ケータイ用語の基礎知識

第706回:インセル型タッチパネルとは

薄型・軽量、スマートフォンに向いたタッチパネル&液晶ディスプレイ

 スマートフォンの画面は、指で触れて操作するタッチパネルになっています。一口にタッチパネルと言っても、その方式はさまざまなものがあります。大きく分けると、液晶ディスプレイ上にタッチパネルを取り付けた外付け型、そしてディスプレイとタッチパネルが一体となっている内蔵型になります。

 液晶パネルにタッチパネル装置を取り付ける外付け型に比べて、内蔵型は、光の透過率を高め、薄く軽く、そして狭額縁にできるため、スマートフォンのような機器に適した仕組みです。

 内蔵型の中でも、タッチパネル機能をTFT液晶セル内に内蔵したものを「インセル」型、液晶ディスプレイのガラス基板の上にタッチパネル機能を載せたものを「オンセル」型と言います。

インセル型タッチパネルの構造の一例。液晶ディスプレイのTFT内にタッチパネルの機構の一部(または全部)が組み込まれており、TFT内の回路の構造は複雑になるが、軽量・薄型の静電容量式タッチパネルを作ることができる

 構造上、外付け型<オンセル型<インセル型の順で、右に行くに従って光を遮るものが減って、より明るいディスプレイが作れるようになります。またパーツが減るためより薄く、より軽いディスプレイを作れることになります。

 一方、インセル型ディスプレイは、ただでさえ繊細な液晶ディスプレイの構造に、より複雑な回路を組み込むことになり、製造工程がより難しくなります。そのため収益が出るよう製造の歩留まりを上げるには、メーカーの技術力が必要になります。

 スマートフォンでは、iPhone(5以降)でインセル型ディスプレイが使われています。パネル製造メーカーのうち、日本のメーカーでは、2015年4月現在、ジャパンディスプレイがインセル型低温ポリシリコン液晶の量産を開始しています。また、シャープも2015年6月頃をめどに、インセル型IGZO液晶タッチパネルを市場へ投入することを発表しています。

液晶ディスプレイの配線を共用、少ない配線でタッチセンサー

 画面に指がタッチしているかどうか判定するには、画面上の電気的変化を検知することで行う「投影型静電容量方式」がよく使われています。この仕組みでは、画面上に電極が並べられ、その電極の間に、一定量の電荷が蓄えられています。蓄えられる電荷の量のことを「静電容量」と呼びます。人間の体は電子を引き寄せる性質を持っているため、電極に指が近づくとこの静電容量が減ります。タッチパネルは画面上の点を順にスキャンしていって、この静電容量を一点ずつ計り、静電容量の変化している箇所を見つけることで、指がどこをタッチしたわかるわけです。

 ちなみに、よく手袋で「スマートフォン対応」とうたうものがあります。これは電気を通す性質を持った繊維(導電性繊維)を使っています。これにより、指がタッチパネルに近づくと、繊維越しに電子を引き寄せることで、タッチパネルにとっては指が近づいていることがわかるようになっています。

 静電容量方式のタッチパネルでは、この静電容量を計るために画面上に電極を設置しなければなりません。インセル型タッチパネル液晶は、TFT内と、もう一点の電極を液晶パネル内のどこに作るかは製造元によってまちまちです。ソニー、東芝、日立製作所の中小型液晶パネル事業を合併して設立されたジャパンディスプレイでは、ソニー由来の「Pixel Eyes」という技術を使用したインセル型タッチパネルを製造しているのですが、その「Pixel Eyes」では、VCOM線と呼ばれるTFT基板に設置されている箇所と、ディスプレイの上面に近い、カラーフィルタ基板の上にITO(酸化インジウム・スズ)で形成された電極層の間の容量変化を計ることで、指がどの画素をタッチしたことを検知する構造となっています。

 TFT液晶ディスプレイでは、画素ごとにトランジスタが形成されていて、スイッチングを行っています。VCOMは、トランジスタのソース電極に接続され、画素の電極との間で液晶分子に電界を加えるために設けられています。つまり、TFT液晶ディスプレイであればVCOMが存在するわけです。「Pixel Eyes」を始めとするインセル型のタッチパネルでは、タッチの検知に必要な回路を、液晶ディスプレイの駆動に必要な回路と共用することで、外付け型やオンセル型の液晶ディスプレイと比べ、配線数を大幅に減らしていることが特長の1つと言えます。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)