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いよいよ本格的に動き始めた「ニッポンのAndroid」

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows Vista」「できるPRO BlackBerry サーバー構築」(インプレスジャパン)、「お父さんのための携帯電話ABC」(NHK出版)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 2007年にGoogleをはじめ、世界各国の携帯電話事業者やハードウェアメーカー、ソフトウェアベンダーによって、提案された携帯電話プラットフォーム「Android」。昨年からは国内向けにもAndroid端末が発売されたが、ここに来て、ソフトバンクからは「HTC Desire」、auからはシャープ製端末「IS01」が相次いで発表され、4月1日からはNTTドコモのソニー・エリクソン製端末「Xperia」の販売が開始される。今回はいよいよ本格的に動き始めた日本市場におけるAndroidについて、見てみよう。

スマートフォンの本命を狙うAndroid端末

W-ZERO3

 ここ数年、国内市場において、一般的なケータイとは別に、「スマートフォン」が注目を集めている。何をもってして、スマートフォンとするのかという定義は、人によって、少しずつ解釈が異なるが、「ユーザーが(ネイティブな)アプリケーションをインストールして、自由にカスタマイズできる携帯端末」という意味においては、国内のスマートフォンの先駆者的な存在の「W-ZERO3」シリーズをはじめ、一昨年からの展開でスマートフォンとしてはもっとも成功した「iPhone 3G」、ビジネスユーザーを中心に昨年来、着実に支持を拡大した「BlackBerry」、HTCや東芝、シャープ、サムスンなど、国内外のメーカーが数多く採用してきた「Windows Mobile」など、短い期間でありながらもかなり多彩な製品が登場してきた。

 そんなスマートフォンの市場において、今、もっとも注目を集めているプラットフォームと言えば、Googleを中心とするOHA(Open Handset Alliance)が展開する「Android」だろう。2007年に設立されたOHAを通じて提供されるAndroidは、カーネルにLinuxを採用し、携帯電話に必要なアプリケーションやユーザーインターフェイス、ライブラリなどのソフトウェアを包括的に提供するオープンプラットフォームとして、世界各国の携帯電話事業者をはじめ、端末メーカー、ソフトウェアベンダー、半導体メーカー、関連会社の支持を集めている。2008年9月にはAndroid端末の第1号機として、米T-MobileからHTC製「T-Mobile G1」が発表され、その後、モトローラやファーウェイ、サムスンといったメーカーからもAndroid端末が発売されている。


iPhone 3G BlackBerry Bold

HT-03A

 日本国内においては、昨年7月、NTTドコモからHTC製端末「HT-03A」が発売された。「ケータイするGoogle」というキャッチコピーにより、Googleがインターネットで提供するサービスとの親和性の高さが強くアピールされ、インターネットを積極的に活用するユーザーを中心に支持されたものの、スマートフォン全般やAndroidそのものに対する情報不足もあり、市場全体の反響は今ひとつという印象だった。その一方で、携帯電話事業者やメーカー、ユーザーのAndroidに対する期待は非常に高く、次なる端末の登場を望む声も多く聞かれた。

 そして、この春、各社からAndroid端末が発表、発売され、いよいよ本格的に国内市場において、Android端末が普及しそうな気配が見えてきた。ただ、Androidに対する考え方や方向性には、携帯電話事業者やメーカーごとに少しずつ違いがあり、同じAndroid端末でもかなり印象の違う端末に仕上がってきた印象だ。

違いが見える各社のAndroid端末

Xperia

 まず、新しいAndroid端末として、先陣を切ったのは、4月1日に発売されるNTTドコモのソニー・エリクソン製「Xperia」だ。昨年11月にグローバル向けに発表されたが(グローバルでの製品名は「XPERIA X10」)、発表当初からキャリア名こそ、明かさないものの、日本での販売がニュースリリース内で触れられるという異例ぶりが話題になった。

 本誌に掲載された発表会レポートなどを参照していただくと、よりわかりやすいが、XperiaはAndroidというプラットフォームを採用しながら、4インチの大画面ディスプレイや8Mピクセルのカメラといった日本のハイエンド端末に迫るハイスペックを実現する一方、人との人のコミュニケーションを軸にした「TimeScape」、インターネットとのメディア連携を可能にした「MediaScape」など、ユーザーインターフェイスも含めた基本的なコンセプトの部分において、今までのスマートフォンやケータイにはなかった取り組みが見られる。

