MWC 2011から見える世界と日本のスマートフォンの関わり

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 7」「できるポケット Xperiaをスマートに使いこなす 基本&活用ワザ150」「できるポケット+ GALAXY S」「できるポケット iPhone 4をスマートに使いこなす基本&活用ワザ200」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 2月12日~14日まで、スペインのバルセロナにおいて、携帯電話・モバイル関連では世界最大のイベントである「Mobile World Congress 2011」(MWC 2011)が開催された。すでに、本誌では各社の出展内容をはじめ、プレスカンファレンスや基調講演などについての数多くの現地レポートが掲載されたが、筆者も当地を訪れたので、ここでは全体の流れなどを踏まえながら、レポートをお送りしよう。

世界の携帯電話・モバイル関連企業が集うMobile World Congress

 国内外で開催される展示会やイベントにはさまざまなものがあるが、携帯電話・モバイル関連で世界最大とされるのが「Mobile World Congress」だ。本誌ではここ数年、継続的に現地からのレポートを掲載しているので、読者のみなさんもご存じだろうが、携帯電話の業界団体であるGSMA(GSM Association)が主催し、世界中の携帯電話事業者、端末メーカー、コンテンツプロバイダー、周辺機器メーカー、関連企業が集うイベントとなっている。かつては「GSM World」「3GSM World Congress」などの名称で開催されていたが、2008年からは現在の名称に変更され、スペイン・バルセロナで催されている。

 このMobile World Congressが他の展示会と少し趣が異なるのは、1月に催された「Consumer Electronics Show」(2011 International CES)などの多くの展示会が来場者に一般のコンシューマーを含んでいるのに対し、Mobile World Congressは携帯電話やモバイル関連のビジネスに携わる企業などを対象にしたイベントであり、一般のユーザーを来場者として、あまり想定していないという点だ。もう少しわかりやすく言うなら、Mobile World Congressは製品やサービスを一般ユーザーに「お披露目する展示会」ではなく、企業や関係者による「商談の場」としての展示会に位置づけられている。もちろん、扱う製品は我々が使う携帯電話やスマートフォン、タブレット端末などの製品をはじめ、ソフトウェアやサービス、ソリューションなど、一般のコンシューマーが利用するものが多いのだが、あくまでもそれらを扱う企業や関係者がさまざまな商談をする場所となっているわけだ。少し下世話な話になるが、最低でも「649ユーロ(約7万4000円)」という高額の入場料(出展料ではない)からもイベントの姿勢の一端がうかがえる。

開催前に伝えられたNokiaの変革

Nokia 9210i Communicator

 他の業界のイベントでも同様だが、各業界のトップ企業はこうしたイベントに合わせ、新製品や新サービス、提携などの発表を行うことが多い。たとえば、1月に催された2011 International CESでは、ソニー・エリクソンから「XPERIA arc」が発表され、米VerizonもLTEサービスに対応した端末ラインアップを明らかにした。

 今回のMobile World Congress 2011でも会期前日の2月13日に、後述するソニー・エリクソンとサムスンが同時にプレスカンファレンスを催し、それぞれが新モデルを発表している。2社に続き、会期初日と2日目には、LGエレクトロニクスとHTCも新製品を発表するプレスカンファレンスを開催している。

 しかし、会期開始直前にはもうひとつ印象的な発表があった。それはNokiaが自社製品のプラットフォームとして、Windows Phone 7を採用するというニュースだ。今さら説明するまでもないが、Nokiaは世界最大の携帯電話メーカーであり、GSMを中心とした携帯電話業界を長くリードしてきた企業のひとつだ。ここ数年、急速に拡大してきた「スマートフォン」と呼ばれるカテゴリーの製品も元を正せば、1990年代後半に登場した「Nokia Communicator」がその先駆け的な存在だという指摘もある。そして、Android登場前まではスマートフォンのプラットフォームとして、もっとも広く利用された「Symbian」を提供してきたことでも知られる。残念ながら、日本市場からは完全撤退してしまったが、欧州を中心とした海外市場では相変わらず、強い影響力を持ち、昨年は米Intelとともに「MeeGo」と呼ばれるLinuxベースのプラットフォームを打ち出すなど、新しい方向性を模索していた。

