法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「新2年契約」からうかがえる、料金施策の工夫のなさ

 ソフトバンクとauから2年契約後の拘束期間がない「新2年契約」の料金プランが発表された。2015年後半に開催された携帯電話料金のタスクフォースを受け、総務省が要請した『2年縛り』からの解放を可能にする料金プランという位置付けだが、ユーザーからは早くも不満の声が挙がるなど、各社の料金施策に対する評価は芳しくない。今回は2年後の拘束期間がない「新2年契約」の料金プランを見ながら、携帯電話業界の料金施策の方向性について考えてみよう。

2015年12月、高市早苗総務大臣から携帯各社に要請が行われた

俗に『2年縛り』と呼ばれているが……

 昨年の携帯電話料金のタスクフォースを受け、モバイル業界は販売方法から料金施策に至るまで、幅広い方面で大きな変革が起きている。総務省の要請に基づき、ライトユーザーに配慮した「1GB」のプランに始まり、端末購入時の過度な割り引きを制限する「実質0円」販売の停止。そして、3月にソフトバンクとauから2年契約後の拘束期間がない「新2年契約」の料金プランが発表された。

 総務省としては、これらの施策を携帯電話各社への要請に対するひとつの成果として認めているのだろうが、本誌のアンケート結果や総務省が公開した意見募集の内容などを見る限り、ユーザーからの評価はまったく芳しくない。いや、芳しくないというより、極めて不評だ。ただ、携帯電話会社に対する不満だけでなく、総務省の一連の施策に対する不満も多く聞かれ、根本的な政策の取り組み方を疑問視する意見もある。

 今回発表された2年契約後の拘束期間がない料金プランだが、その話を始める前に、今一度、俗に「2年縛り」と呼ばれるものについて、おさらいをしておきたい。

 現在、国内ではサービスを提供する携帯電話会社(MNO)は、各社とも2年単位の契約による料金プランを主力に据えて、提供している。ただ、もう少し正確に表現するなら、こうした契約期間を拘束するものは料金プランというより、『割引サービス』と表現する方が適切だろう。

 携帯電話サービスは一般的に基地局などのエリア整備やネットワーク構築など、設備投資にかかるコストが大きいとされている。そこで、各携帯電話会社は安定した設備投資の計画を立てられるように、契約者が将来的に利用する期間を決める代わりに、月々の基本使用料を一定の比率で割り引くサービスを提供してきた。たとえば、NTTドコモが提供する「いちねん割引」(※関連記事)は1年間の契約を約束することで、継続期間に応じて、1年で10%、2年で20%と割り引くサービスだった。約束された契約期間中に解約すると、4600円(1年目の場合)の解約金が請求されるしくみとなっていた。同様の1年単位の割引サービスはauも「年割」の名称で提供していたが、2015年8月に廃止されている。

 こうした年単位の割引サービスが大きく変化したのが2006年の携帯電話番号ポータビリティ(MNP)導入、2007年のモバイルビジネス研究会による「モバイルビジネス活性化プラン」以降だろう。NTTドコモは「ひとりでも割50」と「ファミ割MAX50」、auは「誰でも割」という名称で提供されており、2年間の契約を約束することで、月々の基本使用料を半額に割り引くという内容だった。約束の契約期間中に解約したときの契約解除料(解約金)は9500円(税抜)で、契約は自動的に2年ごとに更新されるようになっていた。その後、新しい料金プランも提供されているが、基本的に「2年単位」での契約を約束することで、割り引かれるという図式は、現在にも引き継がれている。

 つまり、一般的に『2年縛り』と呼ばれているが、本来は2年単位で契約を約束するものであり、その対価として、月額基本使用料の割引を受けている。2年契約の満了前に解約したいときに契約解除料を請求されるという形は、他の商慣習から見てもそれほど不自然なものには見えない。たとえば、ホテルを予約して、キャンセルすれば、一定の日時以降はキャンセル料がかかるだろうし、航空券などでも同じことだ。

 また、この『2年縛り』という表現については、妙な誤解を生んでいるケースも散見される。携帯電話やスマートフォンに詳しい本誌読者であれば、一度や二度くらいは友だちや家族、同僚などから「2年縛りだから、まだ機種変できないんだよ」という相談を受けた記憶があるだろうが、2年契約と2年間、同じ端末を使い続けるということを混同しているユーザーが意外に多い。この2年単位の契約はあくまでも「回線の契約を2年間保持する」ものであって、端末を2年、使い続けなければならないという意味ではない。ごく一部に例外はあるが、資金さえあれば、基本的には毎月でも機種変更を続けることも可能だ。こうした誤解は一般ユーザーの間だけでなく、新聞や雑誌、テレビなどの報道でも『2年縛り』と2年間の機種変更の可否を混同していると見受けられることがある。