 Android OSは1.6を採用するが、ソニー・エリクソンとしてはOSのバージョンだけに固執することなく、そこに自らが描く世界観を展開した端末という印象だ。1月に発表された国内向けモデルは「mixi」や「mora」などの国内サービスへの対応をしたものの、基本的にはグローバル向けモデルとほぼ共通仕様のままとなっている。3月18日からは予約も開始されたが、筆者の知る都内のドコモショップでは週末の1日で、数十台の予約が入るなど、今までのスマートフォンでは考えられなかったほどの反響があるという。


HTC Desire Nexus One

 次に、3月28日に「ソフトバンクオープンDAY」を催したソフトバンクは、昨年秋の発表会開発の意向を明らかにしていたAndroid搭載端末として、HTC製端末「HTC Desire」を発表した。HTC Desireは今年1月はじめに米国などで発売されたGoogleの「Nexus One」(同じくHTC製)の事実上の兄弟モデルで、最新のAndroid OS 2.1を採用し、3.8インチのワイドVGA有機ELディスプレイ、5Mピクセルカメラ、クアルコム製Snapdragon 1GHzなど、ほぼ同等以上のスペックを実現している。外見で異なるのは、ポインティングデバイスがNexus Oneのトラックボールから光学式に変更され、有機ELディスプレイがわずかに大きくなっていることくらいだろう。国内向けモデルとしての取り組みは、日本語フォントや日本語入力システムの搭載などで、どちらかと言えば、グローバル向けモデルの仕様をほぼそのまま、国内向けに持ち込んだという印象に近い。

BIGLOBEのクラウドデバイス

 また、少し変わったところでは、国内ISPのBIGLOBEもAndroid OS 1.5を搭載した「クラウドデバイス」を公開し、モニター向けの貸出を開始している。クラウドデバイスは3Gなどの回線接続機能を搭載しておらず、Wi-Fiのみでインターネットにアクセスするという仕様となっている。スマートフォンというより、家庭内やオフィスで利用する小型のタブレット端末のような製品だが、Androidというプラットフォームで見れば、こうした切り口も十分に考えられるわけで、今後も同様の製品が国内外から登場してくる可能性が高い。

 さらに、海外では2月にバルセロナで開催された「Mobile World Congress 2010」、3月にラスベガスで開催された「CTIA Wireless 2010」でも新たに何機種ものAndroid端末が発表されている。たとえば、モトローラは耐衝撃性を備えた「Motorola i1」、HTCはWiMAX搭載「HTC EVO 4G」、京セラはフルタッチスタイルの「Zio」、サムスンは最新のAndroid 2.1を搭載した「Galaxy S」、GPSレシーバーなどで知られるGarmin-AsusはAndroid搭載ナビゲーション端末「nuvifone A50」などだ。メーカーの規模からデバイスの種類に至るまで、実に多彩なAndroid搭載製品が増えてきている。


Motorola i1 HTC EVO 4G
Zio Galaxy S
nuvifone A50

「ニッポン」のユーザーへ向けたauのIS01

IS01

 そして、3月30日、auはAndroidを搭載したシャープ製端末「IS01」を発表した。発表内容については、すでに本誌記事も掲載されているので、詳しくはそちらを参照いただきたいが、Androidという切り口で見てもスマートフォン(auは「スマートブック」と位置付けている)という切り口で見ても非常にユニークな取り組みの端末だ。

 まず、これまでに国内で登場したAndroid端末は、グローバル市場で展開される製品をそのまま持ち込んだものか、そこに日本で必要とされるソフトウェアを追加したものとなっている。これに対し、IS01はAndroid OS 1.6を搭載しながら、日本のユーザーが必要としてきた「ワンセグ」「赤外線通信」を搭載し、ユーザーインターフェイスもスウェーデンのデザイン集団「ocean observations」との共同開発により、使いやすい環境を整えている。そして、端末デザインはau design projectやiidaなどで、auの端末ラインアップを強力にサポートしてきた深澤直人氏が手掛ける。

 これに加え、auがこれまでEZwebの世界を中心に展開してきたサービスについても利用できるようにした点も興味深い。欠かすことができないメール環境は、EZwebドメインの「Eメール」と「デコレーションメール」(8月下旬以降対応)、家族間無料メールでも使われる「Cメール」をサポートし、auのサービスでもっとも人気の高いEZナビウォークを継承する「au oneナビウォーク」、音楽配信サービスの「LISMO」にも対応する。もちろん、他のAndroid端末で提供されている「Gmail」や「Googleマップ」といった標準アプリケーションも搭載されており、Androidの世界とEZwebの世界を融合させたような構成になっている。つまり、成熟度の高い日本の携帯電話市場にマッチするように、ハードウェアの仕様からソフトウェアに至るまで、しっかりと作り込んだAndroid端末に仕上げられているわけだ。