 その携帯電話業界、あるいはGSM業界での象徴的な存在であるNokiaがパソコン業界をリードしてきた米Microsoftと提携し、Windows Phone 7を採用しようというのだから、これは業界関係者ならずとも驚かずにはいられない。あくまでも個人的な印象に過ぎないが、Nokiaを中心とした携帯電話業界は、長くMicrosoftやIntelといったパソコン業界の企業と相対する形で、独自の世界を築いてきた。ビジネスの上では少なからず関わりはあるが、それでも業界全体のマインドとしては、別世界の企業というスタンスで相対し、それぞれの文化や考え方の違いから、時として牽制し合うことも多かったという印象だ。MicrosoftやIntelといったパソコン業界の企業が携帯電話業界に深く関わろうとしても携帯電話業界は拒絶するか、敬遠するような姿勢を見せていたような印象すらある。「敵」というほど厳しい表現はないが、少なくともNokiaから見れば、パソコン業界はそれに近い存在であり、あまり積極的にパートナーシップを結びたくなるような相手ではなかったはずだ。

 今回、発表された内容では、Nokiaの端末ラインアップにWindows Phone 7採用端末を加えるとし、同社が元々、提供してきたSymbian採用端末についても一定期間、継続的に使うとしている。ただ、Symbianについては、すでにオープンソース化によるSymbian Foundationへの提供Symbian Foundationの解散など、紆余曲折を経ており、今後も開発が継続されるかどうかは微妙な状況にある。それは言うまでもなく、Googleを中心としたOHA(Open Handset Alliance)による「Android」が普及しはじめ、プラットフォームとしてのSymbianの拡大に期待する携帯電話事業者や端末メーカーが少なくなりつつあることも関係している。当面は現在、利用されているSymbian採用端末(と言っても大半がNokia製品)をサポートする必要があるため、いきなり切ってしまうことはないだろうが、Symbianから事実上、撤退したソニー・エリクソンなどのように、Nokia自身も数年をかけて、プラットフォームを移行することになるのかもしれない。

 いずれにせよ、NokiaとMicrosoftの提携、Windows Phone 7採用端末の開発は、Nokiaという代表的な企業を中心としてきた携帯電話業界の流れがひとつの節目を迎えたことを表わす動きと言えそうだ。

新しい世界にチャレンジするソニー・エリクソン

Xperia PLAY
国内投入されるXPERIA arc(Sakura Pink )

 NokiaとMicrosoftの提携という象徴的な発表があったMWC会期直前だが、前日にはソニー・エリクソンとサムスンがそれぞれプレスカンファレンスを催した。ほぼ同時刻の開催であるだけでなく、会場も離れているため、両方に出席することは事実上、不可能であった。ちなみに、NokiaとMicrosoftも同じタイミングで会見を行っており、プレス関係者には頭の痛い一日だったと言えそうだ。

 かく言う筆者もどの会見に出るのかを悩んだが、今回はソニー・エリクソンのプレスカンファレンスに出席することにした。発表の詳細な内容については、当日のレポート記事が掲載されているので、そちらを参照していただきたいが、2011 International CESで発表された「XPERIA arc」に続き、PlayStation Suiteを採用した「XPERIA Play」、コンパクトなボディにまとめた「XPERIA neo」、フルキーボードを搭載した「XPERIA Pro」の3機種が発表された。

