「次の一手」がうかがえる主要三社の2009年度決算会見

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 7」「できるPRO BlackBerry サーバー構築」(インプレスジャパン)、「お父さんのための携帯電話ABC」(NHK出版)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 4月23日のKDDIを皮切りに、4月27日にはソフトバンク、28日にはNTTドコモと、国内で携帯電話サービスを提供する主要三社が、相次いで2009年度決算を発表し、その内容を説明する会見を開いた。

 新販売方式導入や金融危機以降、厳しい市場環境が続く中、今年は本格的なスマートフォン市場の起ち上がりやSIMロック解除など、新しい話題も増えてきているが、その一方で各社とも次なる時代へ向けて動き出そうとしている。三社の決算会見から見え隠れする各社の事情をチェックしながら、三社の「次なる一手」を探ってみよう。なお、各社の決算会見の詳細については、別途、記事が掲載されているので、そちらを参照していただきたい。

新800MHz帯対応とデータARPU向上に取り組むKDDI

 昨年に引き続き、年度の決算会見で先陣を切ったのはKDDIだ。4月23日に決算会見を開き、代表取締役社長兼会長の小野寺正氏から説明が行なわれた。

 昨年の記事でも触れたが、KDDIというと、2007年冬モデルからスタートしたKCP+(KDDIの携帯電話プラットフォーム)採用端末の開発に苦労し、au買い方セレクトの方針変更など、2008年度はどちらかと言えば、苦戦のイメージばかりが強調されていたが、2009年度は営業収益で前期比1.6%減の3兆4421億円ながら、営業利益では前期比0.1%増の4439億円を確保しており、全体的にはほぼ横ばいに推移したという印象だ。

KDDIの小野寺氏

 移動体通信事業では営業収益が前期比2.5%減の2兆6501億円、営業利益は前期比3.5%減の4837億円となっており、規模こそ大きくないものの、横ばいからやや漸減傾向にあることがわかる。これはauがスマートフォンなどのラインアップで他社の後手に回ったことなども関係しているだろうが、市場全体の動きが落ち着いているため、各社とも年度を通しての端末の販売台数やARPUは横ばいから漸減傾向にあり、auだけが特別に成績が悪いというわけではないようだ。

 それを裏付ける要因として、意外に興味深いのが純増数だ。国内の携帯電話契約数が1億を突破し、個人向けの契約数は飽和状態にあると言われるが、それでも各社とも新しい需要を生み出し、毎月、少しずつ契約数を増やしている。この契約数の純増では、ソフトバンクが長らく首位をキープし、NTTドコモが一時、トップを奪回するなど、激しい争いをくり広げていることは、読者のみなさんもよくご存知のはず。そんな中、auは苦戦している印象があるが、全体の純増こそ、他社にリードされているものの、実は“IP接続”の純増シェアについては38.2%を確保しており、年度を通してのトップを記録している。IP接続の契約数というのは、簡単に言ってしまえば、EZwebなどのモバイルインターネット接続サービスの契約数を表わしているもので、他社がフォトフレームやデータ通信アダプタで契約数を伸ばしているのに対し、auは通常のケータイで契約数を伸ばしていることがうかがえる。

純増数ARPU

 また、ARPUについては、2008年度の5800円から2009年度は5410円へと減少している。これはau買い方セレクトがシンプルコース中心に移行したうえ、ガンガンメール(プランE)のように、データARPU中心の料金プランがスタートしたことも関係するようだ。ちなみに、auのシンプルコースの契約数は全体の41%に相当する1252万契約に達しているが、端末代金の支払いについては分割払いが全体の41%と他社に比べ、やや少ない印象を受ける。この背景には他社に比べ、auの端末は店頭の実売価格が安く、一括でも購入しやすい価格帯のものが多いことが関係しているようだ。

