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総務省タスクフォースで急浮上した「MVNOへのデータベース開放」とは

 昨日、総務省が開催した「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」。本誌既報の通り、総務省の事務局が提示した資料に明示された検討課題は「データ通信量の少ない利用者のニーズを踏まえた料金体系」「MNP時のキャッシュバック金額競争からサービス・料金競争への転換」「MVNOの競争促進」の3点だった。

 「MVNOの競争促進」ではデータベースの開放などが論点として盛り込まれた。ここではデータベースの開放について取り上げてみたい。

 開放には大きく「顧客システムの連携」と「加入者機能の開放」の2点があり、「顧客システムの連携」は開放に実現の目途がたちつつある。

顧客システムの連携

 NTTドコモの回線を借りるMVNOの場合、SIMカードを使えるようにするためにはALADINと呼ばれる専用システムで開通作業を行う必要がある。このALADINとMVNOの顧客データベースはオンラインで連携できないため、現在は担当者が情報を1つ1つ手入力する必要があり、手続きには時間もコストもかかっていた。KDDIの場合は既にこの部分のシステム連携が実現しており、MVNO各社はNTTドコモに対して早期実現を要求していた。

 この点はNTTドコモも前向きに対応しており、早ければ今年度中にも仕組みが動き出す見込みだ。これにより、申込から利用開始までの時間短縮などが期待できる。

出典:携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース(第4回)資料「『携帯電話の料金その他の提供条件』に関する論点」

加入者機能の開放

 一方の「加入者機能の開放」は、携帯ネットワークを利用するための電話番号、端末識別番号、所在地情報等を管理するデータベース(HLR/HSS)のMVNOによる独自運用や、電話番号発行権の開放(MSISDN付与)などが挙げられる。

 これらが実現すれば、MVNOが独自にSIMカードを発行したり、海外キャリアに対応したSIMを発行することで現地通信サービスに対応したり、複数MNOのネットワークを使い分けるマルチキャリアサービスも可能となると言われている。また、音声通話もMNOの卸料金に左右されない柔軟なサービスが提供できるようになるとみられる。

 しかし、これらデータベースの管理・構築には億単位のコストがかかるとみられ、MVNO事業者が容易に導入できるものとは言い難い。MVNOが音声通話も担う場合、電話会社各社との接続や、110番や119番などの緊急通報への対応なども必要となる。

 音声通話機能は社会インフラであり、事業者には「いざという時に確実に通話できる」ことが求められる。MVNOは価格が安い反面、昼休みなど一部の混雑時間帯でデータ通信の品質が落ちる事業者があると言われている。データ通信では許容範囲かもしれないが「混んでいたから119番通報できませんでした」などということは、さすがに許されないだろう。

 「MVNO市場の活性化」は確かに重要だが、今までの議論をみていると「とにかく開放・緩和すれば市場が盛り上がる」と短絡的に考えているのではないかとも思えてしまう。総務省による議論といえば、過去には「モバイルビジネス研究会」が端末と通信料金の分離などを打ち出したが、端末販売量の急減が結果的に端末メーカーの弱体化を招く悪影響をもたらした過去がある。似たような顔ぶれによる議論では、同じ轍を踏むのではないか非常に心配である。

 少々厳しい物言いになってしまったが、タスクフォースには、今後の携帯電話市場をどうしていきたいのか、そのグランドデザインを踏まえた上で、開放すべきものとそうでないものの交通整理を是非お願いしたい。

MCA

IT専門の調査・コンサルティング会社として、1993年に設立。「個別プロジェクトの受託」「調査レポート」「コンサルティング」などクオリティの高いサービス提供を行う。