 XPERIA Playについては、PlayStation Suite採用第1弾というのが特徴だが、スライド式のボディに装備されたゲームコントローラー部分の操作性も非常に良好で、ゲームそのものも試用したタイトルは限られているものの、ストレスなく、楽しむことができた。PSPに比べると、横向きに持ったときの幅が狭いため、まったく同等というわけにはいかないが、左右の人差し指で押すL1キーとR1キーも自然な位置に備えられており、XPERIA Playがスマートフォンであることを忘れさせてくれるほどの快適な操作環境を実現している。ゲームコントローラー部分を本体に格納すると、通常のフルタッチスタイルのスマートフォンとして利用できるが、スライド式ボディを採用しているほどの厚みを感じさせず、ごく自然に持ち歩き、フルタッチスタイルで利用できるように仕上げている。

 スマートフォンでひと昔前のPlayStationのタイトルがほぼそのまま楽しめるというのは、ちょっと驚かされる面もあるが、これはXPERIA Playに搭載されているSnapdragon MSM8255のCPUパワーがフルに活かされていること、Android 2.3で新たにNDKと呼ばれるネイティブ環境が利用できるようになったことが大きく影響している。今までケータイやスマートフォンなど、さまざまなモバイルツールでゲームの環境が提案されてきたが、今回のXPERIA Playの環境はパフォーマンスもタイトルも「ホンモノ」であり、かなり遊べる環境が提供されたと言えそうだ。

 XPERIA Playについては、日本のユーザーには直接、関係ないものの、もうひとつ重要な発表があった。それはXPERIA Playを最初に提供する携帯電話事業者が米Verizonであるということだ。米Verizonと言えば、2011 International CESで「4G LTE」と銘打ったサムスン、LGエレクトロニクス、HTC、モトローラといったトップメーカーによるLTE採用端末のラインアップを公開し、その翌週にはかねてから噂されていた「CDMA版iPhone 4」の発売を発表するなど、ここに来て、非常にアグレッシブに事業を展開している。そして、今度は世界中のゲームユーザーが関心を寄せるXPERIA Playを販売する最初の携帯電話事業者になるのだから、米Verizonユーザーとしては端末だけでもかなり目移りしそうな状況になりそうだ。このXPERIA Playが米Verizonから販売を開始することになった背景には、ソニー・エリクソンが欧州に比べ、北米市場にあまり強くないということも関係しているという。

 気になる国内展開については、今のところ、何もアナウンスされていないが、W-CDMA版の他に、米Verizon向けのCDMA版が存在するということで、国内向けは主要3社とも販売する可能性があることになる。NTTドコモ向けには2月24日にXPERIA arcが供給されることが発表されたが、もしかすると、au向けにはXPERIA Playが供給されることもあり得るのかもしれない。というのもauの800MHz帯は米Verizonなどと帯域の割り当てが異なるため、従来は海外向け端末のローカライズが難しかったが、2012年に移行が完了する新800MHz帯では帯域の割り当てが一部、共通化されるため、従来よりもローカライズがしやすいという指摘もあるからだ。いずれにせよ、今後の展開が非常に注目される端末であることは間違いない。


Xperia neoXPERIA Pro

 XPERIA neoについては、従来のXPERIA X10のバリエーションとして、XPERIA X10 miniなどが存在したことからもわかるように、XPERIA arcのコンパクトなバリエーションモデルという位置付けだ。こうしたコンパクトなサイズの端末は欧州を中心に根強い人気があり、そのニーズに応える製品ということになる。ハードウェアのスペックはディスプレイなどを除き、XPERIA arcに近いが、背面パネルはフィット感を重視したフォルムで、手の大きくない女性にも持ちやすいデザインという印象だ。今回公開されたモデルには日本語フォントや日本語入力システム「POBox Touch」も搭載され、対応周波数なども日本で利用されている800MHzがカバーされているが、XPERIA X10 miniなどが販売されなかったことを考慮すると、国内向けの販売は五分五分といったところだろうか。

