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第734回:Windows 10 Mobile とは

 「Windows 10 Mobile」は、マイクロソフト製OSの最新バージョン「Windows 10」のスマートフォン、および8インチ以下のタブレット向けのエディションです。ARM互換、もしくはIntel x86互換CPUを搭載したスマートフォンやタブレットでの利用が想定されています。

 日本では、2015年11月29日、マウスコンピュータ製のスマートフォン「MADOSMA Q501WH」向けのOSアップデートで利用できるようになったほか、既にヤマダ電機の「Every Phone」、Freetelの「KATANA 01」と、Windows 10 Mobileを搭載するスマートフォンが発売されました。

 Windows 10 Mobileでは、新世代のWebブラウザ「Microsoft Edge」、ミュージック機能「Grooveミュージック」、メッセンジャーソフト「skype」などが標準で搭載されるほか、パソコン向けの「Windows 10」と同じ音声アシスタント「Cortana」が利用できるなど、パソコン向けのWindows 10と同様の機能が備わっています。

デスクトップ版と共通化

 スマートフォン向けのWindowsとしては、かつてWindows CEという組込機器向けのOSに携帯電話向けの機能を付加して作られたものがあり、そのユーザーインターフェイス(UI)もPCのそれとはかなり異なっていました。

 しかし、Windows Phone 7以降になってこの方針は大きく変更されました。UIで、後にデスクトップ版のWindows 8にも採り入れられる「メトロデザイン」が採用されたのです。これは、Windowsスマートフォンが一般ユーザーにも受け入れられるようにするための、大きな方向転換でした。

Windows 10 Mobileの操作画面。ライブタイルやハンバーガーメニューが使われ、デスクトップ版Windows 10と共通の操作感覚でスマートフォンを操作することができる

 Windows 10 Mobileでもこの方向性は保たれ、デスクトップ版Windows 10とモダンUIを採用することで、UIの統一化が図られています。具体的には、スマートフォンのメインメニューにライブタイルが採用され、OSの機能やアプリの多くはハンバーガーメニュー(漢数字の“三”、あるいは記号の“:”のような表示のメニュー)を採用しています。これらに慣れたWindows 10ユーザーなら、Windows 10 Mobileの操作に戸惑うことはないでしょう。

 Windows 10シリーズの大きな特徴として、クラウドと内部機能との融合が挙げられます。Windows 10 Mobileでも同じくクラウドとの連携が特徴です。たとえばMicrosoftアカウントを使ったシングルサインオンで、クラウドストレージ「OneDrive」にアクセスすることが可能ですし、スマートフォンで撮影した写真を自動でOneDriveにアップロードさせたり、デスクトップ版のWindowsで登録した連絡先を、Windows 10 MobileのPeopleハブに表示させたりする、といったこともできます。

 また、OSの内部構造に目を向けてみましょう。ここでもデスクトップ版との共通化の傾向が見られます。OSの核となるカーネルは、Windows Phone 8から、デスクトップ版Windowsと共通のNTカーネルをベースとしたものとなりました。このため、以前のWindows Mobile用のアプリケーションやドライバーソフトとの互換性がなくなり使えなくなってしまいましたが、デスクトップ版Windowsとの互換性は高まりました。

 この内部構造の変革によって、Windows8.1とWindows Phone 8.1では「ユニバーサルアプリ」と呼ばれる共通アプリ実行の仕組みが、さらにWindows 10ではこれを進化させた「ユニバーサルWindowsプラットフォーム(UWP)」という仕組みを実現できるようになりました。UWPアプリは、パソコン、スマートフォン、Xboxやデジタルサイネージなどで共用できます(※関連記事「第722回:UWP とは」)。

 マイクロソフト製ということで、ビジネスでよく使われている「Office」を利用できることもWindows 10 Mobileの大きな特徴の1つでしょう。Windows 10 Mobile搭載のスマートフォンでは「Office Mobile」というアプリが標準で搭載されています。Office Mobileは、タブレットやスマートフォンのタッチ操作に特化した“簡易版”のOfficeです。デスクトップ版と比べて、Wordの文書校正機能やExcelのピボットテーブル作成など、一部の機能が削られているものの、デスクトップ版Officeで作成したファイルをそのまま読み書きできます。これがあれば、メールで受け取ったExcelファイルを外出先でチェックしたり、スマートフォンを大型のディスプレイにつないでPowerPointでプレゼンしたりすることができます。

Continuum for Phone

 大型のディスプレイにつなぐ、ということでは「Continuum for Phone」という機能が利用可能になったのも、Windows 10 Mobileの大きな特徴でしょう。

 Continuum(コンティニュアム)とは、Windows 10ファミリーで提供が開始された機能の1つです。接続するディスプレイなど、環境にあわせて、アプリの外観や動作を最適化します。
 たとえば、Windows 10が搭載されたタブレットや2in1 PCでは、タブレットモードに切り替えるとスタート画面をWindows 10 Mobileのような全画面表示にできるほか、アプリのタイトル バーの自動的に隠したり、タスクバーをタブレットで見やすいナビゲーション バーとステータスバーに変更したりといったことができるようになっています。

 スマートフォンのWindows 10 Mobileに搭載されるContinuum、「Continuum for Phone」はその逆で、デスクトップPCのディスプレイやテレビのような大型のディスプレイがスマートフォンに接続されたときに、デスクトップWindowsのようにWindowsやアプリの外観や動作を変えるという機能です。

 Windows 10 Mobileスマートフォンを大きなディスプレイに接続すると、たとえばスタート画面は、全画面ではなくデスクトップ版と同様のスタートメニューとなり、Officeソフトもマウスやキーボードでの操作が可能となって、ハンバーガーメニューではなく、デスクトップ版のOffice同様のメニューバーが表示されるようになります。ただし、機能的にはOffice Mobileですので、デスクトップ版から削られた機能は利用できません。

 現時点で、Continuum for Phoneを利用できるスマートフォンは、パソコン同等のアプリを動作させるため、高い性能が要求されます。具体的にはチップセット(CPU)として、「Snapdragon 808(MSM8992)/810(MSM8994)」とプレミアムクラス向けのものが必要です。またRAM(メモリ)は2GB以上(720p表示まで)、ストレージは16GB以上、Wi-FiはIEEE802.11n(デュアルバンド)、Windows 10 Miracastが最低限、必要な要素とされています。推奨される要件としては、1024p以上の画面表示で3GBのRAM、Wi-FiはIEEE802.11ac デュアルバンド 2×2MIMO、USB 3.0 Type Cが挙げられています。

 既に日本国内で販売されているWindowsスマートフォンで、これらの要件に対応する機種はなく、スマートフォンにディスプレイを接続しても、OSやアプリのメニューはスマートフォン上でのそれのままです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)