 こうした取り組みは、他の携帯電話事業者が販売するAndroid端末と比べても非常に対照的であり、auらしい、KDDIらしい取り組みをしたというのが率直な印象だ。こうした取り組みをしていたために、スマートフォンの発表が遅れたと見る向きもあるようだが、実は世界の携帯電話市場において、W-CDMA/GSM陣営の勢力が従来以上に強くなったことで、CDMA版Androidの提供が遅れたり、ベースバンドチップ供給の優先順位が変わってしまったなどの影響もあり、必ずしも作り込みが遅れの原因というわけではなさそうだ。

 ただ、こうしたユーザーの利用環境に合わせた「作り込み」は、今後、国内外のAndroid端末全般で増えてくることが予想され、ある意味、今回のIS01が今後のAndroid端末におけるひとつの試金石になるかもしれない。念のために書いておくと、IS01のような作り込んだAndroid端末ばかりが登場し、幅を利かせるという意味ではなく、HTC DesireのようなスタンダードなAndroid端末と対極的な位置付けとして、両者とも成長していくのではないかと予想している。

auの発表会では第2弾のAndroid端末のシルエットが公開された

 ちなみに、関係者によれば、今回開発されたIS01の環境は、さまざまな形で多方面への展開が考えられるという。まず、auは従来からKCP+(KDDI Common Platform Plus)などの共通プラットフォームを展開し、どの端末でも変わらない使い勝手を実現してきたが、KCP+ほどではないものの、今回のIS01で作り込んだプラットフォームも同じように、auに端末を供給している他メーカーへの展開が十分に考えられるという。今回、Android端末第2弾のシルエットがお披露目されたが、第3弾以降は他の端末メーカーから登場する可能性が十分にあり、通常デザインの端末への応用も検討されているそうだ。

 また、シャープとしての展開を見ると、Android搭載端末の普及を図るため、IS01とほぼ同じ仕様の「携帯端末開発キット」を5月以降に販売することが発表されている。3G通信の機能は搭載されていないが、Wi-Fiによる通信が可能で、開発者登録をしてしまえば、誰でも自由に購入することが可能だ。シャープのような端末メーカーがこうした開発環境をわざわざ製品化することを考えると、当然、シャープ自身が今後、Android環境に積極的に関わっていくことが推察される。そうなれば、将来的には他事業者向けのシャープ製端末にもAndroid端末が登場することになるのかもしれない。

 そして、今回の発表会でもうひとつ明らかにされたのがおサイフケータイへの対応だ。Android端末にFeliCaを搭載し、おサイフケータイのサービスを提供できるように各社が動いていることは、一部で伝えられていたが、auでは次期モデル以降で、おサイフケータイ対応を検討中であることが明言された。そうなると、当然のことながら、おサイフケータイの本家というか、元々のサービスの発案者であるNTTドコモも今後、登場するAndroid端末で対応してくることが予想される。

 ここ数年、各社からスマートフォンが登場し、通常のケータイからスマートフォンへの移行を検討するユーザーが増えていたが、その多くがワンセグやおサイフケータイ、EZwebやiモードなどのケータイメールの利用ができなくなったり、利用が制限されてしまうため、スマートフォンへの移行を断念したり、結果的に2台持ち(しかもスマートフォンは事実上のデータ通信専用)を選ぶユーザーも多かったが、そう遠くない時期にスマートフォン移行に伴う障害もほぼ解消されることになりそうだ。

Android端末が抱える課題

 日本のユーザーにとって、利用しやすい環境が整い、いよいよ本格的にAndroid端末の展開が期待できそうな時期を迎えたが、Android端末にはまだいくつか課題や制約が残されている。

 通常のケータイとスマートフォンの最大の違いは何かというと、インターネットサービスとの親和性やアプリケーションの追加など、いろいろな要素を挙げる人が多いが、実は意外に見過ごされがちなのがセキュリティ面だ。特に、スマートフォンではアプリケーションを端末に自由に追加できるため、現在、私たちが利用しているパソコンのように、ウイルスやマルウェア、ハッキングなど、さまざまなリスクを抱えることになる。ユーザーが利用できる機能やAPIが厳しく制限されている通常の携帯電話では、深刻なセキュリティ問題は起きていないが(少なくとも国内では)、スマートフォンになれば、当然、そういったトラブルが起きる可能性も十分に考えられる。