 XPERIA ProはXPERIA neoとほぼ同じスペックで、背面側にスライド式のフルキーボードを備えたモデルだ。ボディサイズも長さ(横向きに持つから幅とも言えるが……)がわずかに長いものの、フルキーボードを備えながらもXPERIA neoと変わらないサイズにまとめている。コンパクトなボディのフルキーボード端末はどうしても操作性が苦しくなってしまう傾向にあるが、独立した個々のキーの間隔も広く、見た目以上に打ちやすいという印象だ。ただ、これは英語キーの話であって、国内向けとなると、キーボードの日本語化も必要になるため、国内向けの販売は少し難しいかもしれない。ただ、こうしたフルキーボード付きの端末は、メールやチャットの文化が根付いている国や地域で支持される傾向があるため、今後の国内市場の動向によっては、投入される可能性がまったくないとは言えなさそうだ。

 ソニー・エリクソン全体としては、やはり、昨年のXPERIAの成功を受け、Androidをメインプラットフォームに位置付け、ソニーグループとの連携を強めつつ、スマートフォン路線を拡大していこうという姿勢がうかがえる。国内向けは今のところ、XPERIA arcがNTTドコモ向けに供給されることが明らかにされたが、今後、市場の反響次第では他のXPERIAシリーズも登場することになるかもしれない。

GALAXYを新しいステージに進化させるサムスン

GALAXY S II

 昨年、国内市場において、一気に認知度を向上させたスマートフォンと言えば、やはり、サムスンのGALAXYシリーズだろう。海外メーカーとしては、比較的、古くから国内市場に参入していたが、グローバル市場とはあまり関係のない製品を展開していたため、ユーザーから見ると、グローバルはグローバル、日本は日本という印象が強かった。しかし、NTTドコモからGALAXY SとGALAXY Tabが発売され、一定の成功を収めたことで、今後はサムスンのグローバル市場で展開する製品が日本で展開される可能性もグッと高まったことになる。

 サムスンは前述のように、今回のMWC 2011の会期直前、ソニー・エリクソンとバッティングする形でプレスカンファレンスを開催し、そこでGALAXYの新モデル「GALAXY S II」「GALAXY Tab 10.1」を発表した。基本的なスペックなどは本誌レポートを参照していただきたいが、ネーミングからもわかるように、GALAXY S IIはGALAXY Sの進化形であり、GALAXY Tab 10.1はGALAXY Tabのバリエーションという位置付けになる。

 まず、GALAXY S IIについてだが、従来のGALAXY Sの基本コンセプトを継承しながら、デザインやサイズの面で大きく変化させている。ディスプレイは従来の4インチよりもひと回り大きい4.27インチを採用し、ボディサイズもひと回り大きくなった印象だ。実際に手に持ったときのサイズ感としては、筆者のように手の大きなユーザーが片手で持ったとき、親指で対角上にあるアイコンにタッチできるかどうかというレベルだ。もしかすると、女性の手には少し大きすぎるかもしれないが、それでも薄さ8.49mmで116gというスリムで軽い仕上げとなっている。

 プラットフォームについては、Android 2.3をいち早く採用し、CPUは1GHzの Dual Core Application Processorを採用する。このデュアルコアのアプリケーションプロセッサーについては、スペックシートにも詳しい記述がないが、おそらくサムスンの半導体部門が開発を進めていた「Orion」という開発コードのデュアルコアプロセッサーのひとつで、ARM Cortex A9を搭載した「Exynos4210」と呼ばれるチップセットのようだ。

GALAXY Tab 10.1

 一方、GALAXY Tab 10.1については、その名の通り、10.1インチのTFTカラー液晶ディスプレイを搭載したタブレット端末で、プラットフォームはAndroid 3.0(Honeycomb)が採用されている。CPUはGALAXY S II同様、「1GHzの Dual Core Application Processor」と記述されていることから、GALAXY S IIと同じExynos4210が搭載されていると推察される。ディスプレイサイズが大きいため、GALAXY Tabとは明らかに違うカテゴリーの商品ということになるが、ライバルに位置付けられるiPadと比べると、重量が599gと少し軽く、薄さも10.9mmに抑えており、ポータビリティに優れているという印象だ。GALAXY Tabが「大きなスマートフォン」というイメージであるのに対し、GALAXY Tab 10.1は「スリムに仕上げたタブレット端末」「ディスプレイのみのネットブック」のような雰囲気だ。

