第553回:公衆無線LANサービス とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 駅や街角など公共の場所で、無線LANが使えるいわゆる“Wi-Fiスポット”が以前から日本各地で提供されています。最近ではスマートフォンの普及を背景に、データ通信量が増加したことなどから、携帯電話事業者(キャリア)もこうしたサービスの拡充に注力しています。

 今回は、こうした公共の場所で提供される無線LANサービスを意味する言葉「公衆無線LANサービス」について、各キャリアのサービスの特徴とともにご紹介しましょう。

今やケータイ各社が提供

 無線LANとは、ワイヤレスでLAN(Local Area Network、限定的なネットワーク)に接続できる仕組みを意味する言葉です。自宅や会社では、宅内のネットワーク、あるいはイントラネット(社内ネットワーク)に接続する手段となり、そのネットワーク経由でインターネットへ接続することもできます。これが公衆の場で提供される際には、場所によっては広告のようにその場でしか使えないコンテンツを提供するサービスも存在しつつ、主にインターネットへ接続できるサービスとして提供されてきました。

 そして「公衆無線LANサービス」は、ごく限られたエリアをカバーする無線LANスポット(Wi-Fiスポット)を街中に設置し、利用できるようにするサービスです。ホットスポット、Wi-Fiスポットなどと呼ばれます。ちなみにホットスポットは、NTTコミュニケーションズ提供の公衆無線LANサービスのサービス名(2002年に商標登録)です。また、無線LANのことを、“Wi-Fi”と呼ぶこともありますが、Wi-FiとはWi-Fiアライアンスという国際的な業界団体の認証や、その認証を受けた機器に付けられる名称のことです。今でも、Wi-Fiアライアンスの認証を受けていない、無線LAN機能搭載機器は存在します。

 公衆無線LANサービスは国内外で提供されていますが、かつては携帯以外の通信事業者が提供するサービスが中心でした。ところが最近では、先述したように、スマートフォンの増加などから携帯キャリア各社が注力しており、さまざまなお店でステッカーを貼って「Wi-Fiが使える」などとアピールしています。

 各キャリアが運営・提供する“Wi-Fiスポット”は、基本的にはこれまでのサービスと比べ、仕組みの面で、それほど大きな差はないと言っていいでしょう。たとえば、そうした公衆無線LANサービスの1つであるlivedoor Wirelessは、auに譲渡され、もauの「au Wi-Fiスポット」として利用できますし、ソフトバンクモバイルの「ソフトバンクWi-Fiスポット」としても利用できます。そうしたサービスは、個別に契約することで利用することはできます。

 無線LANも公衆無線LANサービスも、利用するには接続先の機器の名称であるSSID、そしてパスワードを設定する必要があります。さらに、公衆無線LANサービスによっては利用時にログイン用のIDとパスワードが必要になることもあります。ここで各社のサービスを見てみましょう。

ドコモの公衆無線LANサービス

利用できる場所にあるステッカー

 NTTドコモが提供する公衆無線LANサービスには、「Mzone」という愛称がついています。このMzoneのマークが表示されている場所で使用可能で、ドコモ以外の携帯電話を利用している場合でも、Mzoneだけを契約して利用できます。

 既存のドコモユーザー向けには、spモードやmopera UなどのISP(インターネット接続サービス)のオプションとして提供されています。有料のオプションとなっていますが、2013年3月末まで、申し込んだユーザーはキャンペーン価格として無料で利用できます。

