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速く、軽く、美しく、次の時代へ向けて生まれ変わった「iPhone 5」

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 7」「できるポケット docomo AQUOS PHONE SH-12C スマートに使いこなす基本&活用ワザ150」「できるポケット+ GALAXY S II」「できるポケット au INFOBAR スマートに使いこなす基本&活用ワザ150」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 9月12日に米国で発表された「iPhone 5」がいよいよ9月21日から国内でも販売が開始された。「iPhone 5」が発売された国と地域では、3日間で500万台を超える売り上げを記録し、国内においても相変わらず品切れ状態が続くほど、好調な売れ行きを示している。

 本誌ではiPhone関連でおなじみの白根雅彦氏によるファーストインプレッションiOS6の解説記事が掲載されているので、そちらも合わせて、ご覧いただきたいが、ここではiPhone 5の位置付けなども踏まえながら、実機のインプレッションをレポートしよう。

コンセプトを受け継ぎながらのフルモデルチェンジ

 ケータイやスマートフォンだけでなく、さまざまなコンシューマ製品において、ヒットを記録する商品は毎年のように生まれてくるが、継続的にユーザーをひきつけておくことは難しい。また、さまざまなジャンルの製品やサービスにおいて、あるいは企業などの組織においても同じことを継続しながら、新しいものを取り入れ、進化を遂げていくことは難しい。

 iPhoneは、2007年に初代モデルが発売されて以来、約5年間で全世界で2億5000万台を超える台数を販売してきた。コンシューマが購入する製品において、これほど短い期間に多くのハードウェアを販売してきたケースは非常に少なく、おそらく10年、50年という単位で見ても他に類を見ないヒット商品であることは、誰もが認めるところだろう。しかし、それだけに『次期iPhone』は、毎回、開発が難しいことが予想される。

 これまでのiPhoneを振り返ってみると、デザインとハードウェアの性能向上をうまくバランスさせながら、進化を遂げてきていることがわかる。2007年発売の初代「iPhone」は、それまでのケータイにはない洗練されたデザインとユーザーインターフェイスを採用し、スマートフォンという新しいジャンルの製品を大きく拡大することに成功した。2008年発売の「iPhone 3G」は、基本的なデザインコンセプトを継承しながら、はじめて3G(W-CDMA/UMTS)に対応し、翌2009年に発売された「iPhone 3GS」では、「iPhone 3G」とほぼ同じデザインながら、CPUやカメラなどのハードウェアを一新している。
2007年に発売された、初代「iPhone」 2008年の「iPhone 3G」
2009年の「iPhone 3GS」 2010年の「iPhone 4」、デザインを一新した
2011年の「iPhone 4S」、国内では初めてauでも取り扱われるように

2010年に発売された「iPhone 4」ではボディデザインとハードウェアを一新すると共に、ディスプレイを同サイズながら高解像度の「Retinaディスプレイ」に変更し、2011年はじめには米国で初のCDMA2000 1x対応版も発売された。そして、前モデルの「iPhone 4S」はiPhone 4のデザインを継承しながら、CPUやカメラなどを大幅にバージョンアップさせ、国内ではソフトバンクに加え、au向けにも供給が開始された。人によって、見方はいろいろあるかもしれないが、この5年間のiPhoneを振り返ってみると、ソフトウェア、ハードウェア、サービスの面におけるバランス感覚は非常に秀逸で、それがユーザーを確実にひきつけ、スマートフォンの定番という位置付けを確固たるものにしてきたと言えるだろう。
 ただ、もう少し現実的な目線に捉えると、これだけの成功を収めてきたアップルにとって、あるいはiPhoneにとって、この1〜2年は必ずしも『独り勝ち』とは言えない状況になりつつある。というのもiPhoneが売り上げを伸ばす一方で、スマートフォン市場そのものがそれ以上のスピードで爆発的に拡大し、なかでもAndroidプラットフォームはアップルとノキア以外のほぼすべてのメーカーが採用したことにより、どうしてもシェアが押され気味になってしまっている。市場でのシェアについては、低価格の商品をラインアップした方がシェアを取りやすい傾向があるため、一概に評価できないが、やはり、『多勢に無勢』であることは明らかで、プラットフォーム別のシェアだけでなく、メーカー別シェアについてもトップの座を追われつつある。もうひとつの選択肢であるWindows Phoneも2010年に発表されたWindows Phone 7で大きく生まれ変わり、今年以降、Windows 8の登場と共に、巻き返しを狙っている。歴代のiPhoneが素晴らしい製品であることは間違いないが、ライバル製品やサービスも着実にキャッチアップしてきているわけだ。

