ULTRA SPEEDでスマートフォンを加速、ソフトバンク冬春モデル

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 9月29日、ソフトバンクは2011年冬と2012年春商戦へ向けた新機種の発表会を行なった。今年、ソフトバンクは震災のため、夏モデルの発表会を自粛しており、発表会そのものは約1年ぶりの開催となった。

 昨年の発表会ではiPhone以外の選択肢として、いち早くAndroid 2.2を採用した6モデルを展開してきたが、今回は「ULTRA PHONE」と銘打ったULTRA SPEED対応スマートフォンをはじめ、次世代ネットワーク「SoftBank 4G」対応製品を発表するなど、さらにスマートフォンへのシフトを加速させる構えだ。発表会の内容については、本誌レポートで詳しく解説されているので、そちらを参照していただきたいが、ここでは筆者の目で見た今回の発表内容と全体の捉え方などについて説明しよう。

 

約1年で激変したスマートフォン市場に対応

 国内の移動体通信市場において、NTTドコモ、auに次いで、3位のシェアを持つソフトバンク。しかし、3位というポジションにありながら、ここ1~2年は他を圧倒する力強い存在感を示してきた。その原動力となっているのは、言うまでもなく、iPhoneやiPadだ。

 今から約1年前。ソフトバンクは2010年冬~2011年春モデルの発表会を催したとき、「国内のスマートフォン市場はiPhoneが80%を占めているが、今回は残りの20%の市場に対して、6機種のAndroidスマートフォンを投入する」としていた。受け取り方によっては、随分と開発メーカーに失礼なプレゼンテーションという見方もできたが、あれから1年間の市場動向を見れば、ある意味、堅実な方向性だったと言えるだろう。

 当時の国内市場は、NTTドコモのXperiaやauのIS01など、ごく数機種のスマートフォンが存在するのみだったが、この1年間、各社から次々とAndroidスマートフォンが発売され、現状でAndroidスマートフォンはおそらく半数近く、もしかすると、半数を軽く超えるほどのシェアを獲得しつつある。これはiPhoneの勢いが衰えたわけではなく、iPhoneが米アップル1社のみで製造されているのに対し、Androidスマートフォンは世界中の端末メーカーが製造するため、モデル数も圧倒的に多く、一気に拡大してきたからだ。

 この秋冬モデルの発表では、ついに国内メーカーのほぼ全社がAndroidスマートフォンを手掛けるようになり、日本向けの“三種の神器”の搭載と相まって、今後の国内市場の主役的な存在になることが確実視されている。もし、昨年の段階でソフトバンクがAndroidスマートフォンを拡充していなかったら、いくらiPhoneに勢いがあるとは言え、それまでの市場での存在感はキープできなかったはずだ。裏を返せば、それだけ国内のスマートフォン市場の拡大が急速だったという見方もできる。

 ただ、よく指摘されるように、携帯電話事業者にとって、スマートフォンは『両刃の剣』でもある。スマートフォンは従来のフィーチャーフォンに比べ、1ユーザーあたりの収入はパケット通信料で格段に増える半面、データ通信のトラフィックも劇的に増えるため、ネットワークへの負荷も大きくなるからだ。この両刃の剣をもろに食らったのが他でもないiPhoneを抱えるソフトバンクのネットワークであり、今年に入っては、NTTドコモやauのネットワークでもスマートフォン普及の影響が少しずつ見え始めている。ソフトバンクはこうした状況に対し、早くからWi-Fiスポットの拡充に取り組み、昨年は電波改善宣言を打ち出すなど、積極的に改善しようと試みているが、急激なトラフィック増とイタチゴッコの状態にある。

 今回、ソフトバンクの2011年冬~2012年春モデルとして、Android採用スマートフォンを9機種、フィーチャーフォン、専用端末、モバイルWi-Fiルーターをそれぞれ1機種ずつの合計12機種を発表した。それぞれにユニークな個性を持つラインアップを展開しているが、これらの内、中心的な存在となるのが「ULTRA PHONE」の4機種だ。

