ケータイ用語の基礎知識

第676回:eSIMとは

M2M通信用に新たに提唱された規格「eSIM」

 eSIMとは、通信機能を搭載する車両や建設機械などのM2M機器に組み込むSIMカードです。このM2M機器を使って車両や機械搭載の端末間で人間によるオペレーションをなしにデータのやり取りを行います。

 eSIMという名前は、組み込み用SIMを意味する英語「Embedded Subscriber Identity Module」の略から来ています。「組み込み」システムとは特定の機能を実現するために機械、装置に組み込まれるコンピュータシステムのことをいいます。

 eSIMの形状としては、普通サイズのUSIMカードと同じ縦15mm×横25mmのものと、これより小型で温度耐性や振動耐性、衝撃耐性などを高めデータ保持期間の延長や書き込み耐性を強化したMFF2(Machine to machine Form Factor 2)という規格の、6mm×5mmのものが用意されています。

ドコモが公開したeSIMの外観

従来のSIMとの違いは「リモート操作でSIMの事業者情報を変更できること」

 一般的な携帯電話用のSIMカードとeSIMの機能の違いは、eSIMがリモート操作によって、事業者との契約情報などをダウンロードし書き換えることができる点です。

 携帯電話の場合には、携帯電話の番号(通信事業者)を変えるには別のSIMカードを差し替えるなどしなければなりません。海外の事業者の電話網を使い、その事業者の新しい電話番号を使うにはSIMカードを物理的に入れ替えなくてはなりませんでした。eSIMカードは、そのようなことせずとも、通信経由(OTA)で事業者の情報を書き換えることが可能になるのです。

 携帯電話ベースの通信技術を機械同士の通信に使おうという観点から、組み込み機器にSIMチップを持ち込もうという動きは以前からありましたが、そこで問題となったのはSIMチップは出荷する時点で、対応する通信事業者が決まってしまうことでした。

 自動車やゲーム機など、製造国から別の使われる国に輸出されるような商品、あるいは国から国に転売されることもある商品のことを考えると、出荷時に通信事業者が固定されているのは問題です。自動車など輸出する国、輸入して使う国が違うことが多い機械などでは特にそうです。販売国ごとに違うSIMを用意して製造するのもひとつの手段ではありますが、各輸出国ごとに在庫管理をしなければならないなどの問題がでてきてしまいます。

 M2M通信は現在では必須になりつつある状況もあり、ブラジルのように、SIMRAV法といって全ての自動車について標準装備として盗難防止装置を設置する規制を設けている国もあります。このような場合、盗難追跡用に携帯電話網を使った通信を使いたいという需要があるのです。

ドコモが案内しているeSIMの概要

 そこで、携帯電話通信事業者の業界団体であるGSMAが標準化したのが、このeSIMです。どの事業者と通信を行うか、その国で使う電話番号やその国でのIDなどのデータを後からダウンロードし、変更できるようにしています。

 製造時には同じ種類のeSIMを組み込んでおき、製品を出荷した先でeSIMにその国の携帯電話事業者で使うためのID情報や電話番号などを書き込むことで、その国で製品が使えるようになります。これによって、海外展開する企業にとっては部品の共通化により、製造及び在庫管理の効率が向上するのです。

 日本では、2014年6月からNTTドコモが、「docomo M2Mプラットフォーム」を利用する法人の顧客向けに提供を開始しました。他の国では、米国のT-Mobile USなどが提供を開始しています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)