 ところで、GALAXY Tab 10.1で採用されているHoneycombについてだが、本誌のニュースでも説明されているように、タブレット端末向けとして、新たに開発されたプラットフォームということになる。そのため、ユーザーインターフェイスもスマートフォン向けのAndroid 2.xなどとはまったくの別物で、最初は操作を始めるのにすら戸惑ってしまう。特に、Android 2.xではホーム、バック、メニューという3つのキーがハードウェア、もしくはタッチセンサーで装備されていたが、Honeycombではこれもディスプレイ上に表示されるようになり、メニュー一覧なども画面右上のアイコンから表示するなど、少しお作法も違っている。

 この他にもWi-FiモデルのGALAXY Sなどが発表されたが、現実的に日本で販売される可能性があるとすれば、やはり、GALAXY S IIとGALAXY Tab 10.1が最も有力であり、昨年の経緯から考えてもNTTドコモから発売されるのが自然な捉え方だろう。ただ、Android 3.0については、まだ未知数の部分が多いうえ、プラットフォームを開発するリードメーカーはOptimus Padを発表したLGエレクトロニクスだと言われているため、日本向けの発売については、GALAXY S IIが先行し、GALAXY Tab 10.1がこれに続く形になると推察される。ちなみに、過去にも触れたことがあるが、GALAXY Sはグローバル向けモデルと日本向けモデル(及び韓国向けモデル)で異なるベースバンドチップセットを採用した例があるため、ハードウェア面でこうした差異が必要とされてくると、日本でのGALAXY S IIの発売時期はもう少し時間が掛かるかもしれない。

Optimus Padと3Dで新たな展開を狙うLGエレクトロニクス

ドコモから発売されるOptimus Pad L-06C

 MWC 2011会期前日のソニー・エリクソンとサムスンに続き、会期初日にはLGエレクトロニクスのプレスカンファレンスが開催された。LGエレクトロニクスは1月に開催された2011 International CESにおいて、NVIDIA製デュアルコアプロセッサ「Tegra 2」を搭載したハイスペックスマートフォン「Optimus 2X」とミッドレンジ向けスマートフォン「Optimus Black」を発表していたが、今回はこれに加え、3D液晶とデュアルカメラを搭載した「Optimus 3D」、Android 3.0(Honeycomb)を搭載した8.9インチのタブレット端末「Optimus Pad」を発表し、合計4モデルによるラインアップを積極的にアピールしている。

 LGエレクトロニクスというと、数年前に日本市場に参入して以来、日本のユーザーに合わせた製品を投入してきたため、今ひとつグローバル市場でのインパクトが日本で認知されていないが、MWC 2011で見ていてもソニー・エリクソンやサムスン、モトローラなどと並ぶトップブランドとして認知されており、会場のタッチ&トライコーナーも常に盛況という人気ぶりだ。スマートフォンではNTTドコモの冬春モデルとして、Optimus chat L-04Cの発売が控えており、今後はスマートフォンやタブレット端末のラインアップが国内向けにも広く展開されてくることが期待される。

 今回発表された製品で、もっとも注目されるものと言えば、やはり、Android 3.0(Honeycomb)を採用したタブレット端末「Optimus Pad」だろう。MWC 2011終了後、2月24日に催されたNTTドコモの発表会で、3月下旬に国内向けに投入されることが明らかにされたが、考えてみれば、グローバル市場で発表されたばかりのモデルがその翌月下旬までに国内市場向けに投入されるというスピード感はかつてなかったものと言えるだろう。

