法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「PREMIUM 4G」でドコモが目指す快適なモバイルインターネット

 5月13日、NTTドコモは夏商戦へ向けた「新サービス・新商品発表会」を開催し、2015年夏モデルを発表した。今回の発表では「+d」による協創やローソンとの提携、dポイントなどが注目を集める一方、今年3月からNTTドコモがサービスを開始した「PREMIUM 4G」に対応したモデルも一気に増えた。今回は、PREMIUM 4GでNTTドコモが目指す快適なモバイルインターネットに注目してみよう。

2015年夏モデルの発表会場でアピールされていた「PREMIUM 4G」

快適なモバイルインターネットのために

 2008年頃から国内に登場し始めたスマートフォン。気が付けば、市場の約半数近くをスマートフォンが占め、ひと回りサイズの大きいタブレットも着実にユーザーが増えてきている。元々、国内のモバイルネットワークは通信品質やエリアの面でも世界トップクラスにあると言われ、ケータイ時代からヘビーユーザーが多いとされていたが、膨大なトラフィックに対応するため、スマートフォン時代に入ってもネットワークの強化が続けられ、現在でも世界でもっとも高品質なモバイルネットワークだと言われている。

 そんな国内のモバイルネットワークで、今年3月からNTTドコモがスタートさせたのが「PREMIUM 4G」だ。NTTドコモは2010年12月にLTE方式を採用した高速データ通信サービス「Xi(クロッシィ)」の提供を開始し、着実にサービスを進化させてきた。サービス開始当初はほとんどのエリアが受信時最大37.5Mbps(理論値)だったが、一部のエリアでは受信時最大75Mbpsに対応し、3G時代の数倍の高速通信を実現していた。その後、2012年11月には全国10都市の一部において、Xiの通信速度を受信時最大100Mbpsに引き上げ、2013年3月にはLTEのカテゴリー4に対応した受信時最大112.5Mbpsのエリア展開を開始。2013年10月には東名阪エリアで、受信時最大150Mbpsのサービスを提供をスタートさせている。

 こうした高速化はLTE方式で利用する周波数帯域を増やしていくことで、実現できたわけだが、NTTドコモは3Gのユーザーも多く抱えているため、FOMAからXiへの切り替え状況やユーザーの需要を見ながら、堅実に周波数帯域を増やすという手法を取ってきた。

 そして、2013年10月には同社に割り当てられている2.1GHz帯、800MHz帯、1.5GHz帯、1.7GHz帯というすべての周波数帯でLTE方式が使えるようになり、これらの内、1.7GHz帯と1.5GHz帯についてはLTE専用周波数として活用している。2014年9月からは「フルLTE」の名称でこれらを訴求している。

LTEを4つの周波数帯で提供

 ちなみに、2.1GHz帯と800MHz帯は3G方式との併用になるが、2.1GHz帯はトラフィックの多い都市部、800MHz帯は郊外のエリアをカバーするようにネットワークが構成されており、3Gのエリアもきちんとカバーした状態で、LTEによる高速通信サービスを充実させている。受信時最大150Mbps対応端末については2013-2014冬春モデルでスマートフォンを中心に対応モデル数を一気に増やし、今年春の段階ではほとんどのスマートフォン、タブレット、モバイルWi-Fiルーターを受信時最大150Mbpsに対応させている。

 また、充実したLTEネットワークを活かし、2014年6月からは国内初となる「VoLTE(Voice over LTE)」サービスを開始し、LTE方式による高音質通話を実現している。2014年夏モデルから対応端末を提供し、今年4月にはiPhone 6/iPhone 6 PlusもVoLTEが対応したことで、より多くのユーザーがその恩恵を受けられるようになっている。