2年契約は何が問題なのか

 現在、各携帯電話会社が主力として提供している2年契約による割引サービスだが、ほとんどのユーザーがこの割引サービスの適用を受けていることもあり、事実上、標準的な料金プランの月額基本使用料として認識されている。

 たとえば、NTTドコモの料金プランを例に挙げると、「カケホーダイ」プランは月額2700円、「カケホーダイライト」プランは月額1700円と覚えている人が多いだろう(いずれもスマートフォンやタブレットの場合)。当然のことながら、この料金はいずれも定期契約あり(2年契約)の料金だが、定期契約なしのプランを選ぶこともでき、「カケホーダイ」プランは月額4200円、「カケホーダイライト」プランは月額3200円に設定されている。差額はどちらのプランも1500円で、かつての「ひとりでも割50」の半額に比べると、割引率は下がっているものの、それでも選べないわけではない。かつて、ある団体がNTTドコモとKDDIを相手取り、2年契約解約時の解約金支払いの差し止めを求める裁判が起こされたが、このとき、ネット上では「契約解除料がかからないプランを選べばいいだけでしょ」といった反応が見受けられたが、これまでも契約期間を拘束しない料金プランが選べなかったわけではないのだ。

 では、2年契約による割引サービスそのものに問題がないのかというと、必ずしもそうではない。たとえば、2年単位の契約を解約できるのは更新月の1カ月に限られているうえ、更新の通知もなかったため、いつの間にか2年契約の更新月を見逃していて、また契約解除料がかかる時期に入ってしまったという状況もよく耳にした。特に、ここ数年は各携帯電話会社が紙資源の節約を図るため、支払い明細の郵送を有料に切り替えたこともあり、ユーザーが2年契約の更新月をなかなか意識できない状況にあった。

 こうした状況は総務省の有識者会合でも議論され、今年に入って、各携帯電話会社は更新月をSMSやメールで通知する取り組みを開始し、2年契約を解除できる更新月の期間を順次、2カ月に延ばす方針を打ち出している。

 また、2年契約の自動更新は好ましくないという指摘があるが、現実的な対応を考えれば、自動更新がベターと言わざるを得ないだろう。なぜなら、2年契約を自動更新しないようにしてしまうと、更新月を超えた途端に、2年契約ではないプラン、現在のNTTドコモの「カケホーダイ」プランで言えば、定期契約なしの4200円が請求されてしまう。仮に、自動更新をしないということになると、ユーザーには2年ごとにメールやSMS、ハガキなどで契約更新の通知が送られ、何らかの手続きをしなければ、割引サービスが継続できないという流れになってしまう。「2年先まで予約しますよ」という意思表示に対する対価として、月額基本使用料の割引を受けているのであり、ユーザーの費用や手間の負担増を避けるという意味合いを考えれば、2年契約の自動更新は現実的な選択と言えないだろうか。

 ここまで説明してきたように、2年契約に基づく月額基本使用料の割引と契約満了前の契約解除料は、後述するように改善の余地はあるものの、ある程度、バランスの取れた料金施策だったが、それでも現在の2年契約に対する不満を持つユーザーがいることは確かだ。こうした状況を招いている背景には、各携帯電話会社が契約者やユーザーはもとより、さまざまなメディアや有識者と呼ばれる人々に対して、十分に理解してもらえるように説明することを怠ってきたため、各方面からこうした不満が噴出する事態を招いたという部分もあるのではないだろうか。

2年後に拘束期間のない新プラン

 そして、この3月、auとソフトバンクから「新2年契約」の料金プランが発表された。これは言うまでもなく、昨年の携帯電話料金のタスクフォースを受け、総務省が各携帯電話会社に対し、『2年縛り』からの解放を可能にする料金施策の求めに対する回答という位置付けだ。発表内容の詳細については、本誌の記事を参照していただきたいが、その内容を見ると、総務省の要請に形式的に答えただけという、ユーザーにはほとんど実利のない料金プランとなった印象だ。本誌の「けーたいお題部屋」で行った「『3年目以降は解除料なし』ソフトバンクとauの新プラン、どう思う?」というアンケートの結果(※関連記事)も9割が「イマイチ」と答えるなど、極めて厳しい反応となっている。

