ケータイ用語の基礎知識

第618回:IEEE802.11acとは

 「IEEE802.11ac」は、前回紹介したIEEE802.11nの後継にあたるの無線LAN(Wi-Fi)の規格です。、「5G WiFi」という愛称でも呼ばれることもあります。米国電気電子学会(IEEE)が策定が進めている新規格で、2013年3月の電波法関連規則の改正により、日本国内でもこの規格に準拠した製品が使えるようになりました。

 2013年6月現在、「IEEE802.11ac」自体はまだドラフト(草案、叩き台)の段階で、正式な規格ではありませんが、このドラフトの段階でも規格に準拠した製品が発売されています。規格が正式に標準化されるのは2013年末とされています。

 携帯電話関連では、NTTドコモの2013年夏モデルとして発表されたスマートフォンとタブレット計11機種のうち、8機種が「IEEE802.11ac」に対応しています。

最高速度は有線ネットワークを超える

 「IEEE802.11ac」の最大の特徴は、理論上、6.93Gbpsという高速通信が可能な点です。この速度は、有線のギガビットイーサネットよりも速い数値です。たとえば高品質の映像など、大容量データをダウンロードする際に、そのメリットを体験できるでしょう。

 また、従来に機器と比べると、IEEE802.11ac対応機器では、より迅速にデバイスのWi-Fiインターフェイスが起動し、アクセスポイントとデータを交換してスリープに戻ることができます。つまり、同じWi-Fiと言っても、他の規格よりも端末のバッテリーをあまり消費せず、駆動時間をより長くできる、というメリットもあります。

 「IEEE802.11ac」では、IEEE802.11nから3つのポイントを強化することで、互換性を保ちながら、より高速な通信を可能にしました。

より高密度の変調方式

 変調とは、簡単に言うと、信号を電波などの波に乗せて表現する方法のことです。この変調方式が一世代前のIEEE802.11nで使用される“64QAM”に加えて、より高密度に信号を送る“256QAM”も利用できるようになりました。これにより、同じ帯域幅であっても約33%速度向上しました。

チャネルボンディングの拡張

 「チャネルボンディング」とは、複数のチャンネルを結合することで、通信速度を高める技術のことです。従来のWi-Fiでは1つのチャネルに20MHzという帯域幅を使っており、IEEE802.11nでも40MHzのチャネルボンディングを使えるようになったのは前回の本コーナーで説明した通りです。そしてIEEE802.11acではチャネルボンディングを80MHz、160MHzで使えるようになりました。つまり、IEEE802.11acはIEEE802.11nよりも、約2倍、あるいは約4倍の速度向上を実現できます。

MIMOの拡張

 IEEE802.11nでは最大4本のアンテナの通信をまとめて通信できる“4ストリームMIMO”でしたが、IEEE802.11acでは最大8ストリームMIMOまで利用することができるようになりました。MIMOとは複数の通信アンテナを同時に使うことで通信の高速化を図る技術です。

 このほか、IEEE802.11acでは“マルチユーザーMIMO”をサポートし、1つのアクセスポイントで複数のWi-Fi機器による同時ダウンロードが行えるようになりました。これはスペック上の通信速度には影響しませんが、ユーザーが多い環境での通信速度の向上に役立つでしょう。

 ちなみに周波数帯として5GHzを利用します(2.4GHzは非対応)ので、Bluetoothなどの他の無線機器の干渉を受けにくくなり、安定した通信が可能になります。

 または、親機が子機の方向と距離を判別することで通信を向上させる「ビームフォーミング」に対応しているため、遠距離や障害物が多い環境でも安定して高速通信が可能になっています。ビームフォーミングはIEEE802.11nでも採用されていますが、必須ではないため、実際の機器の多くは対応していません。IEEE802.11acでは標準で対応し、利用可能エリアを3割~4割程度広げることが可能になっています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)