 こうして見ると、意外に(と言っては失礼だが)事業展開が堅調なKDDIだが、次なる課題も見えてきている。まず、他社に遅れを取った格好のスマートフォンについては、3月30日に発表された「ISシリーズ」が巻き返しの第一歩ということになるが、IS01については以前も紹介したように、Androidというオープンプラットフォームを採用しながら、ワンセグや赤外線通信、Cメール/EZwebメール、デコレーションメールなど、日本のケータイに求められている機能を網羅し、明確に2台目需要を狙った『作り込んだAndroid端末』として仕上げられている。iPhoneやXperia、HTC Desireなどのスマートフォンとはまた違った方向性のスマートフォン(スマートブック)であり、今後、日本市場にスマートフォンが浸透していくかどうかを占う意味でも注目される。

800MHz帯再編で、2010年度は約800億円のコストが発生する見込み

 そして、今後のauで気がかりなのは、800MHz再編に伴う「新800MHz帯対応端末」への移行だろう。今年3月に停波したソフトバンクの2G(PDC)とは少し状況が違うが、2012年7月の800MHz帯再編へ向け、ユーザーには新800MHz帯対応端末に買い換えてもらう必要がある。2010年3月の時点で、契約数全体の67%が新800MHz帯/現行800MHz帯/2GHz帯に対応したトライバンド対応端末を利用しているが、トライバンド非対応端末には2007年発売のW51CAやW53SA、MEDIA SKINといった、かつての人気端末も含まれており、買い換えサイクルが伸びてきている現状を鑑みると、残された2年間という猶予は決して長くはなさそうだ。

 また、モバイルデータ通信とインフラについては、UQコミュニケーションズが展開する「UQ WiMAX」、昨年の決算発表で明らかにされた「CDMA 1X EV-DO Rev.A マルチキャリア版」を中心に展開し、Wi-Fi対応端末の拡充、今夏からフェムトセルを提供することなども付け加えられた。気になるマルチキャリア版Rev.Aについては、基地局側はソフトウェアのアップグレードで対応できるとしているが、対応端末が登場するのは年内で、ユーザーが本格的にメリットを享受できるのは来年以降ということになる。元々、auは800MHzで3Gサービスを展開してきたため、エリア的にはそれほど不満を訴えるユーザーが少ないと言われているが、それでもモバイルデータ通信の分野では他社に遅れを取っており、もう少し迅速にサービスが展開されることを期待したい。ちなみに、通常端末のデータARPU向上にも取り組んでおり、au oneのトップメニューをセグメント別に表示を変更したり、EZニュースEXで40代以上のユーザーにも積極的にアプローチするなど、細かい工夫によって、着実に成果を挙げている。

 ところで、KDDIと言えば、ケーブルテレビ最大手のジュピターテレコム(J:COM)への資本参加が話題になった。KDDIの事業の中でも固定系に含まれるため、ケータイユーザーにはあまり関係がないように見えるが、フェムトセルにはFTTHなどのブロードバンド回線が必要になるため、J:COMのインターネット接続サービスユーザー向けには提供しやすいと考えているようだ。しかし、それ以上に注目されるのは、KDDIが国内外のコンテンツ購入する際、数の力を発揮できる点だろう。決算会見の質疑応答でも触れられたが、KDDIは傘下にケーブルテレビ大手のJCN(ジャパンケーブルネット)を抱えており、J:COMと合わせれば、契約者数も相当になるため、映画や海外ドラマといった映像コンテンツを今まで以上に買い付けやすくなり、これをうまく活用すれば、LISMO Videoやauひかりのコンテンツサービスにも有利になることが考えられる。KDDIは以前からモバイルと固定系ブロードバンドサービスを融合させる「FMBC」を積極的に取り組んできたが、J:COMへの資本参加はFMBC時代へ向けた「コンテンツ事業のための一手」という意味合いも含んでいるのかもしれない。

 

2010年度電波改善宣言でインフラ強化に取り組むソフトバンク

 続いて、27日にはソフトバンクが決算会見を開き、孫正義社長が説明を行なった。昨年の決算会見でも業績の好調ぶりがアピールされ、ボーダフォン日本法人買収による純有利子負債を5年(2014年)で返済できる見通しを明らかにしていた。今年も好調な業績は継続しており、連結ベースで売上高は前期比3.4%増の2兆7634億円、営業利益も29.7%増で過去最高の4658億円を記録している。なかでも移動体通信事業の営業利益はソフトバンク全体の営業利益の半分を超える、前期比52.2%の2609億円を生み出している。