 auとソフトバンクの「新2年契約」の料金プランは、基本的に同じ内容だが、いずれも月額基本使用料が従来の2年契約時よりも300円高く設定されており、その代わり、2年契約満了後は契約解除料なしに解約できるようにしている。一見、月々300円、多く支払えば、2年後に自由に解約できる権利を手に入れられるように見えるが、従来の2年契約時よりも300円×24カ月分、つまり7200円を多く支払い、25カ月目以降も継続して契約するのであれば、従来の2年契約時の契約解除料の9500円よりも割安になるのは25カ月目〜31カ月目までに限定される。つまり、2年後から2年半後の短い期間しか、従来よりも割安に契約解除ができるようにならないわけだ。見ようによっては、これまで9500円がかかっていた契約解除料を2年間、分割で支払っているようなもので、ユーザーがメリットを享受できる範囲は限定的だ。これではユーザーから厳しい反応しか返ってこなくても当たり前だろう。

対象プラン 新2年契約 従来の2年契約
(自動更新あり)
定期契約なし
au
電話カケ放題プラン
3000円 2700円 4200円
ソフトバンク
スマ放題 通話し放題プラン

 ただ、従来の2年契約なしの月額基本使用料2年契約時よりも1500円高であったことを考慮すれば、ある程度、割安になり、少しは解約しやすい環境になったという見方もできる。auのスーパーカケホで計算してみると、従来の誰でも割(2年契約)適用時の2年間の月額基本使用料の合計が4万800円、「誰でも割」を適用しないときの2年間の月額基本使用料の合計が7万6800円であるのに対し、「新2年契約」の2年間の月額基本使用料の合計は4万8000円となっている。おそらく、auとソフトバンクとしては、2年間の負担をあまり増やさずに、2年後以降の解約をしやすくしたと言いたいところだろう。

ユーザーに「おっ!?」と思わせる料金施策が求められる

 現在、国内の携帯電話市場はソフトバンクが旧イー・モバイルとウィルコムを買収したことで、NTTドコモ、au、ソフトバンクの3社がサービスを提供し、これらの各携帯電話会社から回線設備を借り受けたMVNO各社が急速に市場に浸透しつつある。

 MVNO各社については主にデータ通信量を軸に、月額料金を含めた激しい競争をくり広げており、最近では音楽や映像配信などのサービスと組み合わせたMVNO各社のサービスも人気を集めている。これに対し、主要3社の料金プランは細かい部分に差異があるものの、多くの料金施策はほぼ横並び状況が続いている。NTTドコモは未発表だが、少なくとも現時点でauとソフトバンクの「新2年契約」は残念ながら、まったくの横並びだ。

 こうした状況を目の当たりにして、非常に残念なのは各携帯電話会社の料金施策の工夫のなさだ。かつて、各携帯電話会社は他社との競争に勝ち、市場を拡大すべく、さまざまな形で新しい料金施策を打ち出し、ユーザーのニーズを掘り起こしてきたはずだが、その気概がまったく失われてしまっている。

 古くはまだ携帯電話の料金などが高額で、一部のビジネスマンしか持てないような時代に、NTTドコモは週末と平日夜間だけ利用できる「ドニーチョ」という料金プランを打ち出し、個人ユーザーの先駆け的な人を開拓することに成功した。2000年代はiモードをはじめとするモバイルインターネットの普及が進む中、高額のパケット通信料で苦しむ「パケ死」という言葉が聞かれるようになったが、auは「CDMA 1X WIN」の導入にあわせ、月額4410円のパケット定額料でEZwebやメールを使い放題にする「EZフラット」を発表し、市場を驚かせた(※関連記事)。「EZフラット」はネットワークの設計段階から定額制を実現することを目指し、端末でやり取りする画像やムービーのサイズを制限して、ユーザーの利用状況を細かく試算したうえで、国内初となるパケット定額サービスを実現した。ソフトバンクも旧ボーダフォン買収後、各社が無料通話分を含む数千円以上の複数の料金プランを並べている中、月額980円の基本使用料でソフトバンク同士は1時〜21時まで国内音声通話が無料という「ホワイトプラン」を発表し、少しでも安く使いたいユーザーの期待に応え、その後のソフトバンクの成長を後押しした。

2003年に発表された「EZフラット」

 音声定額もさまざまな形で実現されてきた。古くは旧ウィルコムが2005年からウィルコム同士の音声通話を無料にし、メールの送受信も無料にする「ウィルコム定額プラン」を提供し、劣勢だったPHSの巻き返しを可能にした。NTTドコモは2011年に基本使用料とは別に月額700円を支払うことで、NTTドコモ同士の国内音声通話が24時間、無料になる「Xiカケ・ホーダイ」を発表し、ユーザーを驚かせた。これを進化させる形で、2014年にNTTドコモは他社宛や固定電話宛てを含む国内音声通話を24時間、定額で利用できる「カケホーダイ」を発表した。

