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通信機能を内蔵した電子ブックリーダー「Kindle」
実際に使って見えてくるAmazonの狙いと課題

 米Amazon.comが発売した通信機能内蔵の電子ブックリーダー「Kindle」。ニューヨーク在住の筆者が、実際の使い方を紹介するとともに、そこから見えてくるAmazonの狙いと、電子ブックの将来像を探る。





 まずはじめに断っておかねばならないが、筆者はこれまで電子ブックリーダーというものを使用したことがなかった。以前ソニーの電子ブックを店頭でさわったことがある程度だから、偉そうにうんちくを語るなどということはできないが、書物とはそもそも手にした瞬間から目的である「読む」ということが可能であり、これをデジタル化したものが複雑な操作になってはいけないはずである。はたして初めて電子ブックを手にする人でも、操作に馴染んですぐに使いこなせるようになるか、そういった点に気をつけながらこの製品を見ていくことにしよう。


「Kindle」発表、購入へ

 Amazonが電子ブックリーダを開発しているらしい、という噂は以前からインターネットを通して広がっており、それがワイヤレス機能を持っていることも半ば公然となっていた。このときは電子ブックを使用したことがなかったので、ワイヤレス機能を使ってどこでも好きなときに本が買えると言われてもあまりピンとこなかったのを覚えている。

 筆者としては、電子ブックとは外出先でも本を読むのが好きな人が特に乗り物の移動中に使うもの、と思っていたので特に車社会が発達した米国ではマーケットが限られているのではないか、と感じていたからだ。地下鉄などの公共交通システムが普及しているのはニューヨークやシカゴ、ワシントンDCといった比較的大きな都市に限られ、普段の生活において大多数の市民は車を移動手段としている。

 もちろん移動中に限らず、休憩時間に読んだり、または自宅で使うという人もいるだろうが、そういう人にとって電子ブックの携帯性というのはそれほど魅力的な購入動機にはならないと思うのだ。ただ一つ言えるのは一般に大都市ほど居住スペースも限られるため、電子ブックを利用することで、書籍のスペースを減らしたいという向きには良いかもしれない。

 かつて日本でもソニーが「LIBRIe」の名前で電子ブックを販売していたが、その日本ですらすでに生産を完了している。ところが米国では引き続き販売され、しかも今年の秋にソニーは新製品として、「PRS-505」という電子ブックリーダーを米国市場に投入している。そこに来て今回Amazonによる「Kindle」の発売である。意外にも米国ではそれなりの需要が認められるというわけだ。

 Kindleと発売時期が近かったこともあり、ソニーのPRS-505はKindleと比べられることが多い。事実ハードウェアとしてみたときにはそれほど大きな違いは無く、他のレビューを見ても比較している記事が目立つ。このインプレッションでも折りに触れてRPS-505を取り上げることになるが、ご了承いただきたい。

 さてAmazomがKindleを発表した直後、Amazon.comにアクセスして発売の事実を確認すると、どうやらすでにすでに注文を受け付けている様子であったが、その時点で配送予定日は12/4となっていた。

 Kindleの製品コンセプトに関心を寄せるもやはり399ドルという価格に引っかかり、一晩考えてから決めようとその日は注文せずに床についた。翌朝、やはり気になって注文受付ページにアクセスすると、今度は配送予定日が12/5へとさらに後ろに延びている。なかなか手に入らないとなると余計に欲しくなるもので、品薄という現実に後押しされるかのようにして購入ボタンをクリックした。

 ちなみに12/14現在、12/24までの配送は不可、と表示されている。米国はまさにクリスマス商戦のまっただ中だが、つまり今、注文してもクリスマス前の配達が間に合わない、ということだ。

 Amazon.comでオーダーしてから実際に製品が届くまでの間、地下鉄に乗るたびにいったいどれだけの人が電子ブックを使っているのか気になって注視していたのだが、約一週間の間見かけたのは一人だけで、その女性はソニーの電子ブックを使っていた。
待たされるほど注文が入っているのに、大都市ニューヨークで使っている人を見ないというのは、少々妙な話である。


