ケータイ用語の基礎知識

第749回:電力小売自由化とは

携帯電話料金とセットで、電気料金が割安に

 2016年4月1日から、電力小売りが全面的に自由化されます。これにより、多くの大手企業が一般家庭への電力小売り事業に参入することを明らかにしています。携帯電話事業者もその例外ではなく、これまでにKDDI、ソフトバンクがそれぞれ電力小売り事業を開始する予定になっています。

 KDDIの家庭向け電力小売りのブランドは「auでんき」です。サービス提供対象エリアは沖縄県と離島を除く日本全国となります。電気料金を携帯電話の料金とまとめて支払うことができるほか、専用のスマートフォンアプリで電気使用量の確認ができます。またauの携帯電話ユーザーが申し込むと「auでんきセット割」が適用され、毎月の電気料金から最大5%相当分の額がau WALLETプリペイドカードへキャッシュバックされる、という特徴があります。

 ソフトバンクも「ソフトバンクでんき」というブランドで電力小売りを行います。料金プランとしては、東京電力との提携プランである「スタンダード(S/L/X)」「バリュープラン」「プレミアムプラン」、とソフトバンクの系列会社であるSBパワーによる「FITでんきプラン(再生可能エネルギー)」があります。サービス提供エリアは東京電力ととの提携による3つのプランが東京電力エリア、中部電力エリア、関西電力エリアから順次拡大予定です。一方、FITでんきプラン(再生可能エネルギー)は北海道電力エリアと東京電力エリアで提供されます。

 「ソフトバンクでんき」も、ソフトバンクの携帯電話、光通信サービスと組み合わせれば合算して支払えるほか、「おうち割」によって料金が割安になり、電気料金1000円につきTポイントが5ポイント付与されます。

物理的に電気を届ける「送配電」は従来通り

 こうした「電力小売」はどういった仕組みで実現しているのでしょうか。電力が供給される仕組みとしては、おおまかには、発電所による「発電」→送電線・変電所といった「送配電」→工場や家庭などに電力を供給する「小売」に分けられます。

 これまでは全国9つある地域電力会社が独占していましたが、電力小売自由化によって、「発電」「送配電」「小売」のうち、家庭など小規模な需要者向けの「小売」が自由化されます。ちなみに、大きな需要向けの小売自由化は、既に導入されていました。たとえば、大きな工場への高圧の電気供給やマンションの一括受電サービスなどを手がける企業が既に存在しています。KDDIでも「au エナジーサプライ」という名称で、マンション共用部と居住者向けに、地域電力会社より安い料金で電気を供給するサービスを行っています。

 「発電」に関しては、北海道電力、東北電力、東京電力、北陸電力、中部電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力、そして日本原子力発電、電源開発の計11事業者に加えて、1995年の電気事業法改正による電力自由化政策によって、川崎天然ガス発電、泉北天然ガス発電、新日鐵住金、JFEスチールなどの独立系発電業者が参入しています。さらに最近ではメガソーラー施設を持つソフトバンクグループのSBエナジー、あるいはNTTドコモファシリティーズ、個人による出力50kw未満の太陽電池発電設備などもあり、2016年現在では非常に数多くの供給源が存在しています。

 また、一般家庭も含めた需要者への電力を物理的に届け、またネットワーク全体での電力バランスの調整し、停電などがないよう電力を安定的に供給する役目を持つ「送配電」に関しては、自由化はされず、ひきつづき政府が許可した全国9つの地域電力会社が担当します。

 先に挙げた独立系発電事業者の中には大口の電力需要者もあります。先述した例では、、電炉などで多くの電力を使用する新日鐵住金、JFEスチールといった製鉄業者がそれにあたります。このような事業者も発電設備~自社工場などへは電力会社の送電線などの設備を用いて電気を運びます。これを電気の「自己託送」と呼びます。

再生可能エネルギー発電から固定価格で電気を買い取る「FIT制度」

 携帯電話会社によるサービスのうち、ソフトバンクの「FITでんきプラン(再生可能エネルギー)」のFITとは、2012年7月から開始されているFIT(固定価格買取制度)のことです。FITという名前は、1990年にドイツで開始された電力供給法(Gesetz über die Einspeisung von Strom aus erneuerbaren Energien in das öffentliche Netz)がもとです。英語では“Electricity Feed-in Tariff Program”と紹介されるもので、この略語がFITです。温室効果ガス排出を削減するという観点から、再生可能エネルギーで発電された電気を、既存発電業者が固定価格で買い取ることを義務づけた制度です。

 「FITでんきプラン(再生可能エネルギー)」は、FITによって買い上げられている再生可能エネルギーを活用した電力サービスを活用することで、再生可能エネルギーに関心のある顧客から料金を徴収する、というタイプのプランです。

 先に説明したように、電力ネットワークにおける「発電」部分には、メガソーラーを持つソフトバンク系列でSBエナジー株式会社や、廃棄プラスチック発電を行うサニックスエナジーなど再生可能エネルギーによる発電も含まれています。これらの再生可能エネルギーは、現在、FIT制度により買い取りが行われています。

 「FITでんきプラン(再生可能エネルギー)」では、電源構成のうち、57%をこのFIT制度によって買い取られた電気とし、他をリサイクル発電、卸電力取引所などから構成することで、再生可能エネルギーのシェア向上に役立てようとしています。これは概念上のもので、実際には通常の「送配電」を利用していますので再生可能エネルギーが優先的に自宅に届くわけでもなく、原発を初めとした従来型発電の電気が排除されるというわけでもありません。

 ちなみに、FIT制度では、発電業者からの買い取り価格は、2016年度で太陽光発電(非住宅用/出力10Kw以上)の場合、1Kwhあたり27円と、従来の火力・水力・原子力といった発電設備で発電できるコストに比べると非常に高額になっています。そのため、全ての電気利用者から電力料金に加えて「再エネ割賦金」という追加料金を徴収し、この支払いに充てています。

 そのため、「FITでんきプラン(再生可能エネルギー)」がコストの高い再生可能エネルギーを使っているからといっても、電気料金が特別に高額になるわけではありません。その分の差額は、他の全ての利用者に負担してもらっていると言ってもいいでしょう。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)