 ソフトバンクは元々、旧ボーダフォンから受け継いだ2GHz帯(2.1GHz帯ともいう)でサービスを展開してきたが、2010年3月にPDC方式で利用していた1.5GHz帯を停波し、今年2月から同じ1.5GHz帯でHSPA+方式とDC-HSDPA方式による「ULTRA SPEED」というデータ通信サービスを提供している。今回、この帯域をサポートし、下り最大21Mbps、上り最大5.7Mbpsの高速通信を可能にするモデルを「ULTRA PHONE」と名付け、ラインアップに加えている。

 この帯域は2GHz帯などと違い、国際的に3Gサービス共通の周波数帯域ではないため、基本的にグローバルモデルでサポートされることはなく、ローカル周波数の1つとして、サポートすることになる。つまり、極端なケースを考えると、同じソフトバンクを使っていてもiPhoneや少し前の機種では混雑で通信速度が低下してしまうが、新しく空いている帯域をサポートするULTRA PHONEはサクサクと使えるといったことも起こり得るわけだ。

 

SoftBank 4G

 また、今回の発表で、もうひとつのトピックとなるのが下り方向で最大110Mbpsという高速通信を実現する「SoftBank 4G」だ。SoftBank 4Gは元々、ウィルコムが2.5GHz帯でXGP向けに免許を受けていたものをWireless City Planning(ワイヤレスシティプランニング、WCP)が継承し、「AXGP(Advanced XGP/高度化XGP)」として、今年11月からサービスを提供するものだ。ソフトバンクはWCPのMVNOとして、設備を借り受け、SoftBank 4Gとして、サービスを提供することになるわけだ。今回発表された端末はモバイルWi-Fiルーターのみだが、今後、同じグループ内(WCPの代表取締役社長も孫正義氏)の通信サービスとして、ソフトバンクはSoftBank 4Gを積極的に活用していくことになる見込みだ。

 ところで、発表会の質疑応答ではAXGPの技術要件について、孫正義社長から「TD-LTEと100%互換性がある」というコメントがあったが、元々、XGPはPHSの技術をベースに、高速化などを実現した日本独自の通信方式だった。旧ウィルコムの破綻後、ウィルコムからXGPの事業が切り離され、総務省の了解の元に、XGPに改良が加えられたわけだが、インドや中国で採用・検討が進められているTD-LTE方式との互換性を持たせることにより、端末や基地局、ネットワーク設備を安く調達できることが期待されている。

 ただ、さまざまな情報を総合すると、今回、孫社長が言及した「100%互換」というのはあくまでもハードウェア的なものであって、実際に海外などで販売されるTD-LTE対応製品を使おうとしてもソフトウェアに違いがあるため、そのまま利用できるわけではないようだ。とは言うものの、インドと中国という世界でもっとも人口が多い地域で採用されるTD-LTE方式と互換性を持つことは、技術や製品の輸出入も含め、意外に大きな意義を持つことになりそうだ。ちなみに、インターネット上の噂では、米アップルが海外の通信事業者との協議の中で、将来的にTD-LTE方式をサポートすると明言したとも伝えられており、孫社長の「TD-LTEと100%互換性がある」という回答は、このことに含みを持たせたものだったのかもしれない。

 

冬春モデルをチェック

 さて、ネットワークの話題はこれくらいにして、今回発表された端末のラインアップやサービスについて、全体像をチェックしてみよう。

 まず、端末のタイプ別で見ると、前述のように、スマートフォン9機種、フィーチャーフォン、専用端末、モバイルWi-Fiルーターをそれぞれ1機種ずつの合計12機種となっている。昨年の発表ではAndroidスマートフォン6機種に対し、フィーチャーフォンが10機種もラインアップされていたことを考えると、かなり急激にスマートフォンへシフトした格好だ。ただ、この点は他社と同じように、ある程度は夏モデル以前の従来のモデルが継続販売されるため、店頭の様相は思ったほど、大きく変わらないかもしれない。

