ケータイ用語の基礎知識

第623回:MEMSとは

 MEMSとは、“微小な電気機械システム”という意味の英語「Micro Electro Mechanical Systems」の略です。日本では「マイクロマシン」と呼ばれることもあります。その名の通り、ごくごく小さな機器のことです。半導体のシリコン基板、ガラス基板、有機材料などに、センサーやモーター、電子回路などをひとまとめにしたデバイスの総称として使われます。

 近年、急速な進歩によって、半導体へ細かな加工を施せるようになり、このような動くパーツ(可動部品)などと電子回路をくみあわせて、まとめ、そして大変小さなデバイスを作成できるようになりました。

 大変小さい、といってもどの程度の大きさになるでしょうか。MEMSと呼ばれる機器の大きさは、一般的に、全長が数mm単位で、その部品はμm単位が普通、というミクロの世界です。

 MEMSの応用例として最もよく知られているのは、PCなどに使われているインクジェットプリンタのプリンタヘッドでしょう。いずれの機種も微小なインク滴を紙面に向かって吐出し、紙面上に高密度なドットを並べることで、文字や絵、写真などを表現します。

携帯電話にはなくてはならないMEMS

 MEMSと、一般的な半導体素子との違いは、構造が立体的で動く部分がある、という点です。

 機械をミクロ単位まで小さくすると、省スペース(小型化)はもちろん、エネルギーも節約できるなど、多くのメリットがあります。小型化、省電力化、かつ高機能化が必要なモバイル機器には欠かせないデバイス、と言えます。

 携帯電話関連では、RF-MEMSと呼ばれるデバイスが既に実用化されている分野でしょう。RFとはラジオ周波数、つまり電波のことです。高速化が進み、さまざまな周波数に対応する携帯電話において、MEMSによるRFスイッチ、RFフィルター、RF共振子といった素子を用いて、通信性能の向上に寄与しています。たとえば、800MHz帯、900MHz帯に加えて、2GHz帯もサポートする機器など開発する場合、動的に再構成する無線回路などに使われます。

 それから、半導体センサーもMEMSのよく使われる分野です。たとえば加速度センサーなどがそれに相当します。スマートフォンでは、どの向きが下側か重力を検知したり、携帯電話を振ったことを知るために3軸加速度センサーなどがよく使われています。

 最近では、MEMSを使ったディスプレイが試作されたことなどもニュースとして取り上げられています。本誌では、6月、シャープがIGZOを利用したMEMSディスプレイを試作したことを伝えました。これは、クアルコムの100%出資子会社であるPixtronix(ピクストロニクス)と共同開発されたものです。

 このMEMSディスプレイは、シャッターとLEDを高速で動作させて、色を表示し、シャッターが開いた部分だけLEDバックライトの光が通るという仕組みです。これにより、RGBのLEDが表示されるという仕組みになっています。既存の半導体生産設備を利用して生産でき、現状の液晶ディスプレイや有機ELよりも、優れた省電力性や色再現性、広視野角や高速応答などが実現できるというメリットがあり、次世代ディスプレイとして注目されています。

 記事で紹介した、IGZOを用いたMEMSディスプレイは、7型のもので、1280×800ドットの解像度を実現しており、タブレットやスマートフォンなどへの応用が見込まれています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)