Kindle到着

大きさの比較のため、手前には一般的な大きさのたばこを置いた
 オーダー確認のメールが届くと、その後はしばらく音沙汰の無い日が続いた。Amazonからはあらかじめ2週間後の配送予想日が案内されていたので、それまではひたすら待つことになる。

 Kindleがひとたび発送されると、Amazon.comで通常買い物をしたときと同じく、配送業者のトラッキング番号と配達予想日が書かれたメールが送られてくる。少しでも早く手に入れようと、注文時に2日で届く配送オプションを指定したのだが、オーダーから筆者の手元に届くまで結局注文時の予想通り、2週間を要した。


ケースの中身、このほかに小冊子と皮のカバーが同梱されている
 筆者の記憶では、KindleがAmazonブランドで発売される初めてのハードウェアではないかと思うのだが、そういう意味では正直パッケージデザインなどあまり期待していなかったものの、素っ気ない段ボールから現れたKindleの化粧箱は良い意味で期待を裏切られた。

 最厚部でも2cm未満の本製品だが、化粧箱はそれに反してやや大きめで、かつ割と手の込んだ作りになっている。豪華な化粧箱のおかげで、開封してその製品を手にする際の演出に役立っているが、逆に作りが良いだけにその箱を処分しようと思うとちょっと勇気がいる。

 本体付属品は、革製ブックカバー、USBケーブル、電源アダプタ、それにクイックスタートの小冊子というかなりシンプルな構成で、ユーザーズガイドはもちろん電子ブックの形であらかじめインストールされている。まずはこれを読み進めることで、Kindleの操作を体得できるというわけだ。


 大きさや外形寸法などは発表時の資料を参考にしていただくとして、ライバル製品であるPRS-505と簡単に比較してみると、その差は意外に大きい。PRS-505もKindleもともに中国製ではあるが、両製品の作りは大きく異なっている。まず最初に感じるのは質感の違いだ。明らかに本体ケースが金属でできているPRS-505の方が質感が高く、細部まできっちりデザインされ、その精密さには美しさも感じられる。一方Kindle本体はプラスチックでできており、どちらかというと米国社製家電製品を思わせるような、悪く言えば大雑把、よくいえば鷹揚さが感じられる作りとなっている。


付属のブックカバーに装着したところ 背面カバーとブックカバーは凹凸を利用してかみ合っており、Kindleが滑り落ちたりしないよう配慮がなされている

 ただ、この種の製品には堅牢さが要求される。製品紹介サイトに実際に落下させたときのビデオが掲載されているが、それを見る限りそれなりの高さからの落下にも耐えうるようで、この材質が選ばれたのもそういう理由なのかもしれない。プラスチック製のKindleの方がPRS-505より重いことになっているが、これはもしかするとフルキーボードと3Gネットワークに対応させたためかもしれない。

 本体裏のカバーを外すと、バッテリーとSDカードスロットが現れる。バッテリーは交換可能タイプのもので、すでにAmazon.comでは販売されており、一つ19.99ドルとなっている。

 SDカードを抜き差しするためにはまずKindleをブックカバーから取り外し、次に背面カバーを外す必要がある。AmazonはSDカードを一度挿入したら抜き差ししないものだと考えたのかもしれないが、フラッシュカードの用途を考えるとその仕様に疑問を感じ得ない。一方、PRS-505はSDカードスロットに加え、メモリースティックスロットも用意されている。ちなみに、日本で発売されていたLIBRIeはSDカードに対応していなかった。


本体背面 背面カバー外したところ

下部にはヘッドホンジャック、USBポート、ボリューム調整ボタンなどが並ぶ ホーム画面。購入したコンテンツ、ダウンロードしたサンプル、Amazon社長からのメッセージ、ユーザーガイドなど各種コンテンツが並ぶ

