ケータイ用語の基礎知識

第746回:ODM/OEMとは

他社で製品を製造、自社ブランドで販売

 商品を作るとき、自社で手がけるのではなく他メーカーに依頼して製造、そして自社ブランドで売るという手法があります。それがODM/OEMメーカーに依頼する、というものです。携帯電話だけではなく、さまざまなジャンルで行われています。

 「ODM」は、オリジナルでのデザインと製造を意味する“Original Design Manufacturing”の略です。製造を依頼した企業の要求に合わせて設計と製造を請け負うメーカーや、その製品供給方法を指します。“Design Manufacturing Service”、略して「DMS」と言われることもあります。

 一方、「OEM」は、“Original Equipment Manufacturing”の略です。こちらも依頼企業のブランドで販売するために製造します。ただし、必ずしも設計などは製造者がするとは限りません。

 「ODM」の場合は、回路設計からソフトの開発、機構設計、試験、製造と一気通貫で受託する場合が多く、ODMはOEMの発展系と言えるでしょう。もちろん、ハードウェアの設計と製造は任せるがソフトウェアは販売者が開発、あるいはハードウェアに使用する部品の指定は販売元というように、一部を販売者が担当するODM供給もあります。

 ちなみに、電子製品の製造ではこれによく似た単語として「EMS」というのもあります。これは“Electronics Manufacturing Service”のことで、対象は電子機器に限られますが、やはり他企業からの受託製造を意味する言葉です。

 ODMメーカーやOEMメーカー、EMSメーカーがあるおかげで、工場を持たない企業でも自分のブランドで製品を販売できます。

 携帯電話メーカーでも、OEM/ODMメーカーから調達しているケースは多くあります。メーカーによっては、高級機種は自社工場で、利益の少ない安価な機種はODMやOEMから調達というように機種によって使い分けている場合もあります。また、日本の携帯電話で、NTTドコモやau、ソフトバンクといったブランドで販売されているものは、ODMやOEMの一種とも言えます。

 スマートフォンのODM/OEM/EMSメーカーとして世界で最も有名なのは、台湾のフォックスコン(FOXCONN)でしょう。特にフォックスコングループの中核企業のひとつである鴻海(ホンハイ)精密工業が知られています。他にも携帯電話・スマートフォンのODM/OEMメーカーとしては、同じく台湾の広達電脳(Quanta Computer)、華冠通信(Arima Communications)、和碩総合科技(Pegatron)なども知られます。

 あるいは中国メーカーのレノボなども有名なODM/OEMメーカーのひとつです。レノボはThinkPadブランドなど自社パソコンがよく知られ、中国本土やアジア各国では自社ブランドでのスマートフォンの販売もしています。それに加えて他社からの委託を受けての製造も行っているのです。

 ちなみに、レノボは日本では、たとえばヤマダ電機で販売されているEveryPad IIIなどの製造も行っています。この製品の背面には「Every Pad III powered by Lenovo」とレノボにて製造されたことが記されています。ただ、一般的にはODM/OEMメーカーは製品に記載されることはなく、購入したユーザーはどこで製造されたか、わかることはあまり多くありません。

小回りの効く商品調達が可能に

 ODM/OEMメーカーに任せて製品を調達するのは、さまざまなメリットがあるためです。よく挙げられる理由のひとつは、「製造設備のためのコストなしで作れる」という点です。たとえば、ODM/OEMメーカーは、1万台~2万台と小規模な台数でも、スマートフォンの製造を請け負うところがあります。販売価格がもし1台あたり5万円だとすれば、5億~10億円程度の売り上げと言うことになります。この金額では自社で設備を揃えることは難しいでしょう。設備だけではなく、高度な技術を持つ技術者を自社で抱え込まず、ODM/OEMメーカーに依頼できるのもメリットのひとつ。特に携帯電話やスマートフォンは、電波に関する部分などで独自のノウハウが必要です。携帯電話事業に急遽参入したいという企業にとってODM/OEMメーカーは頼れる存在でしょう。

 小ロットではなく、非常に多くの台数の製品を提供しなければならないケースもあります。たとえば、世界中に一斉に新製品の販売を開始する有名な機種の場合、ある一時期に非常に多くの製品を製造するには、その分、設備を揃えなければなりません。しかし、発売時期を過ぎると、設備が余ってしまいます。ODM/OEMメーカーは、製造設備に大きな投資をしても、さまざまな企業から請け負いますから稼働率を上げられます。結果として効率よく安価に製品を製造することが可能なのです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)