ソフトバンクの孫氏
Twitterでユーザーからの要望を受け、ビジネスに反映させているという

 こうした好調な業績を受け、昨年掲げた「3年間累計1兆円のフリーキャッシュフロー創出」「2011年度末までの純有利子負債半減」「2014年度までの有利子負債ゼロ達成」というコミットメントが十分に実現可能であることがアピールされたが、それと同時に従来よりも大幅に設備投資を増額し、2010年度は前年度の2倍に相当する約4000億円が投じられることが明らかにされた。この背景には孫社長が昨年からTwitterを使いはじめ、多くのユーザーから「ソフトバンクの電波状況を改善して欲しい」という声が多く聞かれたことがあり、それが3月28日の「ソフトバンクオープンDAY」で発表された『2010年度電波改善宣言』に結びついているという。

 企業のトップとして、ユーザーの意見に直接、耳を傾け、それを自社のサービス改善に活かそうとする姿勢は評価すべきだろうが、この件については正直なところ、「じゃあ、今までは何だったの?」という印象も持つユーザーも少なくないだろう。孫社長は記者発表などの席でも常々、自らソフトバンクのケータイ(最近はiPhoneを愛用しているようだが)を使い込み、そこで見つかった改善点や不満点を端末開発やサービス向上に役立ててきたと話していた。もし、本当でそうであるなら、ソフトバンクのネットワーク(電波)がどれくらいつながるのか(つながらないのか)は十分に体験できているはずであり、カスタマーサポートからも電波状況に対する不満は確実に聞こえていたはずだ。にも関わらず、ボーダフォン買収以降、4年連続で設備投資を削減し続け、今の段階になって、「Twitterでユーザーに直接、指摘されたから、設備投資を増額して、電波状況を改善します」と言われて、果たしてユーザーは素直に納得できるだろうか。仮に、自社の電波状況が芳しくないことを体験する場面が少なかったとしてもカスタマーサポートからの声が十分に反映されなかったことがいきなりTwitterでの直訴で実現してしまうのであれば、これは会社としての事業の取り組み方や情報の伝達に疑問符が付くことになってしまう。ユーザーとしては、電波改善宣言をひとまず歓迎したいところだが、今後、本当にソフトバンクが今まで以上につながりやすくなるのかどうかをじっくりと見極めていく必要があるだろう。

 では、具体的にはどのように設備投資をしていくのだろうか。基本的には既存の2GHz帯でカバーするエリアを拡充していくことになるわけだが、基地局数は2006年6月末の2万2000局、2007年7月末の4万6000局、2010年3月末の約6万局と増やしてきたものを2010年度中にはその2倍に匹敵する約12万局にまで増やすという。この12万局には5月10日から受付が開始される「ホームフェムト」や既存の「ホームアンテナ」は含まれていないが、一般的な携帯電話の基地局と中継局の内訳などについては触れられていない。

設備投資額を増やす考えが示された
ウィルコムの基地局設置箇所を利用するという

 また、新たに基地局を設置するとなると、当然、場所の確保が必要になるが、ウィルコムの基地局ロケーションを活用すること、3月末に停波した2Gの1.5GHz帯の基地局を新たに免許を受ける3Gの1.5GHz帯向けに活用することが明らかにされた。まず、ウィルコムの基地局ロケーションの活用については、ソフトバンクとアドバンテッジパートナーズなどが設立する新会社がウィルコムの基地局のロケーションの大半を譲り受け、その一部にソフトバンクの基地局を設置する計画だ。孫社長自ら「天(から恵み)の雨が降ってきた」と語っていたが、ソフトバンクがウィルコムに出資する狙いの1つはここにあったわけだ。ただ、携帯電話の基地局が小型化されたとは言え、基本的にPHSと携帯電話では基地局や設備のサイズが違ううえ、既存のPHS基地局が設置されている場所に、携帯電話の基地局を追加する形になる。さらには、W-CDMA方式の場合、干渉によって、パフォーマンスが大きく低下してしまうことがあるため、周囲の基地局との調整を含め、綿密なエリア設計が求められる。これらのことを考慮すると、ウィルコムの基地局ロケーションの活用がどこまで効果を発揮できるのかは、現時点ではまだ未知数の部分が多いと言わざるを得ない。