受信時最大225Mbpsを実現するPREMIUM 4G

 さて、そんな中、NTTドコモは今年3月27日から第4世代の通信技術である「LTE-Advanced」を使った「PREMIUM 4G」のサービスをスタートさせている。LTE-AdvancedはこれまでのXiサービスで採用されてきたLTE方式を進化させたもので、PREMIUM 4Gでは受信時最大225Mbpsという高速通信を実現する。サービス開始当初は「Wi-Fi STATION HW-02G」と「Wi-Fi STATION L-01G」のモバイルWi-Fiルーター2機種が対応していたが、5月13日に発表された2015年夏モデルでは、スマートフォン5機種、タブレット2機種がラインアップに加わり、いよいよPREMIUM 4Gを本格的に活用できる環境が整っている。

 これまでの受信時最大150Mbpsから受信時最大225Mbpsへ高速化したPREMIUM 4Gだが、この高速化はLTE-Advancedを構成する技術のひとつである「キャリアアグリゲーション」を利用している。

 キャリアアグリゲーションは複数の周波数帯域を束ねることで、より多くのデータを伝送する技術で、道路で言えば、1車線から2車線に拡げることと同じことになる。LTEは元々、5MHz幅の単位で周波数帯域を利用しているが、高速化を実現するには連続した周波数帯域を使う必要があり、最大20MHz幅までの帯域を利用可能とされている。しかし、LTEのために、連続した20MHz幅の周波数帯域が利用できるケースはあまり多くなく、20MHz幅でも通信速度は受信時最大150Mbpsまでなので、それ以上の高速化は望めない。

 そこで、異なる周波数帯域の電波もいっしょに束ねることで、受信時最大150Mbpsを超える高速通信を実現しようとしたわけだ。NTTドコモがPREMIUM 4Gで利用する具体的な周波数帯域と速度は、1.5GHz帯/15MHz幅と2.1GHz帯/15MHz幅の112.5Mbpsずつの帯域、もしくは800MHz帯/10MHz幅による75Mbpsと1.7GHz帯/20MHz幅による150Mbpsを組み合わせたものになる。

 また、225Mbpsではなく受信時最大187.5Mbpsとなるが、2.1GHz帯/15MHz幅の112.5Mbpsと800MHz帯/10MHz幅による75Mbpsを組み合わせた、3種類目のキャリアアグリゲーションも提供が開始されている。

2015年夏モデルの発表会で「PREMIUM 4G」の通信速度をアピールするデモ

 実際のパフォーマンスで、どれくらいの差があるのかは、周辺のトラフィックや電波状態、時間帯、端末など、さまざまな要因によって違ってくるため、一概に表現できないが、筆者がPREMIUM 4G対応の2015年夏モデルと受信時最大150Mbps対応の従来モデルを持ち歩き、何度か計測したところ、PREMIUM 4G対応端末では実効速度で40~50Mbpsの表示を何度も確認できたのに対し、従来モデルは10~20Mbpsが中心で、条件がいいと、40Mbps前後まで実効速度を伸ばせたという印象だ。

高度化C-RANで安定した快適ネットワークを実現

 受信時の最大速度が向上したことで、動画のダウンロード時間などを短縮できるPREMIUM 4Gだが、理論値の通信速度が向上しただけでは、どれだけユーザーに恩恵があるのかが今ひとつわかりにくい面もある。最近は通信速度のベンチマークテストの結果をネット上でよく見かけるが、ベンチマークは本来、基準値やひとつの目安で、一時的な通信速度の測定値でしかない。実際にユーザーがどれだけ快適に利用できるのかは、こうした測定値だけでは見えにくい部分がある。

 NTTドコモはPREMIUM 4Gのサービス提供をはじめるにあたり、LTE-Advancedに向けた新しい技術である「高度化C-RANアーキテクチャ」を導入し、多くのユーザーが快適に利用できる環境を整えようとしている。C-RANは「Centralized Radio Access Network」の略で、携帯電話の基地局装置の制御部と無線部を分離し、特定の箇所に集約した制御部で、複数の分離した無線部をコントロールするというアーキテクチャだ。このC-RANにより、基地局の省スペースを実現すると同時に、数多くの基地局を協調動作させることができ、干渉の発生などを抑えることが可能になる。