女性向けモデルにも注力

 メーカー別では、シャープが5機種をラインアップし、残りはパナソニック、NEC、DELL、Huawei(ファーウェイ)などが開発メーカーとして名を連ねている。注目すべきはウィルコムの人気モデル「HONEY BEE」をスマートフォンに進化させた京セラが加わり、主にウィルコム向け端末を多く手がけてきたセイコーインスツル(SII)がソフトバンク向けでは久々に端末を供給することだろう。

 なかでも京セラは、北米向けに続き、今週、au向けに「DIGNO ISW11K」の供給を発表するなど、急速にAndroidスマートフォンへのシフトを強めている。現在、国内市場はフィーチャーフォンからスマートフォンへのシフトが進んでいるが、かつてカメラ付きケータイが登場したときや3Gサービスが開始されたときのように、技術やシステムが大きく変化するときは、メーカーの分布やシェアも大きく変わることが多く、京セラやSIIなどが動いてきたことは、そういった意味合いにおいても注目される。

 また、これはあまり区別することが適切ではないのかもしれないが、スマートフォン9機種の内、日本仕様をほとんど考慮しないグローバルモデルは、実質的にDell STREAK PRO 101DL1機種しかなく、残りはすべて国産モデル、もしくは日本仕様をサポートしたモデルとなっている。iPhoneをはじめ、HTC製スマートフォンなど、グローバルモデルをいち早く扱ってきたソフトバンクとしては意外な印象だが、それだけ市場が国産メーカーや日本仕様を求めているという読みなのかもしれない。

 ハードウェアのスペック別でスマートフォン9機種を見てみると、ディスプレイは4.5インチHD液晶を搭載した「AQUOS PHONE 102SH」「104SH」の2機種を筆頭に、4インチQHD液晶がAQUOS PHONE 103SHLUMIX Phone 101Pの2機種、残りはワイドVGA/フルワイドVGAだ。パネルはMEDIAS CH 101NDell STREAK PRO 101DLの2機種が有機ELディスプレイを採用し、残りは液晶ディスプレイとなっている。

 チップセットについては、米クアルコム製SnapdragonMSM8255が4機種ともっとも多いが、これに続くのがTexas Instruments(TI)製のデュアルコアプロセッサのOMAP4430が2機種で、同OMAP4460、非同期デュアルコアのSnapdragon MSM8260、ルネサスモバイル製MP5225がそれぞれ1機種ずつとなっている。

 auの発表会レポートの記事でも触れたように、TI製の「OMAP」は、Androidの次期プラットフォーム「Ice Cream Sandwich」のリファレンスに採用されたと言われており、AQUOS PHONE 102SHとLUMIX Phone 101Pは将来的なバージョンアップが迅速にできることを狙っての採用と言えるかもしれない(確約はされていない)。パフォーマンスという点においては、DELL STREAK PRO 101DLに搭載された非同期デュアルコアのSnapdragon MSM8260/1.5GHzもかなり期待されるが、国内のAndroidスマートフォンでは初採用となった国産プロセッサのルネサスモバイル製MP5225も注目される。

 サービス面についてもいくつか発表されたが、個人的に注目したのは「フォト編集」だ。今回はイメージの展示のみで、実際に動作するものは見ることができなかったが、Androidスマートフォンで動作するアプリで、カメラで撮影した写真にエフェクトを加えたり、写真をプリントするアプリと連動できるものだ。

