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第476回:TD-LTE とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「TD-LTE」とは、3GPPで標準化されている次世代通信方式「LTE」の一種と言える通信規格です。

 次世代の移動体通信規格であるLTE(Long Term Evolution)は、3GPP Release 8で標準化されています。

 携帯電話に代表される、“移動体通信”で利用する技術ですので、「端末→基地局」への上り通信、「基地局→端末」への下り通信の両方を行うわけですが、この上り/下り両方の通信をどのように実現するのか、その方法としては2つの方法がLTEでサポートされています。

 その1つが、上り下りをそれぞれ別の周波数帯を利用するFDD(周波数分割多重)方式、もう1つが時間帯によって上り下りの通信を分けるTDD(時分割多重)方式です。この2つの方式のうち、TDDを採用しているものを「TD-LTE」「LTE TDD」と呼ばれることがあります。一方、FDD方式のLTEは、主流となっているためか、「LTE FDD」などと呼ばれることはあまりありません。ただ、TD-LTEとの対比としてそう表現されることはあります。

TD-LTE方式のメリット・デメリット

 TD-LTEは、上り下りの通信を同じ周波数帯でまかない、時間で分割します。この方式には、FDD方式にはないいくつかのメリット、デメリットが存在します。最も大きなメリットは、「上下非対称な帯域を持つ」ことが簡単にできることでしょう。

 TDD方式の通信では、“タイムスロット”と呼ばれる時間間隔を基準に通信が行われるのですが、ここでタイムスロット1、2、3、4を「上り」「下り」「上り」「下り」と割り当てれば上りと下りの通信スピードを同じになりますし、「上り」「下り/下り/下り」と割り当ててやれば、上りに対して下りは3倍の通信速度にすることが可能になるわけです。

 通話がメインのサービスでは、上り下りの通信はほぼ同じ情報量が必要ですのでTDDであっても、上り下りの割当は1:1にするのが一般的と言えるでしょうが、現在成長中のモバイルインターネットでは、下りのほうが通信量が多くなることが一般的です。このように用途によって、上り下りでそれぞれ必要な通信量が異なる場合には、TDD方式が有利なのです。もしFDD方式であれば、下りで「上りの3倍の通信量」が必要、ということになると、周波数帯も3倍、割り当ててやる必要があります。

 周波数帯の使い方を見ると、FDDのデメリットということでは周波数帯の割り当てが難しいという点があります。たとえば、ある程度周波数帯の距離を置いて、上り下りを配置したい場合でも、あまりにかけ離れてしまうと電波の性質が異なってしまうという問題が出てきます。TDDでは、このような「FDDのペアバンド問題」が原理上ない点はメリットと言えるでしょう。

 また、上り下りで使う周波数帯が同じなので、ビームフォーミング、つまり、基地局からの電波を端末に向けてビームのように集中させることが容易だというメリットもあります。この技術が使えると、混信を防いだり、また、特定の場所で電波を端末が強く受けることができ、受信状況がよくなった端末は通信をより高速に行うことができます。

 TDD方式にもデメリットは存在します。その中で、最も大きなものは通信効率の低下でしょう。これは、TDDでの通信の上下を分けてくれる“壁”が、“壁として機能しないケースがある”ということに起因します。

 通信の電波は一定の速度で基地局から端末に向かって進みますが、直進した場合と、障害物に反射してきた場合では到達するまでの距離が違う分、端末に到着する時間が異なってしまいます。あるいは、遠くの基地局と近くの基地局から同じ通信を端末に試みても、やはり到着時刻は異なります。つまり、TDDには、基地局と端末の距離が存在する以上、必ずタイミングのずれが生じる可能性がある、という物理的な制約が発生するのです。

 このような問題を解消するために、(FDDでも上りと下りの周波数帯の間に空きを空けているように)TDDでは、上りと下りの通信の間にギャップを空ける必要があります。ただ、周波数の空きは通信をしなければ済む問題ですが、時間をギャップとしてあけるということはその間は無通信、つまり、データのやり取りができないこということになります。結果としてデータ通信速度は下がってしまう、という問題が発生するのです。

中国などで採用

 世界の多くの通信事業者が採用する「LTE」はFDD方式ですが、TD-LTEを採用を検討している、あるいは実験などを始めている事業者もいくつかの国で出始めました。

 TD-LTEを採用することで最も有名なのは、中国の最大手携帯電話事業者、中国移動通信(チャイナモバイル)でしょう。中国移動は3Gでは、中国方式3Gとも呼ばれるTD-SCDMAを採用していましたが、これはTDD方式を採用した3G通信でした。中国では、国家単位でTD-LTEの採用を後押ししています。

 チャイナモバイルは、2010年5月〜10月まで開催されている上海万博でTD-LTEのデモを行っています。会場内を運航するフェリー船内などから通信のデモが行われています。チャイナモバイルでは、2011年にTD-LTEでの商用サービス開始をめざしています。

 また、TD-SCDMAと同様に、TDD方式の通信規格からTD-LTEへの変更を検討している海外事業者も存在すると報道されています。たとえばモバイルWiMAXを採用するロシアのYotaがTD-LTEへ今後切り替えると伝えられたほか、米国の事業者にもTD-LTEの採用を検討するところがでてきたと報道されています。

 また最近では、LTE用チップセットなどを提供しているベンダーでは、LTEとTD-LTEの両方で使用できるソリューションの提供を開始しているところも増えています。たとえば、スウェーデンのエリクソンは、2008年2月時点で、TDDとFDDの両モードを同一のLTE基地局で動作させるデモを行っていますし、米国のクアルコムは3G/LTE両用のMDM9200およびMDM9600チップセットをリリースしましたが、このLTEはLTE FDD、LTE TDDどちらもサポートしています。

 日本では、今のところ、TD-LTEでのサービス開始を正式に発表した事業者はありません。ただ、7月に開催された展示会「WIRELESS JAPAN 2010」において、ソフトバンクモバイル取締役副社長の松本徹三氏の講演で示されたプレゼン資料では、ウィルコムが開発してきたXGPについて「XGPの将来バージョンはTD-LTEに極めて近いものになろう」とされています。

 




(大和 哲)

2010/7/20 13:08