ケータイ用語の基礎知識

第630回:Touch ID とは

 「Touch ID」は、アップルのiPhone5sが搭載する指紋認証機能です。

 前機種である「iPhone 5」、そして最新の「iPhone 5s」にあるホームボタンは、一見すると、「iPhone 5s」のほうの外周に金属のリングがある、といった程度の違いしかありません。しかし、「iPhone 5s」のホームボタンの中に指紋センサーが内蔵され、これが重要な働きをします。

 「iPhone 5s」では、あらかじめ指紋を登録しておくことで、ホームボタンにユーザーの指をワンタッチすればiPhoneのロックを解除できるのです。これが今回紹介する「Touch ID」です。

 これまで、iPhoneの画面ロック解除の方法としては、4桁の数字をパスワードとして登録しておき、それを入力することでロックを解除する「パスコード登録」をすることができました。これをTouch IDに置き換えられます。なお、デバイスがロックしたまま48時間以上たった場合や、もしくはiPhoneの電源をOFFに一度した場合は、Touch IDだけでなく、パスコードの入力も必要になります。

 言うまでもなく、1人1人の指紋は違う形になっています。親子や双子のように、遺伝子的に近い人でも異なります。iPhone上に指紋を登録しておけば、持ち主本人しかiPhoneのロックを解除できず、使うことができなくなる、というわけです。

 iTunes Storeでのコンテンツ購入や、App Storeでのアプリ購入の際に必要だったApple IDのパスワード入力も、このTouch IDで代用することが可能になりました。

 Touch ID用の指紋は、指5本分まで登録できるので、自分の親指、人差し指、中指、薬指、小指の5本を登録することも可能ですし、また、信頼できる家族の指を登録しておくことも可能です。

 Touch IDの指紋認証は一瞬です。パスコード入力に比べると、非常に短時間に認証を済ませることができます。また、Touch IDは指紋をあらゆる角度から認識でき、縦、横、斜めなどどんな角度でもホームボタンに指をタッチすれば指紋を読み取れるとされています。また、登録した指であれば、どの指でも作動させることができます。

 指紋の特徴点を抜き出した指紋データは、iPhoneの「A7プロセッサ」のセキュア領域に暗号化されて保存されます。アップルのサーバーやiCloudにアップロードされることはありません。そのため、他の用途に流用されるようなセキュリティ上の懸念は発生しません。

「生きた」本人の指以外を認証することはない

 Touch IDの指紋認証技術は、iPhoneを提供する米アップルが、2012年7月に買収した米国企業、AuthenTec(オーセンテック)の技術をもとにしています。

 AuthenTecといえば、かつて富士通製の携帯電話やパーソナルコンピュータの指紋センサーなども提供していた企業です。富士通製の携帯電話では2004年発売のF901iCなどから、スライド式ながら“容量式指紋センサー”を搭載しており、指紋登録で本人以外には携帯電話のロックを解除できない仕組みを備えていました。

 さて、「Touch ID」の仕組みですが、ホームボタン内に内蔵された、傷のつきにくいサファイアクリスタルと、その下の容量性タッチセンサーを用いて、ユーザーの指紋を高解像(500ppi)な画像として認識、解析することによって、タッチされている指がユーザーのものであるかどうか、識別します。

 ちなみに、容量性タッチセンサーとは、人間の表皮に、わずかに流れている電気を捉えるセンサーです。極端な例かもしれませんが、生きた人間から指を切り取ってしまったり、あるいはゼラチンなどの人間に似た素材で指紋をコピーしても、正しい指紋としてタッチセンサーは認識しません。当然、本人の指であっても亡くなった後ではロック解除はできません。

 また、非常に細かく指の指紋を撮像するため、汗や水分などでぬれている指や、傷、手術の痕跡がある指では読み取れないことがありますが、「iPhone 5s」での使い勝手については、実際に製品が発売されてから判明することもあるでしょう。

 なお、サファイアクリスタルという素材は、地上でダイヤモンドの次に硬いモース硬度9を持つ物質で、高級な腕時計の風防ガラスなどにも使われています。この素材は、これまでの「iPhone 5」の背面カメラのレンズ素材として使われていましたが、「iPhone 5s」では、カメラだけではなく、ホームボタンにも使われることになりました。

 iPhone 5s内のデータベースに登録された指紋の特徴点データと、Touch IDの指紋センサーに触った指の特徴点をマッチングさせる際、指の角度も考慮に入れて、マッチングを行います。どの角度からでも正確な読み取り判断を行うことができます。

 2013年9月現在、アップルでは「セキュリティ上の理由で、Touch IDに関するAPIなどは公開しない」としているので、サードパーティ製アプリなど、アップル純正のアプリや仕組み以外で使われることは、残念ながら当面、なさそうです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)