 こうした状況において、次期iPhoneがどのように進化を遂げてくるのかは、各方面でも早くから話題になっていたが、今回は予想以上に発表前に情報が流れ、実際に発表されてみると、事前情報がほぼ正解だったことがわかった。パソコン中心の時代からアップルは秘密主義と言われ、事前に情報が流れることはほとんどなかったが、iPhoneという製品を支えるエコシステムが巨大化したこともあり、それだけ情報が出回りやすくなってきたと言えるかもしれない。

 事前に流れた情報が当たっていたから、今回のiPhone 5が驚くべき製品ではなかったかというと、そうではない。むしろ、その事前情報の段階でも「本当なの?」と考えたくなるような大きな変更がいくつも実現され、まったく新しいiPhoneとして設計されている。アップルは今回のiPhone 5に対し、「iPhoneの誕生以来、最も大きな驚きを。」というキャッチコピーを与えたが、まさにその文言に偽りのないレベルの『フルモデルチェンジ』を果たしている。iPhoneが次の時代へステップアップするための進化が込められたモデルと言えるだろう。

速く、軽く、美しく

 続いて、具体的な商品についてだが、冒頭でも触れたように、すでに本誌にはiPhone関連でおなじみの白根雅彦氏によるファーストインプレッションiOS6の解説記事が掲載されているので、より詳細な内容はそちらをご参照いただきたい。

 まず、iPhone 5のボディについては、外見は見てもわかるように、従来のiPhone 4/4Sのデザインのテイストを受け継ぎながら、新しいデザインに進化させている。iPhone 4/4Sが前後からガラスを貼り合わせ、周囲をアンテナを兼ねたバンド型の金属パーツで仕上げていたのに対し、iPhone 5は背面の中央部分をはじめ、ボディをアルミニウムを中心に構成することで、手に持ったときの質感も大きく変えている。たとえば、iPhoneを手にするユーザーの姿をパッと見ただけでは、「iPhone 4」「iPhone 4S」なのか、「iPhone 5」なのかはすぐにわからないかもしれないが、使っている側の感覚からすると、かなり印象が異なる。なかでも本体重量は「iPhone 4S」の140gに対し、112gまで軽量化され、ボディの厚みも9.3mmから7.6mmに薄型化されたため、手にした瞬間、「おっ、軽いね」「薄いなぁ」という言葉が自然に出てくる。iPhone 4/4Sは非常に完成度の高いモデルだったが、周囲の声を聞いてみると、特に女性を中心に「長く持っていると、ずっしり来る」「周囲の金属っぽいのがちょっと苦手」といった反応があったが、今回のiPhone 5は軽く、薄くなったうえに、ディスプレイ周囲のエッジをダイヤモンドで面取り加工するなど、仕上げの面でもグッと質感を高めている。

 iPhone 4/4Sのデザインのテイストを受け継いだiPhone 5だが、外見でいくつか注目すべき点がある。新たに採用されたLightningコネクタ、もうひとつはさらに小さくなった「nanoSIM」などがそうだ。

