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幅広いユーザー層を狙う国内のAndroidスマートフォン

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 7」「できるポケット Xperiaをスマートに使いこなす 基本&活用ワザ150」「できるポケット+ GALAXY S」「できるポケット iPhone 4をスマートに使いこなす基本&活用ワザ200」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 各社から発表された夏モデルもいよいよ最終グループが発売されたが、今夏はハイエンドモデルだけでなく、今までよりも幅広いユーザー層へ向けたスマートフォンが増えてきている。なかでも女性ユーザーを強く意識したモデルが目につくが、今回は筆者が購入した新機種の印象なども踏まえながら、スマートフォンのユーザー層拡大について、考えてみよう。

新しいユーザー層を目指す国内メーカー製スマートフォン


AQUOS PHONE f SH-13C、F-12C、P-07C

 今夏は震災や節電の影響もあり、変則的な夏休みだったという。通常なら、お盆の前後に数日間、休む程度だったものが、日程をずらして、例年よりも多めに休みを取ることができた企業が多いそうだ。筆者のような自営業に対しては、例年同様、「じゃあ、休み明けには、仕上げておいてくださいね」という厳しいオーダーが寄せられるのだが、それでも今年は周囲の人たちが旅先の写真などをTwitterやFacebookに投稿していたりして、いつになく、夏休みを間接的に身近に感じられる日々だった。

 そんな夏休みが明け、久しぶりに顔を合わせてみると、手にしているケータイがスマートフォンになっているようなケースも少なくない。特に、今夏は国内外のメーカーのAndroidスマートフォンが出揃ったこともあり、フィーチャーフォンから乗り換えるチャンスと捉えるユーザーも多く、販売もかなり好調なようだ。なかでも8月に入り、各社から発表、発売されたスマートフォンは、今までのスマートフォンとは少し方向性を変え、新しいユーザー層への拡大を狙っているようだ。

 たとえば、NTTドコモからは、8月6日にシャープ製の「AQUOS PHONE f SH-13C」、8月7日に富士通東芝モバイルコミュニケーションズ製「F-12C」、8月13日にはパナソニック製「P-07C」が発売された。いずれも夏モデルの発表会では開発中で、十分に実機を試せなかったため、今ひとつ内容が十分にお伝えできなかったが、個人的にも端末を購入したので、補足する意味も含め、それぞれの端末の特徴と印象を簡単に説明しておこう。

AQUOS PHONE f SH-13C

 携帯電話本体への搭載は世界初となるWPC規格準拠のワイヤレス充電に対応したスマートフォンだ。端末背面の「qi(チー)」のマークの部分をパッケージに付属のワイヤレスチャージャーに置くだけで充電できる。

 しくみは電池パックとワイヤレスチャージャーの両方に内蔵されたコイルを使い、電磁誘導によって、充電する。あまり利用頻度は高くないが、購入から数週間、実際に使ってみたところ、充電の度に外部接続端子のキャップを開け、microUSBケーブルを挿すという作業をしなくて済むため、スマートフォンを使うストレスが一段、減ったという印象だ。

 ただ、自宅などに限って言えば、筆者のように、机の上を平面的に散らかしてしまうような人(笑)は、ワイヤレスチャージャーそのものを置く場所が確保できなかったり、他のモノで埋まってしまうかもしれないので、少し注意が必要だ。外出先でのワイヤレス充電環境は今後の普及に期待したいが、通常のmicroUSB端子も備えられているため、在宅時はワイヤレス充電、外出時に電池残量がピンチになったら、microUSBケーブルと充電池という使い方ができる。ちなみに、同じWPC規格に準拠したワイヤレス充電対応製品は、パナソニックや日立マクセルなど、数社から販売されており、商品の種類もワイヤレスチャージャーだけでなく、充電池やiPhone 4用ジャケットなどがラインアップされている。

 SH-13Cがもうひとつ特徴的なのは、ボディ幅が約60mmとコンパクトで、防水防じん
対応という点だ。今夏は各社のスマートフォンが出揃ったが、女性を中心に防水への関心は高く、先に発売された「MEDIAS WP N-06C」は好調な売れ行きを記録している。SH-13Cはコンパクトなボディに、厚さも約10.9mmとスリムなため、発売前から販売店には問い合わせが多かったという。筆者も購入後に、何人かの女性に実機を触ってもらったが、持ちやすいという声が多く、防水防じん対応と聞くと、かなり真剣に購入を検討する人が多かったようだ。

 ただ、SH-13Cには気になる点もある。ひとつはワンセグに対応していないこと、もうひとつはFOMAカード(ドコモUIMカード)がmicroSIMタイプであるということだ。ワンセグの有無については、それほど視聴のチャンスが少ない人でも今年は震災の影響もあり、「無いよりはあった方がいい」という意見が多く、購入を躊躇する要因になるようだ。

