第435回:ライフログ とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「ライフログ」とは、人間の生活行動をデジタル的に記録すること、または生活の特徴を抽出できるようなデータのことを言います。英語では“lifelog”で、生活・暮らし方を意味する“life”、日誌や記録を意味する“log”という英単語から作られた造語です。

 人間は、さまざまな生活行動をとります。たとえば、どこかで買い物をしたり、テレビを見たり、どこかに移動したり、誰かと連絡を取ったりなどします。

 こういった生活行動の記録、つまり「ライフログ」を積み重ねて記録し、データ間の関連性を見出し、分析していけば、ユーザーの趣味や嗜好、行動パターン、そして究極的にはユーザーが物事をどのように把握しているか、モデル化できます。

 具体的には、買い物の記録から、そのユーザーがどんなものを欲しがっていたり、趣味が判別したりできます。またユーザーの位置情報から、そのユーザーにとってはその場所の地理がどのように把握・記憶されているか、わかるようになります。

 ただし、このような推定情報を作り出すには、「生活の特徴を抽出できるようなデータ・記録をどこから得るか」が問題です。携帯電話は、常にユーザーが持ち運び利用し、生活に密着したデバイスであると言えるため、ライフログを活用する上で、鍵となる働きを期待されているデバイスであると言えます。

 実際、ユーザーが能動的に作り出すライフログ、あるいは携帯電話などの利用記録から作り出される自動的なライフログを活用しようという研究、実用化の試みは、いくつかの場所で行われています。

 たとえば最近のソニー・エリクソン製のau端末には、「MyStoryアプリ」がプリセットされています。このアプリケーションでは、自分のアドレス帳、それに通話やメールのログ(記録)を利用し、自分を中心に通話やメールの頻度が高い人ほど近くなるように図で表示します。これはライフログから作り出したユーザーの人間関係を目で見える形にしたものと言えるでしょう。

 また、ドコモのiコンシェルなどのエージェントサービスも、ユーザーの利用履歴、ライフログを利用したアプリケーションの一種であると言えます。

 能動的にライフログを残そうというケータイアプリの例としては、たとえば、iPhone用のアプリで「Today+」というようなものもあります。このアプリでは、ユーザーが「何をいつ行ったか」記録できます。そして、それぞれの生活上の行動をコスト換算することもできます。たとえば、毎日していることを月単位で金額に換算したり、消費カロリーに換算したりして表示できます。

普及には社会合意・技術的発展がさらに必要

 先に挙げた2つのアプリでは、生活記録に対する考え方、あるいは分析の方向もずいぶん違うように思えますが、これは、まだ「ライフログ」とは、まだ漠然とした概念で、範囲の広い意味合いを持つ用語であるため、と言えます。それもあってか、実用化に向けた動きだけではなく、さらに新しい研究も行われています。一方で、「日々の生活を記録する」ことは、全面的に受け入れられたとは言えない状況です。

 2003年ごろ、米国国防総省の研究部門である国防高等研究計画庁(DARPA)がライフログを研究するプロジェクトの立ち上げを表明した際には、「なぜ、国防総省がそのようなプロジェクトをはじめるのか、国民を監視する試みではないのか」といった疑念が市民グループなどから表明されました。

 たとえば、個人の名前、電話番号といったプライバシー情報は、一般的に「本人の合意なしに利用してはいけない」ということになっています。また自分自身がどこに居るか、リアルタイムで位置情報を計測されることなどについて、ユーザーによっては「利用されたくない」と思う人もいるでしょう。

 しかし、個々人の趣味趣向にマッチした商品情報を提供したりすることで、ユーザーにとっても便利になり、企業にとってもビジネス拡大に結びつくことが期待されており、ライフログの研究、実用化に向けた動きが続けられていますが、現在のところ、「記録されたデータを誰がどう利用してよいのか」といった点については、社会的な合意はまだ取れていません。そしてこのような情報をどのように扱うか法律で決めるなど、社会的なインフラ整備がライフログアプリケーションの普及には必要となるでしょう。

 また、ライフログ利用のサービスを提供・拡大するには、生活行動上の特徴を捉えるために、精密な位置情報を記録する技術や、ユーザーが望むものを推測する技術なども必要になります。

 ライフログの利用については、このように社会的、技術的な課題要因があるため、現時点ではまだまだといったところですが、将来的には、ライフログを活用するアプリケーションの在り方、機能は大きく変化していくことも予想されています。

 



(大和 哲)

2009/8/25 13:39