 過去にも指摘したことはあるが、現在、国内で販売されているスマートフォンは高画素のカメラを搭載している割に、画像編集機能がなく、フィーチャーフォンに送ってみたら、相手が受け取れなかったり、サイズが大きすぎて相手に迷惑を掛けたりするといったことが頻繁に起きている。こうした事態を避けるため、Androidスマートフォンには適切なサイズにリサイズしたり、切り抜きができる画像編集アプリを搭載しておくべきなのだが、正直なところ、これができている製品はごく一部にしかない。

 しかし、今回のソフトバンクが無料で提供するアプリ「フォト編集」では、SoftBankメール(MMS)に対しても適切なサイズに変更して送信できる機能を搭載しているという。本来のセールスポイントは、ミニチュア風やセピアといった画像加工、タッチパネルを活かした手書きによるプリクラ風のエフェクトだが、実際の利用シーンを考慮し、携帯電話事業者として、こうしたアプリを提供してくるのは、iPhoneでスマートフォンを良く知るソフトバンクならではの取り組みと言えるだろう。

 

Androidスマートフォン9機種を含む12機種をラインアップ

 さて、ここからは今回発表されたスマートフォン9機種を含む12機種について、タッチ&トライでの印象を踏まえつつ、説明しよう。ただし、いずれも開発中の製品であるうえ、今回は大半がモックアップのみの展示だったため、十分な情報がなく、実際の製品とは差異があるかもしれないことをお断りしておく。また、本誌にはすでに各端末の詳しいレポート記事が掲載されているので、そちらも合わせて、ご覧いただきたい。

 

AQUOS PHONE 104SH(シャープ)

 Androidの次期プラットフォームである開発コード「Ice Cream Sandwich」をサポートすることを狙ったモデルだ。早ければ、年内にも登場する予定のIce Cream Sandwichをいち早くサポートし、2012年春の発売を目指すという。今回はモックアップのみの展示だった。おサイフケータイやワンセグ、赤外線通信など、いわゆる三種の神器がサポートされていないが、これは次期プラットフォームでこれらの機能を実現するには、別途、ドライバーソフトなどのソフトウェアなどを開発する必要があり、リリースを少しでも早くするために、採用を見送ったという。スペック的にはIce Cream Sandwichのリファレンスと言われるTI製OMAPの中でも、最速と見られる「OMAP4460」(1.5GHz)を採用し、ディスプレイも1280×720ドットのHD表示が可能な4.5インチ液晶ディスプレイを搭載するなど、現時点で考え得る範囲の最高スペックを実現している。ULTRA SPEEDにも対応しながら、薄さはわずか約8.7mmに抑えられており、発売時にもっとも期待が持てる1台と言えそうだ。

 

LUMIX Phone 101P(パナソニック モバイルコミュニケーションズ)

 パナソニックのソフトバンク向けAndroidスマートフォン第2弾。そのネーミングからもわかるように、デジタルカメラのトップブランドである「LUMIX」の名を冠し、カメラ機能を追及したモデルだ。1320万画素のCMOSカメラを搭載し、LUMIXで培われた高画質技術「Mobile VenusEngine」を組み合わせる。LUMIXでおなじみの「おまかせiA」も搭載されており、初心者にもきれいな写真を簡単に撮影できるようにしている。タッチ&トライでは実機を試すことができたが、タッチパネルのレスポンスに今ひとつの印象が残るものの、カメラ機能のユーザーインターフェイスもわかりやすく、快適に使うことができた。デザインも9.8mmという程良い薄さのボディとも相まって、最近の薄型デジタルカメラと変わらない雰囲気を醸し出している。撮影した写真をTwitterやFacebook、メールなどに送ることができる「ピクチャジャンプ」も視覚的にわかりやすい。Wi-Fiの簡易設定はWPS方式のPINとパスワードの両方で設定が可能だ。ULTRA SPEEDにも対応しており、写真を数多く投稿したいユーザーに適したモデルと言えそうだ。

 

「AQUOS PHONE 102SH」(シャープ)