 製品については、8.9インチというサイズのディスプレイを搭載したタブレット端末ということになるが、プレスカンファレンスのプレゼンテーションでも7インチと10インチのタブレット端末を引き合いに出し、「ちょうどいいサイズ」であることを積極的にアピールしていた。日本市場でのLGエレクトロニクスの印象からはちょっと想像できないほど、アグレッシブというか、ひねりの効いたプレゼンテーションが印象的だった。実機のサイズ感については、筆者をはじめ、男性であれば、片手で鷲づかみするように持つことができるサイズにまとめられているが、重量が630gと、このクラスにしてはある程度、抑えられているのも持ちやすい理由と言えそうだ。

 Optimus Padがもうひとつ特徴的なのは、背面に2基の500万画素カメラを装備し、3Dムービーの撮影を可能にしている点だ。3Dについては、映画「アバター」などをはじめ、数多くのコンテンツが登場し、昨年は家庭用テレビでも3D対応モデルが注目を集めたが、今までの3D対応コンテンツは基本的にプロが作った映像を視聴するに留まっている。当然のことながら、ユーザーとしては、3Dも「見る」だけではなく、「撮る」「共有する」という使い方を求めてくる。そこで、Optimus Padには2基のカメラが装備され、ユーザー自身が3D対応の写真やムービーを撮影できるようにしているわけだ。ただ、Optimus Padに搭載されているディスプレイは、3D液晶ではないため、撮影した写真やムービーはHDMIケーブルで接続したテレビに映し出して、楽しむことができる。3Dの出力も一般的な「side by side」だけでなく、古くから利用されている赤と青のフィルムを利用した疑似立体表示にも対応するという。

 ハードウェアのスペックは、Optimus 2Xに続き、NVIDIA製デュアルコアプロセッサ「Tegra 2」を搭載し、プラットフォームはAndroid 3.0(Honeycomb)を採用する。パフォーマンスについては、特にこれといったストレスもなく、ブラウザにしてもサンプルムービーなどにしても問題なく、利用することができた。ただ、プラットフォームがAndroid 2.xを採用したスマートフォンと異なるため、一概に比較できない面があることも確かだ。また、タッチ&トライコーナーで提供されているデモ機は、基本的に充電ケーブルが接続された状態で試すため、CPUの熱なのか、やや背面が熱く傾向があった。

3D液晶を搭載したデュアルコア端末「Optimus 3D」

 一方、「Optimus 3D」は裸眼で立体視が可能な3D液晶と3D写真及びムービーの撮影が可能な2基のカメラを装備しており、本体のみで3Dの世界を堪能することができる。3D液晶を搭載したスマートフォンとしては、すでに国内ではシャープがLYNX 3DとGALAPAGOS 003SH/005SHの3機種をリリースしているが、2基のカメラを搭載し、3D対応の写真及びムービーの撮影にも対応したモデルという意味では、世界初ということになる。3D液晶については、シャープ製端末と同じ視差バリア方式を採用しているが、LGエレクトロニクス関係者によれば、自社製の3D液晶とのことだ。

 ハードウェア面ではCPUとして、1GHzで動作するTexas Instruments製OMAP4を採用しているのが注目される。スマートフォンのCPUでは米QUALCOMMのSnapdragonが広く採用されてきたが、ここに来て、Optimus Padなどに採用されているNVIDIA製Tegraシリーズを採用する製品が登場している。OMAPシリーズについては、通常の携帯電話で広く採用されてきた実績があるが、Optimus 3Dを機に、スマートフォンでも採用例を増やしたいところだろう。また、ボディについては、ディスプレイサイズが4.3インチと大きく、手の大きくない人には扱いづらそうな印象だが、ボディそのものがスリムなため、それほどストレスを感じることはない。

 国内向けの販売については、今のところ、2月24日にNTTドコモから「Optimus Pad」の発売がアナウンスされたが、2011 International CESで発表されたものを含めた3台のスマートフォンについては、残念ながら何もアナウンスされていない。ただ、いずれのモデルも会場のタッチ&トライで試した限り、パフォーマンスだけでなく、質感や仕上がりも含め、十分に日本市場でも通常する製品だという印象を得ている。最終的には、各携帯電話事業者の判断になるのだろうが、フルタッチスタイルのスタンダードなスマートフォンも日本市場向けに投入して欲しいところだ。

