第552回:mirasolディスプレイ とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「mirasolディスプレイ」は、米クアルコムの子会社である米Qualcomm MEMS Technologiesが同社の独自技術を以って開発した、ディスプレイです。

 日本国内では、まだ採用製品がありませんが、本誌記事でも取り上げられているように、海外ではブックリーダーなどに利用される例が出てきました。

マイクロマシンで、光の干渉を利用し色を表現する

 mirasolディスプレイは、反射型ディスプレイの一種です。液晶ディスプレイのようにバックライトを利用する、あるいはLEDのように自分から光を発するのではなく、周囲からそそぐ光を受けて、その光を反射することで文字や図が見えるようになっています。

 紙のように、周りに光がなければ見ることができませんので、用途は電子ペーパーなどと同じだと思えば良いでしょう。これまでの電子ペーパーと比べると、mirasolディスプレイはフルカラーでの利用が可能で、また動画表示も可能な点でアドバンテージがあると言えます。

 また、mirasolディスプレイの特徴として、カラー表示が可能なディスプレイであるにも関わらず消費電力が非常に低いことも挙げられます。公式サイトの説明では、カラー表示の際でも消費電力は、液晶パネルの1/4~1/3未満で、10mW未満であるとしています。

 一般的な電子ペーパーとの違いは、その原理と構造です。mirasolディスプレイは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、つまり、ごく微細な加工技術を利用した画素「IMODモジュール」が1つの画素あたり複数のサブピクセルとして搭載されています。

 IMODとは、“干渉型変調方式”を意味する英語“interferometric modulation”の略で、その名の通り「IMOD」は光の干渉によって色を変化させる、高さ数百nm(ナノメートル)のモジュールになっています。

 IMOD内には、構造的に下から光を反射する薄膜(メンブレン)、空気の層、薄フィルム層、ガラス層からなっており、マイクロマシンに電気を流すことでメンブレンが物理的に「動く」構造になっています。

 光には、反射光が干渉して、特定の波長を強めあったり弱めあったりする性質があります。透明なはずのシャボン玉に、光が当たると虹のように色が着いて見えたりする、あの現象です。開発元のクアルコムでは、これを「蝶の羽が見る角度によってきらめく原理」として説明しています。

 マイクロマシンのスイッチをオンにすることで、IMOD内のメンブレンが、この光の「干渉」が起こらないところまで動きます。つまり、環境光を反射しなくなるため、そのIMODで構成されたサブピクセルは「黒」を表現するわけです。

 逆にマイクロマシンをオフにするとメンブレンは、光を干渉させる位置で開いたままですから、色がついた状態になります。

IMODサブピクセルの原理。内部のマイクロマシンが動き、メンブレン反射板が移動する。これにより光の干渉が起こらなくなり、このサブピクセルは光を反射しなくなる=黒の色を表現できる

 これで1つの画素に、複数のIMODサブピクセルを搭載し、光の3原色で、たとえば、赤と青のみスイッチOFF、緑のみONでシアン色を表現したり、あるいは、緑と赤がスイッチOFF,青のみONで黄色を表現したりと様々な色を表現するわけです。

 マイクロスイッチの動作は、およそ10μ秒で、電気泳動ディスプレイのE-inkや液晶などよりはるかに早く、そのためこの原理を利用したmirasolディスプレイは、動画の再生も可能であるとされています。




(大和 哲)

2012/2/14 11:44