 まず、Lightningコネクタについては、これまでのiPhoneに採用されてきた30ピンコネクタに代わるものだ。この30ピンコネクタは「Dockコネクタ」とも呼ばれ、2003年に発表された第三世代のiPodから継続的に採用されてきた。つまり、「iPhoneの接続端子」というより、「iPodの接続端子」を受け継いだものという位置付けにあったわけだが、今回、アップルはiPhone 5の発表に合わせ、Lightningコネクタを新たに開発し、iPhone 5のほか、10月発売予定のiPod touch、iPod nanoで採用されている。写真だけではなかなかわかりにくいかもしれないが、サイズ的にはAndroidスマートフォンなどに採用されているmicroUSBよりも小さく、3.5mm径のステレオミニプラグよりもわずかに幅がある程度のサイズだ。しかもこのLightningコネクタはどちらの向きでも本体に挿せるため、microUSBのように向きを悩むこともなく、非常に扱いやすい。
新たに採用されたLightningコネクタ リバーシブルなケーブル

 使い勝手の面ではなかなか秀逸なLightningコネクタだが、これまでの30ピンコネクタとは別物になるため、これまでiPhone/iPod向けに販売されてきた数多くの周辺機器やケーブルなどがそのままでは利用できなくなる。アップルでは30ピンコネクタとLightningコネクタの変換アダプタを用意しているが、価格が2800円と少し高いうえ、ミニコンポやスピーカーなどのように、クレードル(卓上ホルダ)型の接続を前提に設計された製品は、本体を立てて使うというスタイルを諦めなければならない。ちなみに、これまでのiPhoneでは「Dock」と呼ばれる純正のスタンドが販売されていたが、今回のiPhone 5向けにはアップル純正でそういったものが用意されておらず、周辺機器メーカーからの登場を待つしかない。

 ユーザーとしてはこれまでの10年近いDockコネクタの資産が使えなくなり、変換アダプタが必須になって、使い勝手が失われてしまうのは残念なところだが、裏を返せば、アップルはそのリスクを負ってでも変更したかったという見方もできる。コネクタの小型化により、本体が薄型化が実現できるのは大きいが、仕様面ではピン数を8ピンに減らし、通信をフルデジタル化するなど、これからの進化のために思い切って変更したというのが実状だろう。
新たなLightningコネクタ(左)と従来のDockコネクタ(右) 今後の進化を見据えた変更か

 次に、nanoSIMについては、昨年あたりからアップルと他メーカーの間で、microSIMよりも小さなSIMカードの標準化が伝えられていて、それがiPhone 5ではじめて採用されたということになる。サイズとしては、その名の通り、従来のmicroSIMよりもさらにひと回り小さく、片面は金属の端子部分のみが露出している形となっている。現在、国内外のスマートフォンなどで広く利用され始めているmicroSIMは、iPhone 4で初採用され、一気に普及した印象だが、今回のnanoSIMはiPhone 5以外に採用例がなく、今後、他メーカーの製品に拡がっていくかどうかは未知数だ。ちなみに、これまでのiPhoneでも海外で販売されているSIMフリー版(SIMロックがされていないモデル)を購入し、NTTドコモや日本通信のSIMカードを装着して、利用するケースが多く見られたが、今のところ、両社ともnanoSIMの採用についてアナウンスがないため、SIMカードそのものをカットして利用しない限り、こうした使い方はできないということになる。ただ、SIMカードの加工は各社との契約に違反する可能性があるため、その点は十分に注意が必要だろう。

 さらに、SIMフリー版のiPhoneと言えば、海外旅行などで渡航先のプリペイドSIMカードを購入し、利用するユーザーをよく見かける。かく言う筆者自身もよく利用しているし、本誌の「みんなのケータイ」コーナーでは、石川温氏が過去に何度もiPad用のmicroSIMカードを渡航先で購入したエピソードを紹介している。ただ、こういう使い方については、iPhone 5対応のnanoSIMカードがほとんど流通していないため、現状ではあまり適していない。むしろ、今のうちに、海外渡航用にSIMフリー版のiPhone 4Sを購入して使っておき、プリペイドのnanoSIMカードが流通するようになってから乗り換えを考えた方が賢明と言えそうだ。

