ケータイ用語の基礎知識

第702回:高度化C-RANとは

 2015年3月、NTTドコモは下り最大225MbpsというLTE-Advanced方式の「PREMIUM 4G」を開始しました。このサービスは、トラフィック(通信流量)の多い都心部から順次エリア化されます。

 今回ご紹介する「高度化C-RAN」は、ドコモの提唱する新しいネットワークアーキテクチャーです。ドコモのPREMIUM 4Gで用いられています。この技術を採用することで、より大きなサービスエリアをカバーする基地局(マクロセル)の中に、スモールセル(狭い範囲をカバーする基地局)が複数、加えられた「ヘテロジニアスネットワーク」を構築します。大小2つの基地局では、異なる周波数を用いて電波を発射、対応機種がそのエリアに入ると、マクロセルとスモールセル、両方の電波を束ねる「キャリアアグリゲーション」によって、安定した高速通信が実現でき、繋がりやすく、通信しやすい環境が提供されることになります。

中央で制御

 高度化C-RANの“C-RAN”とは「集中型無線アクセスネットワーク」を意味する英語「Centralized Radio Access Network」の略です。C-RAN以外のネットワークアーキテクチャーとしては、たとえば「分散型無線アクセスネットワーク(Distributed Radio Access Network/D-RAN)」があります。D-RANでは、携帯電話の基地局に無線制御部と無線送受信装置の両方が備えられています。

 一方、C-RANでは無線基地局に、無線送受信装置のみが備えられており、無線制御部はネットワーク上での上流にあたる「収容局」に集約されていて、収容局側で通信に使う信号を処理する仕組みです。この仕組みでは、基地局と収容局の間で、トラフィックが従来より大きくなります。しかし、1カ所でまとめて複数の基地局をコントロールできるため、そこに繋がる基地局同士の事情を勘案しながら制御できます。たとえば、そのままでは干渉が起きてしまう基地局同士があった場合、電波を送るタイミングをずらす、といった制御をすることで、干渉を避けられます。

 NTTドコモでは2003年からC-RANを導入、運用してきましたが、これをさらに発展させてより緻密なサービスエリア作りを目指したのが「高度化C-RAN」です。先述したように、高度化C-RANでは、お互いのエリアが重ならないスモールセルのみを増やすのではなく、1つの基地局で広いエリアがカバーされたマクロセルの中にスモールセルをいくつも設置する、ヘテロジニアスネットワーク(HetNet)と呼ばれるエリア構築方法が可能となります。

 従来のC-RANでは、面積あたりの基地局数を増やし、1基地局が担当するサービスエリアを小さくすることで、結果として人の多いエリアでも通信しやすい環境を作ることが可能となりました。高度化C-RANでは、このスモールセルを、マクロセルの上に加えたセルということで「アドオンセル」にしています。ちなみに「アドオン」とは「追加」を意味する英語の「add-on」のことです。

 もし、これまでの技術で、数多くのスモールセルを用意した場合、エリアをまたぐ(移動する)とき、そのたび、ハンドオーバーというエリア切り換えの処理が頻繁に行われることになります。すると、安定した通信ができなくなります。一方、高度化C-RANでは、マクロセルとアドオンセルを別の周波数帯で構築し、前述の「キャリアアグリゲーション」を利用することで、高速な通信を保つようにしています。

 本連載「第659回:キャリアアグリゲーションとは」で説明したように、キャリアアグリゲーションとは、複数の搬送波を同時に用いて通信を行う技術のことで、LTEで使われている複数の搬送波を1つの搬送波コンポーネント単位として扱い、連続、あるいはバラバラの周波数帯でもこれらを複数同時に利用することが可能になる技術です。

 つまり、C-RANを高度にし、C-RANで収容局で複数の基地局を協調動作させて、端末にマクロセルでの通信を継続させながら、なおかつアドオンセル内にいるときには端末との通信をキャリアアグリゲーションを活用して、ヘテロジニアスネットワークでの通信の安定化、高速化と大容量化を図ったのが高度化C-RANというわけです。

 スマートフォンやタブレットなどの急速な普及で、高速な無線通信を行う機会は爆発的に増えています。こうした状況への対策としては、1つは新しい電波(周波数帯)の追加が考えられますが、これまでの技術では、混雑した既存の周波数帯と、空いている新しい周波数帯ができてしまう形になります。これからは、複数の周波数帯を使う場合、ごく一部だけ、スポット的に通信容量を拡大しやすい技術が求められるでしょう。高度化C-RANは、そのような展開にも対応しやすいと言えます。

 高度化C-RANを採り入れたドコモのサービスでは、東名阪で800MHz帯と1.7GHz帯、全国で1.5GHz帯と2GHz帯の組み合わせ(各30MHz幅)により、下り最大225Mbpsという速度を実現しています。携帯電話各社には、3.5GHz帯40MHz幅が割り当てられることになっています。ドコモでは既存の周波数帯に加えてこのような新しい周波数帯もアドオンセルとして活用することで通信のさらなる高速化に取り組む、としています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)