 今回発表された秋冬モデルの中で、フラッグシップに位置付けられるモデルだ。1280×720ドット表示が可能は4.5インチHD液晶、1210万画素CMOSカメラ、ULTRA SPEED対応、デュアルコアOMAP4430/1GHzというハイスペックな構成に、おサイフケータイやワンセグ、赤外線通信などの三種の神器をサポートしつている。カメラも新たに光学手ブレ補正を採用し、HDサイズ(1280×720ドット)の動画撮影にも対応する。今回は動作する製品が展示されていたものの、実際に操作することはできず、ディスプレイの表示のみを確認することができた。一般的に肉眼で識別できるサイズは300dpi程度と言われているが、4.5インチのHD液晶は329dpiとなっている。ソフトウェアについては、夏モデルの006SHなどに搭載されたものをベースにするが、今回からアプリケーションプロセッサがデュアルコアのOMAP4430/1GHzに変更されているため、最終的な製品で、どの程度、パフォーマンスに変化が見られるのかも注目される。

 

HONEY BEE 101K(京セラ)

 京セラのソフトバンク向け第1弾となるモデルだ。ウィルコムのPHSでおなじみの「HONEY BEE」のコンセプトと世界観を継承し、女子中高生ユーザーを狙ったAndroidスマートフォンだ。ボディサイズは56mm幅とコンパクトで、手の小さい女性でも持ちやすいサイズにまとめている。実機を持った印象としては、iPhone 4の背面にシリコンカバーをつけたような感覚で、背面の曲面仕上げとも相まって、非常に持ちやすかった。デザインはまさにHONEY BEEの世界観を受け継いでおり、前面にはAndroid標準のホームキー、バックキー、メニューキーに加えて、発話キーとメールキーを備え、さらにサイドキーもクリアタイプのものを採用するなど、徹底的にポップなかわいらしさを追求している。特に、本体前面は多くのスマートフォンがブラックか、ごく一部でホワイトとしている程度であるのに対し、HONEY BEE 101Kは5種類のカラーバリエーションと同じカラーに、ラメを入れた加工を前面に施しており、全体的にいい意味で「スマートフォンらしさを感じさせない」デザインに仕上げている。機能面では京セラ端末でおなじみの「すぐ文字」も搭載し、Wi-Fiの簡易登録もAOSSとWPSをサポートするなど、細かい使い勝手にもよく気が配られている。ロック画面の状態からでも発話キーの短押しで通話画面を表示するなど、ケータイライクな使い勝手も実現している。タッチパネルのレスポンスはもう少しチューニングの余地がありそうだが、今回発表されたモデルの中では、新しいユーザー層を開拓できるモデルとして、もっとも注目される。

 

AQUOS PHONE THE HYBRID 101SH(シャープ)

 夏モデルでは、折りたたみデザインで、Androidを採用した「スマケー」という新しいジャンルを開拓したAQUOS PHONE THE HYBRID 007SHが注目されたが、こちらはスライド式ボディで実現したスマケー第2弾とも言えるモデルだ。基本的な使い勝手は、折りたたみをスライド式に置き換えたもので、おサイフケータイやワンセグ、赤外線通信などの日本仕様をしっかりとサポートする。同じスライド式を採用したAndroidスマートフォンとして、auのAQUOS PHONE IS11SHもあるが、IS11SHのスライドがタッチパネルでの操作をベースに、文字入力時のみテンキーを使うという発想であるのに対し、「101SH」はフィーチャーフォンと同じスライド式ボディにAndroidを搭載したものとなっている。ボディサイズは幅53mmとコンパクトで、背面のラウンドしたフォルムにより、手の小さな女性でも持ちやすいデザインに仕上げられている。CPUはシングルコアのSnapdragon MSM8255/1GHzを搭載するが、タッチパネルの操作も含め、操作感は非常にスムーズかつ快適な印象だ。「AQUOS PHONE THE HYBRID 007SH」は卓上ホルダが同梱されていたが、このモデルは残念ながら、卓上ホルダに非対応となっている。ただ、底面に装備された外部接続端子は、万が一、水が入っても問題が起きない構造になっているとのことで、キャップ開閉によるパッキン劣化のリスクを気にする必要がない。フィーチャーフォンに比べ、充電の手間が掛かることに違いはないが、リスクが減ることはユーザーとしても歓迎できるだろう。