 話がかなり脱線してしまったので、元に戻そう。iPhone 5の外見でもうひとつ気になるのは、3.5mm径のステレオイヤホン端子の位置が本体底面側に移動したことだろう。すでに、iPod touchが従来モデルで同じように底面側に3.5mm径ステレオイヤホン端子を備えていたが、最近、iPhoneをはじめとするスマートフォンではイヤホン端子にアクセサリーを付けるユーザーが増えており、女性を中心にパーソナライズの楽しみとして、徐々に拡がりつつある。残念ながら、iPhone 5では、これまで通りのやり方では、そういった楽しみが味わえないため、背面カバーやケースなどでパーソナライズを楽しむことになりそうだ。

ついにディスプレイを4インチに

 今回のiPhone 5のハードウェアにおいて、もっとも大きな変更点と言えば、やはり、ディスプレイということになるだろう。iPhoneのディスプレイは初代モデル以来、ディスプレイの対角サイズを3.5インチのまま、変更しておらず、解像度については初代モデルからiPhone 3GSまでが480×320ドット、はじめて「Retinaディスプレイ」の名を冠したiPhone 4で960×640ドットに向上させている。はじめてiPhone 4でのRetinaディスプレイを見たときは、非常に美しかったのだが(今でもトップレベルの美しさ)、当時のスマートフォンの市場動向を見ると、徐々に4インチのディスプレイを搭載したモデルが増え始めており、今年に入ってからはハイエンドは4.5〜4.8インチ、コンパクトモデルが4インチという位置付けになりつつある。そんな中で、iPhoneの3.5インチというディスプレイサイズ、は「小さい」と言わざるを得ない状況になっていた。
iPhone 5(左)とiPhone 4S(右)

 こうした状況に対し、早くから「次期iPhoneは画面が大型化する」と言われていたが、ディスプレイの大型化は当然のことながら、ボディの大型化を伴うため、各社ともボディ形状の工夫などにより、何とか持ちやすいサイズを実現しようとしている。これに対し、アップルはディスプレイの幅をそのままにしながら、縦方向のみにディスプレイを大型化するという非常に割り切りのいいアプローチを取った。その結果、解像度は640×1136ドットになり、ボディ幅はiPhone 4/4Sとまったく同じながら、縦方向にわずか8.6mm分の大きさを拡大するだけで、4インチのディスプレイを搭載して見せた。しかも前述のように、ボディの厚みは1.7mmも薄くなっているため、大画面化を実現しながら、従来モデル以上に持ちやすいボディに仕上げている。このあたりのバランス感覚は見事と言えるだろう。

 ディスプレイが高解像度化されると、過去のケータイやスマートフォンの例を見てもわかるように、ブラウザなどはそのまま利用できるものの、アプリやメニュー画面のバランスが崩れてしまうといったことが起きがちだが、iPhone 5ではホーム画面のアイコンもキレイに1列が増えるだけで、その他のアプリもきちんと新しい解像度にフィットする形で仕上げられている。ある意味、当たり前と言えば、当たり前のことなのだが、それだけ熟考に熟考を重ね、用意周到にこの解像度とサイズを選んできたということだ。ちなみに、この解像度とディスプレイサイズは同時発表のiPod touchにも採用されており、今後のアップルのモバイル製品において、標準的な解像度として、扱われることになるのかもしれない。

 また、ユーザーから直接、見える話ではないが、今回のiPhone 5では新たに液晶ディスプレイにタッチセンサーを内蔵したイン・セル型のタッチパネルが採用されており、本体の薄型化に貢献している。多くのスマートフォンに採用されているディスプレイは、液晶パネルの上にタッチパネルを載せる構造を採用しているが、iPhone 5に採用されているディスプレイではタッチセンサーそのものを液晶パネルに内蔵することにより、本来、液晶パネルが持っている美しさを画面上に再現できるようにしている。

