みんなのケータイ

 「Kindle Voyage」の紛失を機に、電子ペーパーの専用端末では十分に楽しめなかったタイプのコンテンツにまで対象を広げることを掲げ、「Nexus 6」とMVNOのSIMカードで、電子書籍を存分に楽しんでいこう、と思い立ったのが2015年6月のこと。Voyageを紛失したと思われる駅前のラーメン店が閉店するなど月日は流れ、筆者なりの使い方が見えてきた。

 電子書籍と一言で括っても、実際には提供するストアの状況や得手不得手を考えると、一般的な小説、一般的な雑誌、ライトノベル、コミック(コミック雑誌)、アダルトコミック(アダルトコミック雑誌)という風に分かれる印象だ。以下は“現時点でベスト”などというものではなく、筆者個人の好みやプライオリティを反映させ、辿り着いたものだ。

「BOOK WALKER」アプリ。書棚としてはカオスな雰囲気に……コミックはこの書棚サイズで2つ分に

Kindle

 王者Kindleだが、利用を突き詰めていくと不満もそれなりに出てくる(Kindleに限ったことではないが)。

 2015年6月当時に顕著だったのは、KindleのAndroidアプリで正しく表示できないライトノベルがいくつかあったこと。この時は、太字かつルビが付いていると、フォントが初期設定のゴシックに戻り行間もずれるという不具合だった。イラストページの絵が妙に小さいタイトルも多かった印象だ。なお、筆者が確認していた太字にまつわる表示の不具合は、現在は解消されている。

 一般にライトノベル(の一部)では、太字表現のみならず、こじらせたルビ、コミックよろしく見開き2ページでのイラスト表示、見開き2ページが同じ単語の繰り返しで埋まっている、回り込みで文章ページにイラストを差し込むなど、演出面で独自のこだわりを見せるタイトルが少なくない。

 Kindleのコミックには大きな不満はなかったが、レイアウトが決め打ちにならない文章主体のコンテンツは、ハードルが高かった印象だ。あと、オーサリングツールか何かの関係だと思われるが、ライトノベルなどはKindleで購入して読んでいても、最後の最後に「BOOK☆WALKER」とロゴが表示されるタイトルが多く、「だったらブックウォーカーで買って読めば、レイアウト崩れは少なくとも心配しなくてもいいのでは……」と思ったのも大きい。

 アプリやサービス面では、Amazonのユーザーインターフェイスには馴染めなかった部分もある。毎回ドミノのように表紙が並んだ表示で起動するなど、アプリのUIに刷新が図られず、もっと画面の広さを有効活用できるのではと思ってしまう。電子版の蔵書が大量になってくると、使い勝手に対する評価が変わってくる印象だ。

 Kindleというサービスにおいて、後述する「BOOK WALKER」と最も大きく違うと感じたのは、ストアにおけるタイトルのオススメの仕方だろう。これはKindleストアが劣っているというより、BOOK WALKERが独自性を見せている部分。ほかには、雑誌コンテンツで、特定の雑誌を毎号必ず買いたい、定期購読したいという時、Kindleでは煩雑になりがちだった。

 もっとも、電子書籍コンテンツにおいて、どうオススメしていくかというのは業界全体として今後も重要な課題のひとつだろう。ストアの雑然とした表示を見て、書店の平積みコーナーの有り難さが分かった、という人も多いのではないだろうか。Kindleではライトノベルを「学園」「ツンデレ」などタグで絞り込むことが可能だ。日進月歩の部分で、今後もこうした部分は変わっていくだろう。

 筆者は現在、Kindleにおいては、毎週発行されている、あるブログのメールマガジン(1号150円程度)を購入するのみになっている。Kindle以外をしっかりと使ってみたいという意向もあったので、現在の利用は最低限にとどまっている。