気になる画面の印象

 Kindleが採用している電子インクはE INK社が開発したものだが、PRS-505も同じくE INK社の電子インクを採用している。同じ会社の技術を採用しているためか、隣合わせ置いて比べてみても見た目に違いは感じられない。この電子インクは、ページをめくるとき、すなわち画面の書き換えが発生するときに、いったん画面が反転するのだが、その振る舞いもまったくPRS-505と同じである。

 Kindleはフルキーボードを持っているが、ここから入力した文字が、画面に表示されるまでどうも一息つく感じで、なんともまどろっこしい。これは電子インク技術の特性ゆえ致し方ないところなのかもしれないが、せっかくフルキーボードがついていても積極的にタイプしようという気にはならない。普通にタイプする文字がすべて先行入力になってしまい、打ち間違いを戻そうと入力したバックスペースがまた先行入力となってしまう。単語の検索程度ならばいいが、任意のページにメモを挿入するという機能を使おうとすると、この使い勝手に慣れる必要がある。

 スペック上では、PRS-505のグレースケールが8階調なのに対し、Kindleは4階調となっているが、イラストや写真など挿絵があるページはともかくコンテンツのほとんどが文字であるために、普段はその差はほとんど感じられないだろう。その一方、PRS-505のフォントサイズ変更は3段階だが、Kindleは6段階もある。最小から最大までこれだけ異なるサイズが用意されるので、読みやすさは格段にKindleが勝っている部分である。なお、フォントタイプは一種類のみで、変更はできない。


ページをめくるなど、画面の書き換えが発生するときに、いったん画面が反転 フォントサイズは6段階で調整できる

フォントサイズ最小 フォントサイズ最大

 すでに所有している本をKindleで注文してももったいないだけなのだが、書籍とKindleとでは見え方にどんな違いがあるのかを比べるためにKindle Storeにアクセスしその本をKindleにダウンロードしてみることにした。

 比較をするためにまずはKindleのフォントサイズを変更し、なるべく書籍のサイズに近づけてみた。こうやってみるとKindleで表示される文字はジャギーもほとんど見えず、バックライトを使わないためにモニターを見ているというよりはレーザープリンタで印刷された文字を読んでいる感覚に近い。

 ただバックライトを使用しないということは、すなわち暗いところで使うのは苦しいということ意味する。実際に試したところ、本が読めないほど暗いところではKindleも当然、解読不可能になった。ほかにも暗めの地下鉄駅構内や直射日光のもとで使用してみたが、総じて視認性については良好な結果が得られた。


ペーパーバック版の拡大写真 同じ条件で撮ったKindleの画面

一癖ある操作感

スリープモードになると様々なグラフィックが表示される
 続いて操作感についてだが、電源ボタンとワイヤレス切り替えボタンは背面にあるため、付属のブックカバーを装着しているとこれらのスイッチを操作するのは困難である。ただし、AmazonではKindle未使用時に電源を切るのではなく、HOMEボタンとALTキーの同時押しによるスリープモードにすることを薦めており、電源ボタンにアクセスする必要はあまりないかもしれない。一方、ワイヤレスの入切によってバッテリの持ちがだいぶ違うので、人によっては背面に設置されているこれらのボタン操作が煩雑だと感じるかもしれない。

 スクリーンの両端には「Next Page」や「Previous Page」といった大きなボタンが配置されている。そのため持ち替えたりカバーを閉めようとして誤ってページを進めたり戻したりする現象が多く起こる。ところが、前述の通りページ書き換えはお世辞にも速いといえず、ボタンを余計に押そうものなら、それこそ目的のページの前後を行ったり来たりする羽目になる。実際地下鉄の中で立ったままKindleを使っていると、間違ってページをめくることが多く、自分が読んでいた箇所まで探して戻るという場面が何度かあった(ニューヨークの地下鉄は歴史も長く、日本のそれに比べると遙かに揺れる)。


