法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

次の時代への道筋が見えてきたMWC 2015

 3月2日~5日まで、スペイン・バルセロナで開催されていた「Mobile World Congress 2015」(MWC 2015)。モバイル業界では世界最大のイベントであり、世界中の携帯電話事業者やメーカー、コンテンツプロバイダ、販社、関連企業が集まり、さまざまな展示や商談が行われる。本誌では会期中に数多くの速報記事をレポートしたが、今回はそれらの内容を踏まえつつ、MWC 2015で見えてきた次なる展開について、見てみよう。

次の時代へ歩みを進めるモバイル業界

 移り変わりが激しく、競争が厳しいと言われるIT業界において、もしかすると、もっとも動きが激しく、業界構造が複雑とも言えそうなモバイル業界。サービスを利用しているユーザーから見れば、端末と各携帯電話会社くらいしか身近に感じないが、ネットワーク機器ベンダー、コンテンツプロバイダ、アクセサリメーカー、販売会社、ソフトウェアベンダーなど、多様な企業が業界に関わっており、端末はもちろん、ネットワーク、プラットフォーム、デバイス、コンテンツ、サービスなど、さまざまなジャンルに渡って、激しい競争がくり広げられ、その背後ではいろいろなアライアンスが入り組んでいる。

 そんなモバイル業界に関わる企業や人々が集まり、さまざまな展示や商談が行われるのが毎年、この時期にスペイン・バルセロナで開催される「Mobile World Congress」だ。毎年、MWCの記事でも説明しているが、このイベントはInternational CESやIFAなどと違い、一般消費者のためのイベントではなく、基本的に業界に関わる人々が集う『プロ』のためのイベントとされている。そのため、ひとりのユーザーにとっては「ふーん。そうなのか」とあまり興味が持てない展示内容でも数年後にはユーザーがその技術を採用した端末やネットワーク、サービスを使っているということもある。たとえば、国内では昨年来、各社がLTEネットワークで複数の周波数帯を束ねる「キャリアアグリゲーション」を採用し、通信の高速化を実現しているが、筆者がこの技術のデモを最初に見かけたのは、確か4~5年前のMobile World Congressの展示で、まだタンスのような巨大な箱でデモが行われていた。これが数年後にはチップになり、今や我々が持つ端末の中に実装されたわけだ。もしかすると、今回出展された技術も数年後に実用化され、日常的に使うことになっているものもあるかもしれない。

 また、同時にMobile World Congressは技術動向だけでなく、その年の製品ラインアップやサービスの方向性を知るうえでも重要な意味を持つ。端末については例年、ソニーモバイルやサムスン、LGエレクトロニクス、ファーウェイ(Huawei)、ZTEといった端末メーカーが会期に合わせて、新製品を発表してきた。たとえば、2014年はソニーモバイルの「Xperia Z2」、2012年はNECカシオの二画面端末「MEDIAS W」、2011年は「GALAXY S II」などが発表され、注目を集めたが、なかにはその後、日本市場において、各社の夏モデルとして、採用されたものもあった。

 プラットフォームに関連する話題も多く、2010年にはマイクロソフトが「Windows Phone 7」を発表し、2011年にはGoogleが協賛各社が集まるブースを構え、数十種類のピンバッジを配布したことも話題になった。2013年にはTizen対Firefox OSの対決が注目を集めたが、翌2014年には直前にNTTドコモが国内向けのTizen搭載端末の発表を見送り、MWC 2014ではお蔵入りになったと思しきTizen端末が展示されるといったこともあった。

 そして、今年のMWC 2015だが、やはり、次の時代へ向けたモバイル業界の方向性を知るうえでも重要な意味を持つ。特に、国内外ではここ数年、スマートフォンを軸にした成長が業界を後押しし、かなりの活況を呈してきたが、端末やプラットフォームが成熟し、通信技術もLTEを軸にしたものが世界中で展開され始めたこともあり、今後の各社の動向が注目される状況にある。次の時代へ向けて、業界がどのように取り組むのか、何を目指すのか、どんなソリューションを示すのかが非常に気になるイベントというわけだ。

