法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

3つのOSとApple Musicで新たな道へ進むApple

 6月8日から米国サンフランシスコで開催されているアップルの開発者向けカンファレンス「WWDC(WorldWide Developer Conference)」において、アップルはiPhone/iPad向けの「iOS 9」、Apple Watch向けの「watchOS 2」、Mac向けの「Mac OS X El Capitan」を発表し、音楽配信サービス「Apple Music」を6月30日からスタートさせることを明らかにした。すでに、本誌では速報記事を掲載したが、発表内容と国内市場への影響なども含め、改めてレポートしよう。

WWDCというイベント

 「アップル」という名前を聞いて、おそらく多くの人はiPhoneをはじめとする機器やiTunesなどの音楽配信サービスを提供する会社と答えるだろう。そんなアップルにとって、もっとも力を入れているイベントのひとつが毎年、この時期に行われている「WWDC(WorldWide Developer Conference)」と呼ばれる開発者向けカンファレンスだ。

会場となったモスコーンセンター

 さまざまな製品やサービスを展開するアップルにとって、ソフトウェアやハードウェア、サービスの開発者は、屋台骨を支える重要な存在であり、いち早く最新情報を提供するためのイベントとして、毎年、開催されている。その名の通り、世界中の開発者が対象のイベントであり、国内外から参加申し込みが受け付けられるが、会場のキャパシティの関係上、すべての人が参加できるわけではないので、抽選で参加の可否が決まるという仕組みだ。今回は世界70カ国から約6000人が参加しているという。同様の開発者向けイベントは、マイクロソフトが「Build」、Googleが「Google I/O」という名称で開催しており、いずれのイベントも世界中から開発者が集まっている。

 今回、筆者が取材し、速報をお届けしたのは、このWWDCの会期初日に行われた「基調講演」のみであり、このあと、会場では6月12日まで、さまざまなセッションが予定されている。ただし、開発者向けのセッションはNDA(秘密保持契約)の関係もあり、メディアの取材が許されていないため、基調講演以上の情報は開示されない。

 今回の基調講演では、速報でもお伝えした通り、Mac向けの「Mac OS X El Capitan」、iPhone/iPad向けの「iOS 9」、Apple Watch向けの「watchOS 2」という3つのOSに加え、音楽配信サービス「Apple Music」が発表された。Apple Musicはどちらかと言えば、コンシューマー向けの話題だが、WWDCという自社にとって、大きなイベントで発表することで、世界中にサービス開始を広くアピールしたい構えだ。3つのOSとApple Musicの内容については、速報でお伝えしたことよりももう少し詳しい内容がアナウンスされているが、その点も含め、本誌読者の中心であるスマートフォン/タブレットのユーザーのための視点で説明しよう。

標準アプリを強化するiOS 9

 iPhone/iPad向けのプラットフォームである「iOS」は、現在、iOS 8.3が最新版であり、ユーザーの端末への採択率(インストールされている割合)は、すでに83%に達している。後述するApple Musicに対応する「iOS 8.4」が6月中に公開される見込みだが、その後、今秋にも今回発表された「iOS 9」が公開される予定だ。今秋という時期から考慮して、例年通りのパターンで進めば、次期iPhoneに合わせて、公開されることが考えられる。

インストール率は83%に

 今回のiOS 9について、アップルでは「Intelligence」「App」「iPad」「Foundation」という4つのキーワードを掲げて、説明した。

 まず、「Intelligence」は、音声アシスタント「Siri」の進化を指したもので、現在は週に10億回のリクエストを受けるところまで普及しているという。今回の機能強化では、位置情報に関連付けて、リマインダーを登録し、特定の場所に着くと、そのリマインダーに連動したブラウザなどの機能を起動するといった使い方ができる。また、Proactive Assistant機能ではユーザーの行動を予測する形情報を提供する「Siri Suggestions」という画面が追加されており、ホーム画面から左スワイプで表示される。この画面には連絡先やアプリなどのショートカットが表示されるほか、「NEARBY」と題された周辺情報なども表示される。AndroidスマートフォンのGoogle Nowに近いイメージだろう。

 Siriで検索する情報の対象も大幅に拡大しており、スポーツやトラベル、動画サイトなど、さまざまなコンテンツが検索結果に表示される。従来も見つからない情報については、インターネットで検索することができたが、その確認ステップが省略されることになり、より検索の頻度が高くなりそうだ。ちなみに、Appleではこの検索内容について、プライバシー保護の対象にしており、第三者への情報提供などは行わないとしている。同様の説明は後述する「News」アプリの購読履歴のときにも明示されており、アップルとして、ユーザーのプライバシー保護には慎重に対処したいと考えているようだ。