 これに対し、1.5GHz帯の基地局の再利用については、基本的に停波した2Gから3Gへのリプレイス(置き換え)になるため、比較的、設置しやすいと言えそうだ。特に、1.5GHz帯は他社の800MHz帯ほどではないものの、現在、ソフトバンクが利用している2GHzに比べれば、電波浸透が良好なため、エリアの改善には寄与することが期待できる。今後、ソフトバンクの端末選びでは、かつてのFOMAがFOMAプラスエリア対応で、使い勝手に差が出たように、1.5GHz帯対応もひとつのカギになってくるかもしれない。もっとも1.5GHz帯は国内のみで割り当てられている3Gの周波数帯であるため、基本的には国内メーカーや日本向けにカスタマイズされた端末のみで利用できることになる。

 1.5GHz帯でのサービスは2010年第4四半期に開始され、通信方式として、「DC-HSPA」を採用することが明らかにされた。DC-HSPAは現在、ソフトバンクやNTTドコモ、イー・モバイルなどが提供するHSPA(HSDPA/HSUPA)を高度化した方式で、下り速度を高速化する方式は「DC-HSDPA」とも呼ばれる。DCは「Dual Cell」の略で、簡単に言ってしまえば、データのダウンロードなど、もっともデータ通信の速度が求められるとき、2倍の帯域を使うことで、下り方向で最大42Mbpsを実現するというものだ。端末はサービスの開始から数カ月後になるとのことだが、DC-HSPAを採用することを考慮すると、1.5GHz帯は、ソフトバンクが現時点で自前のサービスを提供できていない、モバイルデータ通信の定額制サービスを提供しようと考えているのかもしれない。

 ところで、ソフトバンクがエリアの改善を早急に取り組もうとしていることと直接、関係あるとは言えないかもしれないが、ソフトバンクで気がかりなのは解約率の増加とARPUの伸び悩みだろう。

 解約率については、2009年度は通期の解約率が1.37%となっており、前期の1%よりも確実に増えている。これはKDDIの0.85%、NTTドコモの0.46%と比べても明らかに多い。会見の質疑応答では解約率が多かった理由の1つとして、今年3月の2G停波による強制解約が多かった(約54万)ことを挙げていたが、実は3Gだけを見ても2008年度の0.77%から2009年度は1.06%と増えており、必ずしも2G停波による強制解約だけが要因ではないことがわかる。ちなみに、2Gの巻き取り(3Gへの切り替え)については、他社の過去の巻き取りに比べると、DMを送付するのみで、あまり積極的に取り組んでこなかったように見受けられた。会見では孫社長が「(2G停波で強制的に)解約されたお客様は、ARPUが一番低い層のお客様で、経営的な影響はほとんどない」と、2Gユーザーの切り捨てもやむなしと受けて取れるような発言をしていた。確かに、経営効率を考えれば、それでも良かったのかもしれないが、2Gユーザーからはネット上でも不満の声が数多く上がっており、携帯電話事業者として、本当に十分な対応ができていたのか、正しい姿勢で取り組んでいたのかは、少し疑問が残る結果となった。

 ARPUについては、会見の中で2009年度第4四半期に音声ARPUとデータARPUが逆転し、世界で初めてデータARPUが50%を超えたことがグラフで示された。これに加え、ARPUの増減額も前年同四半期比で、他社がマイナスであるのに対し、ソフトバンクはプラスであることも紹介された。しかし、この内容はやや説得力に欠ける印象だ。

ARPU(ユーザー1人あたりからの収入)では通信料が50%を超えた

 ARPU全体で見ると、昨年の決算発表の記事でも触れたように、主要3社の内、ソフトバンクはもっとも総合ARPUが低い。2009年度の通期で見てみると、NTTドコモが前年度比マイナス6.3%の5350円、KDDIが前期比マイナス6.7%の5410円に対し、ソフトバンクは前年度と同じ4070円に留まっている。つまり、前年度同様、他社よりも25%もARPUが低いわけだ。

