第539回:True HD IPS液晶 とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「True HD IPS液晶」は、NTTドコモの2011年冬春モデルとして発売されるXi(クロッシィ)対応スマートフォン「Optimus LTE L-01D」に搭載されている液晶ディスプレイです。

 「Optimus LTE L-01D」に搭載されるTrue HD IPS液晶は、液晶パネルメーカーのLGディスプレイ製で、サイズが4.5インチ(縦横比16:9)、輝度が600nit(カンデラ毎平方メートル)で、1280×720ピクセル・329ppi(pixel per inch、インチあたりピクセル数)の解像度を持ち、その数値は326ppiというiPhone 4/iPhone 4SのRetinaディスプレイをわずかに上回っています。

 精緻さだけではなく、カラーの正確さ、明るさ、といったディスプレイパフォーマンス自体も向上しており、2011年10月に韓国の展示会で発表された際には、他社のSuperAMOLEDディスプレイと比較して展示し、そのシャープなテキスト表示や、動画表示による自然な色合いなど優越性をアピールしました。

 True HD IPS液晶の内容を見ると、LGがこれまで展開してきたIPS液晶の最新世代にあたるAH-IPS(Advanced High Performance IPS)パネルの、モバイルデバイス版ということになります。

 AH-IPSは、それまでのH-IPSから、液晶パネル、ライトからの散光板のLPS対応、LGのMobile HDグラフィックエンジンなどの改良によって、色再現性の正確さを向上させ、解像度やPPIの増加をはかり、より多くの光を透過する性能、そして低電力性能を実現したという液晶パネルです。スマートフォン以外のデバイスにも使われます。

IPS液晶とは

 ここで、そもそもIPS液晶とはどういったデバイスなのか、あらためて振り返りましょう。IPS液晶は、液晶ディスプレイパネルの表示方式の一種です。IPSという名前は「パネル平面内でのスイッチング」を意味する「In Plain Panel Switching」から来ています。

 その名の通り、IPSでは、液晶分子は電圧をかけない状態でも液晶分子がねじれずに水平かつ平行に配置され、電圧がかかると90度水平方向に回転します。結果として、視野角が広く、色温度が全階調を通じて安定しており、その結果として、原画に忠実な再生が可能となるという特徴があります。

IPS液晶の原理。IPSでは液晶分子は電圧をかけない状態でも液晶分子がねじれずに水平に平行に配置され、電圧がかかると90度水平方向に回転する。構造上、見る角度にあまり影響されず視野角が広いという特徴がある

 なおIPSパネルは、原理的に、応答速度に関しては、他の方式よりやや遅いとされていますが、現在は、さまざまな改良工夫によって応答性の向上がはかられています。

AH-IPSまでの歴史

 True HD IPS(AH-IPS)液晶の製造元であるLGディスプレイは、IPS液晶パネル製造の代表的なメーカーのひとつであり、これまでもさまざまな世代の液晶パネルを製造していきました。たとえば2001年には、日立のSuper-IPSを元にしたS-IPSを製造し、2005年には、より色再現域とコントラストレートを増したAS-IPSの製造を行います。

 2007年になると、今回紹介したTrue HD IPS液晶(AH-IPS)の前世代に当たるH-IPSパネルが製造されます。このH-IPSパネルは開口率を10%以上アップすることにより、省電力で、より高いコントランスと輝度を実現しました。細かい話をすると、さらにH-IPSにはA-TW(True White)変光板という、バックライト漏れなどをなくしたバージョンなども存在します。

 そして、2011年、この「True HD IPS液晶」で採用されている、AH-IPSが開発、発表されました。AH-IPSは、LCD液晶分子の水平電界と垂直電界を同時に利用して液晶を駆動するモードで、その特徴は、先に述べた通り、色再現性の正確さの向上、解像度・PPIの増加、より多くの光透過性、そして低電力性能などです。

 LGディスプレーによれば、世界最大の試験認証機関である米IntertekにAH-IPSと他社の有機ELディスプレイについて、色正確度および消費電力のテストを依頼し、他社のスマートフォンに採用されている有機ELディスプレイに比べ、色正確度では約3倍、消費電力(14色の色パターンで表示させた場合の消費電力)は約2倍、優れているという結果を得た、としています。




(大和 哲)

2011/11/8 12:03