Kindle Storeのトップ画面
 スクリーン下に配置されたフルキーボードは、押し下げたときの感覚がちょっと昔の電卓のボタンのように浅くかつ軽い。キーとキーとの感覚はゆったりしているので日本人の指ならなおさら押し間違いは起きないのだが、スクリーンの反応速度の遅さと相まって、快適にタイプできるとは言い難い。読むためのデバイスだから入力はこういうものと割り切るしかないのだろう。

 もう一つ気になるのはバッテリーの持ちだが、Amazonの公式な発表によればワイヤレス使用時は2日、ワイヤレス機能をオフにした場合は一週間ほど持つこととなっている。今回はバッテリーのテストを厳密に行なわなかったが、できるだけこまめにワイヤレス機能をオフにして使ってみたところ一週間経ってもまだバッテリーは残っており、ほぼ公称値通りであることが確認できた。


本の購入と管理

購読可能な主要紙。中にはフランスやアイルランド発行の新聞も
 いうまでもなく、Kindleの特徴は「Whispernet」と呼ぶ無線データ通信をサポートしているところにある。PRS-505と同じコンセプトの製品ながら、最も大きな違いはこの部分だろう。

 AmazonのWhispernetは、米国携帯電話キャリアの一大手であるである、Sprint社のEV-DOネットワークを利用していることが判明しているが、残念ながら米国においては大都市および近郊都市のみで使用でき、カバーエリアはそれほど広いとは言えない。ただしEV-DOが使えないエリアでは、低速ながらカバーエリアの広い1xRTTのネットワークを使用することができる。1xRTTのエリアからEV-DOが使えるエリアに入ると自動的に高速なEV-DOに切り替わるという仕組みだ。

 本の購入や新聞の購読はこのWhispernetネットワークを使用して、Kindle Storeにアクセスして行なう。目的の書籍はカテゴリから絞り込んでもよいし、検索メニューが用意されているので作家の名前やタイトルから探し出すこともできる。また何冊か購入するとAmazonが推薦するタイトルもここに並ぶようになる。

 実際に本を購入する前に、その一部をダウンロードして読むことができる。ちょうど何か面白い本が無いかと書店に立ち寄り、本を手にとってパラパラと読むのと似ている。Amazom.comでも実際の書籍の一部を見ることができるようになっているが、配信されてくるページはずっとKindleの方が多い。

 購入はその場で「Buy」のボタンを押すだけで、なんともあっけないほど簡単である。初めて購入するときだけ1-Clickでの支払い方法を確認する画面が現れる。もしAmazon.comのアカウントの支払いオプションとして複数のクレジットカードを登録している場合には、その中の一つをKindleで使う標準の支払い方法として選択することになる。

 実は1-Clickの確認画面が出るのは最初の一回だけとは知らず、筆者も購入時の画面を写真を撮ろうと適当なタイトルを選んで「Buy」ボタンを押したところ、今度は何も確認メッセージが出ずに購入手続きが完了してしまった。

 幸い、不本意な買い物をしてしまうユーザを想定してか、その場に現れるメニューの中に「誤って購入したのでキャンセルしたい」という選択肢があるので、これを選んで直前に注文した本のダウンロードをキャンセルことができる。この後、続いて表示されたメッセージによると、クレジットカードに返金処理がなされるという。どうやらいったん購入した事実はリセットされず、クレジットカードには請求と返金が同時に行われるということのようだ。Amazonのことだから正しく返金処理をしてくれると思うが、後から送られてくるクレジット会社の請求書で再確認することを気にとめておかないといけないのは正直気持ちのいいものではない。

 気になるダウンロード時間だが、サンプルの書籍、一日分の新聞の購読、それに新刊書籍など様々なコンテンツをダウンロードしてみたが、データ容量とネットワークの状況によっても変わるようで、速いもので数秒、容量が大きいと数分かかる。ただ、どのくらいの容量のファイルをダウンロードしているかはユーザには知らされないので、逆にダウンロード速度が遅いなどとイライラすることもない。購入したコンテンツはダウンロードが完了するとホーム画面に自動的に現れる。