 日本ではサービスが提供されていないものの、アップルとしては今、もっとも積極的な姿勢を見せているのが「Apple Pay」だろう。今回のプレゼンテーションではAMERICAN EXPRESSやVISA、MasterCardに加え、新たにDISCOVERのクレジットカードが利用できることが明らかになり、BESTBUYやJCPennyといった大手販売店での決済サービスの開始、NBAのプロバスケットボールチームのアリーナ、Pinterestアプリで見つけた商品からの購入なども可能になる。こうした利用できる場所の拡がりは、かつて国内でおサイフケータイが登場し、一気に使える場所が増えてきたときのイメージと重なる。提供地域も米国からイギリスに拡大し、イギリスでは25万の商業施設で利用が可能に予定で、今後、ヨーロッパ各地域への展開にも期待ができそうだ。

 このApple Payとも少し絡む形になるが、これまでiPhone向けに提供されてきた標準アプリ「Passbook」が「Wallet」と名を改め、店舗のStore Card、ホテルや販売店などのReward Cardなど、さまざまな情報を管理できるアプリになるようだ。Apple Payの国内展開はまだ少し時間がかかりそうだが、こうした会員サービスは国内でもそろそろ展開を期待したいところだ。

 次に、標準アプリとして提供されている「Notes」(日本語版の「メモ」)が大幅にバージョンアップする。従来のNotesは「メモ」を中心とした機能で、同期こそするものの、あまり高機能と言えない状態だった。これに対し、新しいバージョンでは文字の飾り付けやレイアウトなどを調整できるだけでなく、手書きでメモをしたり、写真の貼り付けやWebページへの写真付きリンクなどを埋め込めるようになっており、本格的なワープロに近いレベルの機能を使うことができる。

 同じく標準アプリの「Maps」(日本語版の「マップ」)もバージョンアップする。新バージョンでは公共交通機関の情報を地図上に重ねて表示できるほか、これらの交通機関を利用したルート案内(乗り換え案内)、地下鉄などの出入り口情報などが表示されるようになる。この地図の表示もSiriとの連携を強めており、Siriで「地下鉄で○○に行きたい」と言えば、そのルートを地図で表示させることができる。ただ、これらの地図情報の充実は、米国の主要都市、トロント、メキシコシティ、ロンドン、ベルリン、中国の主要都市に限られており、他地域への展開にはまだ少し時間がかかるようだ。

 ちなみに、「Maps」については、前述のSiri Suggestionで表示された「Nearby」と連動しており、飲食やショッピング、交通、トラベル、健康などのジャンルについて検索することが可能で、検索結果にApple Payが利用できるところがあれば、それも表示できる。バージョンアップした「Maps」はiPhone/iPadのほか、Mac OS X向けにも提供される。

 もうひとつ同じく標準アプリとして、これまで「Newsstand」として提供されてきたものが「News」として生まれ変わることになる。これまでのNewsstandも電子書籍や電子雑誌のプラットフォームとして提供されてきたが、Newsではユーザーが興味のあるジャンルを追加しておくことで、自動的に動画やアニメーションを含めたコンテンツが生成され、提供されていくというものだ。提供は米国、イギリス、オーストラリアからスタートし、順次、拡大していくという。ここ1〜2年、スマートフォンのニュースアプリが増えてきたが、プラットフォームの標準アプリが登場してきたことで、既存のニュースアプリも方向性を再検討しなければならないかもしれない。

マルチタスクをサポートするiPad

 iOS 9で掲げた4つのキーワードの内、派手さこそないものの、既存のユーザーにとって、便利そうだったのが「iPad」での強化だ。

 まず、iPadの画面に表示されるソフトウェアキーボードに、コピーやカット、ペーストを操作するためのボタンが装備され、二本指でのジェスチャ操作で範囲指定をできるようにするなど、操作をより視覚的に使いやすくしている。もちろん、これまでの環境でもコピー&ペーストはできたが、ロングタッチをしたり、範囲のピンをドラッグするなど、やや操作に煩雑な印象もあった。iPadを文書作成にも利用するユーザーが多いことを考えると、なかなか効果的な改良点と言えそうだ。