 むしろ、厄介なのはmicroSIMカードで、販売店などでは「SIMカードのサイズが異なるため、元の機種に差し替えて使えない」という説明を受け、購入を諦めてしまうこともあるという。実際には、microSIMカードをSIMカードサイズにするためのアダプターもオンライン販売などで購入できるのだが、あまり品質がいいものがなく、元の機種のSIMカードスロットの形状によっては、うまく抜き差しできなかったり、アダプターが引っかかって、取れなくなってしまうこともある。現に、筆者もこのトラブルで、端末を修理に出した経験がある。ましてや、はじめてスマートフォンを購入しようというユーザーにとって、「元の機種に差し替えて使えない」という言葉は不安を持たせるものであり、周囲の人や販売店のていねいな説明がなければ、マイナス要因になってしまいそうだ。

 ただ、端末そのものは、今夏に発売された他のAQUOS PHONE同様、シャープ製Android端末らしい細かな配慮がそのまま継承されており、日本のユーザーのことをよく考慮したスマートフォンに仕上げられている。


  qi対応製品

F-12C

 らくらくホンをはじめ、使いやすい端末を開発してきた富士通が手掛ける初のAndroidスマートフォンだ。開発会社である富士通東芝モバイルコミュニケーションズとしては、すでに「REGZA Phone」をNTTドコモ向けとau向けに供給しているが、富士通ブランドしては初ということになる。

 当初、発表会で試用したときはあまりいい印象がなく(そもそも機種数が多すぎて、十分に試せないのだが……)、発売時期が遅かったこともあり、今ひとつ興味を持てなかったが、書籍を執筆する関係もあって、発売前に時間を取って、いろいろと試すことができ、個人的な印象がかなり変わったモデルだ。

 まず、ボディは英国王室御用達のトラベルケースのブランド「GLOBE TROTTER」とのコラボレーションにより、他のスマートフォンにはない「品のいい」デザインに仕上げられている。スマートフォンはどちらかと言えば、ビジネスツールっぽさが感じられるデザインが多いが、F-12Cは今までのスマートフォンと少しテイストが違い、大人の男女が持っても似合う落ち着きのある仕上がりという印象だ。INFOBARのような独特の世界観、iPhone 4のようなソリッドな美しさに比べると、もう一歩を期待したいところもあるが、それでも今までのスマートフォンにはない大人っぽいデザインセンスは目を引く。

 ボディサイズも幅が約60mmとコンパクトで、SH-13C同様、女性や手の小さい人にも持ちやすい。特に、ボディ周囲がラウンドしているため、手に持ったときのフィット感は非常に良い。

 もうひとつのポイントは、使いやすさへの配慮だ。F-12Cは誰にでも使いやすいというユニバーサルデザインを強く意識したスマートフォンとなっており、随所に細かい工夫が見られる。たとえば、ディスプレイサイズは約3.7インチと標準的なサイズだが、フォントサイズや周囲との間隔がうまくデザインされており、非常に見やすい。筆者は幸い、普通に裸眼で字が見られるが、F-12Cは筆者と同世代の40代以上のユーザーでもストレスなく、メールやWebページを見ることができそうだ。

 ただ、こう書いてしまうと、富士通自身がらくらくホンを手掛けてきたこともあり、「F-12Cはスマートフォン版らくらくホン?」という捉えられてしまいそうだが、シニア向けという位置付けではなく、30〜40代以上の大人のユーザー、スマートフォンがはじめてのユーザーでも見やすく、使いやすいというのが本来のコンセプトだ。販売店によれば、カタログや実機などで説明していても誤解されるケースが多いという。

 逆に、らくらくホンなどで培われてきたノウハウを活かした機能も多い。たとえば、おなじみの音声処理技術を活かし、相手の声が聞きやすい「スーパーはっきりボイス」、行動を検知して聞きやすくする「ぴったりボイス」が搭載されているが、年齢に合わせ、高音部分を調整する「あわせるボイス」も搭載される。こうした技術は、やはり、日本のケータイで培われてきたものであり、実際に使ううえでもかなり役立つという印象だ。

 また、細かい使いやすさについては、機能だけでなく、ユーザーが感知する端末内のエフェクトの部分にも配慮されている。たとえば、タッチパネルは触れたときに弱い振動が返ってくるフォースフィードバックが実装されているが、それに加え、ホーム画面などでは画面上にうっすらと波紋が拡がるように反応を表示して、視覚的にもタッチしたことがわかるように配慮している。この他にもホーム画面やアプリケーションメニューなどを左右にスライドさせるとき、続きが有無を画面エフェクトで演出するなど、さまざまなシーンで細かい工夫が施されている。