 カメラについては、背面に8メガピクセルの「iSightカメラ」、前面に1.2メガピクセルの「FaceTimeカメラ」を備える。iSightカメラについては従来モデルと画素数こそ代わらないものの、高速撮影やフィルタなどが強化されている。実用面で言えば、やはり、パノラマカメラがなかなか面白い。同様の機能はケータイにも搭載されてきたが、CPUのA6チップやGPUなどの処理能力が高いこともあり、格段にきれいにパノラマ撮影ができる。ユーザーインターフェイスもわかりやすく、水平位置を矢印で表現したり、移動速度をセンサーで検知して「ゆっくり」といったアドバイスを表示するなど、細かい部分にも工夫が見られる。

マップとPassbookの進化に期待

 アプリについては、プラットフォームがiOS6にバージョンアップし、iPhone 4/4Sなどにも提供されているため、多くの人が体験できる状況にあるが、ここではユーザーに注目度の高い2つのアプリについて、触れておきたい。
一新されたマップ

 まず、今回のiOS6のバージョンアップで、もっともインパクトが大きかったのが「マップ」だろう。これまでiOSではGoogleマップを使った地図機能を提供してきたが、今回のiOSからは独自の地図サービスを構築し、アプリとして搭載している。ただ、すでに多く報じられているように、地図の内容がGoogleマップに比べ、かなり情報量が少なく、数年前の地図に後戻りしてしまった感は否めない。

 アップルがGoogleマップの採用をやめ、独自仕様の地図サービスを提供しようとした背景には、Androidプラットフォームを展開するGoogleとの争いをはじめ、Googleマップの使用料の問題などがあったとされるが、アップル独自の地図サービスを構築することにより、iPhoneやiPadなどに最適化した位置情報サービスやコンテンツを提供したかったという意図もあるだろう。現に、今回の地図を見てみると、日本国内の地図こそ、情報量が少ないものの、何度もデモに登場するイギリス・ロンドンのビッグベンやオーストラリア・シドニーのオペラハウスを使った「Flyover」などは、今までにない地図サービスを提供したいという意気込みの一端を垣間見ることができる。Googleマップにも「ストリートビュー」という優れた機能が用意されているが(賛否両論はあるが……)、Flyoverはストリートビューとは違い、観光スポットなどを楽しんだり、勉強したりすることにも利用できる新しい取り組みのサービスと言えそうだ。

 また、アップルが独自の地図サービスに取り組んだもうひとつの理由は、ナビゲーションだ。日本は世界でもっとも進んだカーナビゲーションが利用できる国だが、海外はGPSレシーバーなどから進化したシンプルなナビゲーションが中心であるため、スマートフォンのナビ機能は今までにない高機能なナビゲーションとして受け入れられ、ユーザーの期待感も高いと言われている。日本製のカーナビを見てもわかるように、運転中のクルマは閉鎖環境であるため、外部から情報を得にくい状況にあるが、カーナビに情報が蓄積され、通信機能が利用できれば、渋滞情報や駐車場の情報がすぐにわかり、現在地や設定中のルートに基づいたグルメスポットや観光スポットも簡単に検索できる。当然のことながら、これと同等のことをスマートフォンで実現すれば(すでに実現されつつあるが……)、アップルとしても今まで以上のビジネスチャンスを拡大できるわけだ。

 ただ、それもこれもベースになる地図がしっかりしていなければ、絵に描いた餅でしかない。今回のiOS 6で搭載された新しい地図は、日本国内はMapFanなどでおなじみのインクリメントPがデータを提供したと言われている。同社はカーナビで最大のシェアを持ち、パイオニアのカロッツェリアや楽ナビの地図を構築してきたことで知られており、国内ではゼンリンと並んで、もっとも充実した地図を持っているはずだ。にも関わらず、現在のような地図になっているということは、おそらくアップル側が地図データの構築に十分な時間を掛けることができなかったからだろう。iOS 6の地図については、日本だけでなく、海外でも表示がおかしいところが指摘されており、アップル全体として、地図サービスは開発に着手したばかりということなのかもしれない。