 一般的に携帯電話の基地局は、数百mから数kmの範囲をカバーするが、都市部など、人口の多いエリアでは1つの基地局のエリア内にユーザー数が多くなり、トラフィックが増えると、信号を処理しきれなくなってしまう。そこで、1つの基地局がカバーするエリアを狭くし、基地局の数を増やすことで、より多くのユーザーの信号を処理できるようにしている。いわゆるマクロセルからスモールセルへと置き換えようという考え方だ。

 これに対し、PREMIUM 4Gに導入された高度化C-RANでは、広いエリアをカバーするマクロセルの中に、異なる周波数で狭いエリアをカバーする基地局(スモールセル)を設置した「ヘテロジニアスネットワーク(HetNet)」を構築する。このとき、トラフィックの多い場所にスモールセルをアドオンする形で配置することで、そのエリアを大容量化できるが、高度化C-RANでは前述のように、ひとつの制御部で複数の無線部をコントロールし、連携しているため、安定した高速通信ができるというメリットを持つ。

「PREMIUM 4G」では高度化C-RANアーキテクチャが導入された

 たとえば、マクロセルのエリア内を移動中、途中に駅などのトラフィックが多い場所に差し掛かってもその付近に設置されたスモールセルの信号がキャリアアグリゲーションで追加され、高速かつ安定した通信が利用できるわけだ。逆に、スモールセル単位でキャリアアグリゲーションを提供した環境では、ハンドオーバーの頻度が増えるため、自ずと通信が不安定になる回数が増えてしまうわけだ。なお、NTTドコモが構築するスモールセルでは、現在はスモールセル同士のキャリアアグリゲーションは実施されていない。

 ちなみに、NTTドコモが今年3月の商用サービス開始に先駆け、2014年11月から実施していたフィールドテストでは、従来の受信時最大112.5Mbpsの環境に対し、PREMIUM 4Gのトラフィックが集中する場所での実効速度は約70%も向上したという。

 2015年の3月27日からサービスを開始したPREMIUM 4Gは、全国22都道府県38都市から重点的にエリアを展開し、2015年4月末時点では全国38都道府県128都市に拡大している。たとえば、もっともトラフィックが多いと予想される東京のJR山手線では、3月の段階で東京や品川、新宿、渋谷、池袋など15駅で利用可能で、5月には恵比寿駅、6月には西日暮里駅や目白駅を追加する予定だ。その他の駅についても7月以降、順次、エリアを展開する予定だという。

 モバイルデータ通信の高速化はユーザーにとって、魅力的だが、実際の利用シーンを考慮すると、単純なピーク速度ではなく、駅や繁華街など、ユーザーが多く集まる場所でのつながりやすさや、快適に使える環境の方が大切であり、PREMIUM 4Gはまさにそこにもフォーカスしたネットワーク構成になっているわけだ。

さらなる快適なモバイルネットワークを目指す

 受信時最大225Mbpsという高速通信サービスの環境を実現したPREMIUM 4Gだが、今後、NTTドコモのモバイルネットワークはどのように進化していくのだろうか。

 まず、高速化という点については、NTTドコモでは2015年度中に受信時最大300Mbpsを実現することを検討しており、実際の運用では3つの周波数帯域を束ねるキャリアアグリゲーションが有力視されている。昨年7月には新たに3.5GHz帯の割り当ても受けており、2016年度中には3.5GHz帯の運用も予定されている。

 また、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)もLTE-Advancedを構成する技術のひとつで、今後の高速化のカギを握る重要な技術だ。MIMOは送信機と受信機にそれぞれ複数のアンテナを持つ通信システムのことで、複数のアンテナで同時に信号を送受信することで、高速化を実現する。このとき、基地局-端末間は同じ周波数を使うため、利用する周波数帯域を増やすことなく、高速化ができるというメリットを持つ。ただ、基地局にも端末にも複数のアンテナが必要になるため、基地局では設置場所やコスト、端末では実装コストなどに課題があるとされている。