 会見の冒頭で図示された「ARPU増減額 前年同四半期比」は、他社がマイナスだったのに対し、ソフトバンクは2009年の第4四半期のみ、60円増を記録していることを表わしているのだが、これもケータイWi-Fiやパケットし放題フラットの導入で、今年1月以降、新規ユーザーや機種変更ユーザーが既存の二段階定額からフラット定額プランに変更した(変更せざるを得なかった)ことも少なからず影響しているはずだ。

 裏を返せば、昨年来、「S-1バトル」や「選べるかんたん動画」といったパケット通信料増に結びつく動画コンテンツをかなり積極的に展開し、パケット通信料の定額制サービスを一部、フラット化することで、データARPUを前年度比で280円増に結びつけたが、逆に音声ARPUは270円減で、結果的に差し引きゼロになってしまったわけだ(四捨五入による計算のため、金額に10円の差がある)。

 会見でも紹介されていたように、業界全体として、モバイルデータ通信の伸びが著しいことは確かだが、これだけ動画コンテンツを積極的に展開し、数多くのスマートフォンをラインアップしているにも関わらず、他社に比べ、データARPUがまだ数百円、低いことの方が不思議だ。ちなみに、会見では誰からも異論が出なかったが、「ソフトバンクが世界で初めてデータARPUが50%を超えた」という表現は、モバイルデータ通信サービスを中心に展開しているイー・モバイルがあることを考えると、おそらく間違いではないだろうか。

 

お客様満足度向上とLTE時代へ向けたチャレンジをするドコモ

 大型連休を翌日からに控えた4月28日には、主要三社の最後として、NTTドコモが決算発表の説明を行なった。NTTドコモは国内最大手の携帯電話事業者であるため、MNPの開始以降、どうしてもユーザーの転出が避けられなかったが、それでも2009年度は年間の純増シェアで1位を獲得するなど、安定したユーザーの支持を得ている印象だ。

ドコモの2009年度における解約率

 2009年度の業績については、営業収益が前年比3.7%減の4兆2844億円、営業利益が0.4%増8342億円を確保し、昨年掲げた通期見通しも達成している。大幅な業績向上こそないものの、安定した業績を生み出した背景にあるのは、山田隆持社長が就任以来、くり返し訴えてきた「お客様満足度の向上」にある。それを裏付けるように、ドコモの解約率は2008年度の0.50%をさらに下回り、過去最低となる0.46%を達成し、主要三社の中でもっとも低くなっている。しかも2009年度中、一度も0.50%を超えていないのだから、いかに安定しているのかがよくわかる。同じように、純増シェアも通期でトップとなる31.5%を記録しているが、実は2007年度の12.8%、2008年度の25.5%と、年々、純増シェアを伸ばしてきたことも注目に値する。

 また、ソフトバンクの2G停波やauの新800MHz対応と同じように、NTTドコモも2012年3月のサービス終了へ向けて、ムーバの巻き取り(FOMAへの移行)を進めなければならない。昨年の決算会見の記事では、ムーバは556万の契約(2009年3月末時点)があり、残り3年でFOMAへ移行するのはかなり大変な作業になると指摘した。特に、NTTドコモの場合、元々、保守的なユーザーが多いうえ、早くから全国規模でサービスを展開していたため、地域的にもかなり幅広いユーザー層を抱えているからだ。

 しかし、2009年度は227万ユーザーがFOMAへ移行し、2010年3月末現在、ムーバの契約数を288万にまで減らすことに成功した。NTTドコモの契約数全体に占めるFOMAの割合も89.8%から94.9%まで増加した。契約形態なども異なるため、他社とは一概に比較できないが、ソフトバンクの2G巻き取りに比べれば、順調かつハイペースで移行が進められており、決算会見で掲げられた「2010年度末中には123万台まで引き下げ、FOMA契約率98%を目指す」という目標も十分に達成できそうだ。