生まれ変わったGalaxyが最大の注目

 今年のMWC2015において、もっとも注目を集めた端末と言えば、やはり、サムスンのGalaxy S6/S6 edgeをおいて、他にはないだろう。サムスンは会期直前の3月1日に「SAMSUNG UNPACKED 2015」を開催し、Galaxy S6/S6 edgeの2機種を発表した。それぞれの製品の詳しい内容は速報記事を参照していただきたいが、サムスンとしては昨年のGALAXY S5シリーズが日本のみならず、海外でも今ひとつ奮わない結果になったことを踏まえ、端末のデザインや質感などを含め、完全にリニューアルしたモデルを発表してきた。

サムスンは会期前日に行なわれたGalaxy UNPACKED2015でGalaxy S6/S6 edgeを発表

 今回のSAMSUNG UNPACKED 2015で非常に印象的だったのは、サムスン自身の力の入れようが今までと大きく違うという点だ。もちろん、これまでのSAMSUNG UNPACKEDでもさまざまな演出を試み、来場者からも好評を得ていたが、プレゼンテーションでは端末だけでなく、GALAXY Gearなどのウェアラブル端末やサービスなども合わせて、紹介していたため、総花的な印象になってしまうような一面もあった。これに対し、今回はGalaxy S6/S6 edgeの紹介に集中的に時間を割き、機能紹介も要点を絞り込むことで、来場者にGalaxy S6/S6 edgeのアドバンテージをしっかりと伝えようとしていた。同時に、事前の告知で「WHAT'S NEXT」、発表後に「NEXT IS NOW」というコピーを使った広告を展開し、今までとは違う新しいステージ、次のレベルに進んだという印象を強く与えていた。

両側面をカーブさせた独特のデザインを採用した「Galaxy S6 edge」。5.1インチのディスプレイを搭載しながら、スリムに仕上げている
従来のフラットデザインを継承した「Galaxy S6」。メタルフレームとガラスパネルを採用したことで、グッと高級感が増した

 気になる端末については、従来のGALAXY Sシリーズが樹脂を中心にした素材でボディが構成されていたのに対し、今回はどちらのモデルもボディ周囲にメタルフレームを採用し、背面にゴリラガラス4によるガラスパネルを組み合わせることで、高級感のある仕上がりを実現している。ボディカラーは筐体とガラスにサンドイッチされる形で使われているが、光の当たり方によって色合いが変わるというユニークな演出が目を引く。

 端末の仕様面では従来モデルで初採用された防水仕様がなくなり、microSDメモリーカードにも非対応となった。その代わり、本体メモリーは32/64/128GB搭載のモデルがラインアップされる。バッテリーは固定式になり、着脱ができなくなったが、ワイヤレス充電に対応し、microUSB外部接続端子はキャップレスを採用する。従来のやや保守的とも言えるGALAXYシリーズの仕様から考えると、かなり思い切った仕様変更で、今後、他メーカーも含め、Android端末のトレンドに与える影響が注目される。

背面にガラスパネルを採用。見る向きによって、カラーが変わるユニークな仕上がり

 発表された2機種の内、多くの人が関心を寄せているのは、やはり、Galaxy S6 edgeだろう。Galaxy S6 edgeはその名の通り、GALAXY Note Edgeでも採用されたエッジスクリーンを左右両側に備えた独創的なデザインを採用する。GALAXY Note Edgeのエッジスクリーンはメインディスプレイに160ドット分のエリアを拡張し、かつてのケータイのサブディスプレイのような使い方をしていたのに対し、Galaxy S6 edgeは5.1インチの2560×1440ドットの有機ELディスプレイの左右部分を曲げて、エッジスクリーンを実現している。そのため、真正面から見ると、ディスプレイのフレームがないように見え、ボディそのものも幅が狭く、非常に持ちやすい形状に仕上げられている。

