第535回:エネルギーハーベスト とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「エネルギーハーベスト」の“ハーベスト”とは、日本語で「収穫」を意味する英単語“Harvest”から来ています。

 エナジーハーベスト、環境発電などとも呼ばれる「エネルギーハーベスト」は、簡単に言えば、自然界、あるいは他の仕事で使われているエネルギーを、電気エネルギーとして「収穫」あるいは「落ち穂拾い」のように回収すること、そして、その仕組みのことを指した言葉です。

 一般的に使われている電気エネルギーは、そのほとんどが有限の資源を消費して作られます。たとえば、火力発電では石油や石炭を燃やし、そのエネルギーを電気に変換して送っています。また乾電池は、マンガンなど化学反応で電気を起こし、使い終わった後は捨てられてしまいます。

 繰り返しになりますが、これらのエネルギー源は有限で、それらを際限なく使用することは自然環境に負荷をかけることがあります。そうした状況を踏まえ、身近に溢れているエネルギーを有効に使おうという発想が生まれてきたのです。

さまざまな普遍的エネルギーから電気を取り出す

 「エネルギーハーベスト」は、まだそれほど大々的、あるいは本格的に普及しているわけではありませんが、将来的には非常に期待されており、また、エネルギー収穫元としてはさまざまな発生源からの収穫が考えられています。

 具体的な手法として、最もよく知られているのは太陽や熱などの自然界からのエネルギー生成でしょう。太陽電池モジュールを使って、太陽光を電気に変える仕組みです。太陽光は、石油や石炭、あるいは原子力などを使った発電と違い、「一定量を常に供給する」「出したい量だけ発生させる」という安定性やコントロール性には難がありますが、普遍的に存在するエネルギーです。農業などは別として、基本的には有効には活用されていない場面も多く、太陽光をさらに活用しようという動きがあるわけです。

 自然界でなくても、電気やガソリンを使って内燃機関を使用したときにも熱は発生します。この熱の活用法として、温度差を利用した「温度差発電熱伝変換装置」(熱電変換素子)といったものも有望視されています。自然界にある温度差や、他の用途で内燃機関を利用した際にそこから発生する熱を活用して電気エネルギーを回収しようというわけです。

 この装置にはいろいろな原理を利用したものがありますが、その一例としては“ゼーベック効果”を利用した素子などが挙げられます。“ゼーベック効果”とは、2枚の金属をつないでおき、一方が高い温度、もう一方が低い温度と、温度差があると、そこに電流が発生する(起電する)という原理のことです。このゼーベック効果を使った熱電変換モジュールは既にいくつか実用化されています。

 このほか、ユニークなところでは、“人間が必ず行う動作から電気エネルギーを回収しよう”という試みもあります。たとえば、多くの人は歩いて移動し、ドアを開けるときにはドアノブをまわします。このように、人が行う体重移動、回転動作が必ず発生するという場所/部分に、電磁石の原理を応用したスイッチを設置しておき、これらの動きを微弱な電気として発生させるというわけです。Bluetooth Low EnergyANT+を使った無線機器では、このような運動からエネルギーを回収し、通信に役立てるような機器がいくつか発売され始めています。

 携帯電話関係では面白い試みもあります。空中を流れている電波の一部を拾ってエネルギーに変えようという試みです。携帯電話は、通話時、あるいはパケットなどの通信時に基地局との電磁波をやりとりします。これを利用して微弱でも電力を取り出そうというわけです。

 ただし、これらエネルギーハーベストには弱点があります。それは、機関や化学変化を使った発電と違って、「気まぐれ」で「いつ電気が発生するかわからない」ということです。有効に利用するにはキャパシタ(蓄電器)や充電池(二次電池)が必要で、しかも高効率で、微弱だったり強かったりする不安定なエネルギーを確実に溜め込んで、安定的に使える形にしなければなりません。

 またエネルギーハーベストでは、その性質上、たとえば、ハーベストすることによって内燃機関の負荷を増やしたりしては意味がありませんし、太陽電池を作ることによって環境負荷を増やしては意味がありません。そうした面でも、今後の普及には、ハーベスト機器のエネルギーロスの低下、製造の際のリソースの低減などが重要になってくることでしょう。

 




(大和 哲)

2011/10/11 12:13