単独または定期購読が可能な各種雑誌 人気のあるブログもダウンロードして購読という形を取ることができる。後述のウェブアクセスを行えば無料だが、配信スタイルが楽で良いという人もいるだろう

 定期購読が可能な新聞や雑誌であるが、すでに用意されているラインナップを見てみると、一見したところソニーのCONNECTサイトで販売しているものと同じ顔ぶれである。

 値段に関しては、同じ本でもKindle、ペーパーバック、そしてハードカバーの順に高くなる。Kindle Storeで売られている書籍の価格と、SONY CONNECT eBook Storeでの価格を見てみると、一部CONNECTの方が安いケースも見受けられるが、全体的にKindle Storeの方が安いようだ。

 また品揃えだが、Amazon.comで販売されている書籍と同数のものがKindle Storeに揃っているかというと決してそんなことはなく、現時点ではまだだいぶ限られている感じだ。


紙と電子ブックの違い

 こうして一週間、毎日電子ブックを持ち歩いてみて、電子ブックの良いところを確認することができた。が、その一方で書籍との違いも見えてきた。

 電子ブックは、当然のことながら、電子機器であるので取り扱いには注意が必要である。雨に濡れてはいけないとか、落としてはいけないとか、常に携帯に気を配らなくてはならない。もちろん乱暴に扱うべきものではないが、本は多少ラフに扱っても少々のことで読めなくなることは無い。また立てかけるだけでなく、横にして積み重ねたからといって製本が崩れてしまうということもないが、電子機器であるKindleは置く場所にも気を遣う。

 また、考えてみれば当然のことだが、書籍と電子ブックでは同じタイトルのものでもページ番号が一致しない。そもそも電子ブックの長所としてユーザが使用するフォントサイズを選べることにあるが、指定するサイズによってページ数が変わるからである。そのため「○○ページの××行目」という表現はもはや電子ブックでは意味を成さない。

 しばらく使うと、大きさに関してはだいぶ慣れた。普段スマートフォン、携帯音楽プレーヤー、それにノートパソコンを入れて持ち運ぶという人もいるだろう。そこにKindleが加わるというのはなかなか微妙である。だいたいこれらのどの機種でもドキュメントファイルをブラウズする機能があり、音楽の再生もでき、インターネットアクセスもできる。KindleもMP3音楽を再生しながら、本を読むことができるし、Webブラウズもできる。3Gネットワーク機能もついているが通話だけはできない。

 しかし、はたして携帯器機にたくさんの機能を詰め込む方がよいのか、それとも電子ブックリーダーはあくまで本を読む機能だけに特化すべきなのか、そのあたりの回答はなかなか出ない。フルキーボードが付いており、メールソフトを載せることもできるが、そうなるとスマートフォンとの区別も無くなってしまう。

 携帯音楽プレーヤーは音楽を聴いている間は画面を見ている必要もなく、小さくて軽いことが携帯性を高める要因となるのに対し、電子ブックの場合は携帯中、画面を見続けることが前提となるため、携帯性を高めつつかつ大きく見やすい画面であることという二つの相反したデザインを提供しなくてはならない。筆者個人の感想としてはこれ以上大きいと持ち運ぶのがおっくうになり、これ以下のサイズでは書物としては読みにくくなるだろうと思う。


電子ブックだからできること

辞書を引きたい単語の書かれた行まで右のホイールボタンを回し、クリックするとLookupのメニューが現れる
 小説を読んでいて見慣れない表現が出てきたときや、また技術文書に出てくる専門用語の詳細が知りたくなったときなど、いったんそこで中断し、意味を確認したくなるという経験は誰にでもあるだろう。近くに辞書や参考書、それにPCがあれば別だが不幸にもそうでないところで本を読んでいるときも多い。その点、Kindleは辞書として「The New Oxford American Dictionary」を標準搭載し、本を読んでいる時に任意の箇所の言葉を検索することができる。