 ドコモのサービスでは、利用時にログインする必要があります。2012年1月末から提供されているドコモのAndroidケータイ向けアプリ「docomo Wi-Fiかんたん接続」を使えば、対応のWi-Fiスポットへ手軽にログインできます。なお、ドコモの公衆無線LANサービス対応スポットは、2012年1月末時点で8000カ所(ローミング先含まず)と、他社と比べると少ない状況です。

auの公衆無線LANサービス

au Wi-Fiスポットのステッカー

 「au Wi-Fiスポット」は、2011年6月から提供されているauの無料公衆無線LANサービスです。利用可能エリアは、auショップ、駅や空港、商業施設などが中心で、2012年2月時点で、全国約7万カ所となっています。他の事業者にはない特徴としては、「高セキュリティ(WPA2-PSK)」を利用していることが挙げられます。

 auのAndroid搭載スマートフォンや、iPhone 4Sのユーザーで、「ISフラット」もしくは「プランF (IS) シンプル/プランF (IS)」に加入していると利用できます。Androidスマートフォンであれば、「au Wi-Fiスポット」のアプリを使うことで利用可能な場所で、自動的に接続できます。

ソフトバンクの公衆無線LANサービス

ソフトバンクWi-Fiスポットマーク

 ソフトバンクWi-Fiスポットは、ソフトバンクモバイルの公衆無線LANサービスです。お父さん犬のマークで「Wi-Fi使えます」または、「BBモバイルポイント」と書かれたステッカーのある店舗や施設で使えます。

 このソフトバンクWi-Fiスポットの特徴は、ソフトバンクショップやマクドナルドなどを含め、全国20万カ所(2012年1月末時点)でサービスを展開をしていることでしょう。エリアが多く、外出先で、より手軽に無線LANアクセスができます。同社のiPhoneやスマートフォンなどで利用できます。

 ソフトバンクのiPhone、スマートフォン、ケータイWi-Fi対応機種はフラット型パケット定額サービスに加入している場合は無料で、また、その他のパケット定額サービスに加入している場合、iPad Wi-Fi版のユーザーは、加入から2年間、このソフトバンクWi-Fiスポットを無料で利用することができます。

 対応機種であらかじめ設定しておけば、対応エリアを訪れると、自動的に接続して通信することができます。

携帯サービスのオプションとして提供

 これまでの公衆無線LANサービスと、携帯各社のサービスの大きな違いは、携帯各社のスマートフォンなど対応機種を使うと、無料で利用したり、便利に使えたりする点です。

 また携帯キャリアとしては、スマートフォンの普及によって大量に膨れあがったトラフィックを比較的空いている固定網や、あるいは異なる周波数帯の無線サービスなどにオフロード(負荷分散)し、携帯電話ネットワークの混雑緩和を期待できます。

 たとえば便利に使う、という点では、自動的に利用できるという点が挙げられます。携帯電話のパケット通信とシームレスに利用でき、なおかつスポット内はよりスピーディな通信が期待できます。ただ、無線LANの電波が届くかとどかないか、微妙な場所ですと、シームレスな切り替えができず、無線LANに繋がったまま、うまく通信できないこともあります。

 Wi-Fiスポットの最高通信速度は、これは家庭内の無線LANと同様です。たとえば、家庭には100Mbpsの光回線を導入し、無線LANには最大54MbpsのIEEE 802.11b/gを利用していれば下り最大54Mbpsが最大速度ということになります。無線LAN側が下り最大54Mbpsでも、そこから先が下り最大42MbpsのDC-HSDPA、下り最大40MbpsのWiMAXであれば、無線LANの下り最大54Mbpsというスピードは発揮できないことがあります。ただ、混雑している帯域からオフロードできるという面では、こうした仕組みにも意味があるということになります。

 ただし、無線LAN機器は狭い場所にたくさん存在すると、干渉によって通信しづらくなります。最近の爆発的な公衆無線LANスポットの増加で、場所によっては使いづらいところもあるようです。そうした状況では、自動的に繋がることはむしろ面倒に感じるかもしれません。こうした状況は、2012年2月時点で、どうなっていくかわかりませんが、場所に応じて、より通信しやすい手段の1つとして「公衆無線LANサービス」の使い勝手を知っておくことが良いでしょう。




(大和 哲)

2012/2/21 06:00