BOOK WALKER

 「BOOK WALKER」で特徴的なのは、Webサイトにおいて、書店の平積みのように、ある程度の人為的なセレクトで人気や話題の本の表紙をズラーっと並べて見せている点だろう。その下にも、例えばライトノベルなら、新刊、アニメ化特集、異世界料理特集、クッコロ(姫騎士が捕まって「クッ……殺せッ」って言うやつ)特集など、人気や話題の切り口で次々に紹介されている。書店を訪れた時のワクワク感や、発見性を再現……とまではいかないかもしれないが、売れ筋やランキングといったありがちな紹介だけに頼らず、書店員の存在のような、読者の側に近い親しみを感じる。一部のタイトルにはスタッフのオススメコメントも掲載されている。

 Kindleでは販売価格の割引が実施されるが、BOOK WALKERではポイント(コイン)還元という形で大幅な割引が頻繁に実施される。購入実績に応じて翌月の割引率が決まるランク制度もあり、“お得感”はけっこう高めの印象だ。

 弱点は、KADOKAWAグループの会社であり、出版社によってはタイトルが少ない点。例えばコミックでは、サンデーなど小学館のタイトルが手薄な印象だ。ただこれは、出版社側の判断や戦略が影響している可能性もある。

 Androidアプリは、表紙を並べる書棚スタイルが基本で、よくも悪くも一般的。複数のしおりを分かりやすく表示してほしいとか、タッチ操作で余裕のあるボタンレイアウトにしてほしいとか細々とした要望はあるが、ライトノベル、コミックを問題なく表示できる安心感は高い。紙のライトノベルでは、折りたたんだ大きなカラーピンナップが付属することもあるが、全画面表示+左右スクロールでこれにも対応している。

 ちなみにパソコン版アプリの書棚は、購入履歴を並べただけのような素っ気のないUIなので、パソコンでの閲覧がメインなら、サービスの印象は若干見劣りするかもしれない。もっとも、Kindleのパソコン版アプリも書庫管理の完成度という意味では似たようなものだが……。

少年ジャンプ+

 「少年ジャンプ+」は、サービス開始のニュース記事を書いたタイミングでスマートフォンにインストールしてから、読み続けているアプリ。基本的には「週刊少年ジャンプ」のスピンオフ作品や過去の名作、オリジナル作品などを扱う無料のアプリだ。

 このアプリで連載が始まった「フルチャージ!! 家電ちゃん」は先日めでたく単行本化され、嬉しくて電子書籍版を(BOOK WALKERで)購入してしまった。ドラゴンボール、ろくでなしBLUES、ジョジョの奇妙な冒険など、世代的にもグッとくるタイトルも毎週少しずつ掲載されている(ドラゴンボールは現在、最初の天下一武道会を終え、レッドリボン軍のマッスルタワーを攻略している最中だ)。

Fujisan.co.jp

 一般の雑誌を読むアプリはたくさんあり、読み放題など形態もさまざまだ。筆者が使っている「Fujisan.co.jp」は紙の雑誌を通販で購読できるサービスだが、平行して電子書籍版の購読サービスも提供している。現在ではアプリ上で無料で読める雑誌も充実し、内容も幅広くなっている。

 筆者はもともと紙の雑誌の購読に同サービスを利用していたが、そこからスライドして、現在は電子版(週刊雑誌)を購読するのに使っている。タイトルを指名買いで1~2誌のみを購読したいという意向が強かったのと、当時はその読みたかった雑誌の電子版が「Fujisan.co.jp」でしか配信されていなかったという事情もある。

 定期購読の期間(決済)は、毎号、3カ月、半年など何種類か用意され、配信されると自動的にライブラリに追加されるので便利だ。一時期、Kindleにまとめようとして購読サービスを止めたことがあるが、毎週自分で購入するのが想像以上に面倒で、再び「Fujisan.co.jp」で購読サービスを契約している。

まとめ

 Kindleでずっと読んでいたタイトルは、冒頭に地図のイラストページがあるぐらいで、データとしては普通の小説だった。しかし、電子書籍に本格的に移行するため、紙の本で山ほど買っていたライトノベルも、頃合いを見計らって続巻などを電子版で購入しはじめたとたん、前述のラノベ特有の演出・表現をアプリで表示できないという状況に遭遇した。