 次に、マルチタスクについても大きく仕様が変更された。これまでの環境ではホームボタンを二回連続で押すことで、タスク切り替えの画面が表示されたが、今回はデザインも変更されたうえ、複数のアプリを画面分割で表示して、切り替えながら操作できるようにしている。画面分割時のサイズ変更も可能なうえ、動画をピクチャー・イン・ピクチャーの形で表示することもできる。

 ただし、iOS 9が動作するすべてのiPadでこれらの機能が利用できるわけではなく、新しいデザインのマルチタスク画面とピクチャー・イン・ピクチャーはiPad Air以降とiPad mini 2以降、画面分割時のマルチタスク動作はiPad Air 2のみとなっている。iOS 9が動作するiPadとしては、iPad 2以降がサポートされるが、今後の利用環境を考えると、実質的にはiPad Air以降でなければ、十分に機能が活用できなくなってくるかもしれない。この他にもiOS 9では、Health KitやHome Kitへの対応、CarPlayの対応強化などが表明された。

 また、開発者向けの話題としては、速報記事でも触れたように、アップルが提供する開発言語「Swift」が「Swift 2」にバージョンアップし、オープンソースで提供されることが明らかにされた。一般ユーザーにはあまりピンと来ない部分だが、この発表はこの日、最大の歓声をもって迎えられた。

 iOS 9のβ版については、WWDCの会期初日から開発者向けに公開されるが、7月にはパブリックβ版として、一般向けにも公開される予定だ。スマートフォンのプラットフォームではあまりない取り組みとして注目されるが、β版であるだけに、既存の利用環境に影響が出るようなケースも考えて、試用するかどうかを検討した方がいいだろう。

Apple Watchを次のステップに進めるwatchOS 2

 今年4月に販売が開始され、国内でも好調な売れ行きを記録しているApple Watchだが、アップルはここに搭載されるプラットフォームをバージョンアップし、「watchOS 2」としてリリースすることが発表された。一般向けの公開は今秋を予定している。

 watchOS 2での変更点としては、まず、壁紙をはじめとした文字盤の表示機能の改善が挙げられる。たとえば、これまでのApple Watchでは文字盤のデザインが限定され、背景などをカスタマイズすることができなかったが、watchOS 2ではiPhoneで撮った写真を壁紙に設定したり、TimeLapseのコンテンツを表示できるようにする。アナログにせよ、デジタルにせよ、ややシンプルな印象が強かったApple Watchのフェイスが少し賑やかでパーソナルなものになりそうだ。

 同様に、これまでのApple Watchに搭載されてきた文字盤を構成するComplicationの機能についてもさらにカスタマイズの要素が増えることになる。従来の環境では心拍数や電池残量など、基本的に標準アプリで提供されている機能のみを文字盤の周囲に追加表示する形を取っていたが、watchOS 2ではこのComplicationの部分にサードパーティのアプリが表示できるようになる。

 また、本体側面に備えられたデジタルクラウンの操作もサードパーティのアプリで利用できるようになり、プレゼンテーションではフォルクスワーゲンに装備されているエアコンの温度設定をデジタルクラウンで操作できるデモが公開された。ちなみに、デジタルクラウンを使った操作として、新たに「Time Travel」という機能も追加される。この機能はデジタルクラウンを回転させ、過去や将来の時間に移行し、その時間帯の天候やスケジュールなどを確認することが可能だ。もっともスケジュールであれば、カレンダーなどを見た方が早そうだが、天候などはその場でデジタルクラウンを回せば、表示されるので、朝、出かけるときに夜の天気を玄関先でチェックといった使い方ができそうだ。

 さらに、これはiOS 9とも関係する話題だが、MapsなどのiOS 9標準アプリのバージョンアップに伴い、Apple Watchで利用する標準アプリもバージョンアップしたり、PassbookがWalletに名称変更されている。この他にも充電時のNight Clock機能、手書きで絵が送れるDigital Touchのマルチカラー化など、細かい部分も進化を遂げており、今まで以上のApple Watchを楽しめる環境が拡がってきそうな印象だ。

「One more thing...」は定額音楽サービス「Apple Music」

 iOS 9とwatchOS 2と並び、Macで利用するMac OS Xもバージョンアップし、現在の「Mac OS X Yosemite」から「Mac OS X El Capitan」することが明らかにされた。従来のMac OS X YosemiteはiPhoneへの着信をMacで受け取る「Handoff」など、iPhoneとの連携機能が注目されたが、今回のMac OS X El CapitanではSpotlight検索やパフォーマンスの向上など、基本的な部分のブラッシュアップがメインとなっている。iPhoneやiPad同様、Mapsなどの標準アプリケーションが改良されている部分もあるが、iPhone/iPadとの関わりがそれほど大きくないので、本稿では説明を割愛する。詳しい内容は僚誌「PC Watch」で、矢作晃氏が解説しているので、興味のある方はそちらをご覧いただきたい。