 またWhispernetの使用が前提だがWikipediaの検索もサポートしており、ちょっとした調べ物はKindle一台で済んでしまう。これは使ってみるとすぐに便利な機能であることを実感できる。


選択した行にある言葉の中から主要な単語をリストアップ さらに詳しく知りたいときにはリストの中から選択しクリックする

 ただし、この辞書検索は書籍コンテンツやWebサイトなど、画面上に表示されている文字列のみが検索対象となり、せっかくフルキーボードを持ちながら、ユーザーが入力した単語を調べることはできない。派生語などを調べるのに便利だと思うのだが、この仕様には首を傾げてしまう。

 それからKindleには、Experimental(実験)と名前がついているものの、Webアクセス、Ask Kindle NowNow、MP3音楽再生機能の3つの機能が提供されている。

 Webアクセスについてはもうあまり語ることもないだろう。試しに日本のサイトURLを入力してみたが、日本語フォントを持たないためか日本語部分は完全に文字化けしてしまった。表示モードは「Default」と「Advance」の二通りあり、購入時は「Default」に設定されている。DefaultとAdvanceの違いは、前者が携帯電話に搭載されているのと同じ簡易ブラウザモードで、後者はフルブラウザモード(と同時にJavaScriptもオン)になっている。なお、Kindleが採用したブラウザはACCESS社のNetFrontであることがすでに発表されている。


DefaultモードでWikipediaを表示させたときの画面 こちらはAdavanceモード

キーボードをタイプして任意のURLへアクセスすることもできる 弊誌、ケータイ Watchにアクセスしてみたが日本語の部分で文字化けを起こす

 ところで手元にあるPDFファイルをKindleに移す方法だが、いくつか方法があるようだ。一つはKindleユーザー一人一人に割り当てられたメールアドレス、△△△@kindle.comを使うもので、PDFファイルを添付したメールを自分宛に送るとAmazonが自動でKindleファイルフォーマットに変換し、Whispernetワイヤレスネットワークにより手元のKindleに配信される。この場合、通信料として一回の転送につき10セント(日本円にして約11円)がユーザーの負担となる。

 もう一つはPDFファイルからKindleフォーマットへの変換部分だけをAmazonが行ない、ファイル自体の転送はユーザーが自分で行なう方法である。このファイル変換は無料サービスとなっているので、ユーザの負担は発生しない。ファイル変換サービスを利用するにはPDFファイルを△△△@free.kindle.comに送るだけで、しばらくすると送信したメールアドレスに対してAmazon.comからメールが届く。このメールにはKindleフォーマットに変換されたファイルのダウンロード先へのリンクが書かれているので、PC上のブラウザを用いてファイルをダウンロードし、このファイルをKindleにコピーするだけだ。ファイルをKindleに読み込ませるのは付属品のUSBケーブルを用いて本体内蔵のメモリでもよいし、いったんSDカードにコピーし、それをKindleのSDカードスロットに差し込んでもよい。あとは自動的にKindleが認識してトップ画面にコンテンツとして表示してくれる。

 試しにフォントを埋め込んだ日本語のPDFファイルを送って見ると、確かにファイルはできあがったものの、そのファイルをSDカードにコピーし、Kindleに持っていくと日本語の部分は見事に文字化けしてしまった。

 またKindleではmobipocket形式のファイルを直接読むことができるので、未確認ではあるがPDFファイルからmobipocketフォーマットに変換することで、わざわざAmazonのファイル変換サービスを使用してazwファイルを作らなくても自前ですべて作業を行なえるようだ(Mobipocket社は2005年にAmazonの傘下に入っている。mobipocket readerなどのソフトはMobipocket社のサイトからダウンロードでき、無料で使用することができる)。