 では、ラノベが心置きなく楽しめるストア・アプリはどこなんだと探した結果が、BOOK WALKERだった。筆者的には、小説系ではライトノベルとノベルス、あとはハヤカワ文庫がカバーされていればほとんどは事足りてしまうという傾向もBOOK WALKERに依存できる理由だろう。Kindleが大型の総合書店だとするなら、BOOK WALKERはアニメイトなどのオタク系コンテンツに強い書店とも言える。もっとも、ストア(サービス)とアプリ、そして書庫管理と、各要素を使い込まないと自分にとっての良し悪しが見えてこないのは、リアルの書店にはない難しい部分だ。ざっくりと言って、アキバ系/オタク系コンテンツを読むなら、BOOK WALKERの満足度は高い、と評せると思う。

 動画サービスとは異なり、電子書籍のサービスは、外出先で続きを読みたくなってダウンロードしても、サイズが大きな部類のコミック雑誌でも200MB前後といったところ。Wi-Fi環境でのダウンロードが推奨されるが、月間3GBや5GBのMVNO系のサービスでも、ダウンロードに時間はかかるが容量面ではなんとか現実的な範囲に収まる。コミックは見開きのインパクトを大切にしたいので、可能な限り大型のタブレットで読んでいるが、小説系については、もう後戻りできないほど、毎日アプリを使って読んでいる。6インチクラスのスマートフォンを手にしている人は、ぜひ電子書籍を楽しんでほしいと思う。

おまけ:DMMブックス

 DMMの電子書籍サービスの閲覧に対応する、Google Playで配信されていない、DMMが独自に配信する電子書籍アプリ。DMMでは一般的なコミックも配信しているが、ここで話題の中心になるのはR18なコミック、およびR18なコミック雑誌のほう。これら自体は、その多くはKindleや、BOOK WALKERに最近新設された「R-18」ストアでも購入可能だが……。

 まずWebのストアを中心としたサービス面だが、比較的早期からサービスを手がけているだけあって、雑誌、単行本ともにタイトル数が多い印象だ。他のストアでは見かけないようなマニアックな雑誌も多い。

 また、単話として、雑誌に掲載された作家の作品を1話単位で購入できる(割高だが)。さらに、作家がデータベースっぽく管理されており、作家名、雑誌名のどちらも「お気に入り」に登録でき、登録されている作家の新作や雑誌の新刊が出るとメールで通知が飛んでくる。50%オフなど大幅割引もタイトルを変えて定期的に実施されている。単行本も先行配信、独占配信などがあり、流石と言わざるをえない。

 一方で、今となっては意外かもしれないが、この市場全体としては、電子書籍の配信が進まなかった、遅れてきた市場といえる。紙の発行から2~3号遅れて配信されるタイトルもまだ残っている。年明けにサンタ特集号を手にする悲しみは私達の世代で終わりにしたいところだ。

 サービス面で特筆すべきは、「コミック グレー○」「コミック アン○リウム」など、電子版のみで発行されているコミック雑誌も充実している点。「グ○ープ」などはしがらみが少ないのか、いろいろギリギリを攻めている印象だ。「アンス○ウム」も「ペンギン○ラブ」以上「快○天」未満といった塩梅で表紙・中身ともにレベルは高い。

 DMMブックスのアプリにはパスワードロックが掛けられるなど、大人男子にも配慮した仕様で、ここは「BOOK WALKER」アプリも見習うべきところだと思う(ペアレンタルモードはある)。

 ちなみにかつては、配信ストアによって修正の度合いが異なると言われていた時期があった(Kindle版は修正が強いと噂されていた)が、複数のストアで配信されているような大手の人気誌は、修正を強くする方向で、元データも統一されているようだ。出版社によるだろうが、試しにKindle、BOOK WALKER、DMMブックスの3サービスで、ワニマガの同じ月刊コミック雑誌を購入してダウンロードしてみたところ、どれも同一だった。

※一部文言を追加・修正しました。