 ユーザーインターフェイスも改良されており、エッジスクリーンの部分から内側に引き出すようにドラッグすると、お気に入りの連絡先を表示して、すぐにコンタクトを取れるようにしたり、不在着信も同様の操作で確認することが可能だ。

 もう一方のGalaxy S6は従来のGALAXY Sシリーズの流れを継承するスタンダードなデザインだが、メタルフレームや背面のガラスパネルによる仕上げなどは共通で、高級感のある仕上がりとなっている。エッジスクリーン特有の機能を除けば、ハードウェアのスペックやソフトウェアは基本的に変わらない。GALAXY Note 4/Note Edgeのときもそうだったが、既存のGALAXY Sシリーズの使い勝手を継承したい堅実派のユーザーはGalaxy S6、エッジスクリーンによる先進的なデザインを体験したいのであれば、Galaxy S6 edgeという選択になりそうだ。

4つのカラーバリエーションを両機種に用意。Galaxy S6 edgeのGreen Emerald、Galaxy S6のBlue Topazが独自カラー

 国内の販売については、すでに明らかにされているが、取り扱う携帯電話事業者については、まだ発表されていない。過去のモデルから考えれば、NTTドコモとauから発売されることはほぼ確実だが、気になるのはGalaxy S6とGalaxy S6 edgeの両モデルを両社がどのように扱うのかという点だ。両社とも2モデルを扱うのか、片方の会社のみが2モデルを扱うのか、はたまた両社が1モデルのみを扱うのか。あるいはMVNO向けやSIMフリー端末の可能性も含め、さらに多くの事業者が扱うことになるのか。いずれにせよ、かなり魅力的なモデルであるだけに、今までよりも幅広い販路で展開されることが期待される。

ミッドレンジのラインアップを充実させる端末メーカー

 さて、サムスン以外のメーカーはどうだろうか。昨年のMWC 2014では前年(MWC 2013)のプラットフォーム競争を受け、どちらかと言えば、新興国向けを意識したエントリー向けのモデルが数多く出品されていたが、今年はミッドレンジのモデルが一気に充実してきた印象が強い。日本国内でもASUSのZenfone 5に代表されるように、手頃な価格で購入できるSIMフリー端末が人気を集めており、今回発表されたモデルの内のいくつかは日本市場にも展開される可能性が考えられる。端末メーカーとしてはGalaxy S6/S6 edgeのようなフラッグシップを発表しつつ、それとは別に、実勢価格があまり高くなりすぎないゾーンのモデルを展開し、着実に数を売っていこうという流れのようだ。

ソニーモバイル

ソニーモバイルは10.1インチタブレットで世界最薄最軽量の「Xperia Z4 Tablet」を発表。日本向けにも投入される予定

 まず、例年であれば、サムスンと並び、その年のフラッグシップモデルを発表してきたソニーモバイルだが、今年は10.1インチで世界最薄最軽量を実現したタブレット「Xperia Z4 Tablet」、スーパーミッドレンジを謳う「Xperia M4 Aqua」、Bluetoothスピーカーなどが発表された。期待されていたスマートフォン「Xperia Z4」は発表されず、メディア関係者からは落胆する声なども聞かれたが、2015 International CESの記事でも説明したように、ソニーモバイルとしてはXperiaのラインアップ全体の戦略を見直している時期であり、まだXperia Z4を投入するのは時期尚早と判断したようだ。この分で行くと、早くても国内の夏商戦向け、遅くなれば、IFA 2015開催時に発表され、国内には秋冬モデルと投入されることも考えられそうだ。最終的にXperia Z4がどのような製品になるのかはわからないが、今回のXperia Z4 Tabletが同じシリーズであることを考慮すれば、同様のデザインを踏襲することが考えられ、従来モデルよりも薄型化や軽量化が図られることになりそうだ。ただ、そうしたスペック面だけでない部分で、新しいインパクトを期待したいところだ。

