ケータイ用語の基礎知識

第598回:S-CG Silicon液晶 とは

 「S-CG Silicon(シリコン)液晶」は、前世代にあたる「CG液晶」に改良を加えた、液晶ディスプレイの一種です。液晶パネルの透過率を上げて、より少ない光量で同程度の明るさにすることでバックライトの消費電力を抑えると同時に、液晶基板上にメモリー回路が形成されています。

 メモリー回路が組み込まれているメリットとはいったい何でしょうか。従来のCGシリコン液晶などでは、非常に細かい間隔でグラフィックプロセッサがグラフィックメモリを参照して、画面を書き換えるという挙動を行って、ディスプレイ上の表示を維持していました。ずっと描き続ける、というわけです。

 一方、S-CG Silicon液晶では、液晶基板上のメモリに、表示する画像のデータが置いてあります。このメモリを参照して画面表示を維持するのですが、これはつまり、画面を表示しているときに、先述した“画面を書き換え続ける”というリフレッシュ動作が不要となります。これにより、グラフィックプロセッサや液晶ディスプレイドライバなどの周辺回路の動作を大幅に簡素化でき、その分、消費電力を低減できるというわけです。

 また、液晶ディスプレイドライバなどの周辺機器を簡素化できるということは、液晶の「額縁」と呼ばれる、ディスプレイ横の部分を狭くできることになります。ディスプレイが大きくなっても、スマートフォンの横幅が長くなるのを抑えて、持ちやすくする、といった効果に繋がるのです。

CGシリコンの特徴を引き継ぐ

 本連載の第113回「CGシリコン液晶 とは」で解説しましたが、CGシリコンとは、シリコン結晶を規則的に配置するように作られたポリシリコン薄膜の一種です。「CG」とは、「Continuous Grain(連続粒界結晶)」の略で、結晶粒が途切れずに、それぞれ規則正しく接合していることを指しています。S-CG Silicon液晶も、CGシリコン同様の構造をしており、結晶粒が途切れずに、それぞれ規則正しく接合している連続粒界結晶になっています。

 TFT(Thin Film Transistor)タイプの液晶パネルでは、より鮮明に光のON/OFFを行い、より綺麗に画像を表示するため、トランジスタを利用しています。非常に薄いトランジスタの膜を作るために、初期のTFTでは非結晶のアモルファスシリコンが使われていました。通常、シリコンのような無機物で結晶を作ると、元素が規則正しく整列した結晶となりますが、規則性を無くして、無秩序に並ばせたものがアモルファスシリコンです。

 アモルファスシリコンは、製造工程が比較的単純な分、ローコストに作ることができるのですが、結晶粒子が小さくバラバラであるため、電子が移動しにくい、つまり電子移動度が低いという弱点がありました。電子移動度が低いということは、電気が流れにくく抵抗が大きくなるということを意味します。

 この“電子の移動度”を高めることができたのがCGシリコンです。CGシリコンは、シリコン結晶が規則的に配置された「連続粒界結晶」になっています。つまり、結晶粒界の原子間の接合がスムーズなので、電子が結晶から結晶への移動をスムーズに行うことができる、つまり低消費電力化できるのです。

IGZO液晶との違い

 S-CG Silicon液晶は、材料としてシリコンを使っています。一方、同じくシャープの液晶ディスプレイで、高精細かつ低電力性能が期待されるIGZO液晶の材料は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)の酸化化合物です。

 シャープの技術資料によれば、IGZO液晶の材料は、2000年代に入ってから開発が進められてきたとのことで、大変新しい技術です。IGZO液晶のほうがS-CG Silicon液晶よりも“電子の移動度”が低く、パネルの透過率が高いとされています。シャープでは、IGZO液晶の次世代版として「CAAC(C-Axis Aligned Crystal)-IGZO」と呼ばれる技術を開発しています。これは、これまでの液晶で使われている、結晶の並び方(構造)と異なる新しい技術です。

 S-CG Silicon液晶とIGZO液晶パネルは、どちらもシャープ製の端末に搭載されています。たとえば、ドコモの2013年春モデル「AQUOS PHONE EX SH-04E」はS-CG Silicon液晶パネルで、同じくドコモの2012年冬モデルである「AQUOS PHONE ZETA SH-02E」などはIGZO液晶を搭載しています。

 S-CG Silicon液晶、IGZO液晶どちらも高性能な液晶パネルですが、S-CGシリコン液晶には少額縁化、IGZOにはより一層の省電力化といった特徴があります。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)