自由な環境が待ち受けているかもしれないからだ。たとえ、P-in m@sterと組み合わせるにしても初代シグマリオンの方がはるかに健全な商品であり、商品としての価値も高いと考えている。

 国内の携帯電話・PHS市場はすでに6000万契約を超え、これからはどれだけユーザーに使ってもらうかが携帯電話・PHS事業者の命題になってくる。そのために魅力的なモバイル機器を企画し、ユーザーのモバイルに対するニーズを掘り起こそうというNTTドコモの姿勢は高く評価したい。しかし、ユーザーが不利益を被ったり、将来的に不自由な環境が想定されるようなら、筆者としては拒絶したいというのが本音だ。読者のみなさんはどうだろうか。

 NTTドコモは今や日本、いや世界を代表する業界の盟主であり、ユーザーにより多く携帯電話を使ってもらうという点において、世界で最も成功した企業のひとつだ。国内市場で培われたノウハウはやがて世界市場に輸出され、世界各地で日本のような携帯電話文化が花開くのではないかと期待されている。NTTドコモは自らの置かれている立場をよく理解し、業界のリーダーとしてどのように市場を牽引していくのか、そのためには何をすればいいのかを今一度、考え直してもらいたい。それは決して、こんな稚拙で露骨な小細工をすることではないはずだ。


・ シグマリオンIIニュースリリース(NTTドコモ)
  http://www.nttdocomo.co.jp/new/contents/01/whatnew0821.html
・ シグマリオンII製品情報(NTTドコモ)
  http://www.nttdocomo.co.jp/mobile/lineup/sigmarion2/index.html

大幅にパワーアップした NTTドコモ「シグマリオンII」
ドコモ、キーボード付きPDA「シグマリオンII」を発売
ゼロハリーバートンなハンドヘルドPC「シグマリオン」


(法林岳之)
2001/10/15 11:44

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