 いずれにせよ、現状のiOS 6の地図は従来のものと比較して、かなり情報量が少なく、実用面でも不満が残ってしまうことは間違いない。Googleマップの進化などを見てもわかるように、地図サービスの内容を充実させるには、どうしても数年を要することになる。地図はiPhoneに限らず、スマートフォン全般でも人気の高いサービスであるため、当面はブラウザベースで閲覧する地図や他の地図アプリを併用する形で、iOS 6の新しい地図サービスの進化を見守っていくしかなさそうだ。

 今後に期待できるという点では、Passbookも非常に期待できるアプリだ。Passbookはクーポンや搭乗券、会員証などをまとめて管理できるアプリで、日本のケータイで利用されてきた電子クーポンや電子チケットをiPhoneで実現したものと考えれば、わかりやすい。Passbookに登録されている情報は、時間と位置情報にも対応しているため、空港に近づけば、航空券(Eチケット)がロック画面に表示され、映画館に行けば、オンラインで予約した映画のチケットが表示されるという仕組みだ。しかも使い終わったチケットは、Passbookのアプリ内で削除すると、シュレッドするアニメーションが表示されるという凝りようだ。国内でも全日空をはじめ、すでにいくつかの企業がPassbook対応サービスを提供することを表明しているが、日本は元々、おサイフケータイが普及しているおかげで、使うユーザー側もこうした使い方に抵抗感がなく、企業側もおサイフケータイ向けにサービスを提供した実績があれば、そのバリエーションが加わったレベルの話なので、自らサービスを提供することは難しくないだろう。

高速データ通信サービス「LTE」に対応

 今回のiPhone 5を『フルモデルチェンジ』と位置付けているのは、通信方式として、新たにLTEに対応したことも挙げられる。
LTEに関する設定項目も

 LTEについては改めて説明するまでもないが、W-CDMA/HSPAの流れに続く、3.9世代、もしくは4世代目の技術によるデータ通信サービスということになる。国内ではすでにNTTドコモとイー・モバイルがサービスを提供しているが、今回のiPhone 5の発売に伴い、au(KDDI)とソフトバンクもLTEサービスをスタートさせ、発売日の21日から正式にサービスを提供している。

 iPhone 5のLTE対応については、北米をはじめ、世界各国の通信事業者が徐々にLTEサービスを提供し始めていることに合わせたものだが、3Gサービスと違い、世界的に共通した周波数帯域が決められていないため、端末側でどの周波数帯をサポートするか、通信事業者がどの周波数帯でサービスを提供するのかが重要になってくる。

 たとえば、今回、サービスを開始したauは元々、iPhone 5の発売に関係なく、年内にもサービスを開始する予定だった。当初の計画では800MHz帯、1.5GHz帯を中心に展開する予定だったところ、iPhone 5のために2.1GHz帯でもエリアを展開している。おそらく、今冬以降に登場するauのLTEサービス対応の端末は、800MHz帯と1.5GHz帯に対応するが、iPhone 5は2.1GHz帯のみを利用し、当面、2.1GHz帯は実質的にiPhone 5が専用的に利用することになる。

 これに対し、ソフトバンクは14日に行なわれたソフトバンクモバイルの取締役専務執行役員CTOの宮川潤一氏の説明からもわかるように、現在、3Gサービスを提供している2.1GHz帯の一部をLTEサービスに置き換え、徐々にエリアを拡げていく計画だ。流れとしては、2.1GHz帯で3Gサービスを提供しているエリアに、900MHz帯のエリアを構築することで、徐々にトラフィックを900MHz帯に逃がし、ある程度、トラフィックが逃げた段階で、2.1GHz帯の帯域の一部を停止し、そこをLTEサービスに置き換えていくということになる。つまり、周波数帯域を少しずつやり繰りしながら、LTEサービスのエリアを拡げていかなければならないわけだ。ソフトバンクはauに対抗するため、iPhone 5向けのテザリングを2013年1月からスタートさせる予定だが、数カ月のタイムラグが生まれるのは、こうした周波数帯域のやり繰りなどが必要とされることが関係している。

 iPhone 5が発表された当初から、auとソフトバンクがどのようにLTEサービスのエリアを展開し、実際にどちらがパフォーマンスが出るのかが注目を集めていたが、実際の計測する以前の状態では、この状況を見てもわかるように、すでにauにアドバンテージがあることは明らかだ。LTEサービスやデータ通信サービスについては、また別途、取り上げたいが、全体的な状況を見てみると、用意周到に準備を進めながら、着実にネットワークを構築してきたauに対し、ソフトバンクは限られたリソースの中でエリアの拡大を急いでいるという印象だ。

