法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

日本向けFirefox OS搭載スマートフォンへの期待

 スマートフォンが世界的にも拡大する中、iPhoneのiOSやAndroidに続く「第3のOS」とも呼ばれるプラットフォームが話題だが、中でも注目を集めているのがMozilla Foundationによって開発されている「Firefox OS」だ。今年2月にスペイン・バルセロナで催されたMobile World Congress 2013で公開され、一部の地域ではすでに搭載モデルの販売が開始されているが、日本ではKDDIが採用を表明している。Mozilla Foundationの取材などを通じて見えてきたFirefox OSの現状と可能性について見てみよう。

オープンではなくなりつつあるプラットフォーム

インタビューが行われたサンフランシスコ市内のMozilla Foundationのオフィス受付。ソファのクッションにもおなじみのロゴ

 現在、世界で販売されているスマートフォンやタブレットのプラットフォームは、AppleのiPhoneやiPadに搭載される「iOS」、Googleを中心としたOHA(Open Handset Alliance)が普及を進める「Android」に、ほぼ二分されている。iPhoneやAndroidスマートフォン以前に普及していたBlackBerry(旧Research In Motion)の「BlackBerry OS」、ノキアから継承した「Symbian」などもあるが、ここ数年で急速に存在感を失いつつある。マイクロソフトが展開する「Windows Phone」もなかなか二強を脅かす存在にはなっておらず、日本向けの製品展開もほぼ停止状態にある。

 こうした状況に対し、二強に続く「第3のOS」とも呼ばれるスマートフォンのプラットフォームが話題になっている。一つはMozilla Foundationによって開発される「Firefox OS」、もう一つがTizen Associationによる「Tizen(タイゼン)」だ。

 ユーザーとしてはすでにiPhoneなり、Androidスマートフォンがあれば、それで十分だと考えてしまいそうだが、実は業界全体の動向を見てみると、必ずしもそうではない部分が見えてくる。Mobile World Congress 2013の取材記事でも触れたが、現在の二強によるプラットフォームは中心となるプレーヤーが限られており、クローズドな方向に進んでいると捉えている人々が多いからだ。

 たとえば、Androidプラットフォームは基本的な方向性をGoogleがコントロールしているため、将来的にどのようにプラットフォームが進化をしていくのかはGoogle次第ということになる。特に、プラットフォームの最新バージョンについては、俗に「Tier 1」と呼ばれる特定のメーカーのみに先行して仕様が公開されるため、それ以外の端末メーカーはどうしても開発が遅れ、市場での差を生み出してしまう。端末の仕様についても一定のルールがあり、その仕様を満たさなければ、Androidスマートフォン(タブレット)として扱われず、Googleが提供するGmailやマップ、カレンダーといった標準アプリを利用することができない。

 一方のiOSはAppleのみが採用しているため、当然のことながら、すべての仕様をAppleがコントロールしており、アプリについてもAppleの承認を得なければ、販売することができない。

 また、音楽や映画、電子書籍といったコンテンツサービスもプラットフォームを手掛けるGoogleやApple自身が提供しており、携帯電話事業者や端末メーカーが手を出してもなかなかビジネスとして成立しにくいと言われている。国内ではauがiOS向けにスマートパスやビデオパス、うたパスを提供し、Androidプラットフォーム向けにはau Marketを展開しているが、こうした独自サービスを提供する携帯電話事業者は少なく、端末メーカーも含め、なかなか独自色を打ち出しにくいと言われている。

 フィーチャーフォンとスマートフォンを比較するとき、筆者自身もよく「オープンなプラットフォームを採用したスマートフォンは〜」といった表現を使うが、確かにフィーチャーフォンに比べれば、アプリなどが自由に開発できる点はオープンではあるものの、プラットフォームとしてはクローズドな方向に進んでおり、他のプレーヤーが関与できない要素が増えているわけだ。

Firefox OSについて説明するMozilla Corporation Vice President of Mobile EngineeringのAndreas Gal氏

