ケータイ用語の基礎知識

第740回:MVNO専用SIM とは

 ここ最近「格安SIM」「格安スマホ」などのワードで注目されるのが、MVNO(仮想移動体通信事業者)のサービスです。そうしたサービスのうち、たとえばNTTドコモの回線を使用しているMVNOと契約した場合、ユーザーの手元には、これまでドコモと同じSIMカードが提供されてきました。ところが、この冬から、MVNO専用のSIMカードが登場するようになっています。

 MVNOは、その仕組み上、自社でSIMカードを発行することができず、NTTドコモやauといった携帯電話会社から通信帯域を調達すると同時に、SIMカードの提供を受けて、ユーザーに渡しています。

 そのため、ドコモ回線を利用するMVNOのサービスは、ドコモと同じSIMカードが提供されてきました。しかしこれからは、台紙表面は全く白紙で、裏面も簡単な注意書きのみ、そしてSIMカード自体からもドコモなどの表示がなくなったSIMカードが、MVNOに提供されるようになります。

 MVNO独自のSIMカードが用意されれば、どういった変化が生まれるのでしょうか。たとえば、これまでのSIMカードは、一見すると、ドコモのサービスなのか、MVNOのサービスなのかわかりません。もしMVNOのユーザーで何らかのトラブルが発生した場合、SIMカードの発行元であるドコモの窓口にサポートを依頼する、といったケースもあったとされています。こうした事象も解消される、と期待されます。

 また、MVNOはドコモの回線を使っているため、無線部分などはドコモと同じ最高通信速度となっていますが、回線の混雑状況などは異なります。実際に通信してみると、ドコモ回線そのままというわけではないのです。独自デザインのSIMカードとなれば、「ドコモとMVNOが全く同じ」という勘違いを避けることができるかもしれません。

 2016年1月現在、MVNO専用SIMカードの提供を受けたMVNOからは、台紙部分が白紙のままというSIMカードが提供されはじめています。ここにMVNO各社が、独自のプリントをすることもできるようになります。ドコモ回線を利用するMVNOのひとつ、IIJmioでは、2015年冬のコミックマーケット89向けに「真・痛SIM」と銘打って、イラストを券面に印刷したSIMカードを限定的に販売しました。こうしたサービスは今後、増えてくるかもしれません。こうした取り組みによって、MVNOにとっては自社サービスの価値や存在感を高められるかもしれない、というわけです。

MVNO事業者のひとつ、IIJmioがコミックマーケット限定で販売した「真・痛SIM」。白紙でNTTドコモから提供されるMVNO専用SIMを利用した物で、台紙部分にイラストレーションを印刷し、独自色を出している

機能的は同じ

 MVNO専用SIMは、昨年10月に行われた「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」で、ドコモが明らかにしたものです。ドコモ回線を利用しているMVNOが顧客に提供するSIMは順次これに置き換わることになっています。

 ただ、このSIMカードは、機能的にはこれまでと同じです。SIMカードそのものを提供するのはこれまでと同じくNTTドコモ、KDDIといったMNOであることに変わりないためです。白紙のSIMもこれまで同様、MNOが発行し、MVNOは利用者からの契約を受けたときにMNOの顧客管理システムにアクセスして、SIMカード発行の手続きを行うという手順も変わりません。

 このため、これまでドコモの回線を使っているMVNOのサービスは、SIMロックの解除をしていないドコモ端末でもMVNOのSIMを挿すことで利用することが可能となっていましたが、このような特徴も変わりがなく、MVNO専用SIMを使った場合でも同じように利用することが可能となっています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)