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第586回:GLONASS とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 今回紹介する「GLONASS」は、簡単に言えば、GPSのロシア版と言える、衛星測位システムです。ロシア語では“ГЛОНАСС”という表記になります。

 衛星測位システムとしては、米国によって運用されているGPS(Global Possioning System、全世界測位システム)や、欧州連合(EU)によって計画されているガリレオ(Galileo positioning system)などがあります。GPSなどと同じく、「GLONASS」は既に実用化されており、現在稼動中の測位システムです。

 「GLONASS」は、もともと、現在のロシアの前身で、かつて存在したソビエト連邦が開発したシステムです。現在はロシアの宇宙軍が運用しています。軍が運営とはいえ、ある程度の精度ですが、民間でも利用できるようになっていて、地球上のほぼどこでも、GLONASSを使って現在地を知ることができます。

 これまでの携帯電話ではほとんどがGPS(基地局利用のA-GPS)が主流でしたが、最近ではスマートフォンで「GLONASS」に対応した機種が出てきています。たとえばアップル製の「iPhone4S」「iPhone5」、そしてソニーモバイルのXperiaシリーズ、モトローラの「RAZR M 201M」でサポートされています。これらの機種では、GLONASSによる情報を、GPSでの測位をサポートするデータとして利用できます。
iPhone 5 RAZR M 201M

 GLONASSにも対応することで、スマートフォンで使える位置測定用の人工衛星の数は、GPSの31から、GLONASSも加えると54に増えます。これは地上から“見える”衛星の数も増えることになります。つまり測定位置の誤差をより小さくできますし、また、位置消失(ロスト)を少なくすることができるのです。

GPS同様、当初は軍事目的、後に民間へ

 GLONASSの開発は、1976年に始められました。

 当初はソビエト軍の航法、および弾道ミサイルの照準といった軍事利用を目的として、リアルタイムで位置や速度を測定するためのシステムとして開発がスタートしています。

 それまでは、Tsikada(Цикада、セミという意味の言葉)という測位システムが存在していたのですが、高い精度で位置を計算するためには約2時間の信号処理を必要とするなど、軍事用として使うには弱点が多かったため、それを補うために次世代の測位システムとして開発がスタートしたのです。

 ソビエト連邦崩壊後、運営はロシア政府に引き継がれ、1993年当時のボリス・エリツィン露大統領によって、地球上およびその周辺において、飛行機や船など、あらゆる分野で、三次元測位、速度、時刻といったサービスの提供が宣言されました。そして、1996年までに計24機の人工衛星が打ち上げられ、一定期間は無償かつ自由に利用できるとされたのですが、その後、ロシア経済は大きく混乱します。そのため、「GLONASS」のシステムは、ほぼ放置に近い状態に置かれてしまいました。

 その後、経済が回復してきたロシアでは、「GLONASS」を元通りにする取り組みが行われることになりました。測位用の衛星も追加され、2012年10月現在では、計31機の衛星が軌道上にあり、24機で運用されています。ちなみに2007年、プーチン露大統領が、GLONASSシステムの民間用測位信号を正式に開放して、ロシアだけではなく他の国のユーザーが無料で制限なく利用できるようにする命令に署名しました。これによって、ロシア製ではないiPhoneやXperiaなど、GLONASS対応の機器が登場したわけです。

 現在地を測位する場合、どこ(何)を基準にするか、という点で、いくつかの方式があります。これは“座標系”“測地系”と呼ばれる考え方ですが、「GLONASS」では、座標系として「PZ-90」を用いています。「PZ-90」は、1900年〜1905年までの北極点の位置の平均を用いています。ちなみにGPSの座標系は「WGS-84」と呼ばれるものです。これは1984年時点での北極点の測定位置を元にしています。同じ北極点でも年代が異なるため、基準が違ってくることになります。そのため「GLONASS」と「GPS」のデータを、無条件にマッチングすることはできませんが、ソフトウェア上で変換することで、両方の情報を利用して、より高精度な位置情報を得られる、というわけです。

 ちなみに、GLONASSの人工衛星は、L1バンド、L2バンド、L3バンドという3つの周波数帯を利用してそれぞれ精度の異なる位置、時刻などの情報を送っています。このうち民間用であるL1バンドを使った標準精度信号は、最高で水平位置57〜70m、垂直位置70m、速度ベクトル15cm/s、時刻伝送1マイクロ秒での測定が可能とされています。GPSは、水平位置10m程度まで精密に測ることができるので、スマートフォンで使えるA-GPSと比べても、GLONASS単独では精度に関しては劣ることになります。

 しかしGPSであっても、周囲に建物があり、測位するために十分な数の衛星とキャッチできなければ、測位そのものができません。それに比べれば、衛星が増えたことにより測位がより容易になることを考えると、GPSに加え、GLONASSをサポートするメリットは十分あると言えるでしょう。




(大和 哲)

2012/10/30 11:42