第546回:SAE/EPCとは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 第4世代の携帯電話ネットワークである「LTE」の回線網を収容するためのコアネットワークは、W-CDMAの規格標準化も行った3GPPという組織において「SAE(System Architecture Evolution)」という名称で、検討が行われました。最終的には「EPC」という名称で、LTEが規定された3GPP Release 8において、標準仕様として規定されました。EPCという名前は「進化したパケットコア」を意味する英語“Evolved Packet Core”から来ています。

 SAE/EPCは直接ユーザーと関わる用語ではないでしょう。裏方のような存在ですが、携帯電話サービスを成り立たせるために重要な役割を果たしています。

 「SAE」「EPC」は、LTE/SAE、あるいはLTE/EPCというように、LTEと絡めて紹介されることがほとんどです。というのも、EPCはLTEのために規格されたコアネットワークだからです。「LTE」は無線技術を指す言葉で、「SAE」「EPC」は、LTEをはじめとして、従来の2G/3Gなども含めて、アクセス網を集約するコアネットワークのことであると言えます。

 LTEの導入に伴い、従来の2Gや3Gでのパケットコアネットワーク装置に代わり、LTEの高効率、低遅延を生かせるようにEPC対応の装置に入れ替わりつつあるのです。

 主な特徴は以下の3つで、いずれも、LTEを構成するシステムの特徴そのものと言ってもいいでしょう。

パケットベースの仕様

 スマートフォンを使っていると実感がわいてくるかもしれませんが、音声通話がほとんどだったこれまでの携帯電話サービスと異なり、今後は、アプリや動画などのデータが飛躍的に増加しています。4G以降のトラフィックは、通話による音声の伝達がメインだった3Gまでと異なり、回線網を流れるトラフィックのほとんどがデータ通信によるものになるだろうと予測されています。

 そこで、ネットワークを効率よく、かつシンプルにするために、LTE以降、端末から見て基地局より先のシステムになるアーキテクチャーは全てがパケット交換方式のみが規定され、その全てがパケットベースのアーキテクチャーとなりました。

常時接続と低遅延

 LTEでは接続遅延を最低100ms以下、無線区間の転送遅延を5ms以下として低遅延を実現しています。

 この低遅延を実現するために、端末が電源をONにしてネットワークに登録された時点で、SAE/EPCは論理的な伝送路を確立させます。これでコアネットワーク上では常に伝送路が確立された状態を保てることになるので、実際に通信を行うときには、端末と基地局間での無線の接続設定のみの時間で、ネットワーク接続が完了します。つまり、これによって大幅に接続遅延時間の削減が可能となっているのです。

 この常時接続と、無線区間でのプロトコルのシンプル化やアーキテクチャのIP化統一による簡素化によって、接続遅延最低100ms以下をLTEでは達成しています。

異なる無線技術をサポート

 EPCは、LTEの収容を主眼として策定されたものですが、3GのW-CDMA、3.5GのHSPAといった3GPP準拠の無線システムだけでなく、CDMA2000やWiMAX、Wi-Fiといったさまざまな無線アクセスも収容すると同時に、これら異なる無線アクセスシステム間のハンドオーバーも可能とする共通のコアネットワークとして規定されています。

 汎用的なIPを広く取り入れることによって、無線アーキテクチャーに依存しないネットワークアーキテクチャを構成しているのです。




(大和 哲)

2011/12/27 12:12