端末総販売数
ドコモの山田社長(4月1日のXperia発売時)

 端末の販売数については、2008年度の2013万台から10.4%減の1804万台となり、2010年度はほぼ横ばいの1820万台を目標として掲げた。NTTドコモの端末ラインアップ全体としては、STYLEシリーズが好調な売れ行きを示しているとのことで、今後もユーザーが購入しやすい価格帯のSTYLEシリーズを拡充しつつ、Xperiaに代表されるスマートフォンのラインアップも充実を図っていきたいとしている。Xperiaについては、Android OSのバージョンが1.6をベースにしているが、今秋をメドに2.1へのバージョンアップを予定していることが明らかにされた。同じ時期にはiモードメールの正式サポート、今年度中にはおサイフケータイの導入も検討されており、今秋はNTTドコモのスマートフォン戦略のターニングポイントになる時期なのかもしれない。

 ARPUについては、前年度比6.3%減の5350円で、この内、パケット通信のARPUが2450円を占める。これはKDDIの2260円、ソフトバンクの2050円に比べ、主要三社でもっとも高い。パケット通信料の定額制サービスの契約数は、段階制定額(パケ・ホーダイ ダブルなど)のサービス開始が他社よりも遅かったため、やや加入率が低いと言われていたが、2009年度は契約数全体の63%に相当する3170万契約にまで加入を伸ばし、2010年度は70%を目標に掲げている。パケット通信の利用拡大を目指すため、BeeTVなどの動画コンテンツの拡充に加え、総合UGC(User Generated Content)メディアを今夏にオープンするほか、店頭でも使い方をテキストなどでガイダンスすることで、幅広いユーザー層に使いやすさを訴求していく考えだ。

 こうした通常端末やスマートフォンとは別に、NTTドコモがもうひとつ力を入れているのがPCデータ通信(モバイルデータ通信)の分野だ。データプランの契約数は定額データプランと従量制データプランの両方を合わせると、2008年3月末が53万契約だったのに対し、2009年3月末は約2倍に近い96万契約を達成している。なかでも定額データプランについては、2008年3月末の3倍に相当する55万契約にまで伸ばしており、かなりシェアを拡大していることがうかがえる。

 このデータ通信サービスに関連する部分で、注目されるのが今年12月にサービスが開始される予定のLTEだ。LTEについては、3Gのサービスエリアにオーバーレイする形で東名阪地区から導入し、今年度は約1000局の基地局を設置する予定だ。通信速度は5MHz幅で下り方向が最大37.5Mbps、10MHzの帯域幅が利用できる場所では最大75Mbpsでの通信が可能だ。10MHz帯域幅が利用できる場所は、駅や空港など、屋内が想定されている。ちなみに、ここで示されているLTEの通信速度は理論値であり、実際には同じ基地局内のユーザーで帯域を分け合うことになるため、実効速度は10Mbpsを超え、20Mbps前後程度になるのではないかと予想される。また、LTEは当初、2GHz帯のみでサービスが提供されるが、2012年度第3四半期には1.5GHz帯でのサービスも開始される。端末については、データ通信端末からスタートし、2011年から3Gとのデュアルモードによる音声端末も投入される。これらの状況から考えると、多くのユーザーがLTE対応端末を利用し、本格的にLTEのメリットを享受できるのは、2012年頃が目安ということになりそうだ。

 NTTドコモの決算会見を見て、全体的に言えることは、山田社長自らも述べていたように、ここ数年、事業を進めていくうえでの地固めと種まきをしっかりと行い、今年からは本格的に新しいチャレンジを実行に移していく構えをとっているということだ。そのチャレンジのカギを握るのが端末ではスマートフォン、ネットワークではLTE、サービスではソーシャルサービスや各種業界との融合サービスということになる。特に、スマートフォンでは2012年にスマートフォン市場の販売シェア50%獲得を目標に掲げており、より幅広いユーザー層へ向けたさまざまなスマートフォンやユーザーの求めるサービスが提供されてくることが予想される。

 



(法林岳之)

2010/5/6 13:17