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モバイルインターネットの新領域を狙ったシャープ「NetWalker」

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows Vista」「できるPRO BlackBerry サーバー構築」(インプレスジャパン)、「お父さんのための携帯電話ABC」(NHK出版)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 シャープから、従来とは少し違ったカテゴリーを狙った新しいモバイルインターネットツール「NetWalker」が発表された。9月25日の発売に先がけ、先週から一部の販売店で先行発売されているが、筆者も実機を試すことができた。ケータイにとっての「NetWalker」の位置付けなども踏まえながら、レポートをお送りしよう。

A6サイズで約409gを実現

シャープ「NetWalker PC-Z1」、サイズ:約161.4(W)×19.7〜24.8(H)×108.7(D)mm、約409g。ホワイト系(写真)、ブラック系、レッド系をラインアップ

 端末の高機能化が進み、契約数も1億を突破した日本のケータイ市場。端末やサービスだけでなく、ユーザーも非常に成熟した市場と言われているが、ここ数年、スマートフォンが注目を集めるなど、少しずつ変化が見えつつある。また、パソコン市場においては、昨年来、数万円で購入できるネットブックが人気を集め、イー・モバイルやNTTドコモなどのデータ通信端末との組み合わせで、いわゆる「100円PC」の市場を生み出した。

 今回、シャープから発売された「NetWalker PC-Z1」は、こうした市場の動きを受け、新しいモバイルインターネット端末の領域を目指して開発された商品だ。A6サイズで約409gという軽量・コンパクトのボディに、1024×600ドット表示が可能な5インチのタッチパネル対応ワイド液晶を搭載し、QWERTY配列のキーボードを装備した製品で、パッと見たところはネットブックよりもさらにコンパクトなミニノートPCか、電子辞書のようなサイズにまとめられている。

左側面のUSBポートにデータ通信端末を装備して使う。NetWalkerを挟むように持つことを考えると、ちょっと邪魔かもしれない miniUSBポートはクライアント機能がない仕様。些細なことだが、ストラップ取り付け穴も面白い取り組み

 キーボードはやや横長になるが、約14mmのキーピッチを確保する。キーボードのヒンジ側には「オプティカルポイント」と呼ばれる光学式ポインティングデバイスを装備し、中央上にはブラウザやメールなどの機能を呼び出すタッチ式の「クイックスタートボタン」を備える。本体右側面にはminiUSBコネクター、ACアダプター用端子、ストラップ取り付け穴、microSDカードスロット、右側面にはUSBコネクター、ヘッドホン端子を備えており、内蔵バッテリーは固定式となっている。通信機能はIEEE802.11b/g準拠の無線LAN機能を備えており、それ以外についてはUSBポートに各携帯電話会社のデータ通信端末を接続して利用する。

※右側面にはmicroSDメモリーカードスロットを装備。最大16GBのmicroSDHCメモリーカードまで対応する

 ここまでの仕様を聞いてみると、「なるほど。かなりコンパクトなミニノートPCが登場したんだ」と捉えてしまうのだが、実はNetWalkerは既存のネットブックやモバイルノートPCなどと大きく異なる部分がある。それはOSとして、「Ubuntu 9.04」を採用し、CPUにはFreescale Semiconductor社製「i.MX515」を搭載しているという点だ。既存のネットブックやモバイルノートPCの多くは、CPUにインテルやAMDなどのx86系を搭載し、OSは基本的にWindowsを採用している。これに対し、NetWalkerに採用された「Ubuntu」はLinuxのディストリビューションの1つで、i.MX515はARM Cortex-A8コアをベースにした統合チップという構成となっている。つまり、外見はネットブックやモバイルノートPCをコンパクトにしたようなものだが、中身はまったくの別物というわけだ。

 今回のNetWalkerに採用された「Ubuntu」と「i.MX515」という組み合わせは、今年1月にFreescale Semiconductor社からリファレンスデザインが発表され、「200ドル未満のネットブックを実現できる」とアピールされていたが、NetWalkerはこれを日本のモバイル市場のニーズに合うように、作り込んだ構成となっているわけだ。

Ubuntu & i.MX515で目指したモバイル環境

 ところで、Ubuntuについて、少し補足しておこう。前述のように、UbuntuはLinuxのディストリビューションの1つだが、Linuxというと、携帯電話の分野では、NEC製端末やパナソニック製端末、あるいはAndroid端末のベースに使われているものというイメージが強い。Linuxは元々、パソコン上で動作するUNIXライクなOSとして開発されたものであるため、一般ユーザーにとっては身近なケータイに採用されているものの、パソコン用としては「一部の専門的なユーザーが使うOS」といったイメージがある。一時期、Linuxをベースにした個人ユーザー向けの市販パッケージも登場したが、あまり普及することはなく、現在では市場でもほとんど見かけなくなっている。