 

AQUOS PHONE 103SH(シャープ)

 夏モデルに登場したAQUOS PHONE 009SHの後継に位置付けられるモデルで、2012年1月中旬の発売を予定しているため、今回はモックアップのみの展示だった。今回発表されたシャープ製スマートフォンでは、AQUOS PHONE 104SHが新プラットフォーム、AQUOS PHONE 102SHがほぼ同じハードウェアで年内に発売するフラッグシップ、AQUOS PHONE THE HYBRID 101SHがスライド式ボディという構成に対し、AQUOS PHONE 103SHは春商戦へ向け、もっともボリュームを確保しようという普及モデルに位置付けられる。IPX5/IPX7の防水、IP5Xの防塵に対応し、CPUはSnapdragon MSM8255/1GHz、ディスプレイは4インチのQHD液晶、800万画素のCMOSカメラというスペックで構成されている。おサイフケータイやワンセグ、赤外線通信にも対応しており、必要な機能がひと通り揃った定番的なモデルと言えそうだ。ソフトバンクは今回、緊急地震速報と各自治体が発信する災害・避難情報の受信が可能な「緊急速報メール」の対応を発表しているが、AQUOS PHONE 103SHはそのパイロットモデルでもあり、発売時から正式に対応する予定となっている。

 

MEDIAS CH 101N(NECカシオ)

 ソフトバンク向けとしては初のNECブランドのスマートフォンだ。NTTドコモ向けやau向け同様、MEDIASのペットネームが与えられており、それに続き、「チャーム(charm)」を意味する「CH」がつけられている。2012年1月以降の発売ということで、今回はモックアップのみの展示だったが、背面の緩やかな曲面とボディ周囲の角を落とした仕上げにより、女性向けらしい柔らかなデザインに仕上げられている印象だった。au向けモデルでもアナウンスされた女性向けコンテンツとして、「MEDIAS BEAUTY」なども同じように提供される予定だ。注目されるのは、ソフトバンク初のワイヤレス充電「Qi(チー)」に対応していることだ。防水防塵対応だが、キャップを開けることなく、充電できるのは非常に嬉しいところだ。また、NEC製端末として、かなり久しぶりに有機ELをメインディスプレイに採用しているのも注目される。ただ、これはau向けのレポートでも書いたことだが、MEDIASというネーミングはNTTドコモ向けの超薄型端末として登場したこともあり、そのイメージが強く、ちょっと違和感というか、不思議な印象を受ける。MEDIASがNEC製Androidスマートフォンのブランドであり、そのバリエーション表わすために、「CH」というネームがつけられていることはわかるが、ユーザーにとって、それがわかりやすいことなのかは、やや疑問が残る。

 

STAR7 009Z(ZTE)

 宇宙空間をイメージしたという7色のカラーバリエーションを展開するZTE製のスマートフォンだ。ZTEはソフトバンク向けなどに、安価なスマートフォンをいくつか提供してきたが、これまでのモデルはあまりハッキリとした個性がなく、言い方は悪いが「安いだけ」という印象しか持てなかった面もある。これに対し、今回のSTAR7は宇宙と惑星というテーマを掲げ、ハッキリとわかりやすいモデルを日本市場向けに開発してきたという印象だ。おサイフケータイや赤外線通信こそないものの、ワンセグを搭載し、防水に対応するほか、緊急地震速報などにも対応する。7色のカラーバリエーションもそれぞれに個性的で、角が丸められた背面や周囲の形状のおかげもあり、手に持ったサイズ感も非常にいい印象だった。メニュー画面もケータイライクな独自のものが採用されており、フィーチャーフォンからスマートフォンへ移行する初心者が抵抗なく、利用できるように作り込まれている。パッケージやライブ壁紙などの演出にもソフトバンクらしい工夫が活かされており、今までにない楽しげなスマートフォンに仕上がった印象だ。