 基調講演で3つのOSについての解説が終わり、再びティム・クックCEOが壇上に登場し、スクリーンにおなじみの「One more thing...」が映し出されると、会場内は再び歓声につつまれる。かねてから噂されていた定額音楽配信サービス「Apple Music」の発表だ。

 Apple Musicは大きく分けて、「Revolutionary music service」「24/7 global radio」「Connecting fans with artist」という3つのトピックから構成される。料金は月額9.99ドルで、最大6人までが楽しめるファミリーアカウントは月額14.99ドルで提供される。先行する他社サービスとの対抗もあり、最初の3カ月間は無料で利用することができる。

月額9.99ドル

 サービス開始は6月30日の予定で、100の国と地域が対象になる。日本についての明確なアナウンスはなかったが、順当に考えて、100の国と地域に含まれている可能性は高いだろう。逆に、このタイミングでサービスが開始できないのであれば、それは音楽業界に何らかの問題があると言って差し支えない(まあ、現実的に問題は多いのだが……)。

家族向けは14.99ドル

 3つのトピックの内、まず、「Revolutionary music service」はストリーミングで楽しむことができる定額制の音楽配信サービスを指す。これはアップルが買収したBeatsの提供する「Beats Music」をベースにしており、ユーザーの好みを登録することで、さまざまなレコメンドの楽曲を楽しむこともできる。

 「24/7 global radio」はその名の通り、24時間7日間、いつでも楽しむことができるインターネットラジオで、有名DJが作成したさまざまな番組が用意される。インターネットラジオはあまり日本で普及していないが、洋楽など、国外の音楽を中心に楽しんでいる人にはぜひ試して欲しい環境だ。

 そして、ファンとアーティストをつなぐのが「Connecting fans with artist」で掲げられた「Connect」というサービスだ。音楽配信サービス内にアーティストの専用ページを設ける形のようで、楽曲以外の部分でもアーティストとつながりを持てることになる。

 Apple Musicは全体的に見て、音楽を楽しむための総合的な環境が整っている印象だが、おそらく多くのユーザーが興味を持つ『定額で音楽を楽しむ』という部分については、ちょっと気になる要素もある。たとえば、自宅などで利用するのであれば、問題ないだろうが、モバイル環境でストリーミング再生による音楽を楽しむのであれば、ある程度、安定した通信環境が求められるだろうし、同時にデータ通信量がどれくらいになるのかも気になるところだろう。現時点ではまだどの程度のなるのかはコメントできないが、月々のデータ通信量で普段から上限に達してしまうようなユーザーは実際の利用量などが見えてきてから検討してみるのも手だろう。

 また、定額制の音楽配信サービスとしては、「AWA」や「LINE Music」など、他のサービスプロバイダも提供しているうえ、携帯電話事業者も「dヒッツ」「うたパス」「UULA」などのサービスを提供しており、直接的に競合することになる。実際に楽しめる楽曲がどんなものなのか、料金的な差をどう捉えるかなどをよく考えたうえで、利用を検討することになりそうだ。

 さらに、アップルとして提供している「iTunes Match」や「iCloud」といったサービスと組み合わせた場合、料金体系はそのままなのか、何らかの割引があるのかといった部分も気になった。特に、iTunes Matchとは関わりが深いだけに、両方のサービスを利用するのであれば、何らかの特典を期待したいところだろう。

アップルの次なる方向性に期待

 今回のWWDCの基調講演において、アップルは「iOS 9」「watchOS 2」「Mac OS X El Capitan」という3つのOSのバージョンアップ、定額音楽配信サービス「Apple Music」を発表した。OSについてはプラットフォームごとに解釈が異なるものの、会場に来ていた開発者からの声援もアツく、またそれぞれのプラットフォームで面白いもの、便利なもの、楽しいものが数多く提供されそうな期待が持てた。

 Apple Musicについては、かねてから噂されていたものの、実際に発表されると、いち早く体験したいという印象を持った。私たちの周りには音楽があふれているという印象もあるが、新鮮な音楽との出会いを期待している部分もあり、Apple Musicが切り開く新しい音楽の方向性も楽しみだ。

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。