 当初、月額2700円という基本使用料には「高い」という声も聞かれたが、仕事で携帯電話の音声通話を頻繁に利用する営業職のユーザーなどは非常にウケが良く、逆にNTTドコモの想定以上に「カケホーダイ」の契約者が急増してしまい、NTTドコモの減収要因につながってしまうほどの反響だった。この「カケホーダイ」に対抗し、当初は「Sパック/Mパック/Lパック」という準定額プランを発表していたソフトバンク、同様の準定額プランの準備を進めていたとされるauも追随せざるを得なくなり、3社揃って、国内音声通話定額の料金プランを提供することになった。さらに、auは2015年9月、月額2700円は高いというユーザーの声に応え、1回あたり5分までという条件付きながら、月額1700円で国内音声通話の定額を実現する「スーパーカケホ」を発表し、iPhone 6s/6s Plus発売時のアドバンテージとして活かすことに成功した。

2015年10月に発表された「スーパーカケホ」

 ここに挙げたものはごく一部でしかないが、これまでの携帯電話業界を振り返ってみると、各社ともさまざまな工夫を凝らし、ユーザーに「おっ!?」と思わせるような料金施策を打ち出すことで、新しい市場を切り開いてきた。ところが、一連の総務省からの要請に応える形で発表された料金施策は、単に要請に応えるだけの形式的なものでしかなく、ユーザーを落胆させてしまっている。

 もちろん、各携帯電話会社は株主に支えられた企業である以上、利益を追求する必要があり、赤字を垂れ流してまで料金を値下げしろというわけにはいかないが、料金施策は携帯電話サービスを構成する重要な要素のひとつである以上、もう少し踏み込んだ形で本当にユーザーがメリットを感じられる料金施策を打ち出していく必要があるだろう。今回の議論の的になった2年契約による割引サービスについても、もっと早い段階で、更新の通知や更新月の延長は打ち出せただろうし、2年契約満了時にMNPや解約を予約できるようにしたり、自動更新だけを停止するような受付をする施策もできたはずだ。契約解除料についても各携帯電話会社が現在、積極的に取り組んでいるポイントサービスで支払えるようにしたり、2年契約更新時にデータ通信量やポイントをボーナス的に付与するなどの施策で、ユーザーが喜んで2年契約を更新できるような環境を演出することも可能ではないだろうか。

 そして、何よりも総務省に対しては、各携帯電話会社がこうした実状に合わないような料金プランを打ち出さざるを得ない状況がどうして生まれてきたのかを今一度、よく考えていただきたい。今回は「新2年契約」を取り上げたが、今年はじめの1GBプランの反響などを見てもわかるように、昨年の携帯電話料金のタスクフォースは、きっかけとなった経済財政諮問会議における安倍首相の発言とは合致しない環境を作り出してしまっている。ネット上でも批判的な意見を多く見かけるが、一連の施策に対する総務省の意見募集でもたいへん厳しい意見が述べられていることをよく認識すべきだ。

 本来、総務省は各携帯電話会社に競争を促し、そのための環境づくりをすることが求められているはずだ。ところが、総務省の要請に対する各携帯電話会社の料金施策はとてもユーザーのニーズにマッチしているとは言えない状況であるうえ、店頭での販売施策まで規制しながら、結果的にユーザーの月々の負担額を増やしてしまっており、いったい誰のための行政なのかがわからない状況に陥っている。もちろん、各携帯電話会社の取り組みが素晴らしいとはとても言えないが、それでも総務省が各携帯電話会社から販売店、メーカー、ひいてはユーザーを含めたモバイル業界全体を振り回してしまっている印象は否めない。

 この7〜8年、国内のモバイル市場はスマートフォンへのシフトもあり、非常に活況を呈していたが、スマートフォンそのものの完成度が高まり、市場が成熟していたことで、モバイル業界全体の動きが今ひとつ鈍りつつある。そんな中、各携帯電話会社は数千万の自社ユーザーをベースにした新しいビジネスを起ち上げようと躍起になっているが、携帯電話会社にとって、ユーザーとのもっとも大切なつながりは『契約』であるはずだ。その大切な『契約』のベースになる料金施策がこんなユーザー満足度の低いものでいいのだろうか。もっと知恵を絞り、工夫を凝らし、ユーザーが本当に「この会社と付き合いたい」と考えられるような施策を打ち出して欲しいところだ。同時に、我々ユーザーも目先の金額ばかりに振り回されず、しっかりと各社の施策を見極めるようにしたい。