 こうした背景を踏まえ、登場してきたのがFirefox OSやTizenといった第3のOSと呼ばれるプラットフォームということになる。今回はFirefox OSについて、Mozilla CorporationのVice President of Mobile EngineeringであるAndreas Gal氏に取材し、Firefox OSの方向性に加え、KDDIの果たす役割などについて、聞くことができた。インタビューの内容については、すでに『“オープン”と“協業”を武器に拡大を狙う「Firefox OS」』に掲載されているので、そちらをあわせて、ご覧いただきたいが、そこから見えてきたFirefox OS搭載スマートフォンの現状と日本市場での可能性について考えてみよう。

成り立ちが異なるFirefox OS

 第3のOSとして、注目されているFirefox OSだが、Firefox OSそのものの話を始める前に、最近の一般ユーザーにはあまり馴染みがないかもしれないMozilla Foundationについて、ごく簡単に説明しておきたい。

 現在、スマートフォンのプラットフォームのシェアをほぼ二分するiOSとAndroid。いずれもAppleとGoogleという強力なプレーヤーによってコントロールされているが、両社とも株式を公開し、営利を追求する企業だ。これに対し、Mozilla FoundationはWebブラウザの「Firefox」やメールソフトの「Thunderbird」、そして、スマートフォンのプラットフォームである「Firefox OS」などのMozillaオープンソースソフトウェアプロジェクトのための非営利企業(非営利団体)となっている。

 たとえば、AppleやGoogleは当然のことながら、営利を追求し、株主に利益を還元することを目的としているため、他の企業とも連携したり、時には対決姿勢を示すことにもなるが、Mozilla Foundationは非営利であるため、特定の企業や人物のために何かを開発しているのではなく、あくまでもニュートラルな立場でソフトウェアの開発をはじめ、インターネットに関わるさまざまなプロジェクトを展開している。そして、これらの活動はMozilla Foundationの掲げる志に賛同する数多くのパートナーやコミュニティメンバーによって、支えられている。これはどちらがいい悪いという話ではなく、明らかな立場や文化の違いがあり、それが結果的にiOSやAndroidとFirefox OSの根本的な違いに結び付いていることを理解しておく必要がある。

 また、今年2月のMobile World Congress 2013開催時に行われたFirefox OSのプレスカンファレンスでは、このプロジェクトにTelefonicaやドイツテレコム、KDDI、Sprint、SingTelといった通信事業者、LGエレクトロニクスやHuawei、ALCATEL(TCL)といった端末メーカーなど、数多くの企業が参加することが明らかにされた。しかし、さまざまなプレーヤーが参加するプロジェクトは、往々にしてコントロールが難しくなるケースが多いが、このプロジェクトはキャリアやメーカーの営利追求のために行われているものではないため、利害関係によって、問題が起きることは考えにくいという。

 たとえば、営利企業のプロジェクトであれば、上席同士の話し合いで重要事項が決まることもあるだろうが、このプロジェクトでキャリアが何かを要求する際は、エンジニアといっしょに話し合うことになる。このあたりの組み合わせの違いも今までのプラットフォームにはなかったものだ。

 Firefox OSそのものは約2年半前に構想が始まり、当初はタブレットをターゲットに開発されていたという。これはFirefoxが元々、主にデスクトップ(パソコン)向けに展開され、使い方が近かったことも関係しているが、その後、パートナーであるキャリアなどからスマートフォンの方が市場にボリュームもあり、対応が急がれるという指摘があり、スマートフォン向けプラットフォームとして、開発が進められた。今後、スマートフォンだけでなく、タブレットやファブレットなど、プラットフォームのニーズはより拡がっていくことが予想されるが、Firefox OSはそうしたニーズにも十分、応えられるとしている。

 Firefox OSの特徴の一つとして、HTML5によって動作するWebアプリを利用することが挙げられている。「HTML5によるWebアプリ」と言われても今ひとつピンと来ないかもしれないが、少し乱暴に意訳すると、これまでのスマートフォンはパソコンのWindowsなどのように、特定のハードウェアのアーキテクチャプラットフォームのみで動作する仕様だったのに対し、HTML5によるWebアプリはWebページがInternet ExplorerやFirefox、Chrome、Safari、Operaなど、さまざまなブラウザで閲覧できる環境と同じように、ハードウェアに依存せず、動作できるという特徴を持つ。