 

Dell STREAK PRO 101DL(DELL)

昨年、DELL STREAK 001DLで国内市場向けに参入したDELLの日本向けモデル第2弾だ。従来の001DLはスマートフォンとタブレット端末の中間的なサイズだったが、今回は標準的なスマートフォンのサイズにまとめられている。グローバルモデルではあるものの、現時点では日本市場が先行して投入されることもあり、今回はSuperAMOLED(スーパー有機EL)ディスプレイが確認できる状態での展示となった。同時に001DLを使い、クラウドサービス「SyncUP」のデモも行なわれた。SuperAMOLEDディスプレイは、NTTドコモ向けのGALAXY Sなどでも高コントラストと広い視野角で人気を集めているが、101DLも基本的には同じで、写真なども非常にきれいに表示されていた。プロセッサも非同期デュアルコアのSnapdragon MSM8260/1.5GHzが搭載されており、ハイパフォーマンスのスマートフォンとして、リリースされることが期待される。

 

PANTONE 4 105SH(シャープ)

 昨年発売されたPANTONE 3 001SHの後継モデルであり、今回発表されたモデルで唯一のフィーチャーフォンだ。初代モデルから継承した折りたたみデザインに、打ちやすさを考慮したアークリッジキーを搭載。従来モデルと比較して、新たにGSM方式による国際ローミング、緊急地震速報などに対応する一方、Bluetoothは廃止された。8色のカラーバリエーションはPANTONEらしい鮮やかなカラーが並び、ボディデザインもスッキリとしたイメージで仕上げられている。法人向けのニーズもかなり高いと言われているが、スマートフォンを持つユーザーの2台目端末としても持ちやすいモデルだろう。

 

みまもりホームセキュリティ 101HW(Huawei)

 通信モジュールを内蔵したホームセキュリティ端末だ。窓などに取り付けた開閉センサーを検知し、あらかじめ登録した相手に対し、SMSで知らせることができる。セコムやALSOKといった警備会社が提供するホームセキュリティサービスは、戸建てなどを中心に広く利用されているが、新築やリフォームのときなどに設置するケースが多く、10万円以上の初期コストに加えて、月額数千円のランニングコストも掛かる。一方、「みまもりホームセキュリティ 101HW」は駆けつけサービスなどの本格的なセキュリティは利用できないが、単純にドアや窓の開閉などをセンサーで感知できるため、ひとり暮らしの女性などには非常にうれしい製品と言えそうだ。ちなみに、本体とセンサーの間は特定小電力無線によって通信をしており、最大16個までの開閉センサーを登録することができる。登録したセンサーは、「1F居間」「2F寝室」のように、区別できるように登録することもできる。高齢者が住む家を見守ることにも利用でき、トイレなど、日常的に開閉するところにセンサーを設置しておけば、一定時間内の利用時に、SMSで家族に通知することができる。契約は2年単位になるが、本体も開閉センサーも簡単に設置と取り外しができるため、引っ越し後にもすぐに利用を再開できる。ホームセキュリティサービスそのものを知らない人もいるため、どれだけ利用されるのかはまだ未知数の部分もあるが、広いエリアをカバーする携帯電話のネットワークとポータビリティをうまく活かした製品であり、今後、フォトフレームのような新しい製品ジャンルが確立されることになるかもしれない。

 

ULTRA Wi-Fi 4G 101SI(セイコーインスツル)