グローバル市場も主戦場はスマートフォン&タブレット端末

「HTC Flyer」を手にするHTCのCEO ピーター・チョウ氏

 その他の企業についても少し補足しておこう。まず、スマートフォンのグローバル市場では高いシェアと注目度を持つHTCも会期中にプレスカンファレンスを催したのだが、残念ながら、事前申し込みの段階で拒否されてしまったため、今回は内容を見ることができなかった。ただ、本誌でも触れているように、既存製品の後継モデルに位置付けられる「HTC Desire S」「HTC Wildfire S」「HTC Incredible S」の3機種、『Facebookケータイ』と銘打たれた「HTC ChaCha」「HTC Salsa」の2機種を発表し、これらに加え、タブレット端末「HTC Flyer」も合わせて、明らかにしている。

 HTCも他社に負けじと豊富なラインアップを揃えたわけだが、既存モデルの後継3機種についてはデザイン的にも非常に似通っており、今ひとつそれぞれの個性が発揮できていないような印象も残った。HTCとしてのデザインの統一性やセンスは優れているのだろうが、やはり、ケータイがそうであったように、スマートフォンも「他人と同じものは……」という考えが自然と出てくるもので、そうなったときに、現在のようなHTCのデザインバリエーションでいいのかどうかは疑問が残る。ちなみに、会場内のタッチ&トライコーナーでは多くの来場者がHTC製スマートフォンを手に取り、「これはどの機種?」「あっちと何が違うの?」といった質問を説明員に投げかけているシーンを何度となく見かけてしまった。

 また、各社のスマートフォンやタブレット端末の新製品ラッシュは、非常に面白いのだが、そことはまた違った次元で注目されるのがスマートフォンに搭載されるCPUやベースバンドチップの争いだ。スマートフォンのCPUやベースバンドチップセットとしては、米QUALCOMMのSnapdragonがひとつのブランドになりつつあるが、米QUALCOMMでは今後のロードマップを公開し、新しいアーキテクチャを採用した「Krait」というラインアップを展開することを明らかにしている。

 これに対抗するのが前述のOptimus Padに搭載されているNVIDIAのTegra 2シリーズということになる。今のところ、採用例はあまり大きくないが、低消費電力などのアドバンテージもあるため、今後、採用端末が増えることになりそうだ。

 スマートフォンやタブレット端末の快適性を向上させるため、より高速なCPUやアプリケーションプロセッサが登場してくることは、ユーザーとしても望むところだが、スマートフォンなどのモバイル機器はどうしてもバッテリー駆動時間とのトレードオフということになるので、かつてのパソコンのCPU/GPU競争のように、ベンチマーク結果に一喜一憂するような状況にはならないで欲しいところだ。

 この他にも注目される展示や数多くの発表があったのだが、MWC 2011を通して、業界全体から強く伝わってきたことは、やはり、「これからの主戦場はスマートフォンとタブレット端末である」というメッセージだ。「何を今さら……」と言いたくなるかもしれないが、日本でメディアを通して伝えられる情報だけを見ていると、グローバル市場はすでにスマートフォン全盛で、日本はようやく昨年末からスマートフォンに移行し始め、追いかけているような印象を持ってしまう。

 しかし、実際のところはグローバル市場においてもスマートフォンやタブレット端末、それに関連する半導体やソリューションなど、さまざままビジネスがまさにこれから展開し始めようとしている時期という印象だ。そういう意味においては、NTTドコモをはじめ、NECカシオや富士通東芝、シャープなどの国内メーカー、コンテンツプロバイダ、ソフトウェアベンダーも再びグローバル市場で戦うチャンスが巡ってきたという見方もできる。これまで関連性が今ひとつ乏しかったグローバル市場と国内市場は、スマートフォンとタブレット端末の時代を迎え、より密接に影響し合う時代を迎えることになりそうだ。

 



(法林岳之)

2011/2/25 22:46