ケータイ用語の基礎知識

第667回:LCC とは

 LCCとは、航空業界用語でいわゆる「格安航空会社」のことです。英語のローコストキャリア(Low Cost Carrier)の略から来ています。ところが最近では携帯電話業界でも、「LCC」という用語が使われることがあります。安価な料金、という意味では、航空業界と同じで、いわゆる3大キャリアよりも安い料金を提供しよう、という通信会社が名乗ることが多くなっています。

 航空用語におけるLCCは、国際航空運送協会(IATA)でも明確な定義があるわけではありませんが、一般的に、効率化やサービスの簡素化などによって低いコストで航空輸送サービスを提供している航空会社のことを指すのが普通です。

 この用語が、なぜ携帯電話業界でも利用されることになったのか。もう少しだけ、航空用語における「LCC」を紹介しておきましょう。

写真は有名なLCCのひとつ、エアアジアの航空機

 かつての航空便、特に国際線は、どの航空会社でも、さまざまなサービスが提供されてきました。たとえば、大きな重い旅行かばんでもチェックイン時に無料で預けることができ、機内食ではビーフとチキンだけでなく、リクエストがあれば旅客個別にベジタブルミールや子供食、乳児にはバシネットやおむつ、粉ミルクに離乳食、機内が寒ければ無料で毛布を貸し出し、客席1つに1台のテレビがついて映画が見られるフライトエンタテイメントシステムがあり、飛行機が遅延した場合は他の航空会社への振り替えや宿泊ホテルの提供などもしていました。

 しかし、このようなサービスは誰にとっても必要という訳ではありません。たとえば、飛行機の中で寝てしまうのであれば機内食はいりませんし、小さな軽い機内持ち込み荷物だけで旅行する人もいれば、毛布も自分で持ち込むことだってできるでしょう。ならば、ということで、これらのサービスを廃止、または有料化することで必要な人にだけ提供し、基本となる運賃は下げようという航空会社が出てきたわけです。

 さて、ここまで航空業界についての解説を行いましたが、どこかで見聞きしたような話でもあります。

携帯電話界のLCCをめざす、格安事業者たち

 先述したように、最近では、携帯電話関連のサービスを提供する事業者の中で、「携帯電話界のLCC」を標榜する会社が出てきています。イー・アクセス(イー・モバイル、ウィルコム)、あるいはMVNOのSIMカードを販売するイオンなどがその例です。

 イー・アクセスは、ソフトバンク傘下の携帯電話会社で、イー・モバイルブランドの携帯電話、ウィルコムブランドのPHSを提供しています。たとえばウィルコムとしては、スマートフォンが普及していくなかで、安価な通話を、他社のスマートフォンなどでも利用できるように「だれとでも定額パス」を用意して、一定回数の通話定額を利用できるようにしてきました。

 「だれとでも定額パス」はPHSとしての機能を備えますが、その形状はカード型で、単体では通話できません。これは「とにかく安く通話をしたい」というニーズに応え、余分なサービスを取り払ったと言えるもので、こうした点が航空業界でのLCCに似ていると言えます。

 また、イオンは、かねてよりMVNOのSIMカードパッケージを提供してきましたが、今年4月、日本通信と協力して、全国約170店で、LG製Androidスマートフォン「Nexus 4」と日本通信のSIMカードをセットにしたパッケージを発売しました。このNexus 4とフリーDataスマホ電話SIMの組み合わせでは、月額使用料1560円(税別、端末代を含めると月額2980円)と、、従来キャリアと比べれば、非常に安い費用でスマートフォンを維持できます。

 キャリアによるメールサービスが提供されない、追加料金を払わないとデータ通信速度が最大200kbpsに制限されるため動画などの視聴には向かないといった制約はあるものの、必要な機能のみを必要な人に最低限の価格+オプション料金での追加サービスという形態は、このイオンのパッケージをはじめ、MVNOの提供する通信サービスの特徴であり、そうしたスタイルは、LCCのビジネスモデルに非常に似ていると言えます。

 大手キャリアがフルパッケージでサービスを提供する一方、MVNOやイー・アクセスがLCCとしての役割を担ってきている、というのが2014年現在の日本の携帯電話市場の姿と言えるかもしれません。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)