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第467回:ARコート とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「ARコート」とは、光の反射や映り込みを防止する技術の一種で、ガラス板や、液晶パネルの表面、光学レンズなど、光の反射を防ぎたい場合に採用されています。ARコートの“AR”とは、“反射防止”を意味する英語「Anti Reflection」の略です。身近な品物では、眼鏡のレンズや、パソコンのディスプレイなどにARコードが施されたものがあります。

 光がレンズを通るとき、光のほとんどは透過しますが、一部分は反射します。たとえば、眼鏡のレンズでは、反射によって光のちらつきとなり、まぶしく感じてしまったり、あるいは像が二重に写りこんでしまうゴーストという現象が起きたりすることがあります。

 ARコートを利用することによって、これらの現象を防止し、入射角0度であれば反射率が0.5%〜2%前後まで低減させた、見やすい眼鏡を作ることが可能となりました。

 携帯電話では、5月17日に発表されたauの「Cyber-shotケータイ S003」のカメラ部分に、“両面マルチARコート付光学ガラスオーバーレンズ”が採用されています。カメラの光学レンズにARコートを施すことで、余計な反射を抑えて、レンズを通る光のロスを少なくすることができます。また、コーティングを両面に行うことで複数枚のレンズを使った装置内部でのゴースト・ちらつきなどを抑えられます。結果的として、イメージセンサーがはっきりと像を捕らえて撮影できるのです。

光の干渉を利用して、反射・映り込みを減少させる

 ARコートは、真空蒸着、スパッタリング、あるいはWETコーティングなど、塗布〜乾燥/硬化させることにより膜を形成するといった方法で、レンズの表面に薄い膜を作り、コーティングします。シングルARコートではレンズ(ディスプレイのパネルなど)の上に1層の薄膜が、マルチARコートでは複数の材質で多層に薄膜が作られます。膜の材質としては、フッ化マグネシウム、シリコン、二酸化ケイ素などが使用されます。

 ARコートが反射や映り込みを防止する原理を見てみましょう。これは、“光の干渉”という性質を利用しています。

 ARコーティングされたレンズでは、レンズやディスプレイのパネルに使われる材質、たとえばたとえばガラスやクラウンガラス、ポリカーボネートなどに、それよりも屈折率の低い材質がコーティングされています。

 一般的には、ガラスの屈折率は1.5〜1.9程度、ポリカーボネートなどのプラスチック系材質も1.5〜1.7程度です。それに対して、コート用材料となるフッ化マグネシウムの屈折率は1.38です。

 2つの重なった材料を照らす光のうち、ほとんどが透過しますが、それぞれの材質の表面で少しずつ反射します。このとき、基板となるガラスの表面で反射した光は、コート材(たとばフッ化マグネシウム)を通過し、位相にずれが生じます。

 このときコート材の厚みを調整し、レンズからの反射光とコート材を反射した光がお互いに逆位相になるようにすると、光が干渉しあって消えて(打ち消して)しまいます。つまり、反射した光が見えなくなってしまうわけです。これが、ARコートの原理です。

ARコートによる光の反射を防ぐ原理。薄膜表面から反射する光と、レンズ表面から反射する光が互いに干渉しあい、反射光が見えなくなる

 マルチARコートの場合は、複数の異なる屈折率の材質、厚みが異なるコーティングを複数、処理することで、それぞれの層で位相の異なる反射光になります。シングルARコードでもある範囲の波長の光を打ち消すことができますが、マルチコートでは幅広い範囲の光の干渉が期待できます。その結果として、たとえば、赤〜紫まで、というように広い範囲での波長の光の反射を低減できます。

 



(関口 聖)

2010/5/19 12:11