 実際の利用にはまだいくつかの問題があるとされるが、基本的な方向性として、どの環境でも同じようにWebアプリが動作するように作り込まれている。当初はHTML5が十分なものではなかったが、この2年間、着実に開発を進め、現在は電話やSMSなどの基本機能に加え、照度センサーの制御といった機能も実装できているそうだ。

 HTML5で動作するということになると、ユーザーとしてはこれまでのネイティブアプリで動作する環境と比較して、パフォーマンスが気になるところだが、AndroidプラットフォームはDalvik VMと呼ばれる仮想マシン上でHTML5のWebアプリを動作させているのに対し、Firefox OSではOS上で直接、HTML5のWebアプリを動作させられるため、レスポンスは良くなるとされている。また、Androidプラットフォームは実は10年近く前に開発をはじめ、さまざまな改良を加えることで進化してきたため、若干、設計が古いと言われる部分もあり、この点は設計の新しいFirefox OSに優位性があるという。

Firefox OSを搭載したスマートフォンの初号機となる2機種。スペインのTelefonicaが発売したZTE製「ZTE Open」(左)、ドイツのドイツテレコムが発売したTCL製「ALCATEL ONE TOUCH Fire」(右)

 ただし、現在のFirefox OSはあまりスペックの高くないチップセットでしか動作させておらず、マルチコアのコーディングも未対応のため、7月にスペインで販売が開始されたZTE製スマートフォン「ZTE Open」もチップセットにシングルコアの米クアルコム製MSM7225A/1.0GHzが採用されている。これは初号機が新興国市場をターゲットにしていることが関係しているが、むしろ256MBという少ないメモリ(RAM)にシングルコアのチップセットというAndroidスマートフォンでは2年前のレベルのスペックでも問題なく利用できていることを評価すべきと言えるかもしれない。

 パフォーマンスについてはJavaScriptを高速化する「asm.js」と呼ばれるJavaScriptサブセットを導入することにより、来年後半にはネイティブアプリに遜色のないレベルまで引き上げられる見込みだという。

 また、ユーザーインターフェイスをはじめとしたカスタマイズについては、Androidスマートフォンの「CTS(Compatibility Test Suite)」のようなものが存在しないため、端末の仕様も含め、非常に柔軟に作り込めるという。現在販売されているFirefox OS搭載スマートフォンは、アプリがアイコンで表示されるようなユーザーインターフェイスを採用しているが、富士通がFirefox OSを組み込み機器に利用するなど、その応用範囲はすでに拡がりはじめている。

 さらに、HTML5では数多くの新しい機能が搭載されるが、「WebSocket」「WebRTC」などの機能を活かすことにより、今までにはない個性的なサービスや製品を生み出せるのではないかという期待感も大きいようだ。

 Firefox OSを搭載したスマートフォンは、今年2月のMobile World Congress 2013でのお披露目を経て、今年7月にスペインのTelefonicaからZTE製「ZTE Open」、ドイツテレコムのTCL製「ONE TOUCH Fire」が発売され、ポーランド、コロンビア、ベネズエラでも販売が開始されている。ちなみに、ZTE Openについては、開発者やアーリーアダプターが実際に端末を使い、アプリケーションを開発できるように、米eBayおよび英eBayで販売が開始されている。米eBayでの販売モデルと英eBayでの販売モデルでは対応周波数が異なるが、基本的な仕様は同じで、特定の国向けの設定やアプリなどはプリインストールされておらず、SIMロックもされていない。ただし、いずれも日本向けには発送しておらず、今のところは日本の一般ユーザーが直接、購入できる状況にはなっていない。