 ただ、両社のネットワークがこのような状況になっているからと言って、常に“auがつながりやすく、ソフトバンクがつながらない”、あるいは常に“auのパフォーマンスが速く、ソフトバンクが遅い”という結果になるわけでもない。当然のことながら、電波状態は刻々と変化しているうえ、ユーザーが利用する場所によっては優位性が逆転してしまうこともある。たとえば、東京・世田谷の筆者宅では、ソフトバンクのiPhone 5が常にLTEの電波をキャッチしているのに対し、auのiPhone 5は一瞬しかLTEの電波をつかむことができず、部屋によっては3Gもつかめず、1xでの接続になってしまうことがある。ただ、不思議なのは従来のiPhone 4Sをはじめ、他のau端末は何の問題もなく、3Gで利用でき、十分なパフォーマンスが得られているので、3Gについても機種ごとに若干の電波のつかみやすさに差があるのかもしれない。

 いずれにせよ、LTEのエリアとパフォーマンスについては、まだサービスが始まったばかりで、明確に優劣を決めてしまうのはあまりにも早計と言えそうだ。現時点での全体的な傾向として、auにアドバンテージがあることは確かだが、利用する場所によって、エリアにはバラツキがあるので、どちらのiPhone 5を選べばいいのかを迷っているユーザーは、周囲のiPhone 5ユーザーに頼み、自宅などの自分が使いたい場所の電波状態を確認したうえで、判断することをおすすめしたい。また、auとソフトバンクの両社に対しては、LTEサービスのエリアマップをユーザーがわかりやすい形で提供することをお願いしたい。

 LTE以外の通信関連では、無線LAN(Wi-Fi)が従来の2.4GHz帯を利用したIEEE802.11b/g/nに対応していたのに加え、5GHz帯を利用したIEEE802.11a/nにも対応したことが大きい。ただ、相変わらず、WPSなどの無線LANの簡易登録機能はサポートされておらず、初回の接続時はユーザーが自らパスワードを入力しなければならない。次期モデルではぜひとも改善を望みたい点だ。

次なる時代への一歩を記したiPhone 5

 2008年の国内初登場以来、毎年、着実に進化を遂げてきたiPhone。日本だけに限らず、世界各国においてももっとも人気の高いスマートフォンであることは間違いないが、ひとつの製品の発表、発売に対して、これほどまでに消費者が一喜一憂し、世界中で話題になるような製品は、おそらく他のジャンルの製品でも存在しないだろう。そして、1年に1回のペースで発表されてきたiPhoneは、毎回のように、新しい驚きと感動、発見を与えてきた。

 しかし、今回発表されたiPhone 5は、これまでに発表された5モデルのiPhoneとは少し趣が異なり、新しい時代、次なる時代への一歩を記したモデルという印象が強い。それはディスプレイのサイズをはじめ、Lightningコネクタ、LTEネットワークへの対応、Passbookや独自の地図サービスへの取り組みなど、随所に今までのiPhoneにはないアプローチを垣間見ることができる。本稿でも説明したように、コネクタの変更によって、従来の周辺機器が利用しにくくなること、地図サービスの情報量が不足していることなど、課題が残されていることは確かだが、やはり、アップル製品が持つ独特の世界観や完成度の高さは着実に受け継がれており、iPhone 5ならではの楽しさや快適さもしっかりと作り込まれている。次なる時代への一歩を記したiPhone 5をぜ手に取って、他製品では体験することができない使う楽しさをぜひ試していただきたい。




(法林岳之)

2012/9/27 13:53