 防水防じん対応もはじめてスマートフォンを購入するユーザーにとって、安心できる要素のひとつであり、卓上ホルダもちゃんと同梱されている。背面の電池カバーの合わせが今ひとつなのか、ちょっと筐体が軋むような印象があるのは気になるが、背面内部の構造を見ると、電池パック装着部周囲の凹みにゴムパッキンが当たる構造になっているようで、今のところ、数回、水につけた範囲では問題なく、利用できている。

 もうひとつ気になる点としては、ワンセグがないことだろう。ないことのデメリットはSH-13Cと同じだが、こういう幅広いユーザー層を狙った端末だからこそ、搭載して欲しかったという気もする。ただ、全体的に見ると、意外に(と言っては富士通に失礼だが……)仕上がりのいいスマートフォンであり、今春から今夏に掛けて登場してきた後発の国内メーカーの中ではもっともバランス良くまとめられたモデルのひとつと言えそうだ。



P-07C

 パナソニックとしては初となるAndroidスマートフォンだ。NTTドコモ向けに端末を供給してきた国内メーカーでは、発売日順で考えても最後発ということになる。
 「マイ・ファースト・スマートフォン」というキャッチコピーに加え、8月に入ってから集中的に放映されているテレビCMなどからもわかるように、はじめてスマートフォンを持つ女性ユーザーをターゲットにしたモデルだ。とは言うものの、ボディカラーにはブラックもラインアップされており、男性にも持つことができるデザインだ。

 P-07Cは実機を購入してからの時間が短いため、まだ十分に試すことができていないが、実機を手に取って、最初に感じるのは女性ユーザーをターゲットにしたと謳いながらもボディサイズが大きいことだ。幅約67mm、高さ約128mm、厚さ約14.0mmというサイズは、NTTドコモが今夏にラインアップするスマートフォン(タブレット端末を除く)でもっとも大きい。ただ、背面のラウンドフォルムにより、手に持ったサイズ感はAQUOS PHONE SH-12CやXperia acro SO-02Cなどに近い。ディスプレイサイズが約4.3インチと大きいため、どうしてもこれくらいのサイズになってしまうのだろう。デザイン的にはボディ周囲のグラデーションレイヤーが控えめにカラーを主張する程度で、あまり個性を強く主張しない仕上がりだ。

 P-07Cで注目されるのは、画面の左右半分に円に沿ってメニューアイコンが表示されるタッチスピードセレクター、文字入力時の表示サイズや表示位置が変更できるフィットキーだろう。タッチスピードセレクターについては、右手用と左手用が用意され、それぞれにロック解除画面と連動する形で表示されるが、はじめてのユーザーが使いはじめることを考えたとき、アプリケーションが一覧で表示された方がいいのか、ある程度、絞り込まれたアプリが並んでいる方がいいのかは、ちょっと意見の分かれるところだ。

 フィットキーについては、発表会レポートのときも触れたように、思わず「この手があったか」と言いたくなるようなアイデアで、P-07Cのボディサイズの大きさを感じさせないという意味でも注目される。しかもキーパッドをデコレーションできる機能なども非常に面白い取り組みであり、今後、女性ユーザーを意識したスマートフォンではひとつのトレンドになってくるかもしれない。

 ただ、ちょっと気になるのは、タッチパネルのレスポンスだ。タッチスピードセレクターなどの操作をしているときは、それほど気にならないのだが、文字入力などをはじめると、どうも今ひとつレスポンスが良くないことが気になる。この点については、発表会以降、何度か端末に触れる機会があり、その度に少しずつ改善された印象を得ていたものの、他機種と比較すると、製品版でも今ひとつタッチパネルのチューニングが足らないという印象が残った。もちろん、筆者は多くのスマートフォンを試し、一般的に「レスポンスが良い」と言われているスマートフォンを普段から使っているため、本当の意味での「はじめてのユーザー」の気持ちを語れないのかもしれないが、それを差し引いてもP-07Cにはもう少し頑張って欲しいというのが率直な感想だ。

 アプリではFuture Plusやエコナビなどが注目されるが、これらについては十分な試用ができていないので、ここでは割愛する。機会があれば、また別途、レポートしたい。