通信事業者としてのKDDIの取り組み

 第3のOSとして、注目を集めているFirefox OSだが、国内ではKDDIが採用を表明しており、Firefox OSの開発コミュニティにも積極的に参加しているという。具体的に、KDDIなどの通信事業者はFirefox OSのどのような項目について、関わっているのだろうか。

 たとえば、これまでのWebブラウザのFirefoxなどは、WindowsやMac OSなどのパソコンのOS上で動作するものだったため、いわゆる「モバイル通信」に関わる部分は存在しなかったが、スマートフォンやタブレットのプラットフォームとなるFirefox OSでは必須項目であり、こうした部分についてはKDDIをはじめとした世界各国の通信事業者が関わっている。

 その内容もさまざまだが、これまでのAndroidスマートフォンなどで指摘されてきた問題を踏まえ、アプリによってWi-Fiを優先させるなど、データのオフロードをさせやすいしくみを取り入れたり、OSの根幹部分で効率良く通信を行うような実装が行われているという。国内でもスマートフォンの普及に伴い、各社がトラフィック増による通信障害を起こしてしまったが、そういった部分で培われてきたノウハウもFirefox OSには活かされているようだ。

 通信関連の中でもモバイルデータ通信の通信方式についてはどうだろうか。KDDIの場合、他社と異なるCDMA方式を採用しており、新しいプラットフォームでのサポートが気になるところだが、LGテレコムやチャイナテレコムなど、多くの携帯電話事業者がCDMAネットワークを運用しているため、米クアルコムがMozilla Foundationと密接に連携することで、しっかりとサポートしていくという。

 また、ARIB(電波産業会)などで定められている日本の通信仕様については、KDDIが作り込み、実装することになる。こうした日本独自の仕様については、KDDIがすでに開発に着手しており、できあがったものをMozillaに返すという。仮に、他の国内携帯電話事業者がFirefox OS搭載スマートフォンを手掛ける場合は、KDDIからMozillaに返されたものが使われることになるかもしれないが、KDDIとしてはプラットフォームを拡大することに寄与していくという。

 また、すでにスペインやドイツで販売されているFirefox OS搭載スマートフォンは、前述のように、いずれもスペック的にかなり抑えられたエントリー向けのモデルだが、国内向けにはハイスペックのモデルが投入されることになりそうだ。KDDIとしては、日本市場ではエントリー向けモデルより、これまでスマートフォンにいち早く飛び付いてきた先進層のユーザーに響くモデルを出した方がいい結果が得られると考えているようだ。時期については、2014年以降とされているが、早ければ、2014年春、遅くとも2014年中には登場するのではないかと見られる。ただし、Firefox OS搭載スマートフォンはラインアップの一つであり、iPhoneやAndroidスマートフォンは並行してラインアップされ、それぞれの特徴を活かしながら、我々ユーザーのニーズに応えていくことになりそうだ。

 そして、もしかすると、auのラインアップに加わるFirefox OS搭載端末は、スマートフォン以外にも拡がるかもしれない。昨年あたりからスマートフォンの普及により、フィーチャーフォンのラインアップが減ってきたことが指摘されているが、現時点でフィーチャーフォンを開発することを考えた場合、コンテンツサービスなどがスマートフォン中心に移行している状況を鑑みると、かつてのiモードやEZwebを閲覧するような専用ブラウザではなく、いわゆるフルブラウザを搭載し、ある程度、マルチタスクで動作するような環境が求められる。こうしたニーズを満たす端末を一から作ることは大変だが、Firefox OSの持つポテンシャルと柔軟性を活かせば、新しいスタイルのフィーチャーフォン的なスマートフォンを生み出すことも可能だろう。

 Firefox OSはユーザー目線で見ると、まだ搭載モデルが新興国向けに販売されたのみで、今ひとつ実感がわかない部分もあるが、HTML5を活かすことができるプラットフォームとして、大きなポテンシャルを持っており、今後、KDDIがMozilla Foundationに積極的に関わり、我々ユーザーがワクワクするようなモデルを生み出してくることを期待したい。

数多くのエンジニアが働いているが、オフィスのどのエリアも非常に自由な雰囲気だ

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。