 そこで、アップルではiPhoneのAppStoreに配信するアプリケーションについて、開発者が登録を申請した段階で内容をチェックし、安全なものだけを配信するようなしくみを採用している。ところが、Androidのアプリケーションを配信しているAndroidマーケットでは、こうしたチェックをするしくみがなく、基本的には自由にアプリケーションを公開することができ、ユーザーも自由にインストールできてしまう。インストール時にはディスプレイには確認画面が表示されるのだが、世界中で公開されているアプリケーションをインストールすることになるため、英語で表記されていたりして、ユーザーが内容をよく把握しないまま、セキュリティ的に問題のあるアプリケーションをインストールしてしまう可能性もある。

 こうした状況を踏まえ、NTTドコモは「ドコモマーケット」、auは「au oneマーケット」をそれぞれ提供し、あまりスマートフォンになじみのないユーザーでも安心してアプリケーションが利用できる環境を作る予定だ。今のところ、HTC Desireを発売するソフトバンクでは、こうした独自マーケットを提供するアナウンスがない。Androidのアプリケーション配信が他のスマートフォンのプラットフォームに比べ、少しユニークなのはこうした携帯電話事業者独自のアプリケーション配信サービスを提供することが可能になっている点だ。

 決済についてもHT-03Aで利用してきたAndroidマーケットでは、Googleアカウントにクレジットカード情報を登録する「Google Checkout」を利用してきたが、独自のマーケットでは携帯電話事業者が決済代行を請け負うことも可能だ。日本のユーザーはiモードやEZweb、Yahoo!ケータイなどを使い、いわゆるケータイサイトでの決済に慣れ親しんでおり、その感覚をスマートフォンでも利用できるのは心強いだろう。

 セキュリティ面については、もうひとつ気をつけなければならない点がある。前述のように、Android OSはLinuxカーネルを採用しており、知識のあるユーザーであれば、内部のソフトウェアをある程度、自由にコントロールするような改造を加えることも不可能ではない。そのため、著作権保護が必要なコンテンツを提供してきたコンテンツプロバイダーとしては、なかなか積極的に取り組みにくい側面もある。

 国内で販売される通常のケータイでは、事実上、内部がブラックボックス化され、ユーザーが勝手に改造できないようになっており、それが着うたをはじめとする有料コンテンツサービスの普及に結びついた部分がある。スマートフォンでもiPhoneは基本的に自社のみでサービスを完結させているため、あまり大きな問題は起きていないが、Android端末はオープンソースのプラットフォームであるがゆえに、どうしてもセキュリティ面のリスクを抱えることになってしまう。

 とは言うものの、今回のXperiaの発売に合わせ、レーベルゲートがAndroid向けの「mora touch」をスタートさせているうえ、前述のように、auもおサイフケータイの搭載を検討していることから、こうしたリスクも徐々に回避される方向で進化を遂げていくのかもしれない。

年内には10モデル以上のAndroid端末が登場?

 今回は、ソフトバンクが発表したHTC Desire、auが発表した国産初のAndroid端末「IS01」、そして、4月1日からNTTドコモがXperiaの販売を開始するということで、それぞれの端末の方向性やAndroid端末の今後などについて、取り上げた。国内ではこの他にも複数のAndroid端末が控えているとも言われており、一説には年内に10モデル以上が国内市場に投入されるのではないかという声もある。携帯電話だけでなく、Android OSを搭載した家電製品なども登場する可能性があるという。

 ここ数年、多彩なスマートフォンが増えてきたことで、通常のケータイとスマートフォンのどちらがいいのか、どのプラットフォームがいいのかといった議論が多く展開されてきた。確かに、そういった視点も必要だが、ユーザーとしては、むしろ、そのスマートフォンを「誰が作ったのか」「何で作られたのか」ということより、「何ができるか」「どんなことを体験させてくれるのか」ということの方が重要だ。その意味において、auが発表したシャープ製端末「IS01」は非常に存在意義のある端末であり、NTTドコモが販売するソニー・エリクソン製端末「Xperia」もコミュニケーションを軸にした新しいコンセプトに大きな可能性を秘めている。もちろん、もうひとつの選択肢として、グローバル向けの端末をほぼ同じようのまま、持ち込み、ユーザーに自由な環境を提案してくれるHTC Desireも歓迎できる存在だろう。

 今後、各社がどのような方向でAndroid端末やスマートフォンを展開するのか、ユーザーにどんな体験を提案してくれるのかをじっくりと見極めながら、本当に意味で自分たちに役立つ便利なAndroidケータイ(スマートフォン)の登場を期待したい。



(法林岳之)

2010/4/1 12:31