New York Times誌の最初のページ New York Times誌の記事

ホリデーシーズン到来

 米国は本格的なクリスマスシーズンを迎え、皆プレゼントの買い物に余念がない。一年で一番の稼ぎ時とあって、メーカーもこのタイミングに目玉商品を市場に送り出してくる。399ドルという価格は決して安価とは言えないが、親しい人に贈るギフトとしては十分ターゲットに入るだろう。

 ただし唯一の競合製品であるPRS-505が実売299ドルと100ドルも安い上、Kindleに対抗したのか、それともホリデーシーズンだからか、100冊分の本を無料でダウンロードできるプロモーションを開始した。価格に敏感な米国の消費者にはさらにKindleが割高に見えることだろう。

 399ドルという価格帯で今年話題のガジェットといえば、SONY PS3、Apple iPhone、そして今回のAmazonのKindleが間違いなくあげられるだろう。はたしてKindleはこの冬、どれだけ多くの読書家に認められるだろうか。

 一方、Kindleの強みは無線を介したサービスにあり、その戦略はある意味iPod/iTunesのマーケット戦略と似ている。もちろんPRS-505もSONY CONNECT eBook Storeという専用のサイトを通して本を購入し、それを電子ブックに転送することができる。ちょうどiTunesで購入する楽曲が、本になったようなものである。しかし、本を買うには必ずPCを操作する必要があり、またそれを電子ブックで読めるようにするには、PCと電子ブックリーダーをケーブルでつなぐか、フラッシュメモリを通して人間がマニュアルで移動させる必要がある。

 その点KindleはiPod TouchやiPhoneと同様、コンテンツをダウンロード購入するのにPCを介する必要はなく、そのことが携帯機器として利便性を大いに高めている。いったんケーブルのない世界に飛び出した携帯機器を、充電やデータ更新のために「つなぐ」という行為、たとえそれが些細な操作であったとしても、そこから微妙な鬱陶しさを感じてしまうのは筆者だけだろうか。

 なぜワイヤレスがサポートされただけのKindleを筆者がすんなり受けいれることができたのか考えてみると、それは書物とはそもそもがポータブルなものでありKindleがうまくそのコンセプトを活かしたところにあるのだと思う。デジタル化され便利になったはずなのに、なぜか「ひもつき」になるのは筆者にとってはいわば退行である。Kindleも充電のために定期的に電源アダプタにつなぐ必要があるが、これは現時点では仕方ないこととして受け入れざるを得ない(もちろん本音を言えば、これ以上電源アダプタの数を増やしたくない)。

 ちなみに、Kindleには実験的な取り組みとして提供されている機能がいくつかあるが、よく考えると完成品にベータの状態の機能を搭載して販売するというのは珍しくはないだろうか。状況から判断すると、正式リリース版でない機能の提供はマーケティング的な観点から試みとして行なったというよりも、限定された数量であってもひとまずホリデーシーズンに間に合わせて出荷させたとも推測できる。


Kindleがある社会

 もう一つ妙なのはmobipocketフォーマットファイルのサポートが中途半端なことである。KindleはazwというKindle標準フォーマットの電子ブックのほか、Mobipocketフォーマットをそのまま表示することができる。Mobopocket社は2005年にAmazonに買収され、その後もAmazon傘下の一企業として電子ブックオンラインストアを展開している。ところがそのmobipocketフォーマットの中で、DRM付きのファイルはKindleで取り扱えないのだ。

 一方、アメリカにはbaen.comのように、DRM無しmobipocketフォーマットの電子ブックをオンライン販売しているところもある。つまり、自社グループが提供するコンテンツは利用することができないのに、他社から提供されているmobipocketフォーマットの文書なら読むことができるというねじれ現象が発生することになる。これは開発が遅れてDRMつきmobipocketファイルが読めないのか、それともMobopocket社とAmazon Kindle Storeの両方がオンラインストアを持つことによる、ビジネス上の判断なのか。