スーパーミッドレンジに位置付けられた「Xperia M4 Aqua」。日本での投入は今のところ、アナウンスされていないが、MVNO向けには適したモデル
踊るスピーカー「Rolly」を彷彿させるBluetoothスピーカー「BSP60」は音声コマンドで動作し、本体も限られた範囲で動き回る仕様

LG

 次に、2015 International CESで曲面ディスプレイを採用した端末の第2弾「LG G Flex2」を発表したLGエレクトロニクスは、同製品を欧州向けにも発表すると同時に、「LG Magna」「LG Spirit」「LG Leon」「LG Joy」というミッドレンジ以下の4機種を発表した。4機種は基本的に同じデザインテイストで仕上げられているが、ディスプレイサイズが5/4.7/4.5/4インチと異なっている。さすがに4インチのモデルは厳しそうだが、5インチや4.7インチのモデルであれば、日本のMVNO向けにも適していると言えそうで、今後の展開が期待される。

LGエレクトロニクスは発表済みの「G Flex 2」に加え、ミッドレンジのスマートフォン4機種を発表

 今回のLGエレクトロニクスの出品で、もうひとつ注目を集めたのがスマートウォッチ「LG Watch Urbane」と「LG Watch Urbane LTE」だ。「LG Watch Urbane」はAndroid Wearを搭載したモデルであるのに対し、「LG Watch Urbane LTE」は同社がテレビにも採用している「Web OS」を搭載しており、そのネーミング通り、LTEによるデータ通信機能を搭載する。しかもVoLTEに対応するほか、「LG Watch Urbane LTE」同士で直接、通信を行うLTE Directにも対応するなど、かなり先進的な仕様を採用している。同社のスマートウォッチと言えば、「LG Watch R」をはじめ、丸型ディスプレイを採用したモデルが人気を集めており、今回の「LG Watch Urbane」と「LG Watch Urbane LTE」はいずれも同様のデザインを採用する。ちなみに、こうした通信モジュール内蔵のウェアラブル端末は、各事業者とどのように契約をするのかが重要になるが、海外では1つの回線契約に付き、複数のSIMカードを発行するサービスなどが提供されているところもある。今後、国内でもIoTの普及を進めるのであれば、こうした契約形態が実現しやすい環境も整えていく必要がありそうだ。

G Watchシリーズの新モデル「G Watch Urbane」と「G Watch Urbane LTE」を発表。LTE対応モデルはLTE Directを使い、端末同士で直接、通信が可能

ファーウェイ

Huaweiは高級路線のAndroid Wear搭載モデル「Huawei Watch」を発表。開発中のため、実機は触れなかったが、ゴールドのモデルはかなり派手な印象

 昨年、国内市場において、オープンマーケットへ向けたSIMロックフリー端末を相次いでリリースし、注目を集めたファーウェイだが、今回のMWC 2015ではAndroid Wear搭載のスマートウォッチ「Huawei Watch」、ウェアラブル端末「TalkBand B2」、タブレット端末「MediaPad X2」などを出展した。Huawei Watchについては開発中とのことで、実機を見るだけに留まったが、なかなか高級感のある仕上がりで、市場によっては支持されそうな印象を受けた。ちなみに、ファーウェイは中国国内において、一般的な流通ルートで販売するAscendブランドのラインアップのほかに、直販のみで展開する「Honor」ブランドを展開し、手頃な価格が人気を得ている。日本国内では各携帯電話事業者向けとは別に、いち早くオープンマーケットに取り組んだ同社だが、こうした直販ブランドでの展開にも期待したいところだ。

国内でSIMフリー端末として販売されている「MediaPad X1」の後継モデル「Media Pad X2」を発表。7インチフルHD液晶を搭載した通話可能なファブレットだ