 AXGP方式を採用する「SoftBank 4G」に対応したモバイルWi-Fiルーターだ。SoftBank 4G以外のエリアでは下り最大42MbpsのULTRA SPEEDにも対応するため、新しいサービスでありながらも幅広いエリアで利用することができる。今回は電源が入る本体、AXGP方式のデータ通信端末が装備されたパソコンのデータ通信デモが個別に行なわれているのみで、製品の動作状態などは見ることができなかった。サイズ的にはイー・モバイルのPocket Wi-Fiなどに比べ、ひと回り大きいサイズで、本体前面にはディスプレイが装備されていた。

 

幅広く個性的なモデルが揃った新ラインアップ

囲み取材でiPhone関連の質問にはノーコメントを貫いた孫氏

 携帯電話業界において、この数週間でもっとも話題になったことと言えば、やはり、KDDIが次期iPhoneを扱うのではないかというニュースが報じられたことだ。もし、本当にそれが実現すれば、国内市場において、iPhoneを独占的に扱ってきたソフトバンクにとって、かなりの痛手になることは想像に難くない。26日に行なわれたauの発表会では、経営陣から「ノーコメント」がくり返され、29日のソフトバンクの発表会でも孫社長も質疑応答に「ノーコメント」と応えるのみだった。最終的にどういう形に落ち着くのかはまったくわからないが、今回の発表会を見る限り、ソフトバンクは仮にiPhoneを独占的に扱わなくなったとしても十分に戦っていけるだけの体制を整えてきたというのが率直な感想だ。

 もちろん、モデル数や供給メーカーの構成で言えば、NTTドコモやauに比べ、やや足りない感は否めないかもしれない。しかし、この先、半年間に登場するモデルとして、スマートフォン9機種を発表し、そこにはハイエンドを追求したモデルもあれば、女子高生をターゲットにしたモデル、大人の女性を狙ったモデル、グローバルモデル、次期プラットフォームのためのモデルと、それぞれに個性的なモデルをしっかりと揃えている。「フォト編集」などのアプリも含め、実際にユーザーが利用するシーンを考慮したサービスも充実しており、iPhoneで培ってきたスマートフォンのノウハウをうまくソフトバンク全体のサービスに活かしている印象だ。そして、みまもりホームセキュリティのように、今までの携帯電話市場にはなかったユニークなモデルを生み出してくるあたりは、ソフトバンクらしい柔軟さがうまく作用したように見受けられる。

 ひとつ気になるのは、WCPに関係する部分だろう。これは政治的な部分でもあるので、今回の発表にはあまり直接関係ないが、WCPという会社がどういう成り立ちの会社なのかがわかっていれば、今回の「SoftBank 4G」というサービスがWCPのMVNOとして提供することがわかるものの、一般のユーザーにとっては、何か今までにないサービスが突然、ソフトバンクから提供されるような印象を受け、ちょっと唐突な感は否めない。しかもこの旧ウィルコムに付与された2.5GHz帯の免許は、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、イー・モバイル、ウィルコムの既存事業者が1/3しか出資できないという制限が課されていた。しかし、WCPのWebサイトには株主構成が記載されておらず、代表取締役社長にソフトバンクの孫社長が就任していることが記載されているのみだ。筆者が十分に取材をしていないので、勘違いがあるのかもしれないが、このWCPが総務省の1/3出資制限の対象なのか、対象であるなら株主構成がどうなっているのか、きちんと明示すべきではないのだろうか。いずれにせよ、WCPについては、どういう状況になっているのかを出資元であるソフトバンクと共に、メディアに対して、もっときちんと説明し、情報が発信されることを期待したい。

 さて、今回発表されたモデルは、11月から順次、販売が開始される予定だ。今回は発表のタイミングが早かったため、ちょっと発売前に間が空くことになってしまうが、今後、本誌に掲載される開発者インタビューやレビュー記事を参考にしながら、自分に合った1台を見つけていただきたい。

 




(法林岳之)

2011/10/3 11:13