 それでもいずれはAmazonがDRMつきMobipocketファイルへの対応を進めると筆者は予想している。KindleがMobipocketフォーマットのファイルを全面的にサポートすると、米国の電子ブック市場は大きく変わるかもしれない。Mobipocketは電子ブックとしてはほぼ標準フォーマットと見なされ、ニューヨーク市立図書館でも電子ブックの貸し出しサービスが始められているほどである。著作権と図書館サービスの問題はデジタルコンテンツによりさらに複雑になりそうだが、本を紛失しない、汚れない、一度にたくさんの人が書物に触れることができるなど、図書館利用者にとっても利点は多く、未来の図書システムのあり方に一石を投じることになるだろう。

 同様に教育機関での利用も期待される。筆者個人的には小学生から大学生までテキストブックや辞書はこのKindleで置き換えられるのでは、と思う。教科書を持って帰るのが面倒だから、と学校のロッカーの中や机の引き出しの中にこっそり隠していた自分が懐かしいが、Kindleがあればどんなにか楽だったろう。教科書を忘れるなどということもないにだろう。誤って電子ブックリーダの中から消去してしまった場合でも、Kindleであれば即座にダウンロードすることができる。電子ブックのラインナップの中にはコミックもあるので、授業中にこっそり漫画を読むこともできてしまうわけだが……。


 筆者はこの一週間ほぼ毎日Kindleを持ち歩き、できるだけ多くの時間、様々なシーンで使ってみた。まずガジェットとして見たときに満足感が得られるかどうかだが、電子ブックとはそもそも地味な存在であり、人に見せびらかしたくなるような目玉となる機能はない。画面も白黒で地味だし、使っていても誰も気がつかないだろう、そう思っていた。ところが地下鉄車内で使っていても、カフェで使っていても横の人の視線が痛いほど突き刺さり、中には好奇心を隠せない人もいて、尋ねられることもしばしばだった。

 個人的にこんなサービスがあったら便利だろうなと思ったのは、公共料金の請求書配信と保存、そして支払い処理がKindleのインフラを使ってできないかというものである。米国では公共料金の自動引き落としサービスがそれほど一般的でなく、毎月の請求書を一つずつオンラインバンキングで支払うか、小切手を切る人が多い。理由はいろいろあるが、請求ミスが多いので確認してから支払いたいという人もいる。携帯電話の小さなスクリーンでは細かい文字が並ぶ請求書の確認は困難だが、文字の視認性がこれだけ優れ、600×800ドットの解像度を持つKindleであれば十分だろう。定期的に配信される請求書を確認し、Amazon 1-Clickを使って支払う。AmazonはKindle Storeで購入した本についてはMedia Libraryと称するバックアップサービスを行なっており、Kindleから削除したコンテンツであってもここから再びダウンロードすることができるのだが、これらの請求書も有料ながらバックアップしてくれたら、自宅にたまる一方の請求書の山を一気に整理することができるだろう。

 このように本というコンテンツに限らず、身の回りのドキュメントを整理できブラウズする道具として様々なサービスが提供されたら、Kindleを取り巻く環境は面白いことになるだろう。

 もしKindleが3G無線ネットワーク機能のおかげで米国の電子ブック市場を掘り起こし、人気を博すようなことになると、ソニーはiPodに続き、他社の後塵を拝すことになりかねない。

 一方、Kindle本体には辛口な注文をつけることになったが、それは技術的に改良が可能なことであり、おそらくフィードバックによってソフトウェアもハードウェアも改良されていくことだろう。何よりもAmazonがインターネット企業として最も成功した企業の一つであるので、これまでに無いサービスを展開してくれるのでは、といやが上にも期待が高まる。



URL
  Amzon.com「Kindle」紹介ページ(英文)
  http://www.amazon.com/gp/product/B000FI73MA/

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(Hiroyuki Yoshikawa)
2007/12/21 14:29

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