ZTE

 Huaweiと並び、日本でも端末ビジネスを展開するZTEは、「Blade S6」「Blade S6 Plus」を発表したが、日本のオープンマーケット向けに「Blade S6」を展開することも明らかにされた。同社によれば、昨年、MVNO向けにSIMフリー端末として供給した「Blade Vec 4G」が好調であることを受け、各携帯電話事業者向けとは別に、オープンマーケットに投入することを決めたという。ファーウェイと同じように、国内のオープンマーケットを牽引する存在になることが期待される動向だ。

ZTEは「Blade S6」「Blade S6 Plus」を発表。日本ではオープンマーケット向けに「Blade S6」(左)が投入される予定

 これまで国内市場は各携帯電話事業者が販売する端末が中心だったが、昨年来のMVNOの活況により、オープンマーケットに注目が集まり、さまざまな端末メーカーが製品を投入しやすい状況が整ってきた。今回、MWC 2015に出品された端末のいくつかも国内市場に投入され、ユーザーが手にする機会が増えることになりそうだ。

注目を集めるWindows Phone

 今回のWMC 2015において、もうひとつ注目を集めたのがWindows Phoneの存在だろう。世界的なスマートフォンのシェアで見れば、iOS、Androidに次ぐポジションにあるが、国内ではauが2011年に発売した「IS12T」以来、新製品が登場しておらず、まったく存在感を示すことができていない。

マウスコンピューターの製品企画部部長の平井健裕氏は、手探りながらも順調に開発が進んでいることを語っていた。

 しかし、MWC 2015会期直前、国内でPCを販売するマウスコンピューターがWindows Phoneの開発を表明し、続いて、freetelブランドを展開するプラスワン・マーケティングも今夏へ向けて、Windows Phoneを発売することを発表した。さらに、国内向けではないものの、京セラも北米市場向けにWindows Phoneのタフネスモデルを開発することを発表し、にわかにWindows Phoneの周辺が賑わいつつある。Windows Phoneの詳細については、また別途、記事で触れるつもりだが、今秋のWindows 10へ向けて、国内市場でもWindows Phoneが注目を集めることになるかもしれない。

 Windows Phone参入を表明したメーカーの内、マウスコンピューターはMWC 2015には出展していないものの、同社製品企画部部長の平井健裕氏に開発中の試作機を見せてもらい、話をうかがうことができた。詳細はインタビュー記事をご覧いただきたいが、CPUにSnapDragon 400 MSM8916を採用し、720×1280ドット表示が可能なHDディスプレイを搭載するなど、ミッドレンジに位置付けられるモデルとして開発されている。ただ、WindowsタブレットやPCを開発するときと違い、通話の部分には苦労が多く、日本の周波数帯域への対応も含め、まだ課題は残されているようだ。

マウスコンピューターが開発中のWindows Phone。端末内では「MOUSE M54TE」とモデル名が表記されていた

 次に、freetelブランドでSIMフリー端末を展開するプラスワン・マーケティングは、MWC 2015に日本ブランドを強調するブースを構え、Androidスマートフォンなどといっしょに、開発中のWindows Phoneを出品していた。最終的な仕様ではないとしながら、展示されていた試作機は、KAZAM製のもので、これをベースに日本向けのモデルが開発されるようだ。ちなみに、KAZAMは日本であまりなじみがないが、台湾のHTCの元幹部が2013年設立した端末メーカーで、英国やドイツ、スペインなど、15カ国に事業を展開している。

freetelブランドを展開するプラスワン・マーケティングもWindows Phoneを出展。日本らしいクオリティをアピールしていた
京セラは北米向けに展開する予定のWindows Phoneのタフネスモデルの試作機を展示

 京セラについては、同社が米AT&Tに供給しているAndroidスマートフォン「Dura Force」をベースに、Windows Phoneを搭載したモデルを出品していた。京セラの通信機器関連事業本部 営業統括部長の能原隆氏によれば、Windows Phoneは北米向けにビジネスを展開していく中で、法人からの需要が多く、AndroidプラットフォームとWindows Phoneを基本的に同じハードウェアで開発できる状況になったことも踏まえ、参入することになったという。ただし、日本市場についてはまだ何も決まっていないとのことで、今後の展開に期待がかかるところだ。

