第489回:ポリカーボネートとは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「ポリカーボネート」とは、エンジニアリングプラスチックの一種で、高い透明性と耐衝撃性などの特長をもった素材です。「PC」と省略して表記されることもあります。

 エンジニアリングプラスチックとは、素材業界では「エンプラ」とも呼ばれ、耐熱性や強度、曲げ弾性率にすぐれたプラスチック素材のことで、主に工業用途に使われるものを言います。一般的には、100度以上の熱に耐えることに加え、強度は50MPa(メガパスカル)の圧力に耐え、さらに曲げ弾力性としては2.4GPa(ギガパスカル)に耐えるプラスチック素材がこのように呼ばれます。ちなみに、エンジニアリングプラスチックの中でも耐熱温度150度以下のものを汎用エンプラ、それ以上のものをスーパーエンプラと呼ぶこともあります。

 ポリカーボネートは、汎用エンプラの中では、唯一の透明素材です。また、プラスチック製品は、作り出される際に熱や圧力の変化で延びたり縮んでしまったりしますが、ポリカーボネートはこの伸び縮みを表す“精製収縮率”が非常に小さいため、この素材で作った製品は、寸法などの精度を非常に高めた製品が作れるという特徴があります。このほか電気に対しても強く、衝撃吸収も強いという特徴も併せ持っています。

 このポリカーボネートの用途は非常に広く、精度の高い、形状が安定した、透明度の高いような製品を作りたいときなどに非常によく使われています。その最も典型的な例は、CDやDVD、Blu-rayディスクの基板でしょう。

 DVDやBlu-rayのディスクは、構造として、2枚のポリカーボネートの円盤の中に、DVD-ROMなどのリードオンリーのメディアであれば反射材である蒸着アルミを、DVD-Rなどの記録メディアであれば色素なども間に挟む、という構造になっています。

 こうしたディスクは、高速に回転させてデータを読み書きするため、円盤自身のたわみやひずみをできるだけ少なくして、さらに中心にくりぬかれた円も正確に作る必要があります。たわみがあると、ディスクを回転させた際にディスクが上下に動くフラッタリング現象が起きますし、中心枠が正確にあけられていないと回転の中心がぶれる“偏心”が起きてしまいます。これらの現象が激しくなると、ディスクを正しく読み書きできなくなり、場合によっては、ディスクを読み書きする部品(ドライブヘッド)を動かすサーボモーターが過負荷で故障してしまいます。つまり、このようなディスクを作るには、正確にゆがみなく、形状を保てることが大切なのです。

 書き換え可能な光ディスクは、焦点を集めて一箇所にレーザー光を集中させ、そのエネルギーでデータを記録していきます。ディスク基板には、レーザー光のエネルギーを損失させない透明性、熱を持っても変性しない特性などが必要なのです。

 ポリカーボネートにも弱点はあります。耐薬品性においては、有機溶剤やアルカリ性に弱いという点です。たとえばポリカーボネートでできた素材に、アルカリ性を示す洗剤や、ガラスコーティング材などをかけて放置してしまうと、ひび割れ、変形などを起すことがあります。

携帯電話にも非常によく使われるPC

 ポリカーボネートは、その強度の高さ、工作精度の高さ、安定性から、携帯電話のような精密機械にも非常によく使われている素材です。その際には、用途に合わせてさまざまに素材を組み合わせたり、分子配合設計を考慮して使われていることも多いです。

 たとえば、ポリカーボネートは、携帯電話に内蔵されているカメラのレンズによく使われています。ガラスに比べて非常に強く、軽く、ガラス並みにひずみの小さいこの素材は、カメラなどに比べて荒く扱われがちな携帯電話にぴったりな素材なのです。分子設計を考慮することで屈折率を高め、素材としてもビスフェノールを加えるなどによって光学的なひずみを抑えた特殊なポリカーボネートがよく使われています。

 あるいは、その透明性を活かして液晶ディスプレイ内でバックライトが発光した光を液晶部分に広げて当てるための導光板として使われたり、強靭性を活かしてスマートフォン用のケースなどにも使われたりします。

 透明性、強靭性を活かした新機種として、10月18日に発表されたauのiidaブランド新機種「X-RAY」(富士通東芝モバイルコミュニケーションズ製)において、その筐体にポリカーボネートが採用されていることも一例に挙げられるでしょう。

 「X-RAY」は、いわゆるスケルトンタイプのボディデザインを採用した携帯電話です。携帯電話内部の構造や部品などが透けて見えるデザインになっています。

18日に発表された「X-RAY」

 この筐体の素材には、材料メーカーとガラス繊維メーカーが共同開発したクリア素材「タフロン ネオαシリーズ」が採用されています。タフロンは、ポリカーボネートにポリジメチルシロキサンを化学結合させたエンジニアリングプラスチックで、さらにガラス繊維によって強化されたバージョンがここでは採用されています。なお、タフロンという名前は、出光興産株式会社の登録商標になっています。

 



(大和 哲)

2010/10/19 12:12