ケータイ用語の基礎知識

第697回:メモリインピクセル液晶 とは

 メモリインピクセル(MIP)液晶とは、液晶ディスプレイの一種で、その名前の通り画面を構成する「画素」の中にメモリを持ったタイプのものです。本連載の第272回「メモリー性液晶 とは」で紹介した、メモリー性液晶の一種でもあります。

 MIP液晶ディスプレイでは、ディスプレイの画素がメモリー効果を持っており、一度ディスプレイ上で画像を作ると、電流を流さなくてもそのままの画像を作ったまま、つまり表示したままになります。

 一般的な液晶ディスプレイでは、静止画像を表示していても、その性質上、電流を流し続けなければ画像を表示し続けることができません。そのため、待受時間の画像表示は、ディスプレイを搭載した機械にとって、その分、電気を使うことになります。一方、MIP液晶は、待受画像を表示しつづけるために電力を必要とせず、特に省電力が求められるデバイスなどには有利な性能なのです。

 2014年3月から、ジャパンディスプレイから、スマートウォッチなどの腕時計型のウェアラブルデバイス向けの1.34型ディスプレイがサンプル出荷開始される予定になったと、本誌でもニュース(※関連記事)で伝えています。

 このジャパンディスプレイのウェアラブル向けMIP液晶ディスプレイは、反射型と呼ばれる種類です。これは周辺の光を利用して画像を表示する仕組みを採用しており、バックライトやサイドライトも必要ありません。このことにより、一般的な透過型液晶ディスプレイモジュールの0.5%以下の消費電力に抑えることに成功しています。

 ジャパンディスプレイのMIP液晶は、もともと日本のソニーモバイルディスプレイが低温ポリシリコン液晶ディスプレイの技術を応用して開発したこの技術で、ソニーモバイルディスプレイ・東芝モバイルディスプレイ・日立ディスプレイズの3社の事業を統合し設立されたジャパンディスプレイが引き継ぎ開発を続けてきたものです。

 メモリ液晶では、シャープなどもやはり同様の画素内に1bit SRAMを内蔵したMIP液晶を研究、開発しており、IGZO液晶ディスプレイでは一定時間表示内容を保持し、画面のリフレッシュに使用される電力を削減することに成功しています。

画素内のTFTを利用してスタティックRAMを形成する

 最近の多くの液晶ディスプレイは、TFT液晶と呼ばれるタイプのものです。これは薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor)と呼ばれる超小型のトランジスタを、液晶ディスプレイの画素ひとつひとつに持っていて、これがスイッチ素子となっています。トランジスタに電流が流れると画素内の液晶を動かして、それまで遮っていた光を通し、画素の色を黒から白に変化させる、といった動きをします。

 画素内にごく小さなトランジスタを生成することができるのならば、トランジスタを複数個用意すればトランジスタを使った回路を画面上に組むこともできる――ということで、技術を応用して作られたのがMIP液晶ディスプレイです。

 MIP液晶ディスプレイは、TFTを組み合わせて液晶ディスプレイの画素内に1bitのスタティックRAMと交流駆動ドライバー回路を形成しています。スタティックRAMは、一度データを書き込むと電源を切らない限りデータを記憶するメモリの一種です。スマートフォンやパソコンのメモリに使われる、DRAM(ダイナミックRAM)よりも回路的には複雑ですが、DRAMのように記憶内容を保持するために一定間隔で電流を流す必要がないため、非常に省電力効果のあるメモリです。こうすることで、液晶ディスプレイそのものが表示する画像の内容を記憶することができるようになるわけです。

 一般的なTFT液晶ディスプレイに比べると画素内の回路構成は複雑になりますし、表示する画像を買い替える際には、一定の電流が必要になるものの、一般的な液晶ディスプレイと比べると、かなり電力消費を抑えられるわけです。

 静止画像を表示し続ける場合は、従来の液晶ディスプレイに比べてかなりの省電力化が可能になりますが、アニメーション表示などをするには、絵のコマ割りに合わせて書き換えが必要となるため、たとえば1/24秒、1/8秒といった単位で電力が必要になります。

 ちなみに、スマートフォンやノートパソコン、タブレットなどのコンピュータでは、液晶ディスプレイに表示する画像の内容を記憶するための「グラフィックメモリ」を別個に用意し、ドライバと呼ばれるLSIが、このメモリの内容を一定間隔でディスプレイに転送することでディスプレイを表示し続けるというような仕組みになっていいます。MIP液晶では、液晶ディスプレイがこのグラフィックメモリの代わりとなるため、わざわざグラフィックメモリを用意する必要もありません。スマートウォッチなどの部品点数を少なくしたい小型デバイスにとっては、これはメリットとなるでしょう。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)