第465回:EVDOマルチキャリア とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


  「EVDOマルチキャリア」は、“Multi-cariier Rev.A(MC-Rev.A)”や“Rev.A+(レブエープラス)”、あるいは“CDMA2000高度データマルチキャリア方式”とも呼ばれる通信方式です。「マルチキャリアRev.A」と呼ばれることもあります。総務省で開催された「携帯電話等周波数有効利用方策委員会」で「EVDOマルチキャリア方式」と呼ばれ、国内導入に向けた要件などが検討されていました。

 CDMA2000ベースのデータ通信サービスとしては、2Gの「cdmaOne」のほか、下り最大144kbpsで3G方式の1つとなる「CDMA2000 1x」、データ通信に特化して通信速度と周波数利用効率を高めた「CDMA2000 1xEV-DO Rev.0」、さらに高速化し下り最大で3.1Mbpsとした「CDMA2000 1xEV-DO Rev.A」があります。「EV-DO Rev.A」の発展形で、一度に複数のキャリア(搬送波)を使って通信することで、下り最大9.3Mbpsと、これまでの方式と比べ、数倍の速度で通信できるようにしたのが「EVDOマルチキャリア」です。

 ちなみに、EV-DO Rev.Aの発展系である「CDMA2000 1xEV-DO Rev.B」は、CDMA2000系の規格を標準化している「3GPP2」で進められています。これは、Rev.Aと比べ、マルチキャリア化を行うほか、データ変調方式に64QAMを採用することなどで、さらなる通信速度の高速化を狙うものです。「EVDOマルチキャリア」は、Rev.Aをベースに、Rev.Bで採用されたマルチキャリア技術を先取りして高速化した方法であるといえるでしょう。

 日本では、KDDIがCDMA2000方式を用いた通信サービスを提供しています。同社では2012年以降、LTEと呼ばれる次世代通信方式を導入する方針を明らかにしていますが、現行のEV-DO Rev.A方式のサービスからLTEへの橋渡しとして、「Rev.Aのマルチキャリア化を実施する」としています。これがEVDOマルチキャリアです。ただしKDDIは、次世代の通信方式にはLTEを採用するため、EV-DO Rev.Bの導入しない方針、としています。

最大3キャリアを利用、

 EV-DO Rev.Bのマルチキャリア接続は、規格上、最大15キャリアまで利用できるマルチキャリア接続方式となっています。

 KDDIが採用する、Rev.Aのマルチキャリアは、上下最大3波のマルチキャリアで接続し、下り最大9.3Mbpsで通信を行う仕様となっています。規格上は、800MHz帯、2GHz帯両方の無線周波数帯が使われ、無線周波数帯をまたがる割り当ても可能とされていますが、これはシステムの設定によって利用しないこともあり得ます。

 また、EVDOマルチキャリアは、その仕組み上、EV-DO Rev.Aの技術的仕様や特徴、メリットをほぼ引き継いでいます。たとえば、最大時速100kmの移動中でもデータ通信できますし、中継局(レピーター)などもそのまま利用できます。Rev.Aの基地局がEVDOマルチキャリアに変更されると、そのエリア内では、たとえばトンネル内などもそのままマルチキャリアのエリアに変わります。

 KDDIでは、EVDOマルチキャリアを導入する際、基地局装置はそのまま利用しながら、ソフトウェア更新のみで実現するとしています。CDMA2000系の通信方式を導入し、さらなる高速化を検討する海外事業者のほとんどがKDDIと同じ手法になると見られています。追加の投資がほとんど必要ないため、Rev.Aの設備が既に構築されているエリアに関しては、すみやかにマルチキャリアでのサービス提供が可能となるでしょう。その次の通信方式であるLTEが全国隅々まで行き渡るには、相応の時間が必要となることが考えられますが、EVDOマルチキャリアはそれまで、高速通信の手段として利用されることになるでしょう。

 基地局側は、ソフト更新だけで対応、とされていますが、端末側はマルチキャリアサービスに対応したチップセットを搭載する必要があるとされています。将来的にEVDOマルチキャリアのサービスがスタートする際、対応機種が発売されることになるでしょう。



(大和 哲)

2010/4/27 13:39