 また、当面は日本市場での展開が期待できなさそうだが、マイクロソフトはMWC 2015のプレスカンファレンスで「Lumia 640」「Lumia 640XL」の2機種を発表した。スペック的にはどちらもミッドレンジに位置付けられ、価格はLTE対応モデルが200ユーロ前後に抑えられているが、Office 365の1年間のサブスクリプションが付属しており、かなりお買い得感のある価格設定を実現している。リーズナブルな価格帯でバランスのいい端末を仕上げるNOKIAのノウハウがしっかりと継承されているようだ。

マイクロソフトはWindows 10 Readyとなる「Lumia 640」「Lumia 640XL」を発表。Office 365のサブスクリプション1年分が付属して、200ユーロ前後を実現
「Lumia 640」(左)は5インチ、「Lumia 640XL」は5.7インチのHDディスプレイを搭載。ディスプレイとカメラ以外のスペックはほぼ共通

 この他にも日本でおなじみのブランドで言えば、acerなどがWindows Phoneを出品しており、関係者の情報を聞く限り、今後もさらに多くの端末メーカーがWindows Phoneに参入しそうな状況で、国内市場でもWindows Phoneが一気に増えることになるかもしれない。

ネットワークや最新技術にも注目

 MWC 2015では端末以外にも注目すべき展示が数多く見られた。その中からいくつか気になる展示をピックアップして、紹介しよう。

 まず、今回のMWC 2015において、ネットワーク関連でもっとも話題となっていたのがクアルコムなどが出展していた「LTE-U」(LTE-Unlicensed)だ。現在、日本に限らず、世界各国の携帯電話事業者は免許を受けた周波数帯を使い、LTEによる通信サービスを提供しているが、スマートフォンではLTEをはじめとしたモバイルデータ通信とは別に、Wi-Fiを利用している。

クアルコムはWi-Fiで利用する5GHz帯にLTEの電波を使う「LTE-U」のデモを公開。5GHzのWi-Fiにほとんど影響がないことをアピールしていた

このWi-Fiで利用する周波数帯域は、LTEで利用する周波数帯と違い、免許を受けることなく、利用できる状況にあるが、周波数利用効率の高いLTEによる電波を使い、既存の免許を受けた周波数帯域のLTEとキャリアアグリゲーションで束ねることで、高速化を実現するというものだ。この場合、既存のWi-Fiへの影響がどれくらいあるのかが気になるところだが、今回は同社のフィールドテストで既存のWi-Fiと共存する形でもほぼ影響がないことを実証するデモを見せていた。クアルコムによれば、電波法などの関係上、日本では少し先になりそうだが、米国や韓国などではここ数年の内に実際の運用ができる見込みだという。この他にもクアルコムではLTEとWi-Fiのキャリアアグリゲーション、カテゴリー9で3つの周波数帯域を束ねるキャリアアグリゲーションのデモなどが展示されており、今後もさらなる高速化や安定化、周波数利用効率の向上が図られようとしていることがアピールされていた。

NTTドコモのブースでは現在のVoLTEを上回る高音質通話が可能な「EVS」コーデックを展示。

 次に、NTTドコモは5Gへ向けたネットワーク構築などの展示を行っていたが、意外に面白かったのが「EVS(Enhanced Voice Services)」と呼ばれるコーデックのデモだ。EVSは現在、NTTドコモが提供するVoLTEよりも高音質な音声通話を実現する音声コーデックで、FMラジオ相当の音質を実現するという。その音質を活かし、音声通話中にダイヤルアプリに効果音を鳴らすボタンを付け、笑い声や拍手、笛の音などを鳴らせるようにすることで、笑いのある表現力豊かなコミュニケーションを実現しようというものだ。主題はあくまでもEVSという高音質のコーデックなのだが、なかなか遊びゴコロのある演出で、実際に本サービスとして提供されたり、展示会のデモ環境などで体験できれば、VoLTEサービスの新しい魅力になるかもしれない。