 現在のLTEサービスでは、基地局と端末にそれぞれ2つずつアンテナを用意する「2×2 MIMO」が構成されており、1つの基地局が2×2 MIMOでやり取りできるのは、1台の端末のみで、エリア内に複数の端末が存在するときは時分割で伝送している。この状態を「Single-User MIMO」と呼んでいる。これに対し、NTTドコモでは基地局のアンテナを4つに増やし、複数の端末の信号を処理できる「Multi-User MIMO」を開発しており、テスト環境ではすでに1Gbpsの伝送速度を達成している。MIMOについては、1本のアンテナを上下2つのグループに分割し、偏波技術を組み合わせることで、アンテナ4本に相当する伝送速度を実現する「Smart Vertical MIMO」、指向性の強い100本以上のアンテナ素子を使い、より多くのユーザーが同時に接続できるようにする「Massive MIMO」など、さまざまな技術が開発されている。

 さらに、5月25日から福岡で開催されている3GPP標準化会合でも取り上げられている話題だが、現在、Wi-Fiで利用されている5GHz帯でLTE方式による通信を行い、各携帯電話事業者が割り当てを受けている周波数帯域とキャリアアグリゲーションで束ねることで、さらなる高速化を狙うの動きもある。

 この取り組みは「LAA(Licensed Assisted Access with LTE)」と呼ばれる。5GHz帯は、Wi-Fiなどで利用する、国際的に免許が不要な「アンライセンス周波数帯」だが、5GHz帯のWi-Fiに大きな影響を与えない形でLTE方式による通信が提供できれば、ユーザーは既存のLTEネットワークとシームレスに高速化ができるというメリットを持つ。

 5Gへ向けた技術開発も活発で、NTTドコモが中心となり、「NOMA(Non-Orthogonal Multiple Access、非直交多元接続)」が候補技術のひとつとして提案されている。技術的には基地局から複数の端末に対して信号を発射するとき、遠い端末向けの信号の電力を強めておくことで、遠くの端末はロスの少ない信号を受け取ることができ、近くの端末は遠くの端末向けの信号を分離することができるため、結果的に周波数の利用効率を高められるというものだ。

ドコモが想定する5Gのシステム

2015年夏モデルでPREMIUM 4Gを体感せよ

 NTTドコモでは近い将来、PREMIUM 4Gをさらに進化させた受信時最大300Mbpsのサービスを提供する計画だが、この環境に近い速度を体験するものとして、東京・丸の内のドコモラウンジ、名古屋・栄のスマートフォンラウンジ、大阪・梅田のドコモショップグランフロント大阪で、受信時最大262.5Mbpsを体験できるコーナーを開設している。この262.5Mbpsという通信速度は、800MHz帯/15MHz幅による112.5Mbpsと1.7GHz帯/20MHz幅による150Mbpsをキャリアアグリゲーションで束ねることで実現できるもので、体験のみの環境としてデモが行われている。対応端末を持っているユーザーなら自身の端末でも体験が可能だ。

 NTTドコモが今年3月からサービスの提供を開始した「PREMIUM 4G」は、これまでのLTE方式を進化させた「LTE-Advanced」を採用することにより、受信時最大225Mbpsという高速データ通信を利用することが可能だ。「225Mbps」という値も魅力的だが、多くのユーザーが安定して、快適に利用できるようにネットワークが構築されていることも見逃せないポイントだろう。前述のように、2015年夏モデルではスマートフォン5機種、タブレット2機種がPREMIUM 4Gに対応しており、ひと足早く次世代の高速データ通信の環境を体験することが可能だ。受信時最大225Mbpsを実現するPREMIUM 4Gは始まったばかりだが、今後のNTTドコモのモバイルネットワークの進化に注目したい。

2015年夏モデル

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。