幅広いユーザー層にスマートフォンは拡げられるか

 昨年、XperiaやIS03、GALAXY Sなどが発売されて以来、よく耳にするのが「今後、ケータイはスマートフォンに置き換わってしまうのか」という声だ。確かに、昨年の秋冬モデルからのスマートフォンの勢いには凄まじいものがある。販売店などに話を聞くと、都市部ではその比率は確実に半々を超え、今夏は7対3、一時的には8対2でスマートフォンが売れているという。震災直後にフィーチャーフォンに戻したり、二台持ちに切り替えた人もいて、まだまだフィーチャーフォンに根強い需要があることは間違いないが、将来的に見て、スマートフォンが携帯電話(と呼ぶべきかどうかは別にして)の主流、あるいは多数派になることは、ほぼ確実だろう。

 しかし、現時点のスマートフォンはディスプレイサイズやプロセッサの動作周波数、メモリ容量、プラットフォームのバージョンなど、どちらかと言えば、スペック重視でラインアップが展開されてきている。NTTドコモのフィーチャーフォンのラインアップで言えば、PRIMEシリーズに相当するモデルが次々と発売されてきたわけだ。今後、スマートフォンが幅広いユーザー層に拡大していくためには、当然のことながら、STYLEシリーズに相当する普及モデルが必要になってくる。つまり、スペックは程良いレベルに留めながら、デザインや持ちやすさ、使いやすさなどを考慮し、他機種とは違った個性を持たせたモデルが求められてくるわけだ。その意味において、今回発売されたAQUOS PHONE f SH-13C、F-12C、P-07Cは、国内のケータイ市場を支えてきた各社がそのノウハウを活かし、作り込んできたモデルであり、今後の市場の拡がりを占う意味でも注目される。

 また、デザインやサイズ感を考えたモデルとしては、8月27日に発売が予定されているソニー・エリクソン製「Xperia ray SO-03C」も注目だ。実際に使った印象は、別途、レポートするつもりだが、今回紹介したSH-13CやF-12Cよりもさらにコンパクトで、折りたたみデザインのフィーチャーフォンと変わらない幅約53mmのボディに凝縮している。発表会では若い女性ユーザーをターゲットにするため、KOBE COLLECTIONとのコラボレーションを発表するなど、かなり積極的な姿勢を見せた。しかし、Xperia rayにはワンセグ、おサイフケータイ、赤外線通信という三種の神器が搭載されておらず、どちらかと言えば、グローバル向けの普及モデルを日本市場向けに展開したという印象が強い。そういったモデルが目の肥えた日本の若い女性ユーザーに本当に受け入れられるかどうかは、ちょっと疑問が残る。もっとも今から3年前、同じような指摘を受け、あまり売れないだろうと言われたiPhone 3Gは、キャンペーンやプロモーションの後押しもあり、国内市場においてもスマートフォンの主役になったという実績があり、なかなか市場の反応が読みにくい部分もある。

 もうひとつ興味深いのは、今回紹介した幅広いユーザー向けの端末において、各社の取り組み方に少しずつ違いがある点だ。たとえば、AQUOS PHONE f SH-13Cはある程度、女性ユーザーを意識して、幅約60mmというコンパクトなサイズにまとめ、大人の女性ユーザーもターゲットとするF-12Cも同様のサイズを選んだ。これに対し、同じ女性向けを強く意識したと言いながら、P-07Cはディスプレイサイズが約4.3インチと大きいこともあり、他機種よりもひと回り大きなサイズに仕上げている。「こんな大きなサイズは、女性に無理だろう」と考えるかもしれないが、男性が胸ポケットなどに入れて持ち歩くのに対し、女性はカバンに入れて持ち歩くため、あまり大きさを気にしない人が多いという指摘もある。どちらが正しいのかはわからないが、どういうサイズ感が女性に受け入れられていくのかという意味でもそれぞれの製品の売れ行きが気になるところだ。

 サイズ感以外にも文字入力パレットのデコレーションをはじめ、アプリやソフトウェアの面でもいろいろな工夫が増えてきている。アプリについては、以前も指摘したように、写真をケータイ宛てにメールを送りやすいサイズに変換できる画像編集アプリ、バーコードリーダーアプリなどを標準で搭載していないモデルも多く、まだまだ幅広いユーザー層に普及させるための課題は多い。ソフトウェア面の工夫については、当然、メーカーサイドがAndroidプラットフォームの勘どころを十分に熟知している必要があり、Googleの動向もきっちりと追いかけていかなければならない。

 こうしたさまざまな課題はあるが、各キャリア、各メーカーが本格的にスマートフォンを拡大すべく、今まで以上に幅広いユーザー層にアプローチしようとしてきたことは確かだ。ラインアップが増えるだけで、市場が拡大するわけではないため、今後、各社がどのようにして、それぞれのユーザー層にアプローチしていくのか、それに対して、市場がどのように反応するのかが非常に注目される。

 




(法林岳之)

2011/8/26 09:00