「EVS」コーデックの高音質を活かし、通話中に効果音やBGMなどを相互に鳴らせる体験デモを実施。使い方によっては新しいサービスへの発展も期待できそう
NTTドコモは昨年6月に公開した「ポータブルSIM」を展示。海外の来場者から高い関心を集めていた

 また、NTTドコモのブースでは「ポータブルSIM」が海外の来場者に注目を集めていた。ポータブルSIM内に記録された契約者情報をBluetooth経由で接続することで、他のスマートフォンやタブレットでも利用できるようにするというものだ。国内では昨年6月の段階で公開されていたが、IoTなど、多様な機器と接続する状況が必要になってきたこともあり、予想以上に注目度が高まった展示だったようだ。

 同じく日本勢では、富士通が展示していた虹彩認証も注目を集めていた。虹彩は眼球内の環状の膜で、2歳くらいで形状が決まり、生涯、形が変わらないため、よりセキュアな生体認証として活用されているが、今回、富士通が出展したものはこれをスマートフォンのロック解除に応用できるようにもので、赤外線LED照明と赤外線カメラを搭載することで、端末を眼前に持ってくるだけで、一瞬でロック解除をできるようにしていた。この機能を搭載した端末は2015年度中にも登場するとのことで、指紋認証などに代わる新しい生体認証として、今後の展開が注目される。

Firefox OSを搭載したIoTデバイス「Runcible」を説明するMonohmの社長兼CPOのジョージ・アリオラ氏

 そして、最後に技術というより、今までにないジャンルのデバイスになるが、KDDIが出資する米国のスタートアップ企業「Monohm」(モノーム)が開発したFirefox OSを搭載した「Runcible」(ルンシブル)というIoTデバイスが注目を集めていた。Runcibleは懐中時計をモチーフにした丸型デザインの手のひらサイズのデバイスで、LTE通信機能を備え、Bluetoothヘッドセットを接続すれば、音声通話にも対応する。ディスプレイには時計が表示されるほか、TwitterやFacebookの通知を表示したり、背面に備えたカメラで写真を撮影し、丸型の写真を投稿できるなどの機能を備える。クルマのハンドル中央に装着して、ナビゲーションのように活用することも検討しているという。まだ現時点ではどのように製品化されてくるのかがわからない部分もあるが、こうした自由に発想されたデバイスが登場してくるのは、Firefox OSというオープンな環境ならでは面白さと言えそうだ。

2015年の市場の変化と次の時代への着実な歩みに期待

 この1~2年、モバイル業界は成長を続けてきたスマートフォンが成熟し、一時期のような熱狂が薄れてきたような印象があった。その熱はウェアラブル端末に広がり、今年はIoTにも注がれようとしているが、スマートフォンが登場して数年のようなアツさはあまり感じられなくなってきたという指摘も多い。

 しかし、今回のMWC 2015を振り返ってみると、世界のスマートフォン市場を牽引してきたサムスンのGALAXYシリーズで久しぶりに先進感のあるモデルが登場する一方、実用的な機能を備えつつ、バランスのいい価格帯を狙ったミッドレンジのモデルが充実してきたり、国内市場でも待望論の多いWindows Phoneが各社から発表されるなど、再び面白みが増えてきた印象だ。ウェアラブル端末も単に端末としての機能を追求するだけでなく、高級化を狙ったモデルや通信機能を搭載したモデルなど、新機軸のモデルが相次いで発表され、ユーザーの選択肢も一段と拡がってきそうな状況だ。

 通信技術については、世界各国でLTEサービスが展開され、業界的には5Gへ向けた動きが活発になる一方、クアルコムのデモなどでもわかるように、Wi-Fiとの連携も新しいテーマとして注目を集めていた。広告的にはピーク速度が話題になりがちだが、実効速度が重要になり、いかに混雑を軽減できるかも事業者の課題として注目されることになりそうだ。

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。