 これに対し、Ubuntuは一般ユーザーが利用できるように、必要なアプリケーションやツールをパッケージ化して配布しているディストリビューションで、デスクトップ環境もグラフィカルで非常にわかりやすい。プリインストールモデルはそれほど採用例が多くなく、国内の一般ユーザー向けモデルとしては、DELLのネットブック「Inspiron Mini9」で採用されたことがあるくらいだが、実際に使ってみると、思いの外、環境が整っており、一般的な用途に限れば、十分に実用的なOSとして利用できるという印象だ。ちなみに、Ubuntuは日本語対応のCDイメージが無償で配布されているので、興味のあるユーザーは余っているWindowsパソコンにインストールしてみるのもいいだろう。

 さて、話をNetWalkerに戻そう。今回のNetWalkerがUbuntuとi.MX515という組み合わせで構成してきた背景には、Ubuntuが無償であることなどのコスト的なメリットもあるが、それとは別に、サスペンド状態からの復帰が約3秒と短く、バッテリー駆動時間も約10時間と長いことなど、実用面でのアドバンテージを重視したことが挙げられる。

デフォルトのデスクトップ画面 必要最低限のアプリがプリインストールされている

 これはモバイル環境で何をするのかということにも関係するのだが、この5年、10年で、Windowsが動作するパソコンも省電力化や高性能化がかなり進み、街中のカフェなどでもパソコンを使う人を見かけるのも珍しくなくなっている。しかし、場所を駅などに移してみると、新幹線などの長距離列車はともかく、通勤や通学に使うような在来線ではパソコンを広げている人はそれほど多くない。これは周囲の目が気になるというのもあるが、やはり、パソコンをカバンから出して、使えるようになるまでの時間が少し掛かるということが挙げられる。データ通信端末を装着し、インターネットにダイヤルアップが完了する頃には、次の乗り換え駅に着いていたなんていうことになりかねないわけだ。

 しかし、ユーザーとしては、外出先でもWebページを見たり、メールのやり取りをしたいということもあり、ここ数年はケータイのフルブラウザが着実に利用を拡大している。そして、最近ではそれがiPhoneをはじめとするスマートフォンに取って代わろうとしている。ただ、ケータイにしろ、スマートフォンにしろ、画面サイズは大きくても3.5インチ程度しかなく、それほどディスプレイの解像度が高くないため、iPhoneのように高速なレンダリングによって、快適なWebブラウジングを実現(演出)しているのが実状だ。

 こうした状況を踏まえ、NetWalkerは約3秒というサスペンドからの復帰で、ケータイ並みの「すぐに使える」を実現し、低消費電力のCPU採用による約10時間のバッテリー駆動で、ケータイに少し近づいた「いつでも使える」を可能にし、1024×600ドットの高解像度液晶でパソコン並みの「快適に使える」を成立させているわけだ。実際に使ってみた印象もサスペンドからの復帰が早いため、ちょっとした空き時間に使ってみようと考えるようになり、ケータイに比べて画面も広いため、ケータイ Watchのような少し重いWebページでも閲覧しようという気になるのだ。もちろん、純粋な手軽さから言えば、スマートフォンに譲る部分もあるが、OpenOfficeなどの多彩なアプリケーションやパソコンと変わらない環境は、十分、実用になるというのが素直な印象だ。

NetWalkerにD02HWを接続して、試してみたが、装着時の見栄えはスティックタイプのD23HWなどの方が良い

 一方、通信環境についてだが、今回は筆者が所有するイー・モバイルの「D02HW」と無線LANについて試してみた。イー・モバイルの環境については、NetWalkerのサポートページにもセットアップ方法が掲載されているが、NetWalkerにD02HWをつなぎ、最小限の情報を設定するだけで、環境は整う。パフォーマンスもAtom搭載のネットブックほどではないものの、ちょっと動作が重めのスマートフォンに比べると、かなり快適に使える印象だ。ちなみに、今のところ、シャープのサポートページでは、データ通信端末として、「D02HW」「D12HW」「D21HW」「D22HW」「D23HW」の動作確認情報が掲載されているが、NTTドコモのデータ通信端末についても対応を準備中で、早ければ、9月中、遅くとも10月はじめには公開する見込みだという。できれば、UQ WiMAXの端末なども対応を期待したいところだ。

 無線LANについては、自宅の無線LAN環境で試してみたが、こちらはパフォーマンスこそ十分であるものの、セットアップはUbuntuの環境そのままで、今ひとつ工夫が感じられない。できることなら、業界標準規格の「WPS(Wi-Fi Protected Setup)」をはじめ、国内で広く利用されているバッファローの「AOSS」やNECアクセステクニカの「らくらく無線スタート」などをサポートして、よりセットアップしやすい環境を整えて欲しかったところだ。

 実際の利用については、アプリケーションとして、Webブラウザの「Firefox」、メーラーの「Thunderbird」、オフィスソフト「OpenOffice」、映像を再生できる「Totem動画プレーヤー」などがインストールされているため、一般的な用途であれば、それほど不満に感じることはなさそうだ。Adobe Flash Liteの公開が遅れているため、一部、閲覧できないWebページはあるが、それほど遠くないタイミングで解消されるはずだ。

QWERTY配列のキーボードを採用。キーを押す感覚には今ひとつ安定感がない。使えば、慣れてくるが……

 逆に、気になる面というか、賛否両論が分かれそうな部分としては、キーボードやポインティングデバイスの扱いが挙げられる。

 まず、キーボードだが、「約14mmのキーピッチを確保したQWERTY配列のキーボード」というスペックは、ボディサイズを考えれば、なかなか頑張ったところなのだろうが、ネットブックやモバイルノートPCなどのキーボードに比べると、キーを押す感覚に安定感がなく、あまりタイプしやすいとは言えない。横長のキーの端を押して、キーが斜めに押されてしまい、文字が入力されないといったことが起きやすい。ただ、これは筆者のように、モバイル機器で文字を入力することを重視するようなユーザー、言わば、パソコン寄りのユーザーが感じる印象であって、どちらかと言えば、ケータイ中心に考えている人にタイプしてもらうと、「打ちやすいとは言えないけど、そんなに気にならない」という答えが返ってくる。ケータイ派のユーザーにとっては、文字を入力するといっても原稿を書くわけではなく、URLの入力やちょっとしたメールの返事が入力できれば十分と捉えているからだろう。

ケータイの光TOUCH CRUISERに近い操作感を実現したオプティカルポイント

 一方、ポインティングデバイスについてだが、光学式のオプティカルポイントはシャープ製端末ではおなじみの「光TOUCH CRUISER」とほぼ同じデバイスであり、操作感もほとんど変わらない。光TOUCH CRUISERもケータイの画面では今ひとつ持て余し気味の印象もあったが、NetWalkerのように高解像度のデスクトップ環境にはよくマッチしており、レスポンスもよく、非常に快適に使うことができる。ケータイユーザーにとってはお馴染みであるのに対し、パソコン中心のユーザーにとっては新鮮な使い心地のようで、周囲で触った人々の反応もかなり良い。そう考えると、今度はディスプレイがタッチパネルであることは、あまりメリットがないように感じられてしまう。パッケージにはタッチペン(WILLCOM 03などと同じタイプ)も同梱されているのだが、フリーハンドで絵を描くといった用途でもなければ、まず当面は使うことがなさそうだ。

 液晶ディスプレイについては、さすがにシャープらしく、非常に明るく、視認性もかなり良好だ。これまたシャープ製端末ではおなじみのLCフォントも搭載されており、5インチで1024×600ドットという高精細な解像度ながら、Webページも表示しやすく、記事などもちゃんと読むことができる。

新しいモバイルインターネット端末の今後に期待

 以前にも連載などで触れたことがあるが、モバイルのニーズは十人十色、千差万別、ユーザーごとにかなりニーズが違うと言われている。そんな中、「ケータイでWebページを見るのもいいけど、もうちょっと大きな画面で見たい」「ノートPCを持ち歩いてみたいけど、ちょっと重いのは……」といったニーズを持つユーザーにとって、NetWalkerはなかなか魅力的な商品だ。Windowsなどしか触ったことがない人にとって、Linuxと聞くと、少し抵抗感があるかもしれないが、Ubuntuのディストリビューションは内容も充実しており、意外なほど、普通に使うことができる。ユーザーが求めているのは、あくまでも「使い道」であって、「OSではない」ということを考えると、なかなかいい選択肢と言えそうだ。

 その一方で、キーボードやポインティングデバイスには、まだ課題が残される。やはり、製品がこのサイズになってくると、筆者のように文字入力をたくさん使いたいといったユーザーが増えてくるわけで、その意味から考えてももう少し質の高いキーボードを装備して欲しいところだ。タッチパネルも今の段階ではあまり十分に活用されていないので、新しい使い道を提案するか、いっそのこと、省いてしまうのも手かもしれない。512MBの本体メモリー、フラッシュメモリーを利用した4GBのストレージ領域は、必要十分とも言えるが、動画や音楽再生などの機能も持ち合わせていることを考えると、もう一息、容量を増やして欲しいところだ。通信関連では無線LANの登録をわかりやすくすること、Bluetoothモジュールの搭載、ケータイとの送受信のための赤外線通信ポートの搭載などが期待されるが、現状でも十分に実用的であり、次期モデル以降でのバージョンアップに期待したい。

 さて、ここでは主に位置付けや捉え方などを中心に、NetWalkerを紹介してきたが、より詳細なレビューはライターの西川和久氏が僚誌「PC Watch」で取り上げているので、ぜひ、そちらも参照していただきたい。いよいよ25日からは正式に販売が開始される予定だ。ぜひ、店頭のデモ機を触って、ネットブックでもスマートフォンでもない『新しいモバイルインターネット端末』を体験してみて欲しい。

 



(法林岳之)

2009/9/24 12:43


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