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第529回:HDR とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 HDRとは、“高いダイナミックレンジ”を意味する英単語「High Dynamic Range」から来ています。その名の通り、ダイナミックレンジを高くする技術のことです。英語で「High Dynamic Range Imaging」と呼ばれることもありますが、このように、HDRという技術はイメージング、つまり画像処理技術の一種です。カメラで撮影した画像から、ダイナミックレンジの高いカメラで撮影したような画像を作りだします。

 そしてダイナミックレンジとは、機器で測ったり再現したりできる最小限と最大限の値の比率のことです。

 携帯電話のカメラも含め、デジタルカメラでは通常、露出設定で明るい場所をメインに、あるいは暗い場所をメインにして撮影します。たとえば暗い場所をメインにすると、明るい部分は全て白く表現されてしまいます。こうした現象は「白飛び」と呼ばれます。一方、明るい場所をメインに撮影すれば、暗がりはただ黒くのっぺりと写ります。

 デジタルカメラに内蔵されている画像を撮影する部品「撮像素子」にダイナミックレンジが存在し、風景の全てに段階(諧調)を付けて表現できないため、このような現象が起きてしまいます。実際の風景は、非常に明るい場所〜暗い場所に大きな差(コントラスト)があり、その全てを撮影できる広いダイナミックレンジを持った素子は存在しません。たとえばコントラスト比1000:1程度の、ある程度ダイナミックレンジの広い素子が製品として存在します。しかし日常風景においても、1000:1という比率を大幅に上回る明暗の差は、よくあることです。目に見えるように、そのまま撮影することは、まだ難しいことなのです。

 そこで、非常に広いダイナミックレンジを持つかのような画像を、現在ある撮影素子を使って撮影するには、撮影方法などを工夫し、加工したほうが楽なのです。そのような技術がHDRで、作られた画像はHDR画像というわけです。

 ちなみに現在では、普及価格帯のデジタルカメラでもこのHDR合成機能を持っているものがいくつものメーカーから販売されています。あるいは、パソコン用の画像処理ソフトでもHDR加工を行えるものが存在します。

 携帯電話関係では、iPhone(iOS 4.1以降)や、NTTドコモの「F-09C」の撮影機能の1つとして搭載されています。あるいはAndroid用カメラアプリでHDR撮影ができるものもあります。

ノーマル写真とHDR撮影写真の例。トンネルの暗い部分、また外の植え込みの黒つぶれ、白飛びがノーマル写真ではおきてしまっているが、HDR写真では、外の植え込みがはっきり見える

HDRを実現する仕組み

 HDRとは、ダイナミックレンジが広い撮影素子で撮ったように見せる、写真作成技術です。これを実現する技術はいくつも存在します。

 デジタルカメラで最も多く使われている方法は、高速シャッターでの連射とその合成によるものです。この方法はiPhone 4でも採用されています。

 撮影対象を撮影する際、ユーザーは一度シャッターを押し一枚だけ写真を撮る操作をしますが、HDR撮影のとき、内部では露出の異なる数枚の画像を高速で連続撮影します。つまり明るい部分を中心にした写真、暗い部分を中心にした写真をほぼ同じタイミングで撮影するのです。

 明暗差のあるこれらの画像から、暗めに撮影したことで白飛びしている部分については、別の写真の同じ場所で白飛びしていないものを取り出します。黒く塗りつぶされている部分も、同じように、別の写真から塗りつぶされていない部分を取り出します。こうして画像を合成し、最終的に人の目で見たような、明るい部分・暗い部分のどちらもはっきり見える画像を作っているのです。ちなみに人間の目も、実際は「見た」と思いつつ、目の奥にある“黄斑部”で見た画像を、頭の中で作って、はっきりと周りが全て見えているように思っているだけだそうです。

 iPhone 4のデータを見てみるとわかりますが、HDR撮影を行うと、中には露出アンダー、中間、露出オーバーの3つの画像が記録されています。このうちアンダー、オーバーの2画像を使って合成加工をしてHDR画像を作っています。

 このような理由から、この方法のHDRを使うには、撮像素子と画像を処理するエンジンの高速化が必要です。最近、デジタルカメラや携帯電話にこの機能が搭載されるようになったのは、技術の進展によって、携帯機器でも活用できるレベルで高速になったからと